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俺は以前言ったことがあるよな?
「告白なんかしたこと無いし、されたことも無い」と。
これは決して嘘では無い。国木田や古泉はいらん勘違いをしてるようだが、それもただの下らない話だ。これも本当。
というかそもそも・・・これは人間として少々アレなのかも知れないが・・・俺は女子に対して恋愛感情を抱いたことが無い。
朝比奈さんに対して抱いてるのは、アイドルや芸能人を好きになっているような・・・そんな気持ちだ。
長門に対しては、尊敬と信頼。その他言語化困難ないろいろを抱いてたりするのだが、それも恋愛感情とは違うだろう。
今の俺は真っ当な恋愛感情のかけらも持ち合わせていない、微生物のような存在なのだ。いや、それはおかしいか。
ん、ハルヒ?ああ、あれは顔はいいけど性格は織田信長みたいだからな。謀反を起こす気はないがあれを恋愛対象にするのはどうなんだろうな。
俺はドラマみたいな恋愛なんかすることも無くこのままこの高校生活を終了するんだろうな、と思い始めていた。
多分実際そうじゃ無かったんじゃないか?

あんなことがあるまでは


太陽が100光年ほど近づいて来たんじゃないかと思うぐらい、暑~い夏の日だった。
俺はそのうちまた電気屋に扇風機でも取りに行かされるのでは無いかと思っていた。そしてもしそうなったら全力で断ろうとも思っていた。
だってそうだろう?前回の寒さだったらまだ耐えられたが、今回はマジでそうは行かないだろう。倒れる。ああ、確実に倒れる。
そんなことを危惧しながらでも俺は部室に向かわなくてはならない。そこにはクーラーも扇風機も置いて無いのにな。
部室の扉を開けると、そこにハルヒの姿は無かった。俺より先に教室を出てったもんだから、もうとっくに居るものと思っていた。
俺は朝比奈さんに挨拶をしてから聞いた。
「ハルヒはまだ来てませんでしたか?」
「ううん、さっき一回来たけどカバン置いてまた出て行っちゃったんです」
「そうですか・・・」
あまり良い予感はしないな。
ハルヒが帰って来るときには普通に、普通の顔をして入ってくることを願うばかりだ。
俺は古泉が座っている前の席に座ると、将棋盤のコマを一生懸命デフォルトの状態に戻している古泉に対して言った。
「最近忙しくやってるか?」
「心配してくれるんですか?その事ならご心配なく。閉鎖空間は最近ほとんど生まれていませんよ。それと別のとこでなら忙しくやってますが」
心配などしていない。ただなんとなく聞いただけだ。
「ところで、最近一つ分かったことがあるのですが。いいですか?」
そう聞いてくる古泉の顔は、笑ってはいたがいつもより少し真剣な色を帯びていた。
「何だ」
「あなたのことです」
「俺にもついに超能力が芽生えたのか?」
「ええ、そうかもしれません」
俺の眉がピクッと動いた。目が疲れてるからでは無いな。
「別に最近芽生えたわけではありません。貴方にはもともとその能力があったんですよ」
「どんな能力だ?」
古泉の言い草からすると、古泉の組織に混じってあの巨人と戦うハメに陥ることは無さそうだ。
「例えば・・・そうですね、涼宮さんがキリスト教徒だったとします」
「ありえないな」
「聞いて下さい。それで涼宮さんが『キリストの教えはすばらしい。もっと多くの人にもこの事を理解して欲しい』と思ったらどうなるでしょうか」
「そりゃぁ、全世界の人々がキリシタンになるかも知れないな」
「そうです。今の涼宮さんの力では全世界の人々とはいかないでしょうが・・・それでも確実に全世界のキリシタン人口は増加するでしょうね」
「何が言いたい」
「それでも確実のキリスト教の教えに染まらないでいることが出来る人物。それが貴方です」
そう言って古泉は少し笑った。この無駄にハンサム男め、言いたいことが読めん。
「まぁこれも推測にすぎないのですが。それも僕個人の」
「何を元に推測を立てたのか教えてほしいな」
俺がそう言うと古泉がキョトン顔を見せた。初めて見たぜ。
「貴方、本当に気付いていないんですか?鈍いにもほどがありますよ?」
「だから、何にだ」
「そうですか・・・貴方はそうかも知れませんね。まぁその事で危機が訪れることがあったら詳しく教えますよ」
それは危機が訪れる可能性があるようなことなのか。
「今教えろ」
「それは・・・人道に反するというものです」
古泉はそう言って肩をすくめた。それをやりたいのはこっちだぜ。

