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十二月二十二日(水曜日) 曇り

一昨日、昨日と平和な日が続いてきたがそろそろ超常が日常な俺にしては退屈に感じてきた。
ハルヒに振り回されるのが慣れてしまったのか、それがないとなると退屈してしまう自分は相当にハルヒに毒されているなと自負できる。
今日辺りにいつものように振り回されないとなると禁断症状がでるかもしれない。いや嘘だが。

そう適当に考えながら学校への坂道を登る。これも約八ヶ月も登れば慣れないわけがないぜ。

学校に到着。ハルヒの姿は…いた。机に突っ伏した状態で既に寝息をたてていた。

コイツは本当にこんなに疲れる程何を何のためにがんばっているのだろう?ここまでなるんだからよっぽどだな。少し心配になってきたな…

真相を確かめようとも考えたが…コイツの寝顔が…その…可愛いってやつか。その寝顔を壊すような事は出来ない。てか起こしたら何されるかわかっているようなもんだ。

俺はハルヒの寝顔を後ろにし、席に座ることにした。本当はずっと眺めていたかったものだが、クラスの目が痛いからな。
はたから見れば彼女の寝顔を微笑ましく眺めている彼氏…ああ。どんなバカップルだ。

だがけっして俺とハルヒはそういう関係ではない。

俺の立場は王女様のわがままに付き合わされて、最近それに生きがいみたいなものを感じてしまったお人好し…そんな所だろう。
…自分で言った事がこんなに悲しく感じたのは始めてだ。

だがうちのクラスの奴らは一体俺らをどういう目で見ているのだろう?先に述べたような事だと気づいているのはいるのだろうか…
いや、恐らくは本当に付き合っていると思っている奴もいるだろう。ハルヒの耳に届いたら…南無…。それで俺まで巻き込まれそうだから怖い。

一人で妄想してるうちに岡部が入ってきた。その音でハルヒは起きたらしい。

「おいハルヒ?」
『ふぁ?……キョン?』
「ああ。お前昨日はどう……っ!?」
『キョン~!』

そう言うとハルヒは机越しに俺に抱きついてきた!

………さて、まず今の状況を確認してみようか?

まず、今俺に抱きついてきているのは紛れもないハルヒだ。

次に、コイツは今の今まで寝ていた。つまりこれは寝ぼけているんだろう。

最後に…今この時間はHRの真っ最中だ。もちろん生徒は全員席に着いており、俺たちの行為の全貌をしっかりと見られている。

そして誰もが唖然とした様子だ。

そして…俺が物凄く恥ずかしいの領域を突破し、これらの視線で死ねると思った。

ここまで状況が理解できるんなら大したもんだ。よし。俺を褒めてやろう。

さて…この対処はどうしようか…正直…柔らかいやら暖かいやら何やらで理性がどこか遠くへ逝ってしまいそうです。これがハルヒの羞恥プレイか…恐るべし。

そんな事を一瞬で考えた俺だったが…次の魔の手が迫ってきた。

なんと俺の顔をがっちり掴まれた。これはヤバい!どうする!?白馬に乗った王子様として白雪姫をまた起こすのか!?…いいや!出来ない!

あれでさえ恥ずかしくて死ねる状況だったんだ!それをこんな大衆の中やってしまったら俺は一発で天国に昇天しちまう!

………最終手段だ。このクラスどころか隣のクラスに聞こえてしまうであろう大声を出してハルヒを起こすしか………素人にはお勧め出来ない。俺は今吉野家にいるぞ。

「ハルヒ!!!!」

約130dbぐらいの声量を思いっきりハルヒにぶつけた。クラス中が肩が大きく飛び跳ねる。ハルヒの肩もビクッと反応した。

そしてあと一歩というところまで顔が近づいた状態でハルヒの目がさっきのトロンとしたのではな

そしてハルヒはバッと俺のもとから離れる。そして辺りを見渡ししばらく動きが止まった。

しばらくして状況が掴めてきたみたいだ。段々と顔が茹でたこのように真っ赤になっていく。

「ハルヒお前………ぶっ!」
『イヤーーーー!!!!』

叫ぶより速くともいう速度でハルヒの平手打ちが俺の右頬をダイレクトヒットした。そうして目にも止まらぬ速さで教室を出ていった。
痛ぇ………恥ずかしい………俺も出て行ってしまおうか?だがここで出ていったらフラれたのに往生際悪く追いかけようとする彼氏じゃないか。
………俺はここで死ぬのだろうか………あぁ………走馬灯が………


