気にする必要は無い
             それはもともとそういうもの
墓石は墓にある石以外の何者でもない
             墓石は笑わないし、飛びもしない
ならば
             これはいったいなんだというのだろう

ばかな話。墓石が泳いでしまうのなら、それは果たして墓石なのか

             それとも
     たとえ違ってしまっても
         そう望んでいたのなら

      ――――それでもいいのだろうか


『ハイアーザンザスノウ』 

[プロローグ]

―――――前略、毎度毎度のことではあるが 冬休みを間近に控えた物悲しい秋の午後、俺はSOS団部室に向かっていた。
もはや何故向かうのかという言葉も、
疑問から蛇足へと進化しないままレベルアップを果たすほどの回数で俺はここに来ているわけだが。
窓から見える野球部の面々も、夏が終わりどこか気の抜けたような それでいて声を張り上げて練習をしている。
ご苦労さんなこった。馬鹿にする気はないが毎日毎日飽きないんだろうか?
俺が見る分には、昨日も一週間前もまったく同じ練習をしていた気がする。
――――と、ここまで考えた時点で 俺はヤツらと同じように毎日ここを通っていることに気づき、
そしてまた部室についたこともあって思考を停止した。

コンコンッ

このノックだって慣れたもんさ。
最初はうまく音のならない日もあったが、今では指の関節で完全にドアをとらえて澄んだ音をはじき出す。
たったこれだけのことでも毎日やってるとな、気になるもんなんだよ。
登校中にバスや電車を乗り継いだことのあるヤツはわかるだろう。日課をスムーズにやりとげることの微妙な達成感を。
だが少なくとも、ノックの音についてはこれで征服しちまったわけだし。
また新たな暇つぶしの項目を探さないといけないのはめんどくさいわけだが。

とりあえず、目眩めくご奉仕メイド型未来人朝比奈さんの「はぁい」という前頭葉を溶かして俺の理性を根本から殺しつくすような声が、
そしてまぁこっちについてはどうでもいいことこの上ないが「どうぞ」というにやけたいい男の声も聞こえないことから考えるに、
今部室の中にいるのは長門だけのようだな。
ハルヒがいて、なおかつ声を潜めてるかそれとも新しい日常への侵略行為でも考えてる可能性を
まったくもってこれっぽっちも考えることなく俺は部室のドアを開けた。

いようがいまいが どうせ巻き込まれるときは三毛猫が雌である確率ぐらいの確率で受難するんだ。
んなこと考えたってしょうがないさ。

「よぉ 長門、お前1人か?」
案の定、部室には寡黙な読破戦士、長門が部室の一部のごとく座って本を読んでいた。
この存在感の無さと落ち着き アイツに爪の垢でも煎じてやればいいんだろうにな。何度も言うが黙ってりゃいいんだハルヒは。
俺のかけた言葉に ドーム球場の天井開閉じみた動きで首を動かし、こっちを向いてコクリとうなずいた。
いつも思うんだがコンタクト用ヒューマノイドインターフェイスとやらには音を立てちゃいけないきまりでもあるのか?
いや、訂正しよう。特にいつもは思って無いな。こいつだって自分から言葉を発するし、
最近じゃあ状況だけじゃなく感想まで言えるようになってきた。
このままいけば来年の今頃には気さくな冗談でも言えるようになってるかもしれん。
・・・・・いや、挨拶ぐらいがちょうどいいか。

さて、そんなことを考えながらその変のパイプ椅子を適当にひっつかみ、
いつもの位置に座った俺なのだが。
なんともまぁ、見事にやることがないのである。
薄桃色のマイナスイオン、朝比奈さんが居てくれれば視線で愛でた上に 慎ましやかな会話なんかもできただろうし、
古泉がいたらいたで、一応なりともボードゲームが退屈に暇つぶしでもできたんだ。毎回勝つのでそろそろ飽きてきたころだが。
いろいろあった文化祭も終わり、自由意志局地大型台風発生機たる我等が団長も、
ここ最近は特にドラスティックな行動も無く、それなりに無害に日々をすごしてくれている。
ここまで言って、つまりはそろそろ何か起こりそうなんじゃないかとヒヤヒヤしているわけだが。

まだ冬ではないとはいえ、そろそろ年末に足を突っ込み始める頃なわけで、
俺としては残り少ない今年の間に、殺されかけたり、突如異世界で目覚めたり、3年前に行きませんかと言われたりの超常現象的な事態は簡便こうむりたいわけである。
人生ほどほどに平穏が1番なのさ。たぶんこの学校規模なら 俺ほど平穏って言葉のありがたみをわかってる人間は居ないだろう。
思えばこの半年間。とんでも無い体験の連続だったな・・・・

コンコン

コンコン

控えめのノックの音が部室に響いた。
今部室にいるのは俺と長門だけ。
そして団員の中でノックをするのは基本的に朝比奈さんだけだ。
ここまで言えば答えなんぞ太陽の昇ってくる方向より明らかだろう。

「開いてます、どうぞー」
――――あぁ、思えば俺はいろんな体験をしてきたさ。
一番最初の「事件」と呼べるものは、長門の家に呼び出されて延々電波話を聞かされたこと。
今思えば全部本当だったわけだが。アイツは嘘をつかないしな。

ガチャ

次は朝比奈さんの告白。私は未来人ですと語ってくれたこと。あの日は俺の思い出の10ページ分ぐらいを占領し続けています。
そして古泉の独白。僕は超能力者なんです。今は力を使えませんがという信じる要素皆無のもんだったがな。

そして、まぁ――――あの「事件」だ。
思えばあれが本当の始まりだった気がする。
あそこから「事件」という語彙の危機的レベルが跳ね上がった。

キィッ・・・

――――というか、そろそろ勘弁してくれないもんだろうか。
実に3回目の会合。運命の赤い糸も血で染まってるんじゃないかと疑いたいね。


「こんにちは、キョン君。長門さん」


さて長門よ、まずその本から目を離して、

そして俺に朝倉のことを話してくれ。

できるだけ詳しく安全にな。


[プロローグ 終]



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