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「3日後の午後5時45分。貴方の存在はこの世から消える」


「理解が容易になるよう言語化すると――――」



「死ぬ」



それは、今日の放課後。
いつもと同じように部室に向かった俺は、いつもと同じように扉をノックしてから部室に入る。
「こんにちは」
「こんにちはぁ」
「フフ、こんにちは」
俺が挨拶をすると、既に来ていた朝比奈さんと古泉が挨拶を返してくれた。というか古泉、今何故笑った?
「ハルヒはまだか?」
ちなみに、長門はいつもと同じように部室の端で本を読んでいる。
「まだ来てないようですね」
「そうか、それは平和なかぎ―――」
「やっほー!!皆居る!?」
言い終わる前に当人がドアを蹴り開け部室に入ってきてしまった。今もし俺がドアを凝視していたりしたら見えてただろうな。
「やー、ちょっとねぇ、コンピ研に本借りてきたのよ」
「・・・何のだ?」
「じゃーん!『サルでも解かるC言語』!折角パソコンあるんだからなんか高度なことやってみたかったのよね~」
…一応聞こうか。
「ハルヒ、それは誰がやるんだ?」
「あんたに決まってるじゃない!」
『お前』がやりたいんじゃないのか?
「ホラ!これ読んでソフト作るなりHP充実させるなりハッキングするなりなんでもしなさい!」
ハルヒがその本を俺に押し付ける。
その場でパラパラと捲ってみたが、サルは愚か人間の俺にも到底理解できそうに無い。
「何か出来たら呼んで!見てあげるから」
恐らく・・・何も出来ないけどな。


予想通りその日には何も出来ず、俺達は部室から退散することになった。


そしてそれは、帰り道、他の皆と別れたあとだ。
「待って」
その日初めて聞いた長門の声は、背後から掛けられたものだった。
「長門?どうしたんだ?」
「話がある」
「何だ?」
「ここでは出来ない。私の家で」
そう言うと長門はさっと踵を返し、トコトコ歩いていってしまう。
このまま放って置いたら長門は振り向いてくれるのか、無視して歩き続けるのか興味が湧いたが、ここは素直について行くことにする。


この部屋に来るのも何回目だろうな。別に数える気にもならないが。
古泉が置いていったツイスターゲームがまだ壁に立てかけてある。
「それで、話って何だ?」
俺と長門が机を挟んで向かい合って座ると、俺が切り出した。
しかし長門はその問いかけには答えず、初めてここに来たときのように湯飲みにお茶を注ぎ始めた。
「飲んで」
「なぁ長門――――」
「飲んで」
長門らしくない、有無を言わせない口調だった。まぁそんなに言うんだったら飲むが・・・。
俺が60度程のそのお茶を飲み干すと、長門が聞いてきた。
「落ち着いた?」
「ああ・・・」
初めてのときは確か「おいしい?」って聞かれたっけな。こいつが疑問系で喋るのはすごく珍しいな。


「それで何だ?話って」
改めて俺が聞くと長門は眉を1ミクロン動かし、言った。
「落ち着いて聞いて欲しい。3日後の午後5時45分。貴方の存在はこの世から消える」
…言ってる意味が解からない。というか落ち着いて欲しいならちょっと間を空けてくれたりしても良いんじゃないか。
「長門、解かりやすく説明してくれるか?」
「理解が容易になるよう言語化すると――――」
長門はここまで言うと黙ってしまった。
「あ、長門?」
一呼吸空けてるだけかと思って待ってたんだが。
「理解が容易になるよう言語化すると――――」
そして、長門は次の瞬間、間違いなくこう言った。


「死ぬ」


「死ぬ?俺が?」
理解できない。信じられない。しかし、
「そう」
長門が言うなら間違い無い・・・のか?
「それで、何で俺が死なないといけないんだ?」
俺が聞くと長門はこう短く答えた。
「運命」
運命か・・・文句の付けようが無い理由ではあるが・・・。
「何故それが解かる?そして何故俺に教える?」
「私達の立場としては、貴方に消えてもらっては困る。そこで貴方に猶予を与えることにした」
「どういう意味だ?」
こう聞くと、長門は少し間を空けてこう言った。
「貴方次第」
いや、さっぱりわかりません長門さん。
「後のことは一人で落ち着いて考えて欲しい。今日は帰って」
「長門――――」
「帰って」


結局俺は余命3日と告げられたあと、家に帰された。
死亡宣告されたんだからもうちょっと焦ったりしても良いんじゃないか、と自分で思うのだがどうもそんな気にはなれない。
全く信じられない。自分は怪我も病気も無い健康体だ。
かといって長門がいままで間違ったことを言ったことがあるか?答えは否だ。あいつは常に正しい。
よし、明日病院に行こう。
俺はそう決心したあと、風呂→晩飯→ベッドというルートを辿り、眠りについた。


「あー、別に何も無いですね。一応、風邪薬出しときます?」
「いえ、良いです・・・」
翌日俺は学校を2限目行くことに決め、病院へ向かった。
「今日はどうしたの?」
と、問われ。
「なんか調子が悪くて・・・」
と適当に答えた俺を、そのお医者様はとても丁寧に診てくれた。それがこの上なく申し訳なくもあった。
この人は将来教授か何かになれるかも知れない。いや、今の医局は・・・そんな話は良いか。


「どうしたのキョン?あんたが居ないと暇だったわ~」
ハルヒが頬杖をついたまま言ってくる。俺は自分の席につくと、こう答えた。
「別に、寝坊だ」
「嘘。だって岡部が『キョンは病院に行った』って言ってたもん」
くそ、岡部め・・・。と言うか『キョン』って誰だ?
「・・・何か調子が悪い気がしたんだ」
「ふーん、それで何も無かったんだ!うわっ、恥ずかしいわそれ!」
ああ、理解してくれて嬉しいよ。


ちなみに、ハルヒと同じようなことを、谷口、国木田、他数人にも言われた。


いつもと同じように部室へ向かうと、そこには運良く長門しか居なかった。
ヨシキタとばかりに俺は長門に質問をぶつける。
「なぁ長門、昨日の事だが、もうちょっと詳しく説明してくれるか?全く実感が湧かん」
実感が湧いてしまったら湧いてしまったで恐怖で眠れなくなったりしそうだが、それを怖がっていても始まらない。
「説明は不可能」
おいおい。
「運命」
おいおいおい。
「いや、じゃぁせめて死因とか解からないのか?」
「解からない」
時間は正確に解かるのに?
「解かるのは、時間と『消える』という事実だけ」
「それは間違い無いのか?」
「間違い無い」
そんなに自信を持たれてもなぁ・・・俺はどうすればいいんだ?
「全ては、貴方次第」
だからね、それが解からないて言ってるんですよ長門さん。
「うーむ・・・」
俺が次なる質問をしようかやめとこうか、考えていたとき。部室のドアが開かれた。


「あれ?お二人さん、そんなに近づいて何をやっていたんですか?お邪魔なら帰りますが」
「そんな気遣いは無用だ」
いつもと変わらない、ニコニコスマイルの古泉だ。
「涼宮さんには内緒にしておきますよ」
「だからそんな気遣いはいらん」
「フフ、冗談です」
そんなバカな会話をしてる途中・・・俺は不覚にも、いらんことを考えてしまった。
もし3日後死んだら、この部室に来て古泉とこんな会話をすることも無くなってしまう、と。
「どうかしました?」
「んん?あ、いや、なんでもない・・・」


「すみません。ちょっと遅くなってしまって・・・」
次に入ってきたのは朝比奈さんである。いつもと変わらず可愛い。
だがもし、3日後死んだら、このお姿を拝見することもできな―――。
「キョン君?どうかしたんですか?顔、変ですよ?」
「あ、いえ・・・ちょっと考え事を・・・」
やばい。


「こにゃにゃちわ~!キョン!プログラム製作は進んでるの!?」
ああ、ハルヒ、3日後にはお前の姿を見ることも出来なくなるのか?
「キョン?ちょっと!聞いてるの!?」
「ああ、聞いてる。で、何だっけ?」
「やっぱり聞いてないじゃない!」


「長門・・・何か、皆に会ったら実感ってやつが湧いてきちまったよ・・・」
「そう」
その日の帰り道、俺は昨日の長門がそうしたように、長門を背後から呼び止めた。
そして、俺は長門に今日感じたことをありのままに話した。
「古泉にも朝比奈さんにもハルヒにも、お前にももう会えなくなるのかって、そう思っちまった」
「そう」
「なぁ、長門。俺が死ぬのを回避する方法は無いのか?」
俺は長門の回答に一縷の望みをかけた。だが、次の瞬間長門の口から出てきたのは、絶望的な言葉だった。
「出来ない」
そして、こう付け加える。
「運命は変えられない」
「・・・」
運命は変えられない、か。最初に言い出したのは何処のどいつなんだろうな。
「運命、か。長門らしく無いな」
「私に、それを変容させることは許可されていない」
「そうか・・・」
じゃぁ仕方ないな、ともいかないんだが・・・どうしようも無いもんな。
「それじゃぁ、長門。人としてお前に聞きたい」
別にその質問によって俺の何かが変わるわけでは無いが、一応知っておきたかった。
「俺が死ぬって知ったとき、どう思った?」
こう聞くと、長門は少しの間俺の顔を見つめたあと、こう言った。
「ちょっと残念」