気づくとそこは保健室。どうやらあの後気絶したのだろうか…情けなくもあり…助かったと思うものでもあり…

とにかく、これから教室に戻るのは死ににいくようなものだ…俺は保健教諭に帰る旨を伝えると鞄も持たずに学校を出た。

さて………今更になって朝振り回されたいような事を考えたのを撤回したい。さすがにこんなに酷いものだとは…痛いし気絶はするし…散々に平和をぶち壊してくれた。
だがハルヒは何故あの状況になったか俺を誤解してないだろうな?まずアイツどこに行ったんだ?

当てもなく歩いていたのだが、気づくとそこはいつもの喫茶店だった。そこで見た。ハルヒが片肘ついてボーっとしていた。

俺はどうするものかと悩んだのだが…喫茶店に入る事にした。ハルヒの席の前の席に座ったのだが気づいていないらしい。
よくありがちなハルヒの目の前で手を上下させたりしたが一向に気づかない。仕方ないのでハルヒの肩をポンと叩いた。
肩がビクッと動き、こっちを見た。大きく目を見開くと、叫びそうだったので口を手で塞ぐ。ハルヒは暴れている。

「ハルヒ落ち着け!とりあえず落ち着け!」

しばらくハルヒとの格闘の末、ようやく落ち着いてきた。また喫茶店の店員に見られていた…ハルヒの羞恥プレイ…恐るべし…

俺はハルヒと俺自身も落ち着かせるためにもコーヒーを2つ頼んだ。

「落ち着いたか?」
『うん…だけどなんでアンタがここにいるの?』
「あの状況で教室にいたら死ねるからな。」
『…あの…やっぱあれって…?』

状況理解がやっぱり出来てなかったか。俺もなんであんなに冷静になれたのか不思議だったからな。

「お前が寝ぼけてやった行動だ。俺が襲った訳じゃないぞ。」

とりあえず俺の誤解を解くためにっと。

『…本当に?』

ハルヒが上目遣いで申し訳なさそうに聞いてくる。これは反則行為だ…なんとか理性が勝った。

「さすがに寝首をかくような真似はしないさ。」
『…あたしが…?寝ぼけて…アンタを…』
「まぁそういう事になるな…」

ハルヒは顔を真っ赤に染め、下に俯いた。

「それなのに俺を思いっきりひっぱたいてくれたからな。」

ちょっと皮肉を混ぜたような口調で言ってみた。俺を羞恥プレイをしたお返しだ。…この程度の反撃だけどな…

『………ん……さい……』

ん?とハルヒに返して気づいた。ヤバい!今にも泣きそうじゃないか!また羞恥プレイを強いられる事になる!どうする!?

………ありがちなキザな奴を演じてしまった。俺はハルヒの頭を「泣くなって!」ととっさに撫でてしまった。子供あやすように優しく。

ハルヒはポカンとした表情で俺を見つめ、顔が赤くなっていく。俺自身顔に熱が帯びてきているのがわかる。

俺ってこんな事する奴でしたっけ?泣いている子供を見ると妹を思い出して知らぬ子供でもあやしたりするが、さすがに既に高一のハルヒにやるとは自分でもびっくりだ。

『ちょっ…アンタなにやってんのよ!?』
「…正直自分でもわからん。でもお前が泣きそうだったから…」
『ばっ、バカ!泣かないわよ!』
「そうか…」

そう言ってハルヒの頭から俺の手を離した。

それからしばらくはお互い顔を俯き無言。ヤバい。こういう雰囲気は苦手だ。

「お前、昨日はどうしたんだよ?お前が休むなんて珍しいじゃないか?」

ここで気になっていた事を尋ねてみた。ここでこの切り返しとしてどうなんだろうか…ナイスなのか俺?

