窓のガラス一枚挟んで
これの外では3月にもかかわらず厳しい風が真面目にも休むことなくせっせと勤めているし、
さらにその中、寒冷前線なんて聞いたことも無いかのように近所のガキが
ご苦労様におにごっこだかケイドロだかを頑張ってらっしゃるなか、いやみのように
俺は窓ガラスの内側で、文明の利器からそれはもう暖かなご奉仕を頂戴していた。
なぜ俺がこんなにポカポカした待遇を一人で受けているかと言うと、場面を節分の次の日まで
巻き戻さなくてはならない。そこに現れたのはいつも唐突に現れては俺にハイリスクなスマイルを
ぶつけてはすぐいなくなるあの人、朝比奈さん(大)だった。
その人のせいで今俺はこたつの中でシャミセンも羨ましがるであろうシュチュエーションのなか
のんびりうとうとやっていた。というか、いたかった。しかしアイツは現れる。
部室の扉をいつものように開くがごとくの勢いで
ガラガラ…
「…あれ、キョンだけ?」
ハルヒだ。

「暖っかいわね、この部屋。キョンひとりにもったいないくらい。有希は来てないの?」
そう、俺はこの部屋に一人。しかも長門がいてもおかしくないほどの静けさを俺が保っている。
動くことを許されているのはハロゲンヒーターの首だけだ。
「みくるちゃんも来てないみたいね…」とコートを脱ぎハンガーを手にとったのだろうか
「ねぇ、キョン。」   ……
「キョンてば、 寝てるの?」
そうだ、俺は寝ているんだ。
「午後2時から約一時間ほどの間、キョン君にはここを一歩も、いえ
全くピクリともせずに…出来れば寝たフリをしていて欲しいのです。」
それが朝比奈さん(大)からのお願いだった。

だから俺は寝てなければならない。ハルヒが顔に落書きを施そうが耳を引っ張ろうが
朝比奈さん(大)が言うんだ。やってのけなければならないだろう。俺が。
覚悟と言うには安っぽいが俺はそれなりに心の準備をしている。
さぁ、かかってきやがれ。 
「キョン?」
ハルヒは俺の方をゆさゆさしたり、みみをつまんだり、ほっぺをつんつくしてきたりしてきた
「おーい」
…なんだコレだけか。それなりの心の準備で余るくらいに足りてよかったとホっとしている。
すまんがハルヒ、朝比奈さん(大)に めっ されてる俺はそんなんで目を開いてあげられないんだ。
バレンタイン前の朝比奈さん(みちる)のときの騒動そりははるかに簡単そうだと思いホっとしていると、
ハルヒからは俺の覚悟を別の意味で上回るコトを仕掛けてきた。

「ねー…」
ハロゲンの心地よい温風がまるまるいきなり何かによってさえぎられたことより
俺はハルヒの声が予想をはるかに近いコトに気づいたそのことに驚いている。
コイツはいったい今、顔をどれくらい俺に近づけているんだ。いや、かぶさっているのか。
でもだ、この手のシュチュエーションなら数日前に朝比奈さん(みちる)と掃除道具箱で経験済みだ。
あれも相当凄かったが、あれがあってこそ今俺の脳内の過激派がボンバイエしないでいてくれてる。
「ねぇって…」
さらに近い。息が少し鼻に掛かったのが感じ取れたのは気のせいじゃない。
さっきのは俺が起きてるか確認するためのものだったのかもしれないな。近いぞ。
下手したら唇が触れ合うだろう距離だがそれは、まぁ、御免被りたい。 だれか止めろ。
一年近く間を置いたといっても、前あのときのあれでもいっぱいいっぱいなのだから。
この際谷口でもいい、なんか歌いながら忘れ物をとりに来い。言い訳なんてなんぼだって考えてやる。
それとも何か、またこれは閉鎖空間か何かか。だったら古泉、真っ赤でふわふわな身体でもいいから
これを阻止してくれ。そのほうが良くないか?や、古泉にとってはよくないと考えるかもしれん。

そうこう思ってるうちに俺はされていた。
「…ん」

うわ…ひさびさだ。閉鎖空間をぶっ壊したときのソレがフィードバックする。
ここで自分の部屋の天井が現れない言うことは、やはり現実だった。閉鎖空間なんかではない。
流石にびっくりして眼を一瞬開けてしまったがハルヒは気づいていないのか、それほどに
マジなのか。どうかは知らんが…長い。

