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1話
 
 
 まだ、肌寒い春先、新学期で初めての探索の日。見事に雨が降っていた。
 今日の探索は雨が降ったから中止だ……なんてわけはなく、俺は傘をさしながら喫茶店へと歩いていた。
 まったくもって不愉快だ。こんな日は家の中でひたすらゲームでもやっておきたいぜ。
「キョン、遅いっ! 罰金!」
 はいはい、わかってるよ。それより、濡れるからさっさと中に入ろうぜ。
「遅れてきて仕切るなぁっ!」
 後ろでギャーギャーとわめくハルヒを無視して、喫茶店の中へと入った。
 冷えた体が暖まっていく。中は天国だぜ。
 注文を終えて、ふと窓の外を見ると、大降りになっていた。……こりゃ探索は中止だろ。
 おい、ハルヒ。探索は中止にしよう。こんな雨だとみんな風邪ひいちまう。
「……そうね。せっかく集まったけど、こんな雨じゃ有希やみくるちゃんがかわいそうだわ」
 そこに俺が含まれてないのはデフォらしい。まぁ古泉も同じく含まれてないのが救いか。
 じゃあ頼んだヤツを片付けたら即解散だな。
「はぁ? あんた何言ってんのよ、今日はあんたの家で暇を潰すわよ。ねぇ、みんな!」
「非常に良いアイデアかと」
「は、はいぃ……」
「………………」
 いつも通りの三者三様の反応。……っていうかお前等、少しは断れよ。
 ちょっと待て、俺の家で暇潰しなんてするな。早く帰って暖かくして寝てろ。
「何で病気でもないのに寝てなきゃいけないのよ。久しぶりに妹ちゃんやシャミセンにも会いたいし、いいじゃない」
 いいじゃないも何も、少しでも粘られたら折れないのをわかっている。
 仕方なく俺は了承した。……と同時に注文したコーヒーが来た。
 ミルクと砂糖を入れたにもかかわらず、俺は苦虫を噛み潰したような顔をしていたのだろう。
 朝比奈さんが申し訳なさそうに『すみません』と小声で言ってきた。
 あなただけなら喜んで家にあげますよ。
 そして、小降りになってきた時間を見計らって俺の家へと向かった。
 はぁ……なんだっていつも俺の家なんだよ……やれやれ。
 
 
「あぁ~! みんな遊びに来てくれたんだね!」
「そうよ、妹ちゃん。今日はみんなで楽しく遊びましょう!」
 ハルヒは家に着くと同時に妹と暴れ出した。朝比奈さんと長門も引っ張って行きやがった。ということは……。
「僕達も混ざりましょうか?」
 一人で行ってろ。ニヤけ面が3割増になってるぞ。
「おやおや、これは手厳しい。軽いジョークですよ」
 その軽いジョークとやらに厳しくツッコミを入れ、俺は部屋へと向かった。
 ……遅かったか。
 すでに俺の部屋は戦場と化し、朝比奈さんはベッドの上に横たわっていた。
 おい! 暴れるなら出てけ、二人とも追い出すぞ!
「う……ごめんなさい、キョンくん……」
「キョン! 妹ちゃん泣いちゃいそうよ、どうすんのよ!」
 妹が目に涙を溜めて、それをハルヒが口撃でカバーか。素晴らしい連携だ。
「静かにしてるから追い出さないで……」
 はぁ……。どうしても妹には甘くなっちまうわけだ。
 わかったわかった。近所に迷惑がかからない程度にハルヒに遊んでもらえ。
「ほんと!? キョンくんありがとう!」
 すぐに笑顔を浮かべ、ハルヒの胸へと飛び込んで行った。
 ……さっきの反省ムードはどこに消えたんだよ。
 そこからは、みんなそれぞれが楽しんだ。
 ハルヒと朝比奈さんと妹がじゃれあい、俺と古泉は適当なゲームをした。
 長門に至っては、俺の本棚を物色しては読み漁っていた。大した本は無いんだが、それでも集中できるこいつはすごいと思う。
 まぁ、なんだかんだで楽しい時間を過ごしていたが、いつの間にか部屋が静かになっていることに気がついた。
「すぅ……すぅ……」
 こりゃ驚いた。あの涼宮ハルヒが天使のような顔を見せてるじゃないか。
 隣りで同じように寝ている朝比奈さんと同じくらいのレベルだ。
 このツーショットはカメラに収めて部室に飾りたいくらい、綺麗なものだった。
「キョンく~ん、ハルにゃん達寝ちゃった……」
 しょうがないさ、疲れてるんだ。……ほら、代わってやるから古泉とゲームしろ。
「いいの?」
 あぁ。構わないよな、古泉。
「えぇ、僕は構いません。あなたにはてんで歯が立ちませんでしたからね」
 そう言うと、古泉と妹はテレビに向き直った。
 ふふふ……俺より妹の方が強いのはしばらくの間黙っててやろう。
 その時、俺のシャツの裾がクイクイと引っ張られた。
 ……どうした、長門。
 
