月末の日曜日。
暦も変わり、その上 あのハイキングコースをも登らなくて済む。
そんな森林浴で新しい空気を吸うかのような現象に今、俺はいれる

と思ったのだが。

「ちょっと、キョン。早く来なさいよ。」
俺との距離1馬身程度前に行く茶髪ぎみの同級生、涼宮ハルヒによってそれはあえなく断念した。
何やら今日は、駅終点の辺りの路地裏にある雑貨屋まで行くらしい。
ちなみに俺とハルヒのみ。
俺が連絡役とされ、古泉は『アルバイト』。朝比奈さんは『旅行』。長門は『風邪』。らしい。
まぁ建前だったのだが。本来は皆、それぞれの"派"に呼ばれたらしい。
もう巻き込んで欲しくはないのだがな。閉鎖空間にも、急進の為の犠牲としても。

金は一方的に俺になる…かと思ったら、自己負担だそうだ。
ついでに言うと、昼飯等も自己負担。
何やら気分が良さそうだ。聞き取れないが鼻唄が聞こえて来る。

終点に着いた。
ハルヒはポケットから地図を取り出した。
「安心しなさい。片道5分だから。」
ニッ、と笑いながらハルヒは俺のそう告げてきた。
まぁ、もう何分でも歩いてやるつもりだったんだがこれは得、だな。

駅に出ると早速俺達は路地に入った。
元々、この駅周辺は治安が悪いらしい。闇市場のようなものだ。
駅を出た時、入口付近には髭を生やし今にも朽ち果てそうなオッサンが空き缶を前に置いていた。
路地は妖しい風の音が吹き、匂いとも味とも取れない感覚―第六感ってのか、が危険を感じていた。
気付けばハルヒは俺の服の裾を持って平行に並んでいた。
「……ハルヒ?」
「! ちょ…ちょっと夢に似てたから嫌だっただけよ。あの夢ならあの巨人も出ると思うけど。
   流石にこんなに狭かったら出ないわね。」
俺は出て欲しくないな。既にトラウマだ。

……既に5分は過ぎていると思う。
だが、俺達は未だ歩いていた。
「地図合ってるのか?」
ハルヒは裾から手を離し、ムッと眉間に皺を寄せる。
「合ってるわよ!ほら!」
俺はハルヒから地図を受け取り、内容を確認する。
俺はこの地図に見覚えがあった。
「ハルヒ。」
「なによ。」
「これ、駅前のラーメン屋だぞ?」
ハルヒは急いで俺から地図を奪い、確認する。
みるみるうちに顔が赤くなっていってた。
……何やってんだこのやろう。……女か。
「ドンマイ、ひとまず帰ろう。」
俺はハルヒの頭を軽く叩いて、後ろを振り返る。
俺は自慢じゃないが、見知らぬ場所は覚えて置くのが習性だ。
しかも細い道だ。左右だけで覚えるのは得意だ。

「あら、お久しぶりです。」
俺は結局360度回転をする。
振り返ると、センター分けの元・同級生―――朝倉涼子が笑って立っていた。
「朝倉?」
俺は思わず、声を掛けてしまった。フラッシュバックする光景から逃げたかった。

「朝倉さん? カナダに行ってたんじゃないの?」
ハルヒは気を取り戻し、朝倉に声を掛けた。
朝倉を見ると、ビニール袋に葱やらキャベツやらが入っていた。
「久々に戻ってきたの。日本食も食べたかったしね。」
「あっ、そうそう。この辺りに雑貨屋ってない?」
「雑貨屋……、あっ!アナタ達の後ろの道を右に曲がれば……」
また振り返った。
あんな所に右に曲がる道があったか?確か俺達はあそこ付近を左から来たんだけどな。
「ありがと。」
「いえ、私も久々に会えて良かったわ。」
「また高校も覗いてよね?」
「ええ。」
何気無い会話をして、ハルヒは俺を引っ張り、教えられた道を行こうとした。
「さっ、行くわよ。」
「ぅおっ、ちょっ待てって。」