古泉が肩を下げ終わるか終わらないか、そのタイミングで部室のドアが開いた。
「ふぅー全く暑いったらありゃしないわねー。太陽が100光年ぐらい近くなったんじゃないの?」
それは俺が冒頭で思ったことだ。しかし、普通の顔で良かった。少々この暑さのせいで歪んでるようだが。
「というわけでキョン、重大任務よ」
安心したのも束の間、団長様は俺に『重大任務』を言い渡そうとしている。ここはなんとかしなくてはならないとこか?
「待てハルヒ!俺は扇風機もクーラーも取りにいかんぞ!暑いなら打ち水でもしてくれ!外でな!」
言い終わってから数秒、ハルヒが考えたような素振りを見せてから言った。
「何だ、分かってるんじゃない。じゃぁ、さっさと行くわよ」
悪魔だ・・・。いや、死神か?こいつは俺を殺そうとしてるのか?
「じゃぁ、3人共留守番よろしくね」
「?」
おっと、事態が読めない方向へ向かってきてるぞ?本来こういうことを言うのは俺の方が正しいんじゃないのか?
古泉は「ハイ、いってらっしゃいませ」などと言ってるが。
「早く行くのよ!」
ハルヒが俺のシャツ襟首を掴んで馬鹿力で引っ張った。
「ちょ、ちょっと待てハルヒ!お前も来るのか?」
「そうよ?問題あるの?」
問題というか・・・変だ。こいつは戦以外では家来を顎で使う暴君だった筈だ。
「問題は無いが・・・何故だ?」
「何故って、気分よ気分!ほら!さっさと行くわよ!」
そうして、俺たちは北高を後にすることになった。


おかしい。おかしすぎる。
俺はSOS団団員その1にして雑用係じゃなかったのか?別にこの程度の用事で団長様が直々に出てくる必要も無いだろう。実際前回はそうだったしな。
よし、もう一度聞いておこう。
「で、今回は何でついて来たんだ?」
「え?だ、だから気分よ気分!」
「そうか・・・」
納得出来る答えは得られてい無いがここではこう答えるのが正解だろう。この質問を何回も重ねることは暗に「ついて来るな」と言ってるのと同じだからな。
勿論そんなことは思っていない。ハルヒは実際可愛い。二人で歩いててもそんなに悪い気分にはならないだろうよ。
それから、ほとんど無言で歩いていたら、いつの間にか駅についていた。以前一人で行ったことのある俺が二人分の切符を買おうとすると、それをハルヒが止めた。
「前行ったところとは別の電気屋よ。て言うか、今回は貰うんじゃないの。ちゃんと買うのよ」
ハルヒはそう言うとこれからの行き先らしい電気屋のチラシを俺に見せた。何と、扇風機が1000円だ。
俺は窓口に自分の切符の分の金を払い、駅員さんに丁寧に差し出された切符を受け取った。
ホームに入ると、もう既に左方の遠くに電車が見える。何というタイミングの良さだろうか。
「ホラ!キョン、さっさと乗るわよ!」
その電車の中は、下校中の学生が少し居たが、それでも二人がゆったり座れるスペースは余裕で確保出来た。
電車の中では終始無言だった。
前回一人で行ったときは暇で暇で仕方なかったな。二人で行ってもそれは変わらないということか?
ちなみに、ハルヒが俺の顔をチラチラと見てることだけは、横目で確認出来た。

電車を降りた俺達は、目的地の電気屋に向かって歩き出した。
どうやらハルヒはその電気屋に行ったことがあるらしい。足の動かし方に迷いが無い。
「ここよ」
そう言ってハルヒが立ち止まった。随分久しぶりに声を聞いた気がするな。
そこは、俺の家の近くにもある、有名チェーン店だった。
「本当にここか?わざわざ電車に乗ってまで来る必要を感じないな」
「ここじゃないとダメなのよ。このチラシはここの支店だけのものなの」
それだけ言うとハルヒはズカズカと入店してしまった。
俺があわてて後を追うと、ハルヒはちゃんと出入り口の前で待ってくれていた。
「じゃぁあとは私に任せておきなさい。あんたはその辺で遊んでていいわよ」
じゃぁ俺は何しに来たんだ?などと聞いたりはしない。扇風機を持つ係だろ?ちゃんと心得ているさ。
「はいはい」
俺はその重労働が始まってしまうその寸前までこのクーラーの効いた空間で休ませてもらうさ。

