古泉「やっぱりここにいたのか」
キョン「古泉・・やっぱりとはどういうことだ?なんでお前がこの場所を知っている?」
古泉「スマン、俺のせいでおおごとになっちまった。センパイの命令をちゃんと断っていれば
  こんなことにはならなかったんだ・・今話をつけてくる」
キョン「あの黒服の集団は一体なんなんだ?」
古泉「黒服・・?なんのことかわからんが、あとはまかせろ」

そういうと古泉は、さっさと倉庫の入り口へ走っていった。

キョン「お、おい!待て」

あわててオレは後を追いかける。長門もそれに追従する。
倉庫のシャッターは閉ざされていた。古泉は倉庫わきの出入り口のドアを開け、
中に入っていった。

オレがドアの前に立ち、入ろうかどうかをためらっていると、中から古泉の
怒鳴り声が聞こえてきた。

古泉「なんだてめえら!ここでなにやってんだ!!」

どうやら予定外の事態が起きているらしい。オレは思いきって倉庫のドアを開けた。
中に目をやると・・・なんと、古泉が2人の黒服の男に銃を突きつけられていた。

キョン(!!!)

一人がオレの存在に気づき、銃口を向ける。思わず反射的に両手を挙げてしまった。
男が近づいてきたそのとき、長門がドアの横からオレの腕をつかみ、力任せに引っ張った。
バランスを失って転びそうになったが、なんとか黒服の銃口から逃れることができたようだ。

長門「よく聞いて。あの男たちをあなたが倒すの」
キョン(!!!)

長門がとんでもないことを言い出した。

キョン「できるかよ!」
長門「大丈夫。あなたならできる。・・信じて」

今にも男がドアから出てくる。ここで押し問答している時間はない。

キョン(そうだ。長門の言うことはいつだって正しかった。何度もオレの窮地を
   救ってくれた。その長門ができるっていうんだからオレはそれを信じるまでだ)

一瞬で覚悟を決めると、オレはドアの真横で男が外に出てくるのを待った。

キョン(・・今だ!!)
入り口から黒い影が見えた瞬間、そいつに向かって突撃を敢行した。

ドガッ!!

男はオレの体当たりをくらい、派手に吹っ飛んだ。地面に叩きつけられた男は、
気を失ったのかピクリとも動かなかった。

長門「その銃を拾って。中に入る」
キョン「おいおい、勝算はあるのかよ」
長門「・・あなたならできる」

さっきと同じことをくりかえす長門。

キョン(・・なにか引っかかる。大事なことを見落としているような感覚・・)
長門「急いで」

長門にせかされ、オレは再び覚悟を決めた。男が落とした銃を拾い上げる。

・・・思ってたよりも重い。握ってみると、オレの手のひらには多少もてあます大きさだった。

グリップが角ばっていて、ひどく持ちにくい銃である。

キョン(まあ、ないよりマシか・・)

長門とオレは倉庫内へ侵入した。内部はやけに広く、そこかしこに
コンテナが積んであり、いかにも港の倉庫内という眺めだった。
黒服の片割れは外の異変を感じ取ったか、入り口付近にはいなかった。

キョン(奥にひいたかな・・?慎重なヤツだ。古泉は捕まったのか・・)
キョン「長門、これからの作戦は?」
長門「黒服は全部で5人いる。残りは4人。その銃でなんとかして」

物騒なことを言う。ていうか、オレは銃なんて撃ったことはないぞ。
しかしその旨を長門に告げたところで、彼女が言う言葉は決まっているだろう。

キョン(あなたならできる・・か。なんだって長門はそこまでオレを信じれるんだ?
   オレのことをアクション映画の主人公かなにかと思ってるのか?)

しかし、銃を持ったマフィアみたいなヤツらがまだ4人も残っている。
長門の太鼓判があるとはいえ、さすがにオレは不安だった。
そんなオレの不安を読み取ったのか、長門は言い聞かせるように言った。

長門「あなたならできる。私は信じている」
キョン(やはりな・・理由を聞いたところで答えてはくれないだろう。
   しかし、長門がここまで言うんだ。きっとなんとかなる)

