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涼宮ハルヒの追憶 chapter.5

――age 25


「じゃあ、行ってくるな長門」

俺は長門に出がけの挨拶を済ませ、ドアを開けた。
いつもなら、彼女が「いってらっしゃい」って笑顔で送ってくれるんだがな。
でも、無言で送ってくれるのも嬉しいぞ、長門。
花はもう飾ってあるから。

鍵を閉め、言われたとおりに郵便受けに鍵を入れておく。
じゃあ、学校にでも向かうか。
マンションを出るとき、センサーが反応しないので、人が来るのを待った。
その時、人とすれ違ったが、見えていないようなので安心した。
そういえば、これからあの坂を上るのか。
車で行きてえな、最近ろくに運動もしてないし、疲れるだろ。
まあ、過去の俺の為に頑張ってやるか。
坂を上るぐらい、あの時の苦しさに比較にもならんからな。

学校へと向かう。
その間、いろいろな人とすれ違ったが、やはり誰も気付かないようだった。
なんか悪戯したくなるよな。覗きとか、いや、犯罪はだめだ。
それに俺には彼女がいるだろ、帰ったら見せてもらえばいい。
坂を上る。ゆっくり向かっていたので、学生は下校の時間だ。
初々しいカップルやバカそうな集団やらを横目に、坂を上った。
なんか気分がいいもんだな。
こっちは見えているのに、あっちは見えない。
どこか日本の小説で読んだな、この面白さを説いた話だったか。

「キョン君!」

前方から突然俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。

「へ?」

おいおい!お、お、俺は見えないはずじゃないのか?
誰だ? 俺の名前を呼ぶやつは!
というより、誰とか言う場合じゃない! まずい! 逃げろ!
俺は危機感を感じ、坂道を外れ、路地裏に向かって走った。

「ちょ、ちょっと! なんで逃げるのさっ!」

後ろから声が聞こえる。
俺を呼んだ人は猛然としたスピードで俺を追いかけてきた。
そして、路地裏に入ってすぐのところで、後ろからもの凄い力で止められた。

「どうして逃げるのさっ! キョン君あたしのこと嫌いになったかいっ?」

その声は。振り返ると、長い髪をした少女が立っていた。
鶴屋さんだ。よかったなんとかなるかもしれない。

「て、あれ? よく見たら本当にキョン君かいっ? 
ほとんど一緒だけど、身長も少し大きいし、どこか違うねえ。
もしかして、兄弟? でも、キョン君には妹ちゃんしかいなかったはずだけどなっ」

満面の笑みで俺に聞いてくる鶴屋さん。

「ねえ、ねえ! どうしたんだい黙りこんじゃってっ!」

鶴屋さんは俺を下から覗き込んで、尋ねてきた。

「あ、いや……」

この歳になっても鶴屋さんには気圧されてしまう。

「ふぅーん。また何か言えない事情でもあるのかなっ?」

「そ、そうですね。というか、なんで鶴屋さんは俺が見えるんですか?」

「なにを言ってるんだいっ? 見えるに決まってるじゃん」

そうだ、鶴屋さんからしたら普通に見えて当然なんだ。
何をくだらん質問してるんだ俺は。よけい怪しまれるだろうが。

「あ・や・し・い・な・~・♪」

鶴屋さんは俺を訝しげな瞳で下から覗き込んだ。
が、突然ケラケラの腹を抱えて笑い出した。

「ご、ごめん! なんか困ってるキョン君の顔が面白くてさっ!
そんなに、真面目な顔しなくても、あたしは詮索したりしないよ。
困ることだってあるだろうしさ」

「ありがとうございます、助かりますよ」

「でも、キョン君には変わりないんだよね?」

「そうです」

鶴屋さんは右の人差し指をあごに当てると考えるような顔をして、

「はっはぁーん。なんとなく分かっちゃった。
この後、ハルにゃん達に何かおこるんだねっ!」

ずばり、ご名答。といってやりたいところだが、何も言えない。

「これ以上は言うのはやめておくねっ。
だって、今キョン君『当たり!』って顔してたもんっ!」

げっ! なんでこんなに鶴屋さんは鋭いんだ。

「それにしても、キョン君こんなにかっこよくなるんだぁ。
彼氏に立候補しちゃおうかなあ」

鶴屋さんは意地悪な目で俺を見つめ、そして続けた。

「でも、キョン君にはハルにゃんがいるもんね。あたしの出る幕はないかな」

「そんなことはないですよ。人の好みってのは変わっていくものですよ」

そう、俺は今の彼女は長門だ。

「ま、どっちでもいいさっ」

「鶴屋さん、あなたはどこまで分かっているんですか?
俺も見えるようだし、本当に普通の人なんですか?」

「秘密さっ!」

「秘密?」

「そう、女の子は人には言えない秘密を一つは持っているものさっ!
キョン君はまだ分からないのかもしれないけどね。
そんで、それは聞いちゃいけないことなのさっ」

鶴屋さんはひまわりのような笑顔を見せたかと思うと、
俺に優しくデコピンをした。

「それを聞いたら、野暮ってもんさっ!
キョン君ももうちょっと修行が必要だねえ。
女の子は秘密を抱えてたほうが輝くんだよねっ」

そうかもしれないと思った。
この鶴屋さんの明るさはどこから来るのだろう、鋭さはどこから?
それを知らないから鶴屋さんは魅力的なのだ。

「そうですね。分かりました、こちらも聞かないでおきましょう」

俺は笑顔で答えた。

「じゃあ、あたしはもう帰るね。面白いこともあったし」

そういうと、鶴屋さんは後ろを向きながら手を振って帰っていった。

「秘密か……」

女の子は秘密を持っている。だからハルヒはあんなに輝いていたのかもな。
そう、過去を思い起こしながら、俺は学校の部室へと向かった。

chapter.5  おわり。


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