「ちょっとかよ・・・」
俺は家の、自分のベッドの上で呟いた。
いや、しかし長門が『ちょっと』残念に思うぐらいなんだから、他の奴らは『物凄く』残念に思うかも知れない。
俺は人に恨まれるような生き方はしていない筈だ。俺が死んだら、それなりに悲しんでくれる人も居るだろう。妹なんかは手がつけられなくなるかもしれないな。
そのとき朝比奈さんは、古泉は、ハルヒは、何を考えるのだろうか。
朝比奈さんは・・・泣いてくれると思う。是非そうであって欲しい。
古泉は葬式とかでも笑ってそうな気がする。でも場はわきまえる奴だからなぁ・・・。
ハルヒは・・・泣かないよな。ハルヒだから。


でも、見てみたい。ハルヒが泣いてるところ。


長門によると、俺が死ぬまであと2日だ。
もう明後日までの命かも知れないのに律儀にも学校に向かう俺は何なんだろうね。俺には将来のために勉強する必要も無いのに。
が、その理由はハッキリしている。
「よっキョン!今日は病院行かなくていいのか?」
「もう谷口。その話、キョンが本気で嫌がってるの気付いて無いの?いい加減にしないと友達無くすよ?」
一つは、こいつらに会うためだ。
「なぁ谷口、国木田、高校生になってからお前等と学校の外で遊んでないよな」
「ん?ああ、そうかもな。映画のときは別にしても」
「すまない」
「は?」
キョトンとしている二人をおいて、俺は自分の席へ向かった。
「あ、キョン!今日は病院行かなくていいの?」
でも、一番会いたかったのはこいつかも知れない。
「お前らって、意外と似てるところがあるよな」
「は?何の話?」
「いや、別に」
その日の授業の内容は、一文字たりとも覚えていない。


「やぁ、涼宮さんならまだですよ」
俺が部室に入って一番最初に聞いたのは、古泉の声だ。
「そうか」
俺は適当に答えてから自分の席に座る。
「なぁ、古泉。運命ってどう思う?」
俺は思いついた質問を、迷わずに口に出した。
「運命、ですか?いきなりどうしたんです?」
「いいから答えろ」
「そうですね・・・」
古泉はしばらく腕を組んで考える仕草をしたあと、こう言った。
「一般的に『運命は変えられないもの』なんて言われてますが、僕はそういったものを信じません。運命は『努力次第で変えられるもの』だと、そう思います。いや、むしろ運命なんか存在しない、と言った方がよろしいでしょうか」
「そうか、ありがとう・・・」
長門と真っ向から対立する意見だ。だが長門と古泉、どちらをの意見を信用するかと問われれば、俺は迷わず長門と答える。
長門は嘘をつかない。そして常に正しい。
古泉は本心を言っているとも限らず、しかも基本的には俺と同じただの人間なのだ。間違ったことも言う。
でも古泉、お前のお陰で少し希望が生まれた気がするよ。
「どうかしたんですか?悩み事があるなら相談に乗りますが」
「いや、大丈夫だ」
このことは、なるべく話さないでいよう。古泉なら天下の名医だとか運命を捻じ曲げる霊能力者だとかそんな感じの知り合いがゴロゴロいそうだが、それらが長門に敵うとも思えない。
しかし、俺は古泉のお陰で、一つのことに気付けた。


こんな事をしている場合じゃない、と。


「あ、キョン!どう?プログラム製作は進んでる?」
「ハルヒ、悪いが今日はそんなことをしてる場合じゃない」
俺に残された時間は少ないんだ。そんな出来る見込みの無いもの作ってる暇は無い。
「え?何か用事でもあるの?言ってみなさい。一応聞いてあげましょう」
「用事っていうか・・・」
俺は頭の中で何を言うかと、それからの展開を考えられるだけ考えた。よし、これで良い筈だ。
「ハルヒ、出かけよう」
「は?何処に?」
「あー・・・その辺をブラブラとな」
「いつ?」
「今から」
「うん、ふざけんな♪」
…そりゃそうか。
「大体出かけるなら明日で良いじゃない、休みなんだし」
「ああ、明日も行こう。んで今日もだ」
「意味解かんない」
まぁ俺でもそう思うな。というかなんか自分の言ってることがハルヒっぽい。
ハルヒって実は『明日死ぬかも知れない』とか考えながら生きてる人間なのか?


「良いのではないですか?行ってあげれば」
何故かここで古泉が首を突っ込んで来る。ん?何か言ってることがおかしくないか?
「彼があそこまで言うのには何か理由がある筈ですよ。行ってあげるべきですよ、涼宮さん」
はいはい、ちょっと待とうか。
「俺はお前等ぜ――――」
「うーん、仕方ないわね!じゃぁついてってあげるわよ!何処行くの?」
おいおい、俺の言葉を遮ってまで急ぐことも無いぞ?
「そうと決まったら急ぎましょ。放課後なんだからそんなに時間無いし」
そう言うとハルヒは俺の腕を引き、超スピードで部室を出た。古泉が「いってらっしゃい」と言ったのが聞こえた。
「お、おいハルヒ。別にどこに行きたいってわけじゃないんだ。そんなに急がなくても良いぞ」
いや、というか俺の残り少ない時間は朝比奈さんと一緒に居たかったんだけれども。
「あー、今日実は見たい映画があったのよ。だから丁度良いわ」
「そ、そうなのか?」
まぁ・・・どうせ明日もあるんだ。今日はハルヒに付き合ってやろう。


その俺の判断が、正しかったのか間違っていたのか、俺には解からない。


北高を後にし、俺達は電車に揺られつつ最寄りの映画館を目指していた。
「それにしても何でいきなり出かけようとか言い出したの?」
俺は全員で行くつもりで言ったんだけどな。
「まぁ・・・ちょっとな」
「ふーん、まぁ丁度良かったわ」
「あ、そういえばお前が観たかった映画って何なんだ?」
「えーっと、デス―――」
「解かった。もういい」
恋愛物でも見るんならなんか考えたかも知れんが。選りによってな。というか今の俺にとってはシャレにならない。
「何?不満なの?何かの資料になると思ったんだけど」
何の資料だよ。
「SOS団の存在意義は何?最近皆忘れてるっぽいけど、元々の目的は宇宙人、未来人、超能力者その他諸々を探し出して一緒に遊ぶことなのよ?」
「それで?」
「死神も当然捜索対象に当たるわ。その資料よ」
ああそう・・・。
「所詮は人間の作り出した想像上の物だって思うでしょ?ところがね。
人間は0から物を生み出すのはあまり上手くないのね。
つまり、『死神』っていう存在が生まれたのは誰かがその『死神』を見て他人に話したからなのよ」
「ふーん・・・」
言いたいことはなんとなく解かるが・・・。


「しかし、ハルヒ。今日は別のにしよう。気分が乗らん」
「あんたの気分なんか関係無いわ」
まぁハルヒならそう言うだろう。
「と言いたいところだけど、でも今日は良いでしょう。それはまた今度全員で観ましょう」
それはありがたいな。
「・・・今何やってるか解からんから向こうについたら決めよう」
「いいわよ、別に」
ここで俺はやっと一つおかしいことに気付く。
「あ、ハルヒ。もしかして最初からそれ観る気は無かったのか?」
「ん?まぁ最初から全員で見るべきだと思ってたけど」
「じゃぁお前、今日なんでついて来たんだ?」
こう聞くと、ハルヒは顔を真っ赤にして怒鳴った。
「あんたが来いって言ったからでしょ!?バカキョン!!」
声がでかい。ああ、見ないで、こっち見ないで下さい皆さん。
「いや、にしてもいつもなら俺の提案はすぐ無視するじゃないか・・・」
とは言わない、思っただけだ。また大声出されたら困るからな。
「キョン。ここで降りるわよ。ほら、さっさとしなさい!」
再びハルヒが俺の腕を引き、電車から出た。そこのおばちゃん方、何でそんなに微笑ましそうにこっち見るんですか?


下車して、徒歩5分の場所に、その映画館はあった。


この小説を読んでいる皆様は、この次どんな展開を予想しているだろうか。
恋愛映画で甘々展開?ホラー映画で「キャッ」とか言って抱きつかれてみたり?
残念だが、そのどれにも当てはまらない。
映画館につき、「あ、あれおもしろそう!」と言いながら指差したのは、韓国製の格闘映画のポスターだった。
まぁどちらかと言うとおもしろそうだが、高校生の男女が一緒に観るものでは無い気がするな。
あ、言っておくが俺は2行目みたいな展開を望んでたわけじゃないぜ?
・・・ただ、そうなっても悪く無いとは思う。


劇場の席に座ると、ハルヒがいきなり俺に言ってきた。
「キョン。先に言っておくけどね、私は映画鑑賞中に話し掛けられるのが大嫌いなの。独り言も禁止。笑うのは劇場全体が笑ってるときだけ許すわ。いい?」
そうかい。お前はむしろ率先してペチャクチャやってそうな気がするんだけどな。俺のイメージでは。
「はいはい」
と言っても俺もハルヒとほとんど同意見だ。ああ、そうさ!映画が始まると、最初から最後までペチャクチャ喋ってるやつ居るんだよな!フフーフフー
「あ、始まるわよ」
CM開始、劇場が暗くなる、映画紹介開始。こんな感じで一度映画を見ようと思ったら最低3回はフェイントを掛けられる。が、どうやら今回は本当に始まるようだ。
内容を活字にするのは面倒だから感想だけ簡単に言おう。それなりにおもしろかった。ジャッキーには及ばないけどな。
ちなみに観てる際中には甘々展開皆無で、「キャッ」なんてことも無かった。いや、期待はしていなかった。
「なかなかおもしろかったわね。Ⅱが出たらまた観ましょうよ」
「ああ」
Ⅱが明日公開だったらな。


