時は冬。

暑すぎる夏が嫌いな俺でもあるが、寒すぎる冬も嫌いなのが俺である。

普通の俺にしてみれば、普通の季節が一番な訳だ。春とか秋とかな。
でもやはり春が好きなわけだ。長かった寒すぎる冬から解放され、ぽかぽか陽気の春っていうのは最高の季節だ。

んで今はその素晴らしい春という季節が訪れるのがまだまだ先の事で…まだ冬になりたてだ。

今は十二月。あと一週間で二週間程度の休暇を貰えるのである。
そうとなれば家で暖かい部屋でぬくぬくと出来る。シャミセンのような暮らしが出来るのだ。待ち遠しいものだね。
だがな…多分それは出来ないのだろう…なにしろあのハルヒの事だ。冬休みでも急に寒い中を呼び出すだろう。
冬休みぐらいには団員に休みを与えてくれないかね?…無理か…無理だな。

まだ学校に着いた訳でもってないのに憂鬱な気分になってきた…帰ろっかな…
これから学校でも更に憂鬱な気分になることを考えると更に憂鬱になる。まだ週明けだ。なるべくなら今日ぐらいは俺を悩ますような事はないようにしてほしいものだ。

そう考えながら、自転車をこいで学校への道を目指していった。

十二月二十日(月曜日) 曇り

学校に到着すると、やっぱりいるのは涼宮ハルヒ。俺の席の後ろで机に肘を付いて窓を眺めていた。
よう。俺がそうハルヒに声をかける。毎朝のご挨拶だ。そうして俺は席に着くのだ。
だが今回はいつもとは違った。俺が声をかけたのに「ひゃっ!」とか言って大げさに驚いた。…逆にこっちまで驚いたわ。

「何よキョン!お、脅かさないでよ!」
『いつもやっている事だし、いつも驚かそうとしてないぞ?お前も驚かなかっただろ?』
「うるさいわね!いちいち!」
『なんだ?お前が考え事か?』
「ち、違うわよ!ただぼーっとしてただけよ!」
『お前がぼーっとしてること自体が珍しいな?』
「そんなことより!………」

いつものように話を始める。毎朝のコイツとの日課であり、それは楽しい。
コイツと話すと疲れはするが、話題が面白く尽きないので長い間ずっと話す事が出来るのだ。
コイツの話題は昨日見た怪奇現象特集の話だとか最近感じた事、SOS団の活動についてなど、豊富に持っていて飽きることを知らない。

「ねぇキョン?アンタ女の子から何か貰ったことある?」
『なんだ急に?』
「いいから答えてみなさいって!」

『俺は女性経験なんて知れたもんじゃないぞ?』
「それでもなんかもらったことぐらいあるでしょう?」
『そうだな…妹にならあるが…あ…』

俺は中学の時に同じクラスの女子に誕生日プレゼントを貰ったことがあることを思い出した。

『…あるにはあるが…』
「そうなんだ……ねぇ?いつ?何もらったのよ?」
『誕生日の時な、確かハンカチを貰ったよ。』
「どう?嬉しかった?」
『そりゃ誕生日を誰かに祝ってもらえて、プレゼントをくれるのに嬉しくない訳がないだろ?素直に喜んださ。』
「そ、そう!その子はどうしたの?」
『いや…お礼言ったら帰ってちゃったよ。いつかお返しをしようとしてたんだが…忘れてたな。』
「バカキョン!そういう事忘れる?」
『確かに悪いことしたな…後でお返しでもするか。』
「そうね!それがいいかもね!ちゃんと貰ったらお返ししなきゃ!」

予鈴がなる。これまでの時間はあっという間だが、いざ授業が始まると、苦痛に感じる程長く感じられる。

ハルヒは午前中の授業の間ずっと机に伏せた状態で寝息をたてていた。よっぽど疲れていたのだろうか?気持ちよさそうに寝息をたてている。
これで成績がいいのだ。…不平等だぞコノっ。

昼休みには教室を出てどっかに行ってしまった。そして予鈴がなるギリギリぐらいに戻ってきた。

『学食の割には遅いな?』
「ちょ、ちょっとね!」

午後はずっと窓を眺めていた。朝来たときのように。
朝話してたときには気づかなかったが、コイツ何かおかしいな。なんだろうね?違和感がある。

授業が終わると部室に向かうかと準備をしていると、

「ゴメン!今日あたし出れないからみんなに言っといて!今日は休み!じゃね!」

そう言って教室を飛び出して行ってしまった。
アイツの部活以外の用事ってなんだ?そう考えながら部室に向かっていった。
そこにいたのは長門と古泉だけだった。

「あれ?朝比奈さんはまだか?」
『朝比奈さんなら、用事があるそうでお帰りになりました。』
「朝比奈さんもか…今日はハルヒが用事があるから活動は休みだそうだ。」
『そうですか…涼宮さんが用事なんて珍しいですね?何なんでしょうねキョンくん?』
「俺に聞かれても知るか。」