オレは長門の確信に満ちた言葉に勇気づけられた。なんだか、本当になんとかなるような
気がする。

キョン「ところで、ハルヒはどこにいるんだ?それに古泉はどうなった?」
長門「涼宮ハルヒは倉庫の2階に捕らえられている。古泉一樹も同じ場所へ
連れていかれる模様。・・2階へは奥の階段からしか上がれない」
キョン「敵はどこにいるんだ?」
長門「・・階段近くのコンテナの後ろに一人隠れている。このまままっすぐ歩いていけば
  コンテナの左側から出てきて銃撃してくると思われる」
キョン「わかった。ヤツが出てくるタイミングを教えてくれないか」
長門「了解」

オレたちは目標のコンテナまで大胆に間合いを詰めていった。
まるでハリウッドかカンフーアクションの主人公になったような気分だ。
不思議と恐怖心はない。なんたって長門のお墨付きをもらっているんだからな。

長門「・・今よ」

長門がそう言った瞬間、オレは斜め前へと走り出した。長門が言ったとおり、
黒服の一人が散弾銃を構えて飛び出してきた。

キョン(今だ!)

オレは散弾銃を構えている男の手を狙い、引き金を引いた。
思ったよりも大きな銃声が倉庫内に響いた。男は一瞬ひるんだようだが、
惜しくも弾は当たらなかったようだ。ヤツは再び散弾銃を構え直した。

キョン(しまった!・・しかし大丈夫だ。ヤツの弾はオレには当たらないはず)

根拠のない自信を持ってオレは銃を構え直す。再び引き金を引いたのと同時に、
ヤツの散弾銃も火を吹いた。
恐ろしいまでの銃声が倉庫中に響き渡り、そして男は倒れた。

キョン(やったぞ!)

オレは長門のほうに振り返り・・・自分の目を疑った。
なんとそこには腹部からかなりの血を流し、今にも倒れそうな長門がいた。

キョン(しまった!)

オレは、崩れ落ちるように倒れる長門をとっさに抱きかかえる。・・気は失っていないようだ。
しかし長門の息はかなり荒く、その手は力なくオレの袖を掴んでいる。

キョン(まずい!たぶん今の長門は再生能力を使えない!!)
長門「・・大丈夫」
キョン「痛むか?大丈夫だ、そんなに血は出てない」

大丈夫なわけがない。散弾を腹にくらったんだ。平気なほうがどうかしている。

キョン(いかん。こんなときに体が震えてきやがった・・
オレのせいで、オレのせいで長門が・・オ、オレは、オレは・・・長門が・・)

長門「落ち着いて・・問題ない。私にはわかっている・・・よく聞いて」
キョン「長門・・」

長門「・・あなたがそんなことを望むはずがないもの」
キョン(!!!)

キョン(そうか・・そういうことなのか・・・)

長門の言葉に、さっきから引っかかっていた疑問がみるみる氷解していった。
ようやく今はっきりとわかった。やはりそうだ、そういうことだったんだ・・・

長門「あなたを信じてる。後はお願い・・」
キョン「わかった」

オレは長門の頭を軽くおし抱くようにしてから、コンテナの壁にもたせかけた。
キョン(ちょっとの間の辛抱だぞ、長門)

つまりはこういうことだ。長門は倉庫に突入する前、勝算はオレ次第だと言った。
彼女はオレが弱気になるたび、勇気づけてくれた。その言葉に、オレはいつしか
本気でなんとかなると信じこんでしまった。実際2人の敵を倒すことができたし、
銃弾をくらうこともなかった。ただの高校生であるこのオレがである。

誰がどう考えても、かなりウソくさい話である。アクション映画だって
ここまで都合のいい展開にはお目にかかれないだろう。まるでオレの思ったことが
次々に実現してるみたいじゃないか。

・・・その通りだ。ここへ来る前、長門はたしかにこう言った。


(時空改変能力は現実に存在している)

その言葉を信じるならば、答えはひとつだ。そう、時空改変能力は
このオレの能力だったんだ。
そう考えれば、このバカバカしいまでに都合のいい展開にも納得できる。

さっき長門が撃たれてしまったのは・・あのときのオレは長門のことにまで
気が回っていなかったからだ。オレは自分が撃たれないことは確信していたが、
長門が撃たれないというようなことはまったく考えていなかったのだ。

キョン(・・痛い思いをさせてすまなかったな)

長門の傷は、客観的に見れば致命傷に近いモノだろう。だが、いまやそんなことは
まったく心配していなかった。

キョン(それはオレがなんとかなるって思っているからさ)

オレがそう思っている以上長門が死ぬことはないし、おそらくあの傷だってものの数分で
完治してしまうに違いない。

キョン(さて、そろそろ始めるか)