錯覚も差し引いてこれは長いんじゃないのか。夏休みが短く感じる原理か知らんが長い。
コイツ、もし俺が今起きたらどうするつもりだ…いたずらではごまかしきれんだろう。
いいわけ聞きたいがために今目を開けるにはリスクが高すぎる。朝比奈さん(大)のこともある。
大体あの人はなんでこんなことをさせた。これが規定事項なら俺とハルヒはなんなんだ。
混乱がピークギリギリになったころにやっと唇が開放された。
暑いのはハロゲンのせいでないのは明らかだ。消してくれそれ。

数秒して本当の開放がはと時計から知るコトが出来た。三時を告げている。
俺はハトの鳴き声を確認して、いかにも何も無かったかのように大きく欠伸をして、
全力で起きるフリをした。すべてを終えて安心した気でいる。
「ぁあ…ハルヒー、来てたのか…」
少し棒読みっぽくなってしまったかもしれない。
「…たく…何度起こしたと思ってるのよ…バカ。退屈してたんだからね!」
ウソつけ。っていうかハルヒも暑そうだ…そろそろ消そう。
「何、せっかくあんた起きたのに…」
ムリするな。暑いだろうが。
「悪い…だが朝比奈さんも長門も、古泉の奴も俺が12時ごろに来たときからきてないんだろう?」
「そうよ…さっき三人とも急用って電話があったわ…もう…」
ん、そうゆうことなのか?なんなんだろう。今日のハルヒは初めからよそよそしいと感じた。
また自分がそうゆうコトに鈍感だったのだろうか。ならば少し申し訳にない気がどこからか
やってくる。予想もつかんクセに。なんとなくだが。なんとなくなんだ。

俺達はその場所をあとにした。

その夜、もう一度あの人が俺にさっきの「なんとなく」を告げに来た。早い。
朝比奈さん(大)はランプの魔人のように、しかしランプでなくなんとベランダから現れたから驚きだ。
その顔は少しムスっとしているようにも見えたが本当にランプの魔人のテンションではなかろうな。
「キョンくん…何をしてくれたんですか…いえ、何やってないんですか…!!///」
顔が赤らめているのは怒っているからだけではなさそうだ。まさか(大)でこの表情を見られるとは。
そんな場合じゃないのはわかっている。俺にはなにがいけないのか、むしろ何かいけなかったか?
「女の子が30分近くキスしてたのに…その…なにも手を出さないなんて何事ですか///!?」
朝比奈さん、何事なのは貴方です…っていうか俺はそんなにハルヒとそんなんだったのか…
夏休みが短く感じる原理と同じだったら…何かしら認めざるをえないといけなさそうだ。
「なんてゆうか…あるじゃないもう///…二人だけで…そのセッ…せ…こら///!」
ごめんなさい。

「その…キョンくんだったら…いえ!けしてそんな目で見てたわけではないんです!ただ…」
「いえ、すいません…そーゆうコトを言わせてはいけないと思うべきだったんですね…」
なんとなくわかってきた…朝比奈さん(大)のやらせたかったコトの大きさとその目的を。
場合によっては今なにかしらを吹っ切ってしまわなければ行けないのだろう。
「///そうですか…ホントは…こーゆうことは本人から進んで…意思で行って欲しかったんです…」
朝比奈さん(大)はそうして「ごめんなさい」と一謝りし最後に俺に手渡したのは
なにやら柔らかく薄い物を包んだラムネでも入ってそうな、そうだ。行事の必需品のソレだ。
朝比奈さん(大)から頂いたソレは、シュチュエーションがアレならば俺の中の過激派が
黙っていなかっただろうな。普通に考えて今ですら危ない。いや、本当に。
「チャンスはまた訪れます…場所はどうあれ…でも…本当に押し付けたみたいで…」
押し付けたのはあなたでも押し倒さないと行けない本人は俺か。
「いえ、わかってますよ…朝比奈さんに言われたからじゃありません。
俺もいずれ…そうなんじゃないかなって…」これ、禁則事項じゃなくても良かったのだろうか。
「では…その///おねがいします…」

きっかけはどうあれ、俺は完全にハルヒに惚れたのだろうか。
恐いというより実感がわかなくて不安だが…
俺は近いうちにこれまで最強の敵と戦わなければならない。
誓ったわけでは無いけれど、ゴムを握り締めて何かを決意した。

終わり

|