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 不覚だわ……。あたしとしたことが熱を出すなんて。
 やっぱり昨日お風呂に入った後、薄着でプリンなんて食べてたからかしら。
 朝から体がダルくて動けなく、熱を計ると39度もあった。
 今日はお母さんも遅くまでいないし、家でゆっくりと寝とくしかなさそうね。
 
 
 目を覚ますと、午後15時くらいだった。
 お腹空いたなぁ……。でも体を起こすとキツい。
 しょうがないから古泉くんに頼んで何か買って来てもらおう。
 携帯を手に取り、電話をかけるとわずか2コールで繋がった。……授業中よね?
『どうしました? 涼宮さん』
 あたし今日熱出して学校に行ってないの。それでもし良かったら何か食べ物を買って来てくれないかな?
『おやおや、それは大変ですね。それならみんなを連れてお見舞いに行きますよ。学校が終わったらすぐに行きますので』
 ありがとう、古泉くん。……あ! でもキョンは連れて来ないで! 絶対に来るなって言っといてちょうだい!
 古泉くんは少し間を開けた後、クスリと笑って『わかりました』と答えた。……何なのよ。
 こんなに弱って、汗かいてて、髪もボサボサな姿は絶対にキョンに見せたくない。
 ……あたしも普通の女っぽくなっちゃったのかな。
 まぁいいわ、古泉くん達がくるまで寝ていよう。
 
 
 携帯から鳴るメロディであたしは起きた。どうやら古泉くんからの電話みたい。
 中に上がるように伝えて、体を起こした。
 頭の中で鐘が鳴っている。やっぱり薬くらいは飲んどくべきだったかしら。
「涼宮さん! 大丈夫ですか?」
 みくるちゃんが駆け込んで来た。
 大丈夫よ。ちょっと熱が出ただけだから。
 みくるちゃんの手がすぐさまあたしの額にくっついた。あ~……冷たくて気持ちいい……。
 
「ややややっぱりすごい熱です! わたしお薬飲ませる準備してきますっ!」
 ……そんなにヒドいかな、熱。
「こんな物しか買ってきてませんがよろしいでしょうか?」
 古泉くんが開いた袋には、柔らかい食べ物と薬が入っていた。
 さすがに気が利くわね、ありがとう。
「いえいえ、気に入ってくれてよかったですよ。少しでも食べたらすぐに薬を飲んでくださいね」
 大丈夫よ、わかってるわ。あたしも早く学校に行きたいしね。……って、何驚いてるのよ。
 古泉くんは普段の余裕の笑顔がなくなるくらいに驚いていた。
「す、すいません。まさか涼宮さんからそのような言葉が出るとは思わなかったので、つい」
 まったく失礼な話よね。あたしだってだんだん学校が楽しくなってきたのに。
 SOS団のみんなと……やっぱりあいつのおかげで。
 あたしは買ってきてもらった食べ物を食べて、薬を飲んで再び横になった。
 有希が濡れタオルを何回も取り替えてくれて、その冷たさを感じていると、また睡魔に襲われた……。
 
 
「ハルヒ、薬飲む時間だぞ」
 ん~……うるっさいわね。もう少し。
「そんなんじゃ治らないぞ。早く起きろ」
 
 黙ってなさい、キョン。……キョン!?
「なんだ、人の名前を連呼して。まったく……俺だけ絶対に来るななんて酷くないか?」
 うそ……さっきまで三人しかいなかったのに、いなくなってる。
 それどころか絶対に来て欲しくなかったキョンが来てる。
「ほら、これでも食って早く薬飲めよ」
 バカ! バカキョン! 来るなって言ったじゃない!
「いや……俺だって心配だったんだ。高熱で休みって聞いたからな」
 そうじゃない、この鈍感! 女の気持ちくらい考えなさい、早く帰れっ!
 キョンは少し顔をしかめて膨れっ面をした。
「なんだよ、その言い種。そもそも、みんなして俺を鈍感って何なんだ?」
 救いようがない鈍感だわ……。ともかく、早く追い出さないと……恥ずかしい。
 こんな格好で、しかも多分汗臭い。嫌われちゃう。
 とにかく、早く帰りなさい!
「あ、そうか。お前恥ずかしいんだろ、いつもこき使ってる俺に看病されるってのがさ」
 ~~っ、バカ! あんたなんか大ッキライ! 出てけっ!
 あたしは回りにある時計や、枕や、その辺の物を投げ付けてキョンを追い出した。
 バカキョン。人の気も知らないで……恥ずかしい。絶対に寝顔も見られた。
 だっさいパジャマだし、髪も整えてなかったのに。
 あぁ……しかも少し大声出したら辛くなってきた。
 今日は災難だわ、もう眠ってしまおう。
 口に水を一口含み、薬を飲んであたしは目を閉じた。次に起きたら熱が引いてることを祈って。

 ………………………。
 マズい、非常にマズいわね。
 眠れないどころか、頭の中で鳴り響く鐘の音が大きくなってきた。
 っていうか本格的にヤバいかも……。
 頭が痛くて涙が出てきた。誰か……来てくれるかな?
 