「暇になったわね。どうする?もう帰る?」
もう既に時刻は8時を回っている。普通なら帰るのが妥当なんだろうが・・・。
「ちょっとその辺で晩飯でも食っていかないか?」
俺は一瞬でも長くハルヒと居たかった。あ、いや、違うぞ?今はたまたまハルヒしか居ないってだけだ。
本当なら長門とも朝比奈さんとも古泉とも一緒に居たかったんだ!今日は仕方無~くハルヒと居るんだ。
「別にいいわよ。ハイ、じゃんけんぽん」
「うぁ?」
突然ハルヒが出したパーに俺のグーは無残にも敗北した。
「はい、じゃぁあんたの奢りね。何処行くの?」
「卑怯だ」
俺が勝っていたらお前が奢ってくれたのかも怪しいもんだ。
「つべこべ言わない。あのファミレスでいいわ。入りましょう」
今日ハルヒが俺の手を引いて行くのは3回目だ。


そのファミレスの客はこの時間帯なのに家族連れが2、3組だけだった。それはファミレスの癖にこの背伸びした感じの高級感のせいかも知れない。
「サーロインステーキセット。ライスで」
そんな容赦無しのハルヒの注文にも俺の財布が応えられるようになっていたのは奇跡と言って良い。俺の財布には普通1000円しか入っていない。
「じゃぁミートスパゲティで」
それでも、俺にはもう明日しか無いのに控えめな注文をする俺は何なんだろうね。
「あ、キョ、キョン?そういえば何で今日私と出かけたいなんて言ったの?」
今思いついたから聞いた風を装っているが、それには何処か「ずーっと聞こうと思ってたけどタイミングが見つからなくて・・・」的な響きが含まれていた。
「ま、まぁちょっとな・・・」
今のこの雰囲気では「本当は『全員で出かけよう』って意味で言ったんだけど・・・」とは言えない。
「それじゃぁお前は、何で俺と一緒に来る気になったんだ?」
質問に質問で返したら0点なのは知ってるけどな。
「だから!あんたがついて来いって言ったからでしょ!」
「お前が俺の言うことを聞くなんて滅多に無いじゃないか」
もしかしたら俺が死にそうなの知ってるんじゃないのか?とさえ思わされる。
「べ、別にいいでしょ!私があんたについてきたら問題あるわけ!?」
「いや、特に問題は無いな。すまん」
まぁハルヒでもたまにはこんなことあるさ、と自分で納得し俺は質問を取り下げた。


「・・・」
「・・・」
何故かしばし沈黙。その沈黙を破ったのは当然ハルヒなのだが、
「何でもっと問い正さないの!?気にならないの!?」
こんなこと言ってきた。
「はぁ?お前が『別にいいじゃん』って言ったんじゃねぇか」
「普通はそこで止めずにまだ問いただすでしょ!?解かってないわね!!」
ああ、さっぱり解からん。
「仮にも女の子が男の子に誘われて『いいよ』って言ってるのよ!?何か思わないの!?」
激しく誤解を招くような台詞だな。
「いや、あの、お前何が言いたいんだ?」
と、聞いたとき。俺の中ではうっすら答えが出ていた。
が、「まさかハルヒに限って・・・」という思いを捨てきれないでいたのが事実だ。
「ここまで言っても解からないの?」
「うむ」
まさかな。
「だから・・・えーっとね・・・」
この次のハルヒの発言で、俺は耳を疑うことになる。


確か前にハルヒは、自分への告白がほとんど電話でだったことに憤慨していたが、これはこれでどうなんだろうか。
俺はそれをしたこともされたことも無いからなんとも言えないが、普通こういうこと言うときってのは何処かに呼び出してみたり、手紙だったり、そのあたりがベタだろう。
そうでなかったら雨の降る街角、二人きりの教室、夕暮れの海などでも可。そこに「閉じ込められた閉鎖空間」を含めてやってもいい。
だが・・・これは無い。いや、ある意味ではハルヒらしい突飛な行動とも言える。
と言うかハルヒはベタなことやってみたり特殊なことやってみたりと、結局どっちを求めているのか解からない。
しかし、少なくともこれは絶対にベタでは無い。少なくとも俺は以前にファミレスでそういうことになったというドラマや映画を見たことが無いし、そういう話も聞いたことが無い。
が、別に今回ハルヒはベタだとか特殊だとかそんなことは考えなかったのだろう。考えていたのだとしたら普通はもっとムードとか雰囲気とかがもっと違う感じになっていても良いはずだ。
つまり、今回の発言は突発的なものであり。また、雰囲気(一応2人きりだったしな)に流された感も否めないので、今回の発言は信憑性が薄く、重要視する必要は無い。
あ、いや、重要視はするべきか?ハルヒが機嫌を損ねたら世界が終わるかも知れないからな。まぁ俺にはどっちでもいい・・・って訳にはいかない。
俺がいなくなっても俺の家族や朝比奈さん、長門、古泉、谷口国木田その他諸々の人たちは生きつづけるのだ。
じゃぁ俺はここでどんな行動をとるべきかな?いや、それ以前に俺の本心は?どう感じている?驚き、驚き、その他驚きなどを感じているとしか言いようが無い。
ん?あれ?と言うかさっきハルヒは何て言ったっけ?ああ、そうか。
いや、まぁ多分間違い無いだろうけどね。聞き間違いってこともあるだろうしさ。最近耳が悪くなってきてるのかも知れん。
じゃぁもう一回聞き返すか?いや、さっきのが聞き間違いじゃなかったら失礼極まり無い行為だなそれは。
いや、でもあのハルヒがあんなこと言ったんだ。誰でも耳を疑い、聞き返すぐらいのことはするんじゃないか?当然その権利は俺にもある筈だ。
じゃぁもう行く?行っちゃう?聞くか?
よし、行け。キョン、行っきま~す!!


この間0.5秒。何も考えていなかった時間と合わせると3秒程の沈黙のあと、俺はこう言った。
「なんだって?」


俺の苦悩の末の「Pardon?」にハルヒはどう答えるだろうね。
「もういい!」
「ちゃんと聞け!」
「ヤスリで耳掃除しなさい!」
さて、どれだろう。
しかし、今日のハルヒには予想を裏切られてばかりだと言うことを忘れていた。
「だから、好きなの!!」
…際どいな。
「何が?」
もしかしてこう言う意地悪っぽい返しをされるのを望んでるんじゃないのか?
「だから・・・!」



「あんたがよ!!」




すみません。ヤスリで耳掃除した方がいいですか?


「なぁハルヒ・・・俺の常識が間違っていなかったら・・・今のは俗に言う告白ってやつだか?」
「そ、そうよ!悪い!?」
悪いというか・・・
「ハルヒ、その話は外でしよう」
声がでかい。今俺達は電車の中の比で無い数の人に凝視されている。恥ずかしくて死にそうだ。
客が比較的少なかったのとその中に知り合いが居なかったのだけが不幸中の幸いだ。
「まだステーキ全部食べて無いんだけど」
「どうせ俺の金だ」
俺は今日ハルヒにされたように、ハルヒの手を引き、手短に会計をすませて外に出た。
ハルヒの馬鹿力なら俺の力になんか簡単に抵抗出来ただろうが、ハルヒがそうしなかったのが助かった。
これ以上ここで騒ぎたくない。


俺はハルヒの手をひいたまま外に出て、ある程度人気の少ない公園を見つけ、そのベンチに腰を下ろした。
「痛い」
その公園につくまで無言だったハルヒが口を開いた。
「ああ、すまん」
俺はハルヒの手首を握ったままだった。俺は慌ててその手を離す。
「良い」
と同時にハルヒが俺の手を握り直す・・・って、何やってんだ俺ら?
俺は改めて自分が置かれている状況を見直す。
えっと、俺は今ハルヒと二人きりで、夜のベンチで、手繋いで、座ってる?これでOK?
…傍から見たらどう見ても恋人同士ですよ涼宮さん・・・。
「なぁハルヒ、さっきの話なんだが」
「ん?」
何か小動物のような声が聞こえた。えーっと、こいつハルヒだよな?
「お前、恋愛なんか病気みたいなもんだって、前言ってたじゃないか。それなのに何で?」
「別に治らなくていい病気もあるんじゃないかと思って・・・」
ヒドイ変化のしようだな。


「ねぇキョン、前のあたしがどう思ってたって関係無いじゃない。今のあたしを見て、真剣に考えて」
ハルヒが俺を見つめてくる。やばい、目を合わせられない。合わせたら最後かも知れない。
「キョン、ちゃんと見て。私を」
やばい、これはやばいかも知れん。いや、がんばれ俺の理性。よし、ハルヒの顔をちゃんと見てやろう。大丈夫、俺なら耐えられる。行くぞ?
そう決心した俺は、首を90度曲げ、ハルヒの目を見た。
…そのときだ。俺の中の何かが弾けたのは。
ハッキリ言おう。俺はハルヒを可愛いと思った。この世で一番じゃないかと、本気でそう思ったさ。
そして俺はどうしたか。いつの間にか答えは簡単、ハルヒを抱きしめていた。
「え・・・」
そんなハルヒの呟きで俺はハッと我に返る。遅すぎる。弱いな、俺の理性。
いや、もう理性がどうこうの話では無いのかも知れない。
「ハルヒ・・・俺な・・・」
「ん?」
「お前の事好きだった・・・かも知れない・・・」
「・・・何よかもって」
俺達はこんな短い会話を交わしたと、ゆっくりと体を離した。
「いや、今なら解かる。俺はお前が好きだ」
「・・・ありがとう」
俺達は静かに唇を重ねた。