しかしハルヒは意外に早く戻ってきた。時間にして約10分程度。
手ぶらで戻ってきたハルヒはヒョウヒョウとこう言った。
「さぁ、帰るわよ」
ん?俺の仕事は?今俺がやってる屈伸運動にはどんな意味があるんだ?
「あ、扇風機は学校に送ってもらうことにしたわ。大丈夫、有希に受け取るように言ってあるから」
1000円の扇風機程度を郵送とは。何故そんなことをしたのか分からない。どうせ運ぶのは俺なのに。
ここではこう聞くのが正しいだろう。
「じゃぁ俺は何をしに来たんだ?」
このクソ暑い中自分が何の為に駆り出されてきたのか。それくらい聞く権利だって俺にはある筈だ。
でもまぁハルヒは「気分よ、気分」と言うんだろうな。そうじゃなくても原稿用紙一行文にも満たないセリフをズバッと吐いてくるだろう、と俺は思っていた。
しかし、ハルヒのセリフは予想に反して釈然としていなかった。
「それは・・・えーと・・・うー・・・あー」
ハルヒはうんうん唸りながらしきりに考える仕草をしていたが、ついに何かを決心したかのように体を真っ直ぐにし、俺の目を見て言った。
「キョン、ちょっとまだ付き合ってくれない?」


「んー、何処にだ?」
「えーっと・・・いいからついて来なさい!」
ハルヒは俺の手を掴んで足早に歩き出したが、その勢いは店の駐車場を出るところまでしか続かなかった。
「えーっと・・・」
おいおい、大丈夫だろうな。さっきと勢いが全然違うじゃないか。
ハルヒはしばらく周りを見渡し、一方向を指差して言った。
「あっちよ!」
ハッキリとは分からないが・・・多分適当なんだろうなぁ。
その後も俺はハルヒの気の向くままに歩かされた。もう6時を回っているとはいえ、今日は真夏日だ。夕方でもかなり気温が高い。少しずつ疲労が貯まってきた。
「なぁ、ハルヒ・・・お前の行きたいとこってのは一体何処にあるんだ?こっちで合ってるのか?」
「いや・・・その・・・えーっと・・・」
珍しく反応に困っている様子だ。少し気味が悪いな。
「ハッキリ言ってくれないか。返答によっては今すぐUターンして家に帰らせてもらう」
「・・・たと・・・しょに・・・ったの・・・」
俺は長門じゃないんだ。もっとハッキリ喋ってくれ。
「なんだって?」
「あんたと一緒に居たかったの!!!!」
ハルヒは、そう叫ぶと一目散に逃げ出してしまった。
「ちょっ・・・ハルヒ!」
ちょっと遅れてそう叫んだが、既にハルヒは見えなくなっていた。
俺は追いかけることはしなかった。それよりも今ハルヒはなって言ったんだ?

『あんたと一緒に居たかったの』

この言葉が意味することは何だろう。ハルヒは俺と居て一体何が楽しいんだ?
俺はいろいろな方向から考えたが、答えはやはり一つしか無かった。
『ハルヒは俺のことが好き?』
多分、これを言ったのがハルヒ以外の女子生徒―長門も除外していいな―だったらすんなりこの結論に達したろうな。
そして、このセリフは取り方によってはだが・・・愛の告白のようにも取れる。
となれば俺はさっきここで生まれて初めて告白されたわけか?実感も何もありゃしない。
というか女が男に告白する時ってもうちょっと『雰囲気』ってやつを気にするんじゃないのか?
俺としてはさっきが告白に適した雰囲気とはとても思えなかった。
・・・まぁしかしだ・・・これだけは言える。

ハルヒにあんなことを言われて。俺は少なからず嬉しかった。


家につくまで2時間かかった。
ハルヒが明らかに適当に進んできた道を俺は必死に戻ろうとしたが、結局生まれて初めて交番で道を聞くことになった。
時刻的にはいつもよりちょっと遅い程度だから、別にお袋は何も言わなかった。

俺はベッドに横になり再びハルヒのセリフを思い出す。
ハルヒ本人によると恋愛感情というのは一種の病気みたいなものだそうだ。となると昨日のは発作みたいなもんか?
やけにストレートというか、素直だったな。二人だったからか?こういうのをツンデレっていうのか?
・・・もういい。あんまり考えるのはよそう。
明日学校でハルヒに会ったら、普段と何も変わらないように接することにしよう。
あ、でもこのことを話さないのは逆に不自然か?何か言った方がいいか。
よし、明日のハルヒに対しての第一声は「ようハルヒ。昨日のアレ、どんな暗号が隠されてたんだ?」にしよう。ほぼ完璧だ。
そんなことを考えながら俺は夢の中へ落ちていった。


