朝教室に入ると、ただでさえやかましいクラスのざわめきが
心なしか一回り大きくなったような気がした。

キョン「おっす谷口。クラスが騒がしいようだけどなんかあったのか?」
谷口「!」
  「・・・・・・」

こともあろうに谷口は、オレの目をみるなり不快な表情をあらわにして
男子グループの輪に逃げていった。
(なんだなんだ!?無理して愛想をふりまけとはいわんが、朝のあいさつをしてきた
クラスメイトに対してその態度はないだろ。オレが癇に障ることでもしたのか?)
その男子グループは、オレをチラ見してはクスクス笑っている。
一体なんだってんだ!?

動揺をなんとか抑えつつ、オレは席に座った。
キョン「おいハルヒ、今日のクラスなんか変だな」
ハルヒ「・・・・・」
キョン「おいハルヒ?聞こえてんのか?」
ハルヒ「・・・るさい」
キョン「え・・?」
ハルヒ「うるさいっつってんのよ!変なのはアンタの頭でしょ!気安く話しかけないでよ」
キョン「!!」

その瞬間、先生が教室に入ってきてホームルームが始まった。
谷口のほうを見ると、オレがハルヒに怒鳴られたことが愉快でたまらないといった風に
笑いをこらえていた。
ホームルームの間、オレは動揺するのを必死に抑えていた。なぜだ?
こともあろうにハルヒまでがこの態度とは・・・

午前中クラスの冷たい視線に耐え続け、昼休みになるとオレは逃げるように
SOS団部室へと走っていった。部室ではいつものように長門が本を読んでいた。


キョン「長門、ちょっと話を聞いてくれないか」
オレは長門に会って多少安心した。今朝クラスメートの様子がヘンだったのは、
なにかおかしなことが起きてるに違いないと思ったからだ。新手の閉鎖空間か、
はたまた情報ナントカのしわざかはわからんが。
長門ならこの奇妙なパラレルワールドをなんとかしてくれるに違いない。
今までだって、ずっとそうだった。

長門「出てって」
キョン「ど、どういうことだ長門。お前ならこのワケのわからない状況をなんとか
   元に戻してくれると思って・・・」
長門「なにを言っているのか意味がわからないけど、すぐに出ていかないと人を呼ぶわよ」
キョン「長門・・・」

ハルヒ「有希になにしてんのよ!この変態男!」

突然後ろから怒鳴り声が襲ってきた。ハルヒだ。

ハルヒ「アンタ2年の朝比奈先輩だけじゃ飽き足らず、今度はウチの部の
    有希にまでつきまとうっていうの!ただじゃおかないわよ!」
キョン「ちょっと待ってくれ!全然訳がわからん。オレが朝比奈さんにつきまとってるだって?
   オレたち同じSOS団のメンバーだろ?放課後部室で遊んだり、たまに一緒に下校したりは
   してたけど・・」
ハルヒ「はぁ!?なにワケのわかんないこと言ってんの?なんなのよそのナントカ団てのは!
    大体学園のアイドル朝比奈先輩がアンタみたいなのと一緒に帰ったりするはずないでしょ!
    このストーカー男!」

これ以上部室にいればハルヒに刺し殺されかねない剣幕だったので、
オレは退散することにした。

教室に戻ると、クラスメイトがいっせいにオレのほうを向き、すぐに目をそらした。

谷口「な、言ったとおりだろ?アイツ5組の長門にもつきまとってるんだってさ」
朝倉「やだ。怖い」
国木田「なにを考えてるんだろうね」

谷口たちの悪口が聞こえてくる。どうやらオレは朝比奈さんと長門につきまとう
ストーカー野郎ということらしい。まったく考えられない話だ。
ここは閉鎖空間に違いない。ハルヒのせいなのか?オレをこんな
ムナクソ悪い設定の中へ放り込んだのは。

はは、なんだか涙がにじんできた。さっきから手足の震えも止まらない。
いじめを受けるってのはまさにこんな感じなんだろうな。3日も続けば確実に
精神が崩壊する自信があるぞ。

休み時間が終わるまで机に突っ伏していたら、終了間際にハルヒが戻ってきた。

オレはハルヒがイスを引く音にビクっとした。

ハルヒ「ちょっとアンタ!」

ハルヒの怒声でさらにビクっとする。まるで肉食獣を前にした小動物の心境だ。

ハルヒ「アンタがなにを考えてるのか知らないけど、今度有希に近づいたら
    ただじゃおかないからね!文芸部部室にも一切近づかないでよ!」

どうやらこの世界のハルヒは文芸部に所属しているらしい。まったく似合わんが。
SF研とかオカルト研のほうがまだハルヒらしいのにな。

休み時間が終わり午後の授業が開始されたが、軽いパニック状態に陥っていたオレは
まったく授業が耳に入ってこなかった。クラスの連中はときどきオレの方を向いては
笑いをこらえている。なにがそんなにおかしいんだろうな。

午後の授業が終わり、ホームルームをなんとかやり過ごし、
オレは逃げるように教室を出た。
まだパニックはおさまっていないみたいだ。朝比奈に襲われたときも、
ハルヒと閉鎖空間に閉じ込められたときだってこんなに動揺はしなかったはずだ。
あときのほうがはるかに現実離れていたのにな。おかしな話だ。

キョン「これからどうすっかな・・・」

ひとけのない校舎裏に避難したオレは、誰に言うわけでもなくつぶやいた。
ここが新たな閉鎖空間だとしても、そろそろ古泉あたりが助けにきてよさそうなもんだ。

キョン「古泉~~~!!とっとと来い!!このムナクソ悪い空間を破壊してくれ!!」

思わずオレは叫んでいた。もう1分だってこんなトコにはいたくはない。
しかしオレの声を聞きつけたのか、誰かがこっちへ向かって歩いてくる。

古泉「なんだ?お前。オレになんか用か?」

やってきたのは古泉だった。しかし、いつもの古泉とは雰囲気がまったく違う。
片耳にこれでもかというほどピアスをつけ、ヨレたYシャツをだらしなく着ている
DQNが目の前にいた。片手には木刀を握っている。
オレの知っている古泉はこんなDQNではない。間違いなく本物ではないようだ。

古泉「お前ウワサのストーカー野郎じゃねーかよ。
   なんでオレの名前叫んでたんだオイ!」

ヤツの普段のさわやかフェイスは気に入らないが、こっちのDQNフェイスはそれ以上だな・・・
などと考えているうちに、古泉がオレの胸ぐらをつかんできた。

古泉「お前涼宮にちょっかいかけてるらしいな・・・
   あんまナメたことしてっと前歯叩き折るぞコラァ」

なんてこった。DQN古泉はハルヒに気があるらしい。どーぞお幸せに。
誰も止めはしないぞ。付き合いたいなら勝手にしてくれ。
しかし古泉の威圧感はオレの反論を許さない。というか、はじめてDQNに絡まれたオレは
ほとんど声が出ないぐらいビビっているんだ。

ドゴッ

不意に古泉から腹にヒザ蹴りを食らい、オレは前のめりに倒れた。

キョン「かはっ・・・」
古泉「チョーシ乗ってンじゃねえぞクラァッ!」

怒号とともに古泉はオレのわき腹にケリを入れる。

キョン「うぐ・・・ご・・」

ヤツのつま先はちょっとした鈍器と化し、オレのわき腹に容赦なく食い込んでくる。
オレはサッカーボールじゃねえぞ。

古泉「金輪際涼宮に近づくんじゃねーぞ!」

言いながらなおケリを入れ続けられ、不覚にもオレは気を失ってしまっていた。


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最終更新:2007年01月14日 01:16