オレはゆっくりと2階へ続く階段を上がっていった。

それからの戦闘はバカバカしいまでに一方的なものとなった。
オレは敵の銃弾を素手で受け止め、3人の黒服を相手に格闘した。
3人はカンフーを駆使してオレに襲い掛かってきたが、ものの数ではない。
テキトーにあしらった後、一人は裏拳で倉庫の壁に叩きつけ、一人は気功波で吹き飛ばし、
最後の一人にはシャイニングウィザードをかましてやった。

キョン(これ一回やってみたかったんだよなァ)

もう語るもバカバカしい内容である。オレはもう少しだけこのご都合空間を
楽しみたかったが、気持ちを引き締めた。

キョン(新たな敵が出てこないとも限らんからな・・めったなことは考えないようにしないと)

奥の小部屋に入ると、ぐったりしたハルヒが後ろ手に縛られたまま横たわっていた。
今起きられたらめんどうだ。もう少し寝ていてもらおうか。
奥を見ると、これまた縛られた古泉が転がっている。とりあえず2人の縛めを解いて
やることにしよう。

古泉「うっ・・・」
しまった。古泉の意識が戻ったようだ。さて、どうやってこの状況を説明したものか・・
そういえば、コイツの事情はまだ聞いてなかったな。この際だからちょっと問い詰めてみるか。

キョン「おい、これはどういうことなんだ?」

しらじらしいことを聞くオレ。

古泉「すまねぇ・・オレがセンパイの頼みを断ってりゃよかったんだ・・」
キョン(だからそこんとこ詳しく)

古泉が語るところによると、ヤツの中学時代の頃のセンパイがハルヒに一目ぼれしたらしい。
そのセンパイは古泉に、ハルヒのことを紹介してくれるように頼んだ。よくある話である。
特にハルヒと親しくなかった古泉は困惑したが、センパイの頼みを断るわけにもいかない。
ヤツはセンパイの頼みを叶えるために、ハルヒにつきまとい続けてたのだろう。

まったく相手にされなかったんだろうけど。
その矢先に今回の事件が起きたってことか。古泉は銃で武装した黒服の存在に肝を抜かれたようだった。


長門「終わったの?」

気がつくと長門が部屋の入り口に立っていた。傷は・・すっかりふさがっているようだ。

キョン「傷は大丈夫か?」
長門「完治している。あなたのおかげ」

おそらく黒服を生み出したのはオレの能力のせいだから、長門が撃たれたことはすべてオレの責任なんだが、
今はだまっておこう。たぶん知ってるんだろうけど。

さて、ここでオレのほうの事情もまとめておかなければならないだろう。
今回の事件は、オレの時空改変能力が引き起こしてしまったものだ。

高校1年の最後の月を迎えたオレは、ハルヒと仲良くなれないままクラスを離れてしまうのがイヤだった。
なんとかして仲直をするきっかけがほしかった。意識はしていなくても、無意識でそう思ってたに違いない。
そんな矢先に、長門がオレに声をかけてきた。・・今の長門ではなく、現実のおとなしい長門のほうだ。
長門がなぜオレに声をかけたのかはわからない。
もしかして、それもオレの能力が関係していたのかもしれない。

ともあれ、ハルヒと仲直りするきっかけがほしいというオレの願いが実現したのだろう。
長門から話を聞いて、オレは古泉と対決する覚悟を決めた。

・・・なぜかはわからないが、そのときからオレの能力が暴走しはじめたのだ。

その暴走は、当の古泉をすら巻き込んでしまっていた。ヤツは謎の組織の手先となり、
性格まで一変させてオレの前に立ちふさがった。
そしてハルヒは謎の組織に連れ去られ、オレは彼女を助けに向かう。

・・・このバカバカしいまでのベタベタな展開は、すべてオレの頭から出てきたものなのだ。

古泉の性格が変わってしまったのも、オレの妄想のせいに違いない。
かつてのオレの妄想の中では、ヤツは謎の組織の一員だった。

キョン(だけど、まだ腑に落ちないことがある)
キョン「どうして長門、お前が現実に出てこれたんだ?」
長門「詳しいことは後。この状況をどうにかするべき」

そうだった。考えてみれば、古泉はオレが引き起こしたこの事件とはまったくの無関係だし、
ハルヒに至っては一番の被害者なのだ。
なんとかして、この事件にオチをつけなくてはならない。



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