このことが、人生最大の過ちだと気付いたのは、帰りにハルヒと別れたあとのことだ。


自分でも展開が急すぎるんじゃないかと思う。でも実際の恋愛なんてそんなものじゃぁ無いだろうか。
例えば、AさんがBさんに告白したとしよう。その場合Aさんの告白が成功するのはBさんもAさんが好き、つまり両思いであることが条件に挙げられる。
しかし、現実にそんな状況がどれだけあるのだろう。
元から両思いでなくても、告白されたそのときに想いが生まれることもある。
ここでは元のハルヒのように、何でも無いのになんとなくOKするようなケースは除外しよう。
つまり俺が何が言いたいのかと言うとだな、ファミレスのあたりでは俺はハルヒが好きっていう伏線はまったく張られていなかったのに、そのあとであんな展開になっても何もおかしく無いってことだ。
別にこれは作者である俺の言い訳などでは無いぞ?マジな話だ。


「キョン、何か今日は・・・ありがとう」
「ああ、こちらこそ」
「じゃぁ、私こっちだから」
「また明日な」
「また明日」
そう言って俺達はその日は別れた。明日はSOS団全員で出掛けることになっている。
何をするのかは解からない。まぁ適当に何かして遊ぶんじゃないか?
とにかく俺とハルヒは晴れて恋人同士となった。
ハルヒのことだから普通の付き合いは期待できないがまぁそこは合わせよう。
明後日、谷口には何か言われるだろうか。言われるだろうな。
でも俺はハッキリ言ってやろう、「俺はハルヒのことが―――――




この小説を最初から読んでいる人が居たら、その人はとっくに気付いているだろう。


いろいろあったせいで忘れてしまっていた。





「俺、明日死ぬんだ」


「あ、キョン君帰ったの~?晩ご飯出来てるよ~」
家に帰ると、妹が出迎えてくれた。
「いらない」
そう答える俺を、妹は簡単には逃がさない。
「ダメだよぉ~?晩ご飯は夜のエネルギーの元になるの。キョン君夜にもいろいろやってるでしょ?」
「なぁ・・・」
もはや突っ込む気も失せていた俺は、さっきハルヒにそうしたように妹を抱きしめた。
「ごめんな。ダメな兄ちゃんで・・・」
「ん~?どうしたのキョン君?」
こいつは、最後まで俺を『お兄ちゃん』とは呼んでくれないだろうな。
「・・・」
「・・・キョン君・・・何で泣いてるの?」
俺は袖で目を擦ってから、妹を放した。
「すまん。だが今日は晩飯はいらない。母さんに言っておいてくれ。朝飯はちゃんと食うから」
「わ、解かったぁ・・・」
稀に見るテンションの低さだな、妹よ。


俺は自分の部屋に入ると、ベッドに静かにダイブした。
「・・・」
何で、こんなことになったんだろう・・・。
本当なら、これからのハルヒとのデートの様子を思い浮かべてニヤニヤしてみたり、明日のSOS団の活動に期待を抱いてみたりしているときだろう。
でも明日の5時45分。俺は死ぬ。
今ほど長門の言ったことが間違いであって欲しいと思ったことは無い。
そして、今ほど長門を恨めしく、憎らしく思ったことは無い。
しかし、俺は理解しているつもりだ。長門を恨んでも仕方ない。あいつは、情報統合思念体の命令に従うだけなのだから。
では情報統合思念体を恨むべき?それも間違っている気がしてならない。
寿命を知ることで、俺は俺が死んだ後の憂いを減らすことが出来る。長門が言う「貴方次第」とはこう言うことだろう。
ただ、普通人間は自分の寿命は解からない。それを教えることが絶対的に正しいとも思えないが。
それでも俺は長門や情報統合思念体を恨むべきでは無い。それは解かっている。
じゃぁ、俺のこの思いは誰に、何処にぶつければ良い?
…運命。
俺が明日死ぬのは運命と、長門はそう言った。
そしてこうも言った。運命は変えられない。
俺が明日死ぬのが運命だったら。俺とハルヒが恋人同士になったのも運命なのだろうか?
だとしたら、俺が恨むべきは運命?
運命を呪った。なんて表現が何かの小説によく出てくるが、それはどういう意味なんだろうか。俺にも出来るだろうか。うむ、多分むりだろう。
それでは今俺に出来ることは何なのだろう。
運命は変えられない。
運命には抗えない。
ならば俺に出来ることは、運命に従うこと?
…結局それしか無いのだろう。
いいだろう、俺は運命に従い、明日を一生懸命生き抜こう。そして笑って死のう。


これはある意味、諦めの境地というやつだったのかも知れない。


翌日、俺は7時に起床した。それは勿論8時という集合時間に間に合わせるためでもあるが、家族の顔をあまり見たく無いというのが大きかった。
家族は休日、最低でも9時までは寝ている。
俺は最後の瞬間を家族とではなく、SOS団の仲間と過ごすことを昨日決心した。
家族の顔を見れば、決心が揺らぐかも知れない。
そう決心した理由は自分でもよくは解からない。
長門の傍に居ればもしかしたらまだ生きられることになるかも知れない、という思いも全く無いわけでは無い。
だが、そんなことよりハルヒの存在が一番大きいんじゃないかと思う。多分。
俺は妹との約束通り、一人で朝飯のカップ麺を食った。
これが最後の食事というわけでは無いだろうが、こんな日まで特に何も意識せずインスタント食品を食べられる俺は一体何なんだろうね。
俺はいつもと同じように靴を履き、いつもと同じように玄関を押して開け、
「いってきます」
いつもと同じように、そう言って家を出た。


「全く、遅いわよキョン!」
「遅い!罰金!」とそれに類する言葉以外で迎えられたのは初めてかも知れん。
「罰金!」以外はほぼ同じだけれども。
「ああ、すまん」
ハルヒ、長門、朝比奈さん、古泉が既に揃い踏みだ。
「ほら、さっさと行くわよ!」
ハルヒがまた俺の手を引く・・・のかと思いきや、俺の腕に絡みついてきた。あの・・・当たってます。
「昨日の事、皆に話したのか?」
「ええ、まぁ一応は」
俺が後ろを振り向いて皆の様子を確認した。
朝比奈さんは顔を赤くして微笑。
長門は無表情。
古泉はただの微笑。
・・・まぁつまりいつもと違うのは朝比奈さんだけって事なんだけれども。
「ねぇキョン!今日何処行く?実は何も考えてなかったのよ!」
本当に楽しそうにはしゃぐハルヒを見て、俺は心を痛める。
ハルヒと恋人になるということは、ハルヒに俺が死んだときの悲しみを増加させることに他ならない。
昨日、俺は自分の気持ちとは関係無く、ハルヒの申し出を断るべきだったと思う。
「ねぇキョン?聞いてるの?キョ~ン」
だがこのハルヒをずっと見ていると、それにも自信を持てなくなってくる。
俺は少なからずこの状況を楽しみ、喜んでいる。
しかし問題は俺が死んだあとなのだ。
つまり今俺が喜んでいるのはただの自己中心的な考えでしか無いのであり、あとに残されるハルヒのことは全く考えていない。
「ああ、聞いてるさ」


…な~んて難しいことはこの際考えない。
もしあそこで断っていればギクシャクした関係のまま俺が死んでどっちにしろ後悔させることになっただろうし、思いを伝えられないまま俺が死んでもやっぱり後悔させることになったかも知れない。
つまり、本当に正しいことなんか、誰にも解からないのだ。
別に「何か哲学者っぽい事言ってりゃ良いだろ」的な考えの下で誤魔化してるわけじゃないぞ?
「今日何処行くかだろ?別に俺にも希望は無いが」
とりあえずはお前等と一緒に居られれば良いさ。
「何かあるか?・・・あー、古泉」
俺は後ろを歩く他の3人に振ろうと思ったのだが、長門はどうせ答えてくれないし、タメ口で喋り始めた以上朝比奈さんに聞くわけにもいかず、仕方なく古泉に聞いた。
「僕ですか?僕も特に希望はありませんが。少し考えておきます」
「そうか」
俺は改めて聞く。
「何処かありますか?朝比奈さん」
「いえ、私も特に・・・」
「じゃぁ・・・長門、あるか?」
「無い」
…君達、もうちょっと自己主張してもいいんだぜ?
俺は滅多につけてこないデジタルの腕時計を見る。まだ8時19分だった。
「何?誰も何も無いの?困ったわね、どうする?」
ここで俺に、あるアイディアが浮かんだ。
「なぁハルヒ、俺に行きたいところがあるんだが」
「何処よ?」
「とりあえず、そうだな・・・あそことか」


「わー、相変わらず汚いわねぇ・・・」
「私・・・ここに落ちたんですけど・・・」
俺達がまず来たのは映画撮影に使ったあの溜め池だ。
「あー、あのときはごめんね。でも映画の撮影なんだからそれは仕方無いことよ」
「本当に寒かったんですよ・・・キョン君のお友達も落ちちゃったし・・・」
そんな会話をしているハルヒと朝比奈さんを尻目に、俺はこの溜め池の風景を眺めてみる。
ただの汚い池なのだが、俺にとっては思い出の場所の一つだ。
…と思ったのだが、やっぱりただの汚い池だなこりゃ。
「ねぇキョン、何で『SOS団思い出ツアー』なんて思いついたの?」
「まぁ・・・俺達が出会ってもう長いからな。この辺でまとめをするのも良いんじゃないかと思って」
SOS団思い出ツアーとは、さっき行き先を無くしていたハルヒ達(なんか格好良いがそういう方向の意味では無い)に俺が提案したのである。
本当は冥土の土産、ってやつにするためなんだけどな・・・。
「ふーん。にしても、よく『SOS団思い出ツアーやろう!』なんて言えたわね。私じゃ恥ずかしくて言えないわ」
放っとけ。
「あ、そうだ!折角だから記念写真でも撮りましょうよ!携帯のカメラしかないけど」
なるほど、ハルヒにしては真に良い提案と言える。
「カメラなら僕が持っていますよ涼宮さん」
そう言いながら古泉が取り出したのは、割と高そうなデジカメだった。何か準備良いなお前。
「はいはい皆並んでー!ほら、古泉君のスペースもとって!ハイ、チーズ!」