『昨日は…ちょっと疲れちゃって…』
「底なしの体力なお前がそんなに疲れる程なにやっていたんだ?」
『あたしもそこまで体力がある訳じゃないわよ。ちょっと色々とね…』

ハルヒは全てを話そうとはしない。…コイツは何を隠しているんだ?まぁ深く追求してもハルヒの事だから口を割ろうとはしないだろう。

「あまり程々にしとけよ?体壊したりしたら元も子もないぞ?」
『だ、大丈夫よ!団長の体調を敬うなんていい心構えじゃない!』
「まぁお前がいないと退屈だからな…」
『そ、そう!』

ハルヒはまた顔を下に俯いた。そして無言の時間が過ぎる。

『アンタ明日学校…その…行けるの?』

ハルヒなりの心配のようだ。いくら寝ぼけてたとはいえ、自分のせいだとわかっているのだろう。

「とてもじゃないけど行けそうにないかな…」

また視線地獄で気絶してしまわないとも限らないしな…ハルヒには気絶したなんて言わないが。

「幸いあと二日で冬休みだ。だから少し早めの冬休みとさせてもらうよ。」

まぁあと二日ぐらいじゃ単位に影響はでないし、早くシャミセンのような暮らしがしたい。そう思っていたのだが…

『あたしも行けそうにないものね…それじゃあキョン?冬休みに入るまで付き合って!』

くしくもさっきまで考えていたシャミセンライフが壊される音がした…

『どうせその間暇じゃない。学校に行けないからSOS団の活動も出来ないし、冬休み中はほとんどSOS団の活動をいれるつもりだし。』

うん。決定。シャミセンライフ、無理。
まぁここでハルヒを断ったりしたらまた泣き出すとも限らん。実際目が少し潤んだままだ。そしたら羞恥プレイがまた繰り返される事になる。もう気絶するのはごめんだ。

「わかったが…何するつもりだ?」
『やることといったらモチロン不思議探検のために街に出て探索に行くのよ!』

今は十二月だ…外は…寒いな…

「その…ハルヒ?今は冬で寒いよな?だからどこか暖かい所で…」
『ダメよ!不思議が暖かい所で待っている訳ないでしょ!家宝は寝て待つものじゃないの!苦労して見つけるから感動というものがあるのよ!』
「…そうか…」
『なんか不服そうね?文句あるの?』
「イイエ、ワタクシハハルヒニイッサイノモンクハアリマセン。」
『何そのしゃべり方…まぁいいわ。ここは私が払うわよ。一応あんな事しちゃったし…』
「そんな暗い顔するな。あんまり気にしてはいないぞ。」

正直かなり気にしているが、言ったらいけないよな?こういう場合。

「だから俺の分は俺がちゃんと払う。幸い財布は持ってきたからな。」

学校に鞄は置きっぱなしにしてあるものの、いつも制服のポケットに財布と携帯は常備してあるため、鞄は勉強道具すら入っていない空の状態だ。
…俺は何しに学校に行ってるのだろう…我ながら思う。だから鞄がなくても困る事は無いのだが。

その後ハルヒは払うと食い下がるが、俺も引かなかったため、ハルヒは諦めたようだ。

『まぁいいわ。後で今日の謝礼はするわ。それじゃあ今日は解散!明日は十時に駅前集合よ!学校より遅い時間にしてあげたんだから、遅刻はしないように!遅れたら死刑よ!』

俺は曖昧な返事をし、ハルヒと別れた。

さっきまでの泣き虫ハルヒはどこに行ったのでしょうね?…まぁいつものハルヒが一番だ。泣かれると色々困るしな。

その後何もせずに家に帰り、今年最初で最後であろうシャミセンライフを満喫し眠りにつくことにした。休みをありがとう団長様…ええい忌々しい。

アイツどんな夢見て俺に暴挙をしでかしたんだ?俺が出てきていたのは間違えないだろう。それであの暴挙だ…まさか…?本当に俺が…んな訳ないな。

アイツは本当に俺達の関係を勘違いしているやつがいたら、いつかのようにドロップキックをしでかしてくれそうだ。それなのに夢とはいえそんな事は有り得んね。

でも寝顔は幸せそうだったな…なんだ?俺が出てきてハルヒにとっての幸せは?