それから俺は家に帰っても暇だと考え、古泉とオセロをして過ごした。

長門が本を閉じ、解散となった。本を閉じると同時に帰宅を促すアナウンスが流れる。このスタンスはいつも変わらない。

その後何事もなく家に帰り、適当に時間をつぶし布団に入った。

今日はいつになく平和だったな。ハルヒがそんな絡んで来なかったからか。…少し寂しい気もする。


まぁすぐにまた忙しい日々が始まるさ…


それまでゆっくり休憩させて貰うよ…



十二月二十一日(火曜日) 曇り時々雨

昨日の平和さが今日はぶち壊されるか心配しながら学校への道を行っている。

昨日のハルヒは違和感があり、さらには団の活動にも参加しなかった。活動っていうかただのんびりしているだけだが。

だが今日はそんなことなくいつものハルヒだろう。悩み事があっても一日寝れば解決しそうなやつだ。そもそも悩み自体持たないだろ?あくまで主観だが。

俺が学校に着くといつも何時からいるのかわからんがハルヒは俺の後ろの席に陣取っているはずなのだが今日はいなかった。
まぁそのうち来るだろう。俺は自分の席に座っていたのだが…

朝のHRの予鈴が鳴り、岡部が入ってきてもハルヒは来なかった。アイツが遅刻するなんて事滅多になかったんだがな…

昼休みになってもアイツは学校に姿を現さなかった。珍しいな…アイツに限って風邪とかひくもんなのか?…ないな。でも人間だからひくのかもな。

俺は飯を急いでかき込み、部室へと向かった。そこには案の定長門が本の世界に引き込まれて座っていた。

「長門。」

その声に反応して俺の方へ顔を向けて何?といった感じで無表情ながらも首を横に俺しかわからないであろう角度で傾けた。

「今日はハルヒが休みなんだ。なんか知ってるか?」

コイツなら知らない事はないだろう。そう踏んで俺は長門に聞いてみた。

『涼宮ハルヒは現在自室のベッドで眠りについている。』
「なんでだ?やっぱなんか調子悪いのか?」
『違う。疲労が蓄積し、涼宮ハルヒの体力的に限界点を突破したため。』
「アイツの底なしの体力の限界を突破する程なにやっていたんだ?」
『それは…』

と言うと、人差し指を口元に持ってきて、

『禁則事項。』

と片目を閉じながら言って見せた。
…アナタハナニヲシテイルンデショウネ?最近こんなジョークも言えるようになったのですね…ジョークっていうか物まねか?
似てない…似てないが…思わずドキッとしてしまう。コイツがこんな事やったからなのか…違う魅力があるのか…正直に…可愛いじゃねぇかコノヤロウ。
しょっちゅう無表情じゃなくてこういう顔してればいいんだ。

俺の考えを察してか、長門は、

『あなたが何を考えていようと自由。だけど、あまりそういう顔で考えない方がいい。』

…長門も言うようになったな…

「いや、素直にそういう事をするのを驚いたんだ。」
『…そう。』
「そうやってた方が可愛いぞ?」

『…そう?』

他の人なら聞き過ごす程度の疑問符を最後に付け加えて言った。
俺も八ヶ月も付き合ってれば気づくようになったもんだ。あくまで付き合っているの意味はそういう意味じゃないぞ?誤解はしないように。

「そうだ。ずっと無表情じゃなくてたまにはそうしてみろ?段々と慣れていけばいい。」

長門は少し俯きながら考えたようにして、

『……そう。』

と答えた。やっばり長門は長門だな。だが心なし頬に赤みがかかっていたようだが、すぐに本の世界へと戻っていった。

昼休みも終わり午後の授業を適当に受け流し、また部室に足を運んだ。

本来ならば団長がいないので行かなくてもいいのだが、事情を知らない朝比奈さんや…古泉は知ってるだろうが。一応報告しなければならないからだ。
俺が部室に着くといつものようにみんなが既にいた。

「今日はあの素敵団長様がお休みになっているため、自由活動だ。」
『あのー?なんで涼宮さんお休みになったんですかー?』

その声の主は部室専属メイド兼エンジェルの朝比奈さん。着々とドジっこメイドの道を歩んでいる彼女が舌の足らない口調で尋ねた。

「俺にもわかりません。思い当たる節がありませんし。」

『昨日一生懸命頑張ってて疲れちゃったからかなぁ?』
「何を一生懸命だったんです?」
『それはくりs…わぁーっ!わぁーっ!』
いきなり朝比奈さんが発狂しだした!こういう場合何がいるんだ?!十字架?ニンニク?

「ど、どうしたんですか朝比奈さん?」
『な、ななな、なんでもありませ~ん!』

いや…明らかに何か誤魔化してるな…さすがドジっこは伊達じゃないな。
深く追求したらすぐにでも話してくれるだろうけど、まぁ少し可哀想だ。さすがに天使を虐める立場など持ち合わせてないからな。そんな趣味もない。

でもまぁアイツが何かに熱中して頑張る事があるのはよい事じゃないか。いつもすぐに飽きてしまうものだからな。
…尚更に気になるな。朝比奈さんといい、いつもと違った長門といい…古泉はなにも変わらず爽やかスマイルだが。何か俺に隠し事でもあるのか?一人だけハブられてるんですか?

団長がいないのにも関わらず、ここで結局は過ごしてしまうのは何故だろう、何故だろう。これが習性か…慣れは恐ろしいものだ。
適当に古泉とボードゲームで圧勝しながら、朝比奈さんは編み物、長門はいつもの分厚いSF関係の本の世界へ旅立っていたりして、時間を過ごした。

本を閉じる音と同時に、俺たちは帰宅の準備を始めて、下校する。


今日も平和でよかったものだ。

だがその平和が皮一枚の状態で均衡を保っているため、壊れたときの恐怖の念がある。

多分ハルヒが何かを頑張っているうちは大丈夫だろう。あくまで多分な。



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