翌日、突然閉鎖空間でハルヒに起こされるようなこともなく、俺は普段と変わらないように起床した。
しばらくは昨日の事なんか頭の中に無かったが、登校中にまた思い出した。
思い出したから何だ、ということも無く、俺はやはり普段と変わらないように校門をくぐった。
谷口に一応の挨拶を交わしながら、俺は自分の席へと向かった。
俺の後ろの席はまだ無人だ。ハルヒが俺より遅いなんて珍しいな。といっても今はまだ8時20分だ。まぁあと10分のうちに来るだろう。
しかし8時30分になってもハルヒは来ず、ホームルームが始まってしまった。
一体どうしたんだ?などと思っていると岡部がホームルームの終わる直前、思い出したかのようにこう言った。
「あ、今日涼宮は具合が悪くて休みだ」
クラス内が軽くざわつく。ハルヒが学校を休むことなんかいままで無かったからな。
・・・やっぱり、昨日のアレのせいなのか?
「じゃ、一時限目は体育だから急いで更衣しろよー」
と言い残し岡部は去ってしまった。
俺がしばらく考えていると、教室の外から聞き覚えのある声がした。
「呼び出し」
反射的に教室の出入り口の方を向く。そこには、いつかの呼び出しのときのように、長門と古泉が立っていた。
俺が小走りで二人の下に寄ると、長門が間髪入れずに言った。
「緊急事態」
・・・長門にとっての緊急事態とはどんなことなのだろうね?考えるだけでも鳥肌が立つ。
「大丈夫・・・とは言えませんが大丈夫です。その事態は長門さんでは無く僕担当の分野だというだけです」
日本語が少々おかしいが言いたいことは分かった。
「閉鎖空間か?」
「ええ、確かにそれもあります。そのお陰でちょっと寝不足なんですが」
ハンサム顔のやつにはクマも出来ないのか。
「問題はそれだけではありません。涼宮さんが・・・ちょっとネガティブな思考に走ってしまっているようです」
「世界はつまらない、とか思ってる時点で元から超ネガティブな気もするが」
「そうかも知れません。しかし、貴方が見たところの涼宮さんにそういった所が見られたでしょうか?」
まぁ決して見られなかったわけじゃ無いが・・・。浮かんでくるのはハルヒの顔は笑顔の方が多いかな。
「まぁ、そうかも知れないが」
「それはこのSOS団の活動を彼女なりに楽しんでいたからです。が、たまに嫌なことがあると閉鎖空間を発生させて<神人>を暴れさせています」
ここまで言うと古泉は急に真面目な顔つきになった。
「単刀直入に聞きます。昨日、涼宮さんと何があったんですか?」
「・・・」
ここはあのことを言うべきなんだろうなぁ。・・・でもなぁ?
「それは・・・人道に反する」
そう言うと古泉はさらに真面目な顔つきになった。
「緊急事態だと言ったでしょう。明日この世界が無くなってもいいんですか?」
そういうことを言われると少々辛い。俺のせいでこの世界を消してしまいたくは無いからな。
「仕方無い・・・」
俺は昨日あったことを古泉に話した。すると横で聞いていた長門がさらりとこんなことを言った。
「涼宮ハルヒはあなたに対して恋愛感情を抱いている」
「・・・」
突然の電撃報告に俺は何も喋ることが出来ずにいた。
まぁ昨日の発言で分かってることは分かってたのだが、長門に言われるとなんかこう・・・ああ、本当にそうなんだな、って思っちまうよな。
「ハッキリ言いますと・・・気付いていなかったのは本人の貴方だけです。僕も朝比奈さんも、とっくにその事には気付いていました」
「は?」
その事、っていうのは「涼宮ハルヒが俺に対して恋愛感情を抱いている」ということか?
「何故だ?あいつがそんな素振りをいつ見せた」
「涼宮さんが最初の世界再構成を始めようとした際、唯一新しい世界に連れて行こうと思った人物は誰でしたか?」
「・・・俺だな」
「そういうことです。他にもいろいろとあるんですが割愛しましょう。時間がもうあまり無いので」
「どういうことだ?」
「我々がこうしている次の瞬間にも世界は消えてしまうかもしれないんです。続きの話は車のなかで」
古泉はそう言うとさっさと踵を返して歩いていってしまった。
「お、おい!学校はどうするんだよ!?」
俺が慌てて叫ぶと、古泉について行きかけていた長門が振り向いて言った。
「それは私がなんとかする。あなたの出席簿に『早退』とは書かせない。クラスの者の記憶も後で調整する」
そう言って固まった。俺が来るのを待ってるんだろう。
「・・・やれやれ」
またハルヒのせいで俺は動かなくてはならないのか。いい加減にしてくれ。
・・・ただ、今回はあまり悪い気はしないな。