まぁいい。どうせ俺をいいように使って楽しがっていたんだろう。そうだと思うね。

あくまで俺はいいように使われるお人好し…冬休みまで頑張って使われますか。


願わくば平和に過ごせるように…



十二月二十三日(木曜日) 曇り

今日、明日と本来ならば冬休みまで二日と迫った日なのであるが、俺は昨日ハルヒの暴走により学校に行けない状態になってしまったため、ハルヒに付き合う事になっている。

本来は今日は九時ぐらいまで寝てて大丈夫だったはずなのだが、そんな事情を知らない妹がいつものように朝起こしにきてしまった。

『キョンくん~朝だよ~!』

と、俺にフライングボディプレスで起こす妹はもう小学五年生。重さ的に軽いからダメージは少ないのだが…将来性のダメージが大きい。
確かに有り難いには有り難いが…もしだ。来年…または再来年もこんな事を続けてみろ?色々ヤバいぞ?その…胸も今こそまな板だが…何とかして自分で起きるようにしよう。
そう自分の中で決意し、妹に朝の挨拶を交わす。

『キョンくん学校遅れちゃうよ?』
「あぁ~、今日からもうお兄ちゃんの学校では冬休みなんだ。推薦入試の準備とかあるからうちの学校は早いんだ。」

うん。なんと無理やりなんだ。推薦入試など既にもう終わっている。だが相手は小学生だ。入試の事など解るはずがない。

『えぇ~!いいなぁ~!キョンくんズルいぃ~!』

妹が膨れっ面をつくってみせる。まぁ今でこそ可愛げがあるが、もっと大きくなってやっていたらちょっとイタイ子になるな。それまでには自分で自覚することを願う。

『じゃあ今日はハルにゃんとおでかけ~?』

!?凄い勘だ!コイツは…将来化けるかもしれない…だが嘘で返す必要もない。

「まぁ…そうだ。」

妹の顔が段々眩いばかりの笑みが広がっていく。ニィっと口元をつり上げると、

『そうなんだぁ~へぇ~?いいねぇ~?お幸せにねぇ?』
「お前は何か勘違いをしているな?」
『ちゃんとハルにゃんを幸せにしてあげるんだぞっ!』

そう言うと俺の部屋を勢いよく飛び出して行った。コイツも勘違いをしているくちか。さすがにハルヒは妹にまでドロップキックはしないだろうが…俺がするか。

妹が去り、もう一眠りとも思ったがすっかり目が冴えてしまった。仕方なしに俺はのんびり準備を始めた。
顔を洗い、歯を磨き、朝食を自分で作り食べ、髪を整えて、少し大きめのコートを羽織り家を出た。
少し早かったが、ハルヒが後から来るのを嘲笑うように見るのもいいだろう。

いつもの駅前に着いたのは九時だった。さすがにハルヒは来ていない。俺を除いた中ではアイツはいつも最後だからな。

俺は近くにあるコーヒーショップでホットコーヒーを二つ買った。その一つを飲みながらハルヒを待った。

コーヒーを買って五分後ぐらいにハルヒは来た。少し驚いた表情で近づいてくる。これだ。俺はこれを見たかったんだ。実に清々しいものだ。

『アンタにしては珍しく早かったじゃない?』
「いつも学校に行くように妹にのしかかりを喰らって起こされたからな。」

そう言いながらハルヒにさっき買ったコーヒーを手渡す。
ハルヒはまた驚いた表情をみせ、俺のコーヒーを受け取った。

『あ、ありがと。』

ハルヒは俯きながらもコーヒーをすする。まだ冷めてはいない筈だ。一応コートの内側で冷めないようにしといたからな。俺の温もりが詰まっているぞ。そんな事言わんが。

『このコーヒー全然冷めてないわね?どうして?』
「さぁ?カップが魔法瓶かなんかなんじゃないか?」
『へぇ~最近のコーヒーは凄いわね。』

信じるところがお前らしいな。それからしばらくハルヒはコーヒーの入ったカップを見回していた。

「それで?今日はどこに行くんだっけ?」

カップの不思議について調べていたハルヒは俺の言葉にこっちに顔を向けた。

『昨日街に行くって言ったじゃない。だから少し遠いけど街に行くわよ。』

ハルヒの言う街と言うのは、電車で約一時間の距離にある大都市圏の中心部ともいえる繁華街だ。休日となると人がごった返しになる街である。
だが今日は平日で、本来ならば学生は学業を励むべく学校へ、その他の人達は仕事か家事に追われているはずだ。そこまでの人だかりはいないであろう。