その次に行ったのは、やはり映画撮影に使ったあの神社だ。ここにはいろいろ別な意味での思い出もあるが、それは言わないで置こう。
「て言うかキョン、あんたよくこんな所来たって覚えてるわね。私はうっすらとしか覚えてないわ」
ここの神主さんに多大なる迷惑をかけておきながらか?
「じゃぁお前はSOS団で何処に行ったときのことをよく覚えてるんだ?」
「そうねぇ・・・孤島とか、雪山とか・・・」
「・・・遠い」
今日行けないじゃないか。
「あ、そうか・・・じゃぁまた今度皆で行きましょうよ!」
「・・・」
ハルヒの言葉が俺の胸にナイフのように突き刺さる。正直、痛い。
「・・・べ、別に二人で行ってもいいのよ?」
突き刺さっていたナイフがさらに押し込まれた。正直、かなり痛い。
「ああ」
俺はテンションが落ちたのを悟られぬように気をつけながら、そう答えた。
「ほら!写真撮るわよ!並びなさい!」
そう怒鳴っているハルヒを横目に見る。笑っていた。
「次の場所行くか」
そう言った俺の近くに、一匹の鳩が降りてきた。灰色の鳩だった。


「しまっていこぉぉぉぉぉー!!!」
こう叫んでいるのはハルヒ・・・では無く、見知らぬ野球チームのピッチャーだ。
そしてそのとき攻撃していたのが、何の偶然か俺達がトンデモインチキ能力を使って負かしてしまったあの上ヶ原パイレーツだった。
そう、俺達はハルヒの退屈のせいで無理矢理白球を追いかけさせられた、あの野球場に来ている。
俺は一応聞いてみる。
「あのチーム、覚えてるか?」
「え?どのチーム?」
「今打ってる方だ」
「あー・・・もしかして私達と試合したところ?名前は・・・上武バンディッツ・・・だっけ?」
何処か面影が残ってるところが悔しい。
「こんっちわぁっす!!」
海賊から格下げになってしまった哀れな盗賊の一人が俺達に向かって体育会系の挨拶をしてきた。つられるように他の選手も口々に「こんっちわぁっす」と叫ぶ。
その中から一人・・・俺とバットを取り引きした監督さんだが・・・が俺達のところに近づいてきた。
「こんにちは、また会えるとは思ってませんでしたよ」
「ええ、まぁ」
俺達が真面目に野球をやっているならまた試合か何かで会うこともあっただろうが、そうで無いことはこの人も一目見て解かったのだろう。
「どうですか、チームの調子は」
別にそこまで興味があったわけでは無いが、俺達に負けたせいでチーム解散の危機やらに陥ってたりしてたら悪いからな。もしそうなっていたらチームの存続に尽力してもらおう。主にハルヒに。
だが、俺のそんな心配も杞憂に終わったようだ。
「最高潮ですよ。あなた達に負けて以来全勝記録を伸ばし続けてます。油断は出来ませんがこの試合もうちの勝利でしょう」
得点ボードを見ると、5回表で15対0となっていた。当然パイレーツのリードだ。
「それはなにより」


と、そんなことより最も気になることが一つある。
他の皆、特に長門に聞かれないように俺は小声で尋ねる。
「それで・・・あのバット、使いましたか?」
監督さんはそれを聞くと、急に真面目な顔になった。
「一回だけ、一回だけ使わせてみたんです。そしたらいままでヒットもろくに打てなかった子が大ホームランを打ったんです」
まぁそうでしょうね。
「それで、私達は喜んだんですけど・・・その子が、ホームランを打ったその子なんですけど、その子が言ったんです」
「何と?」
「このバットは・・・呪われてるって」
「・・・そうですか」
まぁある意味長門が呪いをかけたようなもんだから、その人の言ってることはほぼ正解だと言うことになるな。
「もしこれからピンチになるようなことがあったら使いますよ」
あ、使うんですか。意外と肝が太い人ですね。
「・・・まぁその必要は無いでしょうけどね」
監督さんが振り返ると、どうみてもただのバットを持ったバッターが丁度バッターボックスに入ったところだった。


カキンッ


ピッチャーの手を離れた白球がバットによって跳ね返され、フェンスを越えた。
そのバッターは、正真正銘自分の力でホームランを打った。
「あの子が、さっき話した子です」
監督さんが、誇らしげにそう言った。


新約聖書に最後の晩餐という話がある。キリストが受難前夜に12人の弟子とともにとった晩餐のことで、絵画ではレオナルド=ダ=ヴィンチの作品が有名だ。
…こんな書き出し方をしたが、俺はキリストの事はさっぱり解からん。
中坊の頃登校中に貰った新約聖書は迷うことなく学級文庫の冊数の増加に貢献させていたし、そもそも俺の家は深く宗教を信じていない。
そんな俺でも今こうやって最後の晩餐を身を持って体験することによってなんとな~くキリストの気持ちを知ることが出来る・・・気がする。
絶望と不安。まぁそんなとこだろう。間違ってたらごめんちゃい、だが。
だが、今の俺にそんな気持ちはほとんど無い。じゃぁもう上の5行意味無いじゃんってことになるのだが、そこはスルーしろ。
では、俺は一体何を考えてるか?それは今の状況を聞いて察して欲しい。
「ハイ!私が王様!そうねぇ・・・3番と4番でぇ・・・ハレ晴レユカイをフルコーラス歌いなさい!」
「ふぇ・・・私4番・・・」
「・・・・・・」
「長門さん・・・が、頑張りましょうねぇ・・・」
「・・・・・・」
「せーのっ、なぞな・・・長門さん・・・歌ってください・・・」
まぁ・・・なんとな~く察してくれただろうか。俺達はハルヒの提案で王様ゲームをしている。
ベタだって思ったか?じゃぁここが何処か教えてやろう。
「なぁハルヒ・・・ここ、ファミレスなんだが。俺の常識が間違っていなければファミレスで王様ゲームをしている高校生なんか居る筈無いんだけどな」
そう、ここは俺達SOS団が集合するときに使う駅前のファミレスだ。
俺は最後の晩餐・・・昼飯なんだが・・・の場所をここに選んだ。やっぱり食事をする場所としてはここが最も思い出深い。
ハルヒの鍋も捨てがたがったんだが、それを要求するのは流石におかしいしな。俺はここでまぁまぁ満足だ。
「いいじゃない、お客さん一人も居ないし」
今は11時、もうお昼時と言ってもおかしくは無い時間のはずだが、確かに客は一人も居なかった。何故だろうね。
それでも本来ならこの場は俺が荒らぶる神こと涼宮ハルヒを静めてやるところなのだが、
さっき来た店員さんが「賑やかで良いですねぇ」的な発言をしたこともあったし、
何より俺も楽しかったからそんなことはしない。他の客が来たらすぐさま止めるが。


「ほら!みくるちゃん!歌って!」
「え?・・・な、長門さんは・・・?」
「有希は良いのよ無口キャラなんだから!無口キャラは誰にも聞こえないように小声でボソボソ歌うのが萌えなのよ!!」
ボソボソとも歌ってない気がするが。
「ほら!みくるちゃん!さんっハイ!」
「ふぇ・・・な、なぞなぞ・・・みたいに・・・ちきゅ~ぅぎぃをぉ―――」
朝比奈さんが「これならファミレスで歌っても問題にならん」って程度の音量で歌い始めた。
ちなみに・・・驚くべきことに、長門も確かに歌っていた。小声でボソボソ。
「おっおきっな、ゆめ、ゆめ、好きでしょぅ・・・こ、これでいいですかぁ?」
「ダメ。まだ2番があるわ」
「に、2番もなんですかぁ・・・?」
「フルコーラスって言ったでしょ。ほら、さんっハイ!」
「・・・イロイロ・・・よそうが・・・」
…そろそろ気の毒になってきたな。


「もう良いですよ朝比奈さん。充分です」
俺がそう言うと、朝比奈さんが本当に「助かった!」って目で俺を見てきた。いかん!今の俺は一応ハルヒの・・・。
「ちょっと何よキョン!あたしは『フルコーラス』って言ったのよ!」
「命令の実行に必要な時間が長い!他のやつにも王様が回るように考えろ!」
俺がこう言うとハルヒは少し考えてからこう言った。
「そう、じゃぁいいわ。その代わりあんたが何か歌いなさい!じゃぁ・・・私が学祭で歌ったやつ!」
本来なら「歌えるかそんなもん!」と答えるところなのだが、生憎歌詞は完璧に暗記している。俺も軽音部にMD録音を頼みに行った一人だからな。暇あるごとに聞いてたし。
しかしだな・・・。
「ちょっと待てハルヒ。流石に歌は・・・」
「あら?みくるちゃんの歌は1番だけとはいえ聞いておいてそんなこと言うの?」
「うっ・・・」
「さぁ歌いなさい!どの曲でもいいわよ!」
し、仕方ない・・・。
「い、いくぞ?」
「どうぞ?」
父さん、俺はやるのか?
「・・・か――――――――――――――


一応、俺の歌がもたらした結果だけ説明しよう。
笑っていなかったのは長門だけ。ハルヒは終始爆笑。
朝比奈さんは手で顔を覆って肩を震わせていたし、あの古泉までもが机に突っ伏してガクガク震えていた。


ちなみに、俺がその時そこで何を食ったのかは覚えていない。最後の晩餐なんて結局はどうでも良かったのかもしれない。
あと、そのときの食事代は俺持ちでは無かったのも特筆すべきことだろうか。