俺を好いてくれてる奴を助けに行く、なんて何かの映画みたいで格好良いじゃないか。


校門を出ると、いつかの黒塗りタクシーが止まっていた。
古泉が助手席に乗り、後部座席に俺と長門が座った。
ドアがバタンと自動で閉まり、タクシーは映画『TAXI』のように急発進した。
「ぬぉっ」
俺がもの凄い後ろ向きのGに耐えかねている隣で、長門は何ごとも無いようにチョコンと座っていた。
「まず状況を説明しましょう」
古泉が前を向いたまま言った。クソ、顔が見えん。
「まず涼宮さんが学校を休んでしまっている件ですが、それは恐らく涼宮さんがそう願ったからです」
「どういうことだ?」
「病気になりたい、とでも願ったんでしょうね。今日涼宮さんが休んでいる理由は仮病ではありません。本当に病気になっているんです」
「それは、どんな病気なんだ?」
言っとくが、俺は本気で心配している。
「いえ、病気というかただの風邪です。少々の熱、咳、鼻水程度です。そのことは心配ありません」
「それで何で世界が終わるんだ?」
初めて古泉が後ろを振り返って言った。
「涼宮さんの今の状態が問題なのではありません。この後が問題なんです」
これだけ言うと古泉は再び前を向いた。
「今は『学校を休みたい』を思うだけに留まっていますが、そのうち『学校を消したい』と願うかもしれません。それならまだいいのですが、涼宮さんが『私がこの世から消えたい』と思ってしまうこと。それを我々は最も危惧しているんです。涼宮さんが居なくなった世界はどうなるか?誰にも解からないと前に言ったことがありますね?」
「何故ハルヒがそんなことを考えるんだ?」
「貴方に顔を合わせたく無いんでしょうね」
「何故?」
「恥ずかしいからですよ」
「あのハルヒが『恥ずかしい』とは、そんなことあるのかね?」
「涼宮さんだって一女子高生です。そんな気持ちになることもありますよ」
まぁ、なんというか・・・俺に会うのが恥ずかしいぐらいで『消えてしまいたい』などと思うのかハルヒは。俺なら『穴があったら入りたい』程度に留まるね。
「ここで貴方に問わなくてはなりません」
古泉とバックミラー越しに目が合った。
「貴方にとって、涼宮さんとはなんですか?」
何故そんなTVチャンピォンみたいなことを聞くんだ。『涼宮さん王選手権』なんてものは無い筈だが。
「真面目に考えてくださいよ?それによってこれからの行動が大きく変わることになります」
俺にとってハルヒとは何か?前にもこんなこと考えたような気がするな。何処でだったかな?
そうだ、ハルヒと二人で閉じ込められた閉鎖空間の中でだ。あのとき俺はどういう答えを出したっけな?