トスッ。

俺の腹から鋭利な刃が出て来た。
その音はハルヒも聞き取れて、足を止めた。
「な……」
「キョ……ン?」

クスッ、と後ろから声が聞こえた。
「あ…さくら…?」
「もう忘れたの?私は以前にも殺そうとしたのよ…?」
「キョン!朝倉さん!?」
ズポッと生々しい音と共に刃が俺から抜ける。
そして、俺は地面に崩れ落ちる。
ハルヒは俺の元に近付き、座り込む。
「大丈夫!?今救急車を…」
ハルヒは携帯をポケットから持ち出す。
が。
「ダメ。ここはもう次元が遮断された違う世界。全てが圏外」
朝倉は無邪気な笑顔で語り始める。
「因みに言うと、この駅周りは病院はおろか、自営業の病院も無いのよ。
  あー、雑貨屋は嘘。というか私が流した噂だし。」
ちょっとキョン!、などと言うハルヒの心配の声が大きい。
さらに俺の体内から流れ出る血液で意識が朦朧としてるのに、朝倉の声が鮮明に聞こえる。
「キョンくん大丈夫?流血量から見ると、君の心臓は後5分で止まる。」

「ねぇ、涼宮さん?」
「なによ!あなた人殺しになるのよ!?」
「キョンくんを助ける方法があるんだけど。」
ハルヒは朗報を聞いたかのように。猫が飯を察知したかのようにピクンッと動く。
「…どうやるの?」
藁をも掴む気持ちで聞いたのだろう。決意の眼だった。
「今あなたは"自らを犠牲にして"願いを1つ叶えれる。……さぁどうする?」
ちょっと待て。
お前はハルヒの急進を見るために俺を刺したんじゃないのか?
「違うわよ。わたしはもう只の人間よ?インターフェースでもなんでもない。」
じゃあ何故お前はいるんだ。
「記憶中枢の情報移行を生命分離体…俗にいうドッペルゲンガーに転移実行させたから。」
長門より分かりやすいな。
「ありがとう。涼宮さんどうする?」
「……構わない。眼の前で人が死なれるより。」
おいハルヒ!!

ハルヒは眼を瞑る。しばらくすると、身体が次第に明るくなって足元から消えて行く。

「ぅゎ……」
ハルヒは驚愕な顔を出すどころか、理想が叶ったような顔で大口を開けて笑う。
「キョン…」
「なんだハルヒ…。」
比例するかのように、俺の傷も消えて行く。願いが叶ったのか……
「言い忘れてた。正直、涼宮さんの観察も飽きたし。どうでも良かったのよ。」
そう笑う朝倉の身体も消えて行く。
「あらら……1つっていったのにね…」
そういやハルヒは創造出来るんだがら、自由だよな。自覚してないだけで。
「んじゃあね…キョンくん。」
朝倉はハルヒより早く、光の砂になり消えて行った。

俺はなんとか自分で起き上がれるようになっていた。
「ハルヒ……」
「キョン…あのね……私、キョンのことが好きだったんだ…」
「……」
「でね…今日も色々言ってたけど…二人きりが嬉しかったんだ…。」
「……ハル…ヒ…?」
ハルヒは悲しむどころか、逆に笑っていた。
俺はそれが不可解に感じた。
「…泣いてもいいんだぜ?」
「バッ!わ、私が泣くわけな……」
ツゥと一筋の涙がハルヒの頬を流れる。
「なっ…なんで……」
「ハルヒ……」
俺はハルヒを抱き締めた。既にハルヒの身体は首より上までしか無かった。
「! キョン!?」
「ありがとう……」
「なにいってんのよ……バイバイ。」
「ああ……バイバイ。」
ハルヒも光の砂となり、消えて行ってしまった。





パッと明るい光が目の前を横切る。
気付けば俺は、俺の家の前に居た。

次の日。
俺はいつものように登校した。
ハルヒはまだ居る、と信じながら。

ガラッ。

案の定、俺の机の後ろには空いていた。机も何も無い。
「よぅ、キョン。」
谷口が声を掛けてきた。
「なぁ……お前が中学生の時、中学校で事件無かったか?」
何気無く、俺は谷口に疑問を投じる。
「事件?前に話した校庭白線事件か?」
!!
「そうだ。あれの犯人は……」
「まだ見つかってはねぇな。もう無理だろ。証拠隠滅も可能だ。」
「じゃあ、次の質問だ。『涼宮ハルヒ』を知ってるか?」
「…誰だソレ。」
知らなかった。
以前の、朝倉以上の情報操作だな。記憶にも無いのか。
「いや、何でもねぇ。」
俺は清々しく、返事をする。



存在しないハルヒの欠片は、荒々しく書いたラーメン屋までの地図だけだった。
朝比奈さんも長門も古泉も俺と友人関係なのはそうだったが、『力』は知らないようだ。
全てが終わり、全てが始まった。
俺にとっては、終わりだがな。

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