それからも俺達はいくつか、思い出の場所と言ってしまって良いのかは解からないが、多分SOS団ゆかりの地(主に映画ロケ地)を回った。
時計を見ると、既に4時を回っていた。くそ、移動に時間をかけすぎたのが間違いだったか。
だが、俺は死の時間が迫ってもそれを恐れたり、怖がったりすることは・・・今のところ無い。
今のところはな。どうやら俺の悲しみのピークは3日前だったらしい。
いや、それはもしかするとこいつらと一緒に居て、それを楽しめてるからなのかもしれない。
会ってからそんなに長い時間は経ってないのに、こいつらは俺の中でものすごく大きな存在になってたんだな・・・。
…なんてしみじみ考えるのは俺らしくないな。気持ち悪い。
「ねぇキョン?次は何処に行くの?キョン?」
俺は少し考えてからこう言う。
「そうだな・・・ちょっと早いかも知れんが・・・もう行くか」
「え?なんかとっておきの場所があるの?何処何処?」
「すぐに解かるさ」
よくよく考えると、SOS団が俺についてくるってのはかなり珍しいことかも知れない。
まぁとにかく、俺は他のSOS団員を引っ張り、ある場所へと向かった。


何処へ向かっていたかは、全員が途中で気付いた筈だ。


お前は、何処で死にたい?
そんなことを聞かれれば、俺は少し考えてから「病院」と答える。
どんな風に?と聞かれれば、「老衰で、家族及び親戚見守る中で」と答える。
「普通すぎる」と言われるかもしれないが、これが俺なのだから仕方が無い。
というか、今この時代で「何処で死にたい?」なんて聞かれて、これ以外にどういう答え方があるのか逆に知りたい。
そりゃぁ海の男なら「俺の死に場所は海だ」って答えるだろうし、甘いもの大好きな人は「砂糖に溺れて死にたい」とか言うかもしれない。
だが生憎俺はそんな事はこれっぽっちも思わないし、海の男になる予定も無い。
しかし、俺はどうやら「病院で老衰で死にたい」という願いを叶えることは出来ないらしい。それはもう解かってもらっていると思う。
それでは俺は一体何処を死に場所に選んだのか。もうあまり想像に難くくないと思う。


「ねぇキョン・・・!何で休日だってのにこの坂登らないといけないのよ!」
そう、俺達は今、北高へと向かっている。
「まぁ・・・いいじゃないか」
まさか俺がそこで果てたいからとは言えない。
坂を登っている途中で、久しぶりに古泉が口を開く。
「何となく貴方らしく無いですね。貴方はこの坂を毛嫌いしていたところがあるように思っていたんですが」
ああ、最後の最後まで好きになることは無かったな。
「でも僕が思うに、この坂はそんなに悪く無いものだと思うんです。最近の少年少女は運動不足に陥りがちですからね。
あなたもそうでしょう?そういう人たちには、この坂は必要なものだと、僕は思っているわけです。そもそも――――」
これが聞き納めだと思って、いつもより長く古泉の演説を聞いていたが、やっぱりダメなものはダメらしい。
「よく解かった古泉。つまり俺達はこの坂を登ることによって運動不足を多少なりとも解消されていると、
そう言いたいんだろ?だが、お前の演説は何の意味も無い。何故なら、俺達は嫌がおうにもこの坂を避けて登校することは出来ないからだ。つまり――――」
何の影響か、ここからは俺の演説が長くなってしまったので、そこは割愛する。
俺は、ひとしきり演説大会が終わったのを悟ると、古泉に言った。
「古泉、何だかんだで、お前にも結構世話になったよな」
「いきなりどうしたんです?まぁ僕もあなたには大分お世話になりましたが」
あまり世話をした覚えは無いけどな。
「フフ、涼宮さんがいるかぎり。僕はいつまでも貴方のお世話になりますよ」
俺はそれには答えなかった。


無事北高へと到着した俺達は、俺の先導で部室棟へと向かった。
長門が話し掛けてきたのは、部室棟の扉を開ける直前だ。と言ってもその声のボリュームは独り言に近かったが。
「あと一時間」
「・・・何が?」
俺は扉を開けながら聞く。
「あなたの消失まで」
「あんまり思い出させるなよ・・・」
俺は左手を自分に見えやすい位置まで動かした。そのにはめてあるデジタル式腕時計には、「PM 4:45」と容赦なく表示されていた。
しかし、一時間前になっても特に何も感じない俺は、もう肝っ玉が屋久杉並の太さになってしまってるのかもしれんな。
「長門、お前にだけは今言ってもおかしく無いから言っておくよ」
「・・・・・・」
「今までありがとうな。お前には一番助けられたよ」
「・・・いい」
俺が階段を上り始めると、いろいろな疲れのせいでスローペースを余儀なくされた俺の横をハルヒ、古泉、朝比奈さんが通り過ぎていった。
「ほら、長門行くぞ」
長門がいつまでもポツンと立っていた。その姿は本当に仏像のようだった。
しばらくすると、俺の言葉がやっと届いたのか、長門はコクリと頷き階段を上り始めた。俺も前を向き足を進めようとした、そのときだった。
「こちらこそ、ありがとう」
そう聞こえたのは、幻聴では無い筈だ。


さて、俺が何処を死に場所に選んだのか。まだハッキリ答えを言ってなかったな。
ここまで来て答えが解からないやつは居ないと思うけどな。居たらさっさと原作を買いに行きなさい!
その場所の鍵は、今俺が握っている。
「ほらキョン!速く来なさい!部室の鍵あんたが持ってるんでしょ!?」
やっぱり、俺は最後までここに居たかったのだろう。


異空間と化している、あのSOS団のアジトに。


「はい、お茶です」
「ありがとうございます」
今日は流石にメイド服は着ないが、それでもここに来て朝比奈さんのお茶を飲まないわけにはいかない。
・・・もうこのお茶を飲めないのか。そのことだけは、何故か猛烈に悲しかった。
「朝比奈さん、おかわりいいですか」
「はい。ただいま」
俺は朝比奈さんが出してくれた低く見ても70度はあるだろうと言うお茶を、いつもハルヒがしているように一気のみした。
「うぁ・・・ゲホッ・・・ガッゴホッ・・・!」
激しくむせた。
「だ、大丈夫ですかぁ?」
「大丈夫です・・・。それよりおかわり・・・」
「は、はい・・・」


飲み収めだ。
俺は朝比奈さんのお茶をそれからも一気で飲みつづけた。
むせたのは最初の4回だけで、そのあとは不思議と喉が慣れていた。
まぁそんなこんなで20杯ほど飲んだだろうか。
これだけ飲んでも飽きは来なかったが、流石に腹がやばかったのでもう止めることにした。
「ありがとうございました」
俺は腹を抑えつつ湯飲みを置いた。うっ、何かする度に痛い。
「本当に大丈夫ですか?あんなにお茶飲んで?」
「ええ、大丈夫です・・・」
腹に聖水が溜まっていると考えれば全然OKだ。
おっと、ここで勘違いしてもらっては困るが、俺はもう朝比奈さんとどうにかなりたいなどとは思ってないぞ?
あれ相手に『浮気』をいうやつをするのは、そのまま自殺行為だ。
それでも、朝比奈さんは俺にとってのエンジェルだし、女神なのだ。それはもう変わりようの無い事実なのだ。
俺は腹を抱えながら、朝比奈さんに言う。
「あの・・・朝比奈さん・・・ありがとうございました」
「いえ、お茶を淹れるのは良いんですけど・・・」
「いや、あの、そっちじゃなくてですね、今までありがとうって意味で・・・」
まぁ解かる人の方が少ないだろうけど。
「え?どういう意味ですか?」
ここまで言ったら解からない人の方が少ないだろう。
「いえ・・・別に、なんでも無いんです。忘れて下さい」
「そ、そうですか?・・・よく分からないけど・・・私も、ありがとうございました」
朝比奈さんの笑顔は、今まで見た中で最も神々しく見えた。


「さて、そろそろ今日私達を連れまわして、ここに連れてきた訳を聞かせてもらおうかしら、キョン?」
そのあと俺達はいつもの部室と同じように、適当に遊んでいた。
死ぬ前だってのにそんなで良いのか、って言われそうだが、俺はそれが良かった。いつもの部室の雰囲気が味わいたかったんだ。
だが、ハルヒは休日までそうしなければいけない訳が解かりかねたらしい。まぁ俺がハルヒでも良く解からないだろう。
「あー、それはだな・・・」
俺は、反応につまり、ふと腕時計を見た。


その瞬間、俺の心臓が一際大きく鼓動を刻んだ気がした。


「PM 5:30」


時計は事実を伝えるのみだった。


「どうしたの?キョン?」
「あ、ああ・・・」
もうそんな時間だったとは正直想定外だった。この空間は時の流れが早まるようになっているのかも知れない。
「キョン?本当に大丈夫?」
「大丈夫だ・・・」
実を言うと全然大丈夫では無い。
一時間前なら何も感じなくても、15分前となるとそういうわけにはいかなかったらしい。それは部室に入ってから一度も時計を見ていなかったことも関係していると思う。
しかし、恐らくそれだけでは無い。
死ぬぐらいなんだから何かあるだろうとは思ってたが、今俺は心臓が何かにしめつけられているような感覚をハッキリ感じていた。これは確実に朝比奈さんのお茶のせいででは無い。
…ちょっと急ぐかな。
「ハルヒ・・・皆、ちょっと聞いてくれ」
「何よ、改まって」
「いいから聞いてくれ」
「・・・・・・」
俺の有無を言わせない口調に、ハルヒも珍しく引き下がる。助かった。今の俺にはハルヒを説き伏せている暇も元気も無い。
「あー、突然だが・・・俺はだな・・・何だかんだ言って、SOS団の活動を物凄く楽しいと思っていたんだ」
俺は団長席の前で、突然スピーチを始めた。