・・・思い出してしまった。

俺はハルヒに接吻した。悪いか?
しかしあれはハルヒを愛していたから起こした行動なのだろうか?
あれは朝比奈さん(大)と長門の助言でその事を思いついた。それが無かったら間違いなくあんなことはしていない。
だが、そんなに抵抗は無かった。それは何故だろうね?
「なぁ。長門、俺はハルヒのことをどう思ってるんだ?」
こいつなら多分ハッキリ解かってるだろう、そう思って聞いた。問題ないだろ。
「教えることは出来ない。有機生命対にそういった助言をすると過剰にそれを意識してしまい、自分を見失う。よって禁則事項」
なるほど、俺が長門に「あなたは涼宮ハルヒのことはふりかけ程度にしか思っていない」と言われればそうなんだ、と思ってしまうような気がするな。・・・流石にふりかけは無いが。
「迷っているようなので質問を簡単にします。あなたは涼宮ハルヒを恋愛対象として見たことがありますか?」
そう聞かれると・・・決して無い。それは冒頭でも述べたな。
「・・・無い」
「そうですか、それでは少々ややこしいことになってしまいますね」
古泉はそう言って肩をすくめる。前を向いたままだと何となく滑稽だ。
「ここでもし貴方がYESと答えるならこのまま涼宮さんにその意を伝えてもらえば良かったんですけどね」
「それで、NOと答えた俺は何をすればいい」
「あなたにいくつか選択肢を与えましょう。一つは涼宮さんに嘘の告白をし、世界を安定させる。後のことはそれから考えましょう」
「あまり気が進まないな」
「でしょうね。そこで二つ目、最も簡単で最も楽な方法です。全て何でも無かったことにすれば良いんです」
「どういうことだ」
「涼宮さんは貴方に『好き』と言ったわけではなくただ『一緒に居たい』とだけ言ったそうですね?ならまだなんとかしようがあります」
このハンサム野郎の言いたいことがよく解からないんだが。
「何も言わなければいいんですよ。向こうもその話には触れてこないはずです」
なんとまぁ・・・単純な方法ですこと。
「本当にそれで大丈夫なのか?」
「ええ、それで涼宮が『ああ、キョンはあのことをなんとも思ってないんだ』と思わせれば成功です。ただ、貴方が少しでも変な素振りを見せたら涼宮さんはそれを『気にしている』と判断するかもしれません」
「俺がこんなこと言うのも変だが・・・普通女子はそういうのを気にしてもらった方がいいんじゃないのか?好きな男子には」
「涼宮さんは仕切り直しがしたいんですよ。今回は何も無かった、このことはまた次の機会に、ということです」
まぁ理解はできたがなんとも不確実な作戦だな。
「おっと、着きましたよ?」
古泉がそういい終わるか終わらないか。今度は強力な前向きのGで、俺は助手席に鼻を強打した。やはり長門は全く動かない。
俺たちが降りると、タクシーは今度はゆっくりとしたスピードで走っていった。当然だが金は払っていない。
「で、ここは何処だ?」
「病院ですよ」
「それは解かる。何故俺たちは病院に連れてこられたんだ?」
「ああ、ここに涼宮さんが入院してるんですよ」
「・・・」

ただの風邪じゃ無かったのかよ・・・。


「入院した方が堂々と学校を休めるじゃないですか。これも涼宮さんが―――」
「願ったってか?お前今日そればっかだぞ」
「・・・それが本当なので仕方無いんです」
全く・・・。
事態は俺が想像してたよりずっと地味なものらしいな。『俺を好いてくれてる奴を助けに行く』なんて想像をさっきしたが、ハルヒは悪の組織み捕らわれているわけでも、不治の病でこの病院に入院してるわけでも無い。
俺がすること?ハルヒと世間話をすることかな。不自然じゃないよう。
「くれぐれも普通にお願いしますよ?普通に病気を心配する感じで」
「ああ、解かってるさ」
「最初は三人で入りましょう。後で飲み物を買いに行くといって僕と長門さんは退席しますので、その時に何か話してください」
なんとな~くベタな感じだが仕方無い。地味な任務でも一応世界かかってるしな。
「では、入りましょう」
古泉が俺と長門を率い、病院へと入っていった。院内はクーラーが効いていてとても涼しかった。
そのまま受付へと向かい、お見舞いの意を告げる。
「涼宮さんは302号室に入院してるようです。エレベーターを使いましょう」
ハルヒも無駄にデカイ病院に入ったもんだな。
ハルヒの部屋の目の前までついた。ドア横に『涼宮ハルヒ』と書かれたカードが貼ってある。なんと一人部屋のようだ。
古泉が迷いもせずにドアをノックする。
それから「いいですね?」と言わんばかりの顔でこっちを見てくる。遅ぇんだよ。
古泉がドアを開く。
「涼宮さん、こんにちは」
まず古泉が先頭で入りその後に俺、長門と続いた。
狭い部屋の面積のほとんどを占拠しているベッドの上で、ハルヒが上半身だけ起こして顔に驚きの表情を浮かべていた。
「キョン!?有希!古泉君!何しに来たの!?学校は!?」
「少々抜けて着ました。サボタージュという奴です」
「本当に!?私のために!?」
「ええ、僕達も心配だったもので。特に彼が」
そう言って古泉は俺の方を見る。いや、俺はハルヒが入院してたことをまず知らなかったんだが。
ハルヒと目があった。いつもと違う小動物のような目に俺はドキリとしてしまう。
・・・ここは何か言うべきなんだろうな。
「あー・・・、ハルヒ、病気は大丈夫なのか?」
「え?あ、ああ・・・何てことないただの風邪よ。なのにここの医者『一応検査入院しましょう』なんて言うの。訳わかんない。多分今日中に退院して明日には学校に行けると思うわ」
どんだけ回復力高いんだよ。
「クラスの奴らもビックリしてたぜ。お前が学校休むなんてな」
「そうなの?そういえば休んだこと無かったわね」
お前は秀才だから何日休んでも大丈夫だろうがな。
「・・・」
おっと、早くも話題が無くなってしまった。
古泉と長門の方を向く。救援を求めたつもりだったが、古泉は何かの合図と勘違いしたらしい。
「じゃぁ僕と長門さんで何か飲み物でも買ってきますよ。売店は一階にありましたよね?」
おいおい、このタイミングで居なくなるのか?それは無茶すぎだろ。
「それでは」
そう言うと古泉は長門を連れてさっさと部屋から出て行ってしまう。
長門が出て行きかけたときに少し振り返って俺を見たが、すぐ出て行ってドアを閉めた。
「・・・」
全く、何を考えてるんだ古泉は。
「あー、そうだ。SOS団の活動はどうすれば良い?団長が居ないとやっぱダメだろ?」
「明日は行けるって言ったじゃない。今日は休んでもいいわよ。どうせ今から学校行かないでしょ?」
今日は長門のお陰で堂々とサボれることになっている。行く理由は無いな。
「そうか・・・」
すまん古泉。もう話題が無い。何か考えないとダメか?
「ねぇ、キョン・・・」
俺が使わない頭をフル回転させて話題を考えていたとき。ハルヒが話し始めた。
よし、そっちが話題を振ってくれればオールオッケーだ。
「あのことだけど・・・」
「!」
あのこととは、もしかしてあのことか?おい古泉、話が違うじゃないか。
「ど、どのことだ?」
多少声が裏返ったが、気にしない様子でハルヒは続ける。
「ホラ・・・私が言ったじゃない・・・あのことよ・・・」
突然だがここで三つの選択肢を設けよう。俺は一体どう言えばいいのかね?
1.「ああ、あのことか・・・」
2.「解からん。ハッキリ言え」
3.「それはそうと長門が・・・」


