放課後。
今日もSOS団の部室に足を運ぶ。すっかり日課と化してしまった俺の行動。
だが決して億劫なものではない。朝比奈さんの可愛らしいメイド姿を
拝めるだけでも、十分にその価値があるというものだ。
その朝比奈さんのお茶を運ぶ麗しい姿を想像しながら俺は部室の扉を開ける。
キョン「なんだ・・・まだ誰もいないのか。」
そこにはメイド姿の朝比奈さんもいなければ、ニヤケ面の古泉も、壊れたラジオのように
やかましいハルヒの姿もなかった。いや、正確には誰もいないというのは誤りで、
部室の隅でパイプ椅子に腰掛け静かに本を読む長門の姿があった。まあこいつは部室の付属品のような
奴だからカウントしてもしなくても一緒だろう。
キョン「長門、他の連中は?」
長門「知らない」
それだけ言うと再びハードカバーに目を戻す長門。
キョン「そうか。」
長門が口数が少ないのはいつものことだし嘘を言うとも思えない。
おそらく他の連中は何か用があって遅れているのだろう。俺は手近なパイプ椅子を引き寄せるとそこに腰掛けた。
しばらくの沈黙。時たま長門がハードカバーをめくる音だけが部室に響く。
俺はしばらく部室の中を観察していたが、普段見慣れた部室をそうそう長く
観察していられるものでもなく、やがて俺の目は静かに本を読む長門の姿に止まった。

人間暇を持て余すとよからぬ事を考えつくものだ。このとき俺は長門に悪戯してみたい
と思ったのだ。なぜそう思ったのかは俺にも分からない。
今もこうして感情を表に出すことなく本を読む長門の、
普段とは違った表情を見てみたいと思ったのだ。
長門でも動揺したり驚いたりすることがあるのだろうか。
きっと今は安心しきっているに違いない。ここで俺が意外な行動をとることによって
長門の反応を引き出そうという算段だ。
キョン「長門。」
長門「何?」
ややあって顔を上げこちらを覗う長門。俺はゆっくりと立ち上がり、長門に近づく。
その間もツヤのない黒いひとみがじっと俺の姿を捉えている。
俺は長門の目の前までくるとこう叫んだ。
キョン「お前はもう死んでいる!」
昔読んだ格闘漫画の主人公を頭に描きつつ構えをとる俺。
長門は微動だにすることなく尚も俺の顔を見つづけている。
右の拳を握り人差し指と中指だけ立て、長門の眉間に狙いを定める。もちろん、
本気で当てるつもりはない。適当なところで寸止めして長門の驚いた表情を
見てやろうというものだ。

俺はすぅーっと深く息を吸い込み、
「アタァッ!」
と気合の叫びとともに真っ直ぐに右拳の突きを長門の額に向けて放った!
・・・・はずだった。
一瞬なにが起こったのか分からなかった。
気が付くと俺の突きは空を切り、長門の体は瞬間的に俺の右側面すれすれのところに
入り込んでいた。ちょうど入身のような形で俺の突きをかわした長門は
そのまま俺の背後に回り込む。一瞬の動作だ。
右拳を突き出し前のめりに体制を崩した俺の右半身がグンっと後ろに引き寄せられる。
長門が俺の左側頭部を左手でロックし、俺の右半身を後ろに引き倒そうとしているのだ。
抵抗する間もなく無様に床に倒れ込もうとする俺の体。
だが、長門はただで俺を転ばしてはくれなかった。
重心を失い右側頭部から床に倒れ込もうとする俺の首に長門の右腕がかかる。
その腕がいったん下に落ちかけた俺の顎を強引にカチ上げる。
俺の顔が天井を仰ぐ。一瞬俺の重心が浮いたのを長門は逃さなかった。
俺の首にかけた長門の右腕が真下に向かって振り下ろされる。
ただのラリアットとは違う。言うなれば垂直落下型のラリアットだ。
しかも俺の頭部の一点に長門の全体重がのしかかっている。
天井が遠のくと同時にゴンッ!と鈍い音がして俺の視界が揺れた。
目の前が真っ赤になり、急に意識が遠のく。
硬い床に後頭部を垂直に叩きつけられたのだ。おそらく声もでなかっただろう。
真っ赤な視界が微かに長門の輪郭を捉えながらフェードアウトしていく。

「ちょっと!キョン!なにこんなところで寝てんのよ!」
気が付くと俺の顔を覗き込むようにしてハルヒが文句を垂れていた。
ハルヒ「寝るのはいいけどせめて机で寝なさいよ!邪魔でしょうがないじゃない。」
俺はズキズキ痛む後頭部を手で抑えながらフラフラと立ち上がる。
そこには苦笑いを浮かべた朝比奈さんとニヤニヤした古泉もいた。
やれやれ、どうやらさっきのは誰にも見られてないみたいだな。
ハルヒ「ほらほら!みくるちゃんが着替えるんだからとっとと出てく!」
そうがなりたてるハルヒの声に背中を押されるようにして部室の外へと向かう。
扉を開け出て行く間際、ちょっと振り返り部室の奥へと目をやる。
そこにはいつもと変わりなく黙々とハードカバーを読みふける長門の姿があった。

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