ハルヒ曰わく、

『本来不思議というものは人が集まる場所に集中するのよ!いつもは人の多さで気づかないけど、ある程度いないと発見出来るものよ!』

だそうだ。そういうのどっかのインチキ霊能力者が言ってたな。あえて突っ込まずに俺達は街に向かうための電車に乗った。

さすがに平日のこの時間なので難なく座ることが出来た。俺の隣にハルヒが座った。
昨日の申し訳ない顔はどこかに消え去った模様で、いつもの明るい笑顔で俺と話をしていた。

二日程あんまり話していなかった分もあって沢山話した。だが、ハルヒが休んだ原因については俺は聞かなかった。ただ、

「そういえばお前体は大丈夫なのか?」

と尋ねても、

『あんなの!一日あれば充分よ!』

と力強く答えたから、心配ご無用だな。と悟った。

あっという間に目的の街に着いた。今はちょうど昼時なので昼飯を食べるよう促した。
さすがは繁華街だけあって色々食べる所は沢山ある。ランチタイム狙いのOLが財布片手に一杯いた。

俺達は背伸びしない程度にランチタイムでそこそこ人がいる喫茶店に入った。人はいるが、俺達は席を確保する事が出来た。
そこでランチタイム限定のセットを二つ注文し、セットでついてくるコーンスープをすすりながらハルヒに聞いた。

「街に来たのはいいが、どこに行くつもりなんだ?」

ハルヒもスープをすすりながら答える。

『とりあえずはデパートね。あそこには何かある気がするわ。』

デパートに何か…ねぇ?何だろうな?さしずめデパートを作るときに家を強制退去させられた地主の霊…とかか?
あえて言わず俺は従う。これがミスターお人好しよ呼ばれる俺のやり方だ。

料理が運ばれてきて食べ始める。これは旨い。あの駅前の喫茶店のものとは遥かに違うな。
ハルヒはとても美味そうに幸せな笑顔を振りまきながら食べている。こういう表情いいな…ハルヒの美的表情のうちの一つだ。
本当に幸せそうな顔をしている。それを見ているこっちまでそういう気分になるほどだ。

ハルヒが俺の視線に気付いたらしい。

『なによ?じっとこっち見て?』

心なしか頬を赤く染めている。料理のの暖かさによるものか、見られているのが恥ずかしさのための恥じらいか。

「いや…いい食べっぷりだと思ってな。」

確かにそうなのである。俺はまだ約五分の一位しか手を付けていないのだが、対してハルヒは既に三分の二位までに食べ進めていた。なのであながち嘘はついてはいない。
納得したようでまた食べ始める。それを俺は自分のものを食べながらも眺めていた。

『う~ん!美味しかったわ!』

両腕を挙げ、伸び伸びしながら満足した満面の笑み。これを見ていたら俺のシャミセンライフを壊された事などどうでもよくなる。

『さてと!お腹も膨れた事だし、次行くわよ!』

そう言うと次の場所に向かうべく歩いていくはずなのだが…ハルヒが手を繋いできた。俺は驚いて思わずビクッとなった。
いつも掴まれるのはネクタイか腕。今日は制服ではないからネクタイはないが、手を繋いでくるとは思わず驚いた。

『ほら!どうしたの?行くわよ!』

と言うハルヒも顔が真っ赤になりながら前を向いている。寒さのせいでもあるのかもしれない。

俺はハルヒの思いもよらない行動も、そのまま手を繋いで目的地目指して歩きだした。

目的地に行く間の二人はさっきまで勢いよく話していたのに無言。なにか話を切り出したかったのだが、緊張やら何やらで何も話が出てこなかった。
だけど…その繋いでいる手はとても冬の寒さなど関係がないように暖かかった。ハルヒってこんな暖かいんだな。冷え性ではないんだな。

そうして無言のまま目的地であるデパートに着いた。このデパートはかなり大きめで、全ての物がここ一つで揃うような品揃えでもある。

そしてハルヒは、

『私は少し一人で探してみるから、アンタも一人で不思議を見つけてきなさい!いい?!』

そう言うと颯爽とどこかへ一人で向かっていってしまった。
仕方がないので、俺は一人やたらデカいデパートの中をさまよっている。俺はあてもなくさまよっていると、中はクリスマスの装飾が施されていたことに気づいた。
今日が二十三日…明日がクリスマスじゃないか。本来は二十五日がクリスマスなのだが、俺の意識として、二十四日であるクリスマスイブがクリスマスだと感じているのだ。