俺は団長席の前で、突然スピーチを始めた。
全員が「お前何やってるんだ?」という表情で俺を見る。唯一事情を知っている長門が無表情なのが悲しい。
「孤島とか・・・あれは楽しかったな。あと雪山もな。ありがとうな古泉」
古泉は何も答えない。普通じゃない雰囲気を感じ取ったのだろう。表情がいつになく真面目だ。
「この部室に居るだけでも・・・楽しかった。朝比奈さんのお茶を飲んで・・・黙って本を読んでいる長門が居て・・・」
誰も何も言わない。
「正直言おう。俺はSOS団が大好きだ。俺は多少めんどくさそうでも、今日はハルヒが何を持ってくるのかと楽しみにしてた」
多少胸のしめつけが苦しくなる。
「ハルヒ・・・お前とは、せっかく彼氏と彼女になれたのにな・・・全然それっぽいこと出来なくて、すまなかったな」
ハルヒが困惑と悲しみが混じったような表情・・・比にすると9:1ぐらいだが・・・をして俺を見た。
「俺もお前に普通の高校生活ってやつを味合わせてやろうと思ってたんだけどな・・・俺じゃどうやら役不足だったらしい・・・」
俺はここまで喋ると時計を見る。5時40分だった。
「な、何言ってんの?」
ハルヒがやっと口を開く。
「ハルヒ・・・お前ならなんでも出来るさ。いつまでもこんなことしてないで、何か普通なことしろよ」
5時42分。
…3分前になっても別に何も感じな――――。
「キョン・・・?あんた・・・何で泣いてんの?」
「え?」
気付かなかった。俺の目から生暖かい水がダラダラ流れていた。はしたないな。
「いや、ちょっとヒマワリの花粉が目に入っただけだ。気にするな」
俺にはもはやまともに言い訳をする気も無い。
「ハルヒのことは頼んだぜ、長門、古泉・・・あと朝比奈さん・・・」
4時44分。急に呼吸がしずらくなった。
「・・・・・・じゃぁ・・・な・・・ハルヒ・・・」


「・・・愛してるぜ」


そう言った瞬間だ。
完全に呼吸が出来なくなった。
あー、これを心臓麻痺と言うのか。俺は漠然とそんなことを考えた。
俺はなす術も無く倒れる。
「・・・さよなら」
長門がそう呟いたのが聞こえた。フッ、酷い奴だな・・・。ある意味長門らしいが。
「キョン!!キョン!!?どうしたの!!?返事しなさい!!!」
ああ、ハルヒ。返事をしようにも声が出ないんだよ・・・息できないから。
バンッと扉が開く音が聞こえた。恐らく古泉が救急車を呼びにいったのだろう。
だが、それが無駄だということは知っている。決められた運命には、抗うことは出来ない。
「キョ、キョン君!?だ、だだだだだだ大丈夫ですか!!?」
やっと事態を飲み込んだ朝比奈さんが駆け寄ってきた。
…そろそろ意識が飛びそうになっているのを感じる。これが死ってやつか・・・。


「キョン!!キョン!!!起きなさい!!!団長命令よ!!!!起きないと罰金だから!!!!!」
ふふ、ハルヒ・・・
その顔ひどいな・・・
でも・・・見られたぜ・・・
ハルヒの泣き顔・・・
ハハ・・・・・・・・・・・
が・・・・・・・・・・・・・
ま・・・・・・・・・・・・・


…さて、この小説は俺ことキョンというキャラクターの一人称で進んでいたわけだが、キョンが死んでしまった今、この小説は一体何処へ向かうのだろうか。
ここで他の誰かの一人称となるのか、三人称となるのか、はたまたここで終わってしまうのか。
それは作者である俺が全てを決める権限を持っている。
しかし、一人称小説の主人公が死ぬってのは前代未聞かも知れんね。そこで物語が終わるのを除いて。
まぁまぁ「お前は何を言ってるんだ?」とかは言うな。今方向性を決めかねているところだ。
…しかし、俺がそんなことをうんうん唸りながら考える必要は無いらしい。


何故なら、キョンはこんな簡単に終わるやつでは無いからだ。


人間なら、一度は「死」について考えてみたことがある筈だ。
それが、天国や地獄に行くことなのか、全くの無になることなのか、はたまた幽霊になることなのか。
それは解かっていない。
それでは何故解かっていないのか。理由は簡単。死んだ人は喋ることが出来ないからだ。
それでも、一つ確実なことがある。
人は、一度死んだら生き返らない。ということだ。
それは人間のみならず、生きとし生けるもの全てにそれが当て嵌まる。
人間も。
猫も。
犬も。
花も。
それは覆しようの無いルールであり、覆そうとする奴もそう居ない。


その筈なんだが・・・・・・。


「・・・」
死んだ筈の俺が、こんな哲学的なことを考えられるようになっているは何故だろうね。
目の前が真っ暗だ。それは自分が目を瞑っているせいだと気付いたのは10秒程あとだ。
目を開ける勇気が無い。もしかしたらそこには本物の地獄が広がっているやも知れん。
「・・・」
今のところ鬼に叩き起こされるようなことは無い。このまま寝てた方が身のためか?
「・・・」
その声が聞こえたのは、俺がずっと死んだ振り(?)をしていることを決めこんだ約5分後だ。
「起きて」
心臓が爆発するかと思った。ん、心臓動いてるのか?
ええい、そんなことはどうでも良い。俺は今誰に話し掛けられた?鬼か?悪魔か?どちらにしても合わない声だなぁおい!
「起きて」
「うぉ!?」
もうしばらく死んでようと思い、固くつむった俺の目を何者かが無理矢理こじ開けた。俺は思わず声をあげてしまった。
もう観念するしかない・・・。
そう思い、両目をパッチリ開け、起床した俺の目に飛び込んできたのはなんと・・・
「な、なな長門!?お前なんでこんなところに居るんだ!?」
長門だった。
「私よりも、まずは貴方が自分が何処居るのか確認すべき」
「あ、ああ、そうだな・・・」
長門に言われ、俺は周りを見回す。
すぐに解かった。ここは夜の北高だ。北高のグラウンドに俺は寝ていたのだ。


「長門・・・一応聞くが、あれは夢じゃないよな?」
長門が首肯する。
「じゃぁ・・・何で俺はこんなところに居るんだ?」
部室で起きるならまだしも、何故グラウンドに。
「ここは、貴方の脳内に最も強く残っている場所の複製空間」
「印象に残っている・・・?」
まぁ確かに高校生にとって自分の通っている高校はそれなりに印象強いものかも知れんが。
「それで、何故俺はここに来ちまってるんだ?」
「涼宮ハルヒのせい」
即答。
「涼宮ハルヒは貴方が現世に回帰することを望んだ。しかし、前にも言ったように―――」
「運命は変えられない、か?」
「そう。それでも涼宮ハルヒは願いつづけた。だから、私がここに居る」
…?
あの、さっぱり解かりません・・・。と言うか、最後のところ、ちょっと端折ったろ。
「涼宮ハルヒの力だけでは既に起きたことを、運命を変えることは不可能だった。そこで、彼女の力はこの空間を作り出し、私と貴方をここへ転送し、私に事を任せた」
聞いたらちゃんと説明してくれた。何となく解かった。
「正確に言うと、私は長門有希では無く。長門有希の情報思念体。そして貴方も」
長門の親玉の統合しないバージョンか?よく解からないが多分幽霊みたいな物だろう、と俺は推測した。
「つまり、ハルヒはお前なら俺を生き返らせることが出来るかも知れないと思ってお前をここに寄越したわけだな?」
「彼女では無く、彼女の能力」
能力に意思があるのか?いや、今はそれはどうでも良い。
「それで長門。お前に俺を生き返らせることが出来るのか?」
「解からない」
いやいや、頼むぜ長門。
「しかし、涼宮ハルヒの能力の所為でこうなったのには理由がある筈。今から調査する」
それは頼もしいな。
「その前に、見て欲しいものがある」
「何だ?」
「貴方が死亡したあと」


「俺が・・・死んだあと?」
長門がコクリと頷く。
「どういう意味だ?」
長門は俺の問いには答えず、その代わりに手を130度程度上げた。
すると、空中にモニターのようなものが現れ、何かを映し始めた。
すぐに解かった。これは俺が死んだ瞬間の映像だ。


『愛してるぜ・・・』
そう呟いた俺が映像の中で倒れた。改めて聞くと顔から火が出そうな台詞だ。
『キョン!!キョン!!?どうしたの!!?返事しなさい!!!』
倒れている俺は、カメラに見下ろされていた。どうやらこの映像は長門目線らしい。
『キョン!!キョン!!!起きなさい!!!団長命令よ!!!!起きないと罰金だから!!!!!』
長門はハルヒの頭しか見ていないらしい。くそっ、ハルヒの泣き顔がもう一度見られると思ったのに。
「ここから」
長門が言った。ちょうど映像の中の俺が目を閉じたところだった。
『・・・キョン?キョン?ねぇ、起きなさいよ・・・ほら・・・』
ハルヒの声が消え入りそうなほどに小さくなる。
『ちょっと・・・訳わかんない・・・冗談でしょ?』
ハルヒがこう言ったとき、カメラが・・・長門がゆっくり動き、俺の顔がよく見える位置で止まった。
『脈拍停止、心拍停止、血流停止、生命活動停止、死亡した』
そんな声が聞こえた。声の主は映っていなかったが、長門で間違い無いだろう。
『そんな・・・有希!いい加減なこと言わないでよ!!キョンが死ぬわけないでしょ!!こんな突然!!!』
『心臓麻痺』
長門の声が、冷たくそう告げる。
『もう黙ってて!!!!!!』
ハルヒがカメラ目線でそう怒鳴ったかと思ったら、次の瞬間にカメラは倒れていた。ボクッという効果音とともに。
「お前、ハルヒに殴られたのか?」
今そこに居る長門に聞く。
長門はコクリと頷いたあと、こう言った。
「損傷は無い」
それは良かったが・・・。ハルヒが長門を殴るとは・・・。
『あっ!ごめ・・・有希・・・』
『いい』