「………………」
 無言で俺を見つめ続けた後、ゆっくりと腕をあげ、妹を指さした。
 ……呼べって言ってるのか?
 肯定の動作。
 長門から妹に話なんて珍しいな……。まぁ、長門が少しずつ打ち解けてきている証拠だよな。
 すでにゲームで古泉をボコボコにしていた妹に声をかけ、近寄らせた。
「どうしたの、有希っ!」
 相変わらず、年上を呼び捨てにするのはどうかと思うがしょうがない。
 長門は今度は無言で俺を指さした。
「この人の家での様子を聞きたい」
 ……はぁ?
「わたしには兄弟なる者がいない。だから《兄》というのがどういう物なのかを知りたいと思った」
 おいおい……いつの間にこんな人間的になってきたんだ? なんか、保護者代わりとしてはちょっとだけうれしいぞ。
「いいよ! えーとね、キョンくんはねぇ……優しいんだ!」
「ほう、それは興味深いですね」
「いっつもわたしが甘えると優しくしてくれるし、面倒も見てくれる。ちょっとネボスケさんだけど、最高のお兄ちゃんだよ!」
「…………そう」
 羞恥プレイの限りを尽くされたように恥ずかしい。顔は真っ赤だろうな。
 古泉がこっちを見てニヤニヤしてるし、長門も何かを観察するように俺を見てやがる。
 だがな……お兄ちゃんはうれしいぞっ!
「わわわっ! キョンくん痛いよっ!」
 うれしさのあまり、妹を抱き締めてしまった。
 ……言っておくが、俺に妹属性はないからな。本当だぞ。
「兄妹仲睦まじいですね。良いことです」
 作り笑いなのかどうかわからない表情をして言い放った古泉を責める気にはならなかった。
 俺も妹と仲良くできることはうれしいからな。……反抗期が来るのが怖いが。
 
 それから俺達は、長門を含めて4人でゲームを楽しんだ。最下位が古泉なのは言うまでもない。
「んぅ……っと、よく寝たわ」
 よぉ、ハルヒ。熟睡だったな。
「……関係ないでしょ。お腹空いたから帰るわ。みくるちゃん、起きなさい!」
 朝比奈さんを起こし、長門も一緒に引っ張って3人で出て行った。なんて自己中な奴だ。
 古泉は遅れて出て行った訳だが、帰り際に何かを俺に伝えようとしたのは気のせいだろう。
 ともかく、俺はやっと平穏無事な時間を手に入れ、夕食までの時間をシャミセンの世話に費やした。
 ……こいつの世話で心が安らぐとはな。
 まぁ、それからは特に何もなく、普通に過ごしたわけだ。
 明日は探索の無い日曜日。ぐっすりと睡眠を取って、明後日からの学校に備えるとするか……。
 
 
「キョ~ン~くん! 起きてよ、ご飯だよ!」
 う~ん……、今日は日曜日だ。もっとゆっくりと寝せろ。
「みんな待ってるんだよ! 早くぅっ!」
 ……おやすみ。
「何やってんのよ、バカ妹! こういうのはね、こうやるの。……起きろーっ!!」
 耳元で鳴り響くうるさい声に、俺の脳は完全に覚醒してしまった。
 誰だバカ野郎……ってハルヒ? 何故ここに……?
「何故ってキョン兄が起きないからじゃない。お母さんが待ってるから早く降りて来てよね」
 あぁ、そうか。……っておい、ちょっと待て。『キョン兄』ってなんだ。
 ハルヒは振り返り、平然とした顔で言った。
「なによ、『お兄ちゃん』ってでも呼んで欲しいの? そんなの似合わないわよ」
 もう一度振り返り、階段を妹と一緒に降りて行ったわけだ。
 …………決まってこういう時に頼るのはあいつしかいないか。
 俺は携帯を手に取り、電話をかけた。
 
『そろそろ来ると思ってましたよ』
 どういうことか説明しろ、古泉。
『そうですね……20分後にいつもの喫茶店に来て下さい。長門さんと朝比奈さんも呼びますので』
 わかった、すぐに行く。
 俺は電話を切ると、すぐに着替えて、誰とも話さずに家を飛び出した。
 まったく……ハルヒの奴、今度は何を血迷いやがったんだ?
 
 
つづく

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