よくも今まで気づかなかったものだ。自分に感心するよ。

俺はそこまで行事ごとに関心を持たないのだ。…但し、七夕は嫌に関心をもたざる負えなくなってしまったが。

一方ハルヒというのは行事というものを物凄く重要視するやつだ。そのハルヒがクリスマスの存在を俺みたいに忘れている訳はあるまい。
また振り回されるのか…何をしでかしてくれるんだろうね?あぁ~楽しみだぁ~…ええい忌々しい、あぁ忌々しい。

ぶらぶら回っていて、一件の店が目に留まった。とても目立つように《クリスマスの贈り物にいかがですか?》のような事が書いてあるアクセサリーショップだ。
何故目に留まったかはわからない。とても目立つ売り文句のせいだろうか。訳もなくその中に入ってみた。

クリスマスの贈り物…クリスマスといえばクリスマスプレゼントか…成る程ね。これはいい稼ぎ時だ。これを逃す手はないわな。
そうからかうように眺めていたのだが…一つの指輪が目に留まった。先端に黄色い宝石…トパーズというのか。その宝石が眩い輝きを放って並べられていた。

黄色か…ハルヒに似合いそうだな…って俺は何を考えているのだろう…カップルでもないのにプレゼントなんてな…
だが…たまには退屈を潰してくれる素敵団長に恩返しもいいかもな…そう思った。

値段を見ても今の俺の暖かい財布の中身では余裕に収まる金額。何故暖かいかというと…古泉の引き金である。

それはまだハルヒの暴挙をしでかす前…古泉が、

『この時期、必然的にお金が沢山必要になると思われますので…あなたにこれだけ渡しておきます。』

そう言い、少し厚めの封筒を渡してきた。

「…これは機関の金か?」
『まぁそうなんですが…あなたの好きのようにお使い下さい。しかし…使う物は決まっているでしょう。』
「?なんだ?SOS団の喫茶店での奢り料金か?」
『まぁそれも含まれているでしょう。その他にもありますが、それはあなたにお任せします。』
「本当に好きに使っていいんだな?」

ええ。という返事を返すその顔は満面の笑みであった。

最初は本当になにか好きな物でもって買おうと思ったのだが、特に欲しいものが見つからず、放置していたのだ。
つまり、この時期っていうのはクリスマスで、使う物というのはこういう物を買うための物か…上手く仕組んでくれたな古泉。

コイツはどんだけ先をよんでいるんだ…ある意味朝比奈さんより未来人じゃないか。気色悪い。

まぁ古泉もそれに使うのがご望みなんだろう。有り難く使わせて貰いますか。
そう思い、上手く古泉の思惑通りにハルヒにプレゼントを買おうとしたが…ここで一つ問題が生じた。

………指輪のサイズが判らない………

アホか俺は…サイズが判らないと買いようが無いじゃないか。…ここは勘か?勘でいくしかないのか?玄人魂魅せるときか?

とりあえずさっきハルヒと手を繋いだ時の感触を思い出した。…指は結構細かった気がする…

サイズの見本みたいなのを見ながら、感覚的に十号の指輪にしておいた。もし大きすぎても小さすぎてもいいように、シルバーのチェーンも買っておいた。
それをいかにもクリスマスプレゼント的な包装を施してもらい、コートのポケットに入れておいた。

