今日もやたらハイテンションだった太陽がようやく夕日に化けてくれたころ。
俺は殺風景な小道をハルヒと二人で歩いていた。
と言ってもデートなどといった類のものでは決してない、わざわざ述べる必要もないが
不思議探索である。

俺の高校生活にとって、そしてSOS団にとっての2度目の夏休みは「夏休み」という
敬称がばかばかしく感じるくらいに休みがなかった。
ハルヒにとっては--実はここだけの話俺にとってもなんだが--
SOS団みんなで活動すること自体が楽しいことであるから、今日の不思議探索でSOS団
の活動が10日連続になることも必然であったのかもしれない。

「ねえキョン」
不意にハルヒの声がしたので、そちらに顔を向ける。
「明日の活動は休みにしようと思うわ」
いつもだったら諸手をあげて喜ぶ提案だが、俺にはそうすることが出来なかった。なんだか
心に引っかかるものがあったからだ。その引っかかりは数瞬後にあっさりと解けた。そうだ、
明日は夏祭りだ。なんでわざわざそんなイベントの日に限って休むんだ?それなら今日を
休みにすればよかったじゃないか。

「あのね、話しは最後まで聞きなさいよバカキョン。明日みくるちゃんが休みっていうのは知ってるわよね?」
「ああ」
いきなりバカ呼ばわりだがそこは気にしない。だが、明日朝比奈さんが休みだということは知っている。
なんでも明日は未来に帰らなければいけないらしい。もちろんハルヒには親戚関係の用事だと適当な嘘をついていたが。
それを聞いたときに俺はまるで目の前の宝を手品で消された冒険者のような気分になったが、長門と・・・
ああ、あとついでにハルヒの浴衣姿で我慢するかと思ったのだ。
「しょうがないから4人で行こうと思ってたんだけどさ、午前中の探索の時にね有希が「明日は行けない」とか
言いだしちゃってさ」
おいおい、長門が急用かよ。驚きだな。というかまた面倒事じゃないだろうな?
俺が思案している間にハルヒは言葉を続けていた。
「で、今度は古泉くんまで「僕も行けそうにありません」だって」
おお、結構似ているぞ。ハルヒよ、お前ものまねまで出来たのか。
「そんなことはどうだっていいのよ。ね、だから明日の活動は休みよ、休み」
「なんでだ」
ん?いや、別に休みだっていいじゃないか。何言ってんだ?俺。
「な・・・なんでって・・。あ、あんたと二人で行ってもしょうがないじゃない・・・」
ひどい言い草だ。しかもなんか知らんが動揺している。
「そ、それにあんただって「そろそろ休みたい」とか言ってたでしょ!」
そういやそんなことも言ってたな、なんたって10日連続だ。今時甲子園球児でもそんな無茶はしないだろう。
いや、だから休みでいいんだよ。俺はお前の提案に賛成なんだぞ?
だが、


「嫌だ」
という具合にあっさりと俺の口は俺の思考を裏切ってくれていた。クソ、なんなんださっきから。
それともこれが俺の本音なのか?だとしたら・・・いや、やめよう。こんなことを考えるのは体に
悪い。
「い・・嫌って。なんで嫌なのよ」
それを聞かれると困るんだが・・・俺だってはっきりとわかっていないしな。だが、このまま
無言でいるわけにもいかない。俺は急にアドリブを要求された新米役者のような心持ちで
なんとか言葉を考えていた。
「だ、だからだな。明日は俺たち以外の3人は来れないわけだろ?」
「そうよ。さっき言ったじゃない」
最後まで話しを聞け。さっきお前がそう言ってたじゃないか。
「つまりだ。その3人は来たくても来れないわけだ。そうだろ?」
「・・・」
ハルヒは黙って俺の話を聞いている。
「だから俺たちはその3人の分まで夏祭りを楽しまなきゃならないんだ。
そうしないと3人に悪いじゃないか」
我ながら苦しい理論だ。誰か俺と脳をトレースしてくれ。

「ふーん・・・」
ハルヒはそう呟くと、
「本当にそれだけなの?」
と、ベテラン刑事が容疑者を見る目で俺を見つめる。
「なにがだ」
「理由よ。嫌だって言う理由」
そんなことを言われてもだな、
「そうだ」
としか答えようがないじゃないか。するとハルヒは、
「・・・まあいいわ。あんたがそこまで言うなら、行ってあげなくもないわよ」
と、いつもの勝気な笑みでそう告げた。おいおい凄い言い様だな。まあいい、とりあえずは
言いくるめることに成功したようだ。て、本当にいいのか?せっかくの休みがパアになったんだぞ?
しかもハルヒと二人で夏祭りだ。体が持つとは思えん。

そんなことを考えているうちになにやらハルヒが騒ぎ出した。
「あー!もうこんな時間じゃない!早く言いなさいよ、バカキョン!」
そう言われて時計を見ると、なるほどもう集合時間だ。
「ちょっとまて、気づかなかったのはお前もだろうが」
「時間の管理は団員の仕事なのよ!」

いや、聞いた覚えがないぞ。
と、その時ここしかないというタイミングで大雨が降ってきた。夕立ってやつだ。
熱い体に冷たい雨が少し心地いい。だがそんな風に感じていたのは俺だけだったようで、
「ちょっと!なんなのこれ!」
とハルヒはますますわめきだした。テンション高いな、お前。
「もう!キョン!走るわよ!」
そう言いながら俺の手首をガシっと掴み、走り出す。
「わわ!ちょっと待て」
なんとか俺はこけることなく、走り出すことに成功した。
ハルヒが何か言っているが、雨のせいでよく聞こえない。
「キョン!」
それを知ってか、ハルヒは大声で俺の名を呼んだ。
「なんだ!」
俺もまた、大声を出す。


「明日は目一杯楽しむわよ!!」


見れば、ハルヒは極上の笑みを浮かべながらそんなことを言っている。
そんな笑顔を見せられたら、こちらもこう返すしかない。


「当たり前だ!」


fin

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