諦めてそのことについて話すべきか、シラを切るべきか、話を逸らすべきか。
俺は考えた。そして結論を出す。
「ああ、あのことか・・・」
別に自暴自棄になったわけじゃないぜ?一応きちんと考えた結果だ。
2でも3でもハルヒはごまかせないだろうからな。それにここまで言わせておいて、ごまかしたりしたら世界の終わりの日が少し近づきそうだしな。
「そ、そう。ちゃんと覚えてたのね・・・」
ハルヒの顔がみるみる赤くなる。意外と解かりやすい奴だな。
「そ、それで?どう思ったの?」
「ど、どうって・・・」
まぁ・・・嬉しかったけども・・・正直言うのもこっ恥ずかしいな。
「別にどうも思ってないぞ?」
この返答で間違い無い筈だ。古泉はハルヒにとってこの事は気にしてない方が都合が良いって言ってたしな。
「そう・・・」
ハルヒはそう言って顔を伏せる。
・・・古泉、お前は間違ってばっかだな。今日のお前からの助言を実行して良かったことは一つも無いぞ。
ほら、今だってハルヒが泣い――――。
「うっ・・・うっ・・・」

ハルヒが泣いていた。


まぁ普通の男だったら目の前で女に泣かれたらかなり動揺するんじゃないか?そして俺は普通の男だ。
「お、おいハルヒ。何泣いてるんだよ!?」
「だ、だって・・・キョン・・・ヒッ・・・何とも・・・思ってないって・・・」
ああ、もう古泉。お前のことは二度と信用出来んかもしれんが良いか?
「も、もう泣くなよ!俺が何かしたみたいじゃないか」
俺がこう言うとハルヒの泣き声が少し大きくなる。そして、この次、ハルヒはがすごいことを言う。聞き逃すなよ?
「わ、私は・・・あんたのことがこんなに好きなのに!!」
「!」

俺は、次の瞬間ハルヒを抱きしめていた。ハルヒの心臓の鼓動がよく感じられ・・・ん?
ちょっと待て。俺今何やってんだ?ハルヒに何してる?
「キョン・・・」
ハルヒも俺の背中に手を回してくる。ちょ、ちょっとタンマ、マジで。
俺はいままで女と抱き合ったことなんか無い。相手はハルヒとはいえ、顔が燃えてるんじゃないかと思うぐらい熱い。
しかも、この状況。今更ハルヒの離すわけにもいかない。
・・・でも、こういうのも何か悪く無いな。
「ハルヒ・・・」
「・・・何?」
「もういいか」
「もういいかって、あんたから来たんじゃない」
「そうだったけど・・・」
「・・・もうちょっと」