ハルヒは二つのショックでどうしていいか解からなくなっているようだった。この状況が続けば世界を消しかねないかも知れない。
そう言う意味では、そいつは最高のタイミングで現れた。
『救急車が来ました!』
バンッ、と扉を開けながら入ってきたのは古泉だった。後ろにタンカを担いだ2人の救急隊を率いて。
その救急隊の人はシャッという効果音をつけても良いほどのスピードで倒れている俺の元に駆け寄ると、慣れた手つきでタンカの乗せ俺を部室から運び出した。
普通ならそこに全員付いていくだろうが、ハルヒはそうしなかった。
古泉と朝比奈さんだけが俺の体を追って走っていった。
『・・・』
『・・・』
部室には、長門とハルヒの二人だけになった。
しばしの沈黙のあと、ハルヒが沈黙を破った。いや、それは破ったというよりちょっと1mm大の穴をあけてみました、みたいなそんな感じの小さな声だった。
『ねぇ・・・有希・・・キョンは何で・・・何で・・・?』
『・・・』
『ねぇ有希・・・あんたならなんとか出来るでしょ?キョン、助けられるでしょ?』
『・・・出来ない』
長門が、残酷にそう告げる。
『嘘よ・・・だって有希はSOS団1の万能選手じゃない・・・もしかして・・・さっき・・・殴っちゃったこと・・・怒ってるの?』
カメラが小さく左右に揺れる。
『・・・嘘よ・・・嘘よ・・・嘘よ・・・う・・・嫌あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!』
ハルヒの叫び声とともに、映像は終了した。


「・・・」
正直、何と言えばいいか解からない。
今見たのは地獄絵図に他ならない。そんなものを見て喜ぶ趣味は、俺には無いからな。
「あー長門、何で今の映像を俺に見せたんだ?」
「貴方には、知る権利があると思ったから」
権利か、義務のレベルにならないと見る気はしないな。
「まぁ・・・仕方ない、とりあえず部室へ行こう」
俺がそう言って部室棟へ向かおうとしたときだ。


「!!」
今、何かに気付いた。
「長門、俺が生き返るにはどうすれば良いか。具体的に検討がつくか?」
「あなたの情報思念体がここにあるということは、貴方が現世に戻れば全て元に戻すことが出来ると推測出来る」
「それは、ここから出られれば大丈夫ってことか?」
「恐らく」
何てこった・・・。
俺は多分答えに気付いちまった。・・・でもなぁ・・・。
「長門・・・一応・・・一応だぞ?一応聞くが・・・こんな方法はどうだ?」
俺は、誰か他に聞いている奴が居るわけでも無いのに、長門の耳元でその事を呟いた。
出来れば「それは無意味」とか「理解不能」とか言ってくれればよかったんだが、俺の読みはことごとく外れる。
「試してみる価値はある」
「・・・そうか」
やるしかないのか・・・。
ハルヒには、もし現世に帰れたら謝ることにしよう。
「するぞ?」
首肯。
同意はしてくれてるようだが、長門は目も開けてボーッと突っ立ってるだけだから、本当に良いのか解からない。
「長門、ちょっと目瞑ってくれ。俺がやりにくい」
長門は黙って目を瞑る。もしかすると、こいつの目蓋自体見るのが始めてかも知れん。
「よ、よし・・・じゃぁ・・・いくぞ・・・」
俺は、恐る恐る長門の―――――


「うわぁ!!」
次の瞬間、俺は飛び起きた。・・・飛び起きた?俺は別に寝ていたわけじゃないぞ?
その疑問が浮かんだ次の瞬間には、その答えが出ていた。俺はさっきまで死んでいた。そして、今生き返った。
周りを見渡してみた、最初に目に入ったのはハルヒ。その次に朝比奈さん、古泉、そして長門。俺の家族も居た。
長門以外の全員が、驚きに目をむいているようだ。
「あ、あの・・・ただいま・・・」
俺はどうしようも無くそう言った。
「・・・」
この3点リーダは、部屋全体の空気を表している。
「・・・」
俺もそれに習って、だんまりを決め込んでいた。


「バ・・・」
やっと発せられた声の主は、他の誰でもない、涼宮ハルヒだった。
「バ・・・」
バ?バタフライ?バックドロップ?
「バカキョン!!!!!!!!!!!!!!」
ハルヒの怒鳴り声とともに、俺の眼前に何かが高速で迫ってきた。
「ぐぉっ!」
それが、ハルヒの拳だと解かったのは、それが鼻にヒットしてからだ。
「どんだけ心配させりゃ気がすむのよ!?いや、心配っていうか・・・もうそれ通り越しちゃってたんだから!!」
そ、そうで――――。
「ぐぉ!?」
さらにもう一発、どこからか拳が飛んできた。
「今回のは反則ですよ。悪い冗談にもほどがあります」
それは古泉の拳だった。恐らくこいつが最も早くいつもの調子を取り戻している。意外とず―――。
「ぐぁ!?」
今度は誰だ!?
「キョン君!!本当にこんなに心配かけて!もう!ダメですよ!」
そう涙を拭いながら言うのは、朝比奈さんだ。え、俺この人に殴られ――――。
「ぶむっ!!?」
もうこのパターンも飽きてきたな。しかし今回は犯人がハッキリしている。
「もうキョン君死んじゃったと思っちゃった!でもやっぱりすごい!キョン君生き返った!!」
さっきまで死にかけてた人にここまで容赦無しのドロップキックを食らわせられるのは・・・我が妹しか居ない。
「キョン君生き返った!!」
妹は、いつまでもそう叫びまわっていた。


どうやら俺は、救急車で病院に運ばれて、そこで一回死んだ(この言い方は避けたいが)らしい。
それで、ハルヒ達と家族は、最後に俺との別れの時間というものを与えられた。
そんな厳かな雰囲気の中、俺は起き上がったと言うわけだ。


「全くふざけるのもいい加減にしてよ。本当にどうしようかと思ったんだから」
そう言いながらも笑っているハルヒの顔があった。
俺は突然蘇り、健康診断の結果何処も悪くなかったもんだから、医者の質問攻めにされたあげく、2、3日の検査入院をしなければいけないことになってしまった。
それでまぁ今は病室でお見舞いに来たハルヒと二人きりと言う訳なのだが・・・。
「俺さ、あの世を見たんだ」
俺がそう言うと、ハルヒが少し興味を示してきた。
「それ、本当?」
「あー、まぁ本当」
「どんな感じだった?」
「うちの高校だった」
「はぁ?ふざけてんじゃないわよ」
「・・・一応真面目なんだが」
まぁそこであったことは口が裂けても言えないが、一応謝っておこう。
「ハルヒ、ごめんな」
「今更謝ったって遅いわよ!」
そのことじゃ無いんだけど。


「ハルヒ・・・目瞑って」
「は?何で?」
「いいから」
疑いの表情を浮かべながらも、ハルヒは目を瞑ってくれた。
俺はそうしているハルヒに、迷うことなく口付けをした。
1秒程して、二人の唇が離れる。
俺は顔を真っ赤にしながら目を見開いて俺を見ているハルヒに対して、こう言った。

「ハルヒ、愛してるぜ」



fin.




「・・・」
「・・・」
「キョン・・・」
「何だ?」
「何コレ」
「俺のここ一週間の成果だ」
そう言うと、ハルヒはいきなり立ち上がり、机を叩きながら言った。
「私は恋愛小説を書けって言ったのよ!!それが何これ!?前回もそうだったけど、何であんたはそんなにSFが好きなの!?何で!?ねぇなんで!?」
まぁ、俺がSF小説の登場人物みたいなもんだからな。
「恋愛要素が薄い!大体最初の文読んだ時点で解かるわよ『あ、これ恋愛小説じゃない』って」
「じゃぁ何で最後まで読んだんだよ」
「そりゃぁ一応読んであげようと思ったからよ。何処かで恋愛物に切り替わるんじゃないかと思って」
あっただろ?恋愛。
「だから!まず前提から終わってるの!何これ!?何が『3日後の午後5時45分。貴方の存在はこの世から消える』『理解が容易になるよう言語化すると――――』『死ぬ』よ!!笑わせるわ!!」
「・・・」


さて、この辺で状況説明をしておこう。
前回に引き続き、古泉のせいで恋愛小説を書くことになった俺は、健気にもそれをやり遂げようとがんばった。
がんばった結果が、さっき読んでもらった小説にあたる。
「だからね!これはもうちょっと前置きを甘くして、盛り上げて、で!ファミレスのところで終わらせれば良かったのよ!」
ファミレスで終わる恋愛小説なんて、俺はやだね。
「しかも最後、クライマックスっぽいところで、何でヒロインと二人じゃないの?何でこの娘が出てくるの?」
「うっ・・・」
まぁそこは突っ込まれるだろうとは思っていた。構成上仕方無かったんだけどな・・・。
「というわけでこれは没!書き直し!」
「えー・・・」
そんなわけで俺は、3月なのに扇風機が回っているその部室で、パソコンの新たなメモ張を開き、また頭を悩ませることになった。


「キョン・・・」
「ん?」
「あんた・・・死なないわよね?」
「・・・何言ってんだ」
「そ、そうよね・・・」


「良かった」



おしまい

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