よくもやったものだ。俺は頑張ったと思う。今まで女性に対してプレゼントなど贈った事がないので尚更だ。

その後しばらくまたぶらぶらし、適当に時間を潰して、疲れてきたのでまたコーヒーショップでコーヒーを買い、コーヒーを飲みながらベンチに座って待っていた。

しばらくしてハルヒから集合の電話が入ると、言われるがままにその集合場所にやってきた。

ハルヒが荷物両手にブンブンとこっちに手を振って手招きする。その顔は満足気な笑みだ。

『どう?不思議を見つけられた?』
「そう簡単に見つけられる程相手は間抜けじゃないらしいな。」

てか不思議探しというかコイツは買い物に来ただけじゃないのか?ハルヒの両手には少し大きめの袋と中くらいの袋、小さな袋と大中小が兼ね備えられていた。

「お前は満足出来たようだな。」
少し皮肉を込めて言ってみる。
『まぁねっ!』

と自信たっぷりに返す。皮肉の意味なんて一切感じていないのだろう。

「ほれ。袋貸せ。持ってやる。」
そういって大中の袋を取り上げようとしたが、
『大丈夫よ!そんな重くないし!』

って言ってきたが、一度言った反面、既に後には引けないので、

「団長の荷物持ちはこの召使いめの役目で御座います。」

とふざけて言ってみた。

『そ、そう!いい心がけじゃない!それじゃあお願いね!』

と言って片手を塞いでいた荷物を俺が持ってやることになった。本当にそこまで重くなかったので苦痛にはならなかった。
デパートを出ると時間は既に夕方。仕事や学校から帰宅する人々の姿が溢れていた。

もう辺りは暗くなる手前ぐらいで、本来なら見える夕焼けの光も分厚い雲に覆われていてますます暗く感じる。

俺は外に出て荷物を持っていない方の手でハルヒの手を繋いでみた。何となくの雰囲気とさっきの謝罪の意味でだ。それと、指輪のサイズ確認のためにもある。今更遅いのではあるが…
ハルヒは驚いた様子で俺の顔を見上げているが、

「これだけ人がいたらはぐれるかも知れないだろ?」

と、なんとも言えない言い訳をし、ハルヒはそれに首を縦に振って従った。
今回は前のように無言にならないために、俺から話をふって場を凌いだ。頑張ったな、俺。

「この袋の中身はなんなんだ?」
『秘密よ!女の子は秘密を一つは持っているものなの!』

お前が女の子言うか?まぁ今は女の子みたいな純粋な笑顔だけど。そもそもれっきとした女の子だしな。でもなんか違和感があるように感じるんだ。なんとなくだがな。
そんな事実際には言わず、あぁそうかいと納得したように見せた。

「んで?次はどこに行くつもりなんだ?」
『そうねぇ…特には決めてはいないけど…』
「おいおい…お前は昨日自分で街に行くと言っておいてデパートしか決めていなかったのか?」

『しょうがないじゃない!本番はあs……』
「ん?本番は何だって?」
『な、なんでも無いわよバカキョン!』
「なんで急にバカ呼ばわりされにゃならない。」
『まぁアンタがバカなのは本当でしょ?この前の期末考査の結果、確か数学が…』
「止めて下さい。いや本当に。見ず知らずの人に後ろ指指されたくない…俺だって忘れたいんだから…」

そこでハルヒがプッと吹き出して笑った。なんだかつられて俺まで笑った。

やっぱりコイツは不思議だよ…この世界の創造神とか、情報爆発の中心とか、そういう意味とは違う。

俺をこんなに笑わせてくれる。ごく自然に。コイツが居なかったら、平和に普通な高校生だったであろう。
だが俺はその平和な世界と選ぶなら、断然こっちの世界を選ぶ。

ハルヒだけじゃなく、長門、朝比奈さん、古泉、みんななんらかしらのいわく付きだが、コイツ等に関わってつまんないと感じた事はない。
だってそうだろう?俺も昔ハルヒと同じように宇宙人、未来人、超能力者に憧れていて、だけど普通さに慣れてその事をいつの日か忘れていたんだ。

だけどハルヒが居て、宇宙人の長門がいて、未来人の朝比奈さん、超能力者の古泉が本当にいて…望んだものが全ている。

それでつまらない訳がない。ハルヒを中心にして振り回されている俺だけど、それが楽しい。ならそれでいいんだ。

『ちょっとキョン?何ボーっとしてんのよ?』

だからハルヒ?俺はお前に感謝している。

超常を…この世界をありがとう―――ってな。

「ハルヒ…」
『何よ?』
「ありがとうな。」
『へっ?それどういう意味よ?』
「ご想像にお任せしますってな!んじゃ次行こうぜ!」
『ちょっと!何なのよ!』

俺はハルヒの手を引き、沢山の人だかりの中を駆け抜けた。

ハルヒにとってはまだこの世界はつまらないかもな…

俺はお前のおかげで充分楽しませてもらっているよ。

だから…その幸せお前にも分けてやりたいからな…祈ってやるよ!

何にでもいい!神様だって仏様だってキリスト様だってな!でも明日はクリスマスだ。明日キリスト様とやらに祈るか!


―――願わくば、ハルヒに最高の幸せを…―――


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