結局長門と古泉が戻ってきたのは20分程後のことだ。
飲み物を買うだけにしてはかなり遅いだろうと思ったのだが、古泉は両手いっぱいのジャンクスナックまで買ってきていた。病院でそんなもの食っていいのか?
そのあとは4人で楽しく時間を過ごした。こんな小学生みたいな形容しかできない俺を許してくれ。実際そうとしか言いようが無いからな。
そのとき、俺は笑っていた。ハルヒも笑っていた。古泉は、いつも笑っている。長門は笑わないが、もしかしたら楽しいとは感じてたかもしれない。

これは、翌日の部室での話なのだが。
「古泉、一応聞くがお前如何なるか解かってたのか?」
「ええ、まぁ賭けみたいなものでしたが」
「なんで朝比奈さんも連れて行かなかったんだ?ハルヒも一層喜んだろうに
「彼女を連れて行くと、もしかしたら貴方が躊躇ってしまうかも知れないと考えたので。それに涼宮さんは貴方一人だけでも充分だったろうと思いますよ」
頼むから俺だけを過大評価しないでくれるか。お前らもきっとハルヒにとって大事な存在さ。
「ん?何故笑っているのですか?」
「何でも無ぇよ。つかお前が言うな」
俺はこの部屋に居る3人を長門、朝比奈さん、古泉の順に見る。この3人はきっと俺にとっても重要な存在だろう。
一人足りないが、もうそろそろ来るだろう。今にそのドアから―――。
「やっほー!あ、キョン、ちょっと職員室まで扇風機取りに行ってくれないかしら、一昨日買ったやつ!」
「ちょ、ちょっと待―――」
「つべこべ言わずにさっさと行く!」
俺はハルヒの蹴りによって部室の外に出される。
「・・・やれやれだぜ」
そうさ、俺はSOS団団員その1にして雑用係。それ以上でもそれ以下でも無いんだ。

あの日のことは、青春の思い出として大事に心の中にでもしまっとくよ。

                                       fin.





「訳わかんない」
「訳わかんないとは何だ。それ書くのにどんだけかかったと思ってるんだ」
「だって訳わかんないもんは訳わかんないんだもん。結局この主人公はヒロインのことを好きなの?そうじゃないの?終わり方も微妙だし。それに何よりなんでこんなにSF掛かりなの?私は『恋愛小説を書け』って言った筈だけど」
「その辺は読解してくれ」
状況を説明しよう。偽生徒会長のせいで、というか古泉のせいで「恋愛小説」なるものを書かなければいけないハメになったのだが、俺は信玄に攻め込まれた家康並に苦心して書いた恋愛小説が、今読んでもらったやつだ。
もちろんこのままというわけでは無い。本文の前に簡単なキャラ紹介となる序文を置いている。
ん?ああ、登場人物の名前ももちろん違う。キョンとかハルヒとかになってるのは誰かの脳内変換のせいだろう。
で、今それを読んだハルヒ編集長が俺に文句を言ってるとこだ。
「で、キョン。これってもしかして・・・誰か登場人物のモデルとか居るの?」
す、鋭い。
「べ、別に居ないぞそんなもん」
「嘘でしょ!まずこの『キュー』って奴があんたで、『大和』が有希、『夜神さん』がみくるちゃんで、この『阿部』ってのが古泉君でしょ?」
完璧だな。しかし・・・
「で、このヒロインの『ナツミ』は誰なんだ?」
「こ、これは・・・わ、私・・・?」
ほう、自分の性格は一応把握してるんだな。
「何勘違いしてるんだよ。ナツミはナツミであってそれ以外の何者でも無いんだよ」
俺の顔、ニヤついてないよな?誰か確認してくれ。
「そ、そうよね!何であんたと私が抱き合わないといけないのよ!」
そう言うとハルヒはくるっと椅子を回し、窓の方を向いた。まさか赤面してる顔を俺に見せたくないからそうしてる、ってわけじゃないだろう。
しばらくしてから、ハルヒは再びこっちを向き、多少声を上づらせながら言った。

「キョ、キョン。今日何か暑いわね。扇風機でも買いに行かない?」
進級直前。3月のことであった。

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