 痛む頭を抱えながら、あたしはみくるちゃんに電話をかけた。
『おかけになった電話は……』
 電源が切れてる。じゃ、じゃあ古泉くん……。
『……留守番電話サービスに……』
 ……有希は携帯持ってないし……どうしよう。
 辛い、苦しい。……だけどキョンには頼れない。恥ずかしいから。
 頭が割れるような錯覚を覚えるような頭痛。
 いつだったかな……たしか中学生くらいから病気になったことはなかったのに。
 こんなに辛くて、寂しくなるものだったかしら? キツいと気が弱くなるのかな?
 誰でもいいから……一緒にいて……。
 そう思った時だった。願いが届いたのか、あたしの携帯が鳴りだした。
 みくるちゃんかな? それとも古泉くんかしら?
 ディスプレイを確認すると……キョンだった。
 出ようかどうか迷ったけど、わがままを言ってる場合じゃない。
 今はとにかく誰かと居たかった。
 キョン……お願い、来て……。
 キョンが喋り出す前にあたしが口を開くと、一言『わかった』と返事が来て、電話が切れた。
 服を着替えたいし、髪を整えたい。……だけど、頭痛がそれを許さなかった。
 そもそも何で薬が効かないのよ。薬の意味がないじゃない。
 
「ハルヒ」
 頭を抱えて、涙を浮かべるあたしの目に、キョンが映った。
 それだけで、少しだけ救われた気がした。
「『あんたなんか大ッキライ!』じゃなかったのか?」
 そんなこと言ってないで近くに来て欲しいのに。誰かが近くにいるって安心感が欲しい。
 ……大ッキライよ。大ッキライだけど会いたかったのよ……。
 
 キョンはやれやれと言わんばかりに溜息をついて、あたしのそばに来て手を握ってきた。
「悪い、冗談だ。……大丈夫か? 何か欲しい物はないか?」
 キョンが近くにいる、優しくしてくれる。それだけで実際に変わらない痛みが、和らいだ気がした。
 そのまま……横についててよね。
 髪はしょうがないけど、だっさいパジャマ姿だけは見られないように、肩まで深く布団を被った。
「あぁ、ついててやるよ。だから痛いのを我慢して、目を瞑って寝ろ」
 言われた通りに目を瞑ると、不思議とすぐに睡魔がきた。
 誰かがいるって安心感があるからかな? それとも近くにいるのがキョンだから……?
 離したくなかった手を絡み合わせて、あたしはゆっくりと眠りについた……。
 
 
 夢を見た。何でもない、日常の夢を。
 クジを引いて、キョンと二人で探索に出る夢。
 ただ、一つだけ違うのは、しっかりと手を絡み合わせて繋ぎ、二人とも幸せそうに笑っていたこと。
 夢は夢でしかない。これは変えられない事実。
 ……でも、いつかはあたしもあんな風に笑いたいな。
 
 
 目を覚ますと、まだ少しだけ頭が重かった。でも、昨日よりはだいぶ楽。
 
 そして、もう一つ重かった。あたしのお腹の辺りに、伏せるようにキョンが寝ていたから。
 ……布団も無しで、あたしの手を握ったまま。
 ずっとついててくれたんだ……。
 キョンの頭を叩いて起こす……何てことはせず、頭を抱えて優しくキス……みたいなこともしないで、あたしはただ、キョンの頭を撫でた。
 静かに部屋に響く寝息。その持ち主は、鈍感で、バカなんだけど、時折とてもうれしいことをしてくれる。
 そのままキョンの頭を撫でたまま、あたしは呟いた。
「いつもありがとう、キョン」
「……どういたしまして」
 ……えっ!?
 キョンは何事も無いように体を起こすと、大きく伸びをしていた。
 しまった、聞かれちゃった。……恥ずかしい。
「どうだ? 気分は。熱は……まだ少しあるな」
 テキパキとあたしの額に手を当てたり、タオルを絞って置いてくれたりしているのを、黙って見ていた。
「そういえば、お前の親は帰って来てるんじゃないのか? ちょっとマズいかもな」
 そうだ、お母さんが帰って来てる。たぶんあたしの部屋にキョンがいることもわかってる。
 ふらつきながらも急いで部屋を出て、お母さんの元に向かった。
 
「なんか言われたか?」
 部屋に戻ると、キョンが布団を整えつつ聞いてきた。
 ううん。迷惑かけたみたいだから、後でお礼させてって言ってただけ。
「そっか。……よし、布団はOKだ。ほら、横になれ」
 言われるままに横になった。すると、額の上に再び濡れタオルが乗っかった。
「まだ大事を取って休んでろ。俺は学校に行く。放課後また見舞いにきてやるから」
 キョンがゆっくりと立ち上がって、一歩を踏み出そうとした時だった。
 あたしは何をしてるんだろう。キョンのシャツの裾を引っ張っていた。
 
「どうした? 水か? ……あぁ、朝飯か?」
 あたしは首を横に振るけど、言葉が出てこない。たった一行の言葉。
『まだ、一緒にいて』
 これが口から出てこない。お母さんはいるけど……それ以上にキョンに居て欲しいのに。
「……ハルヒ、お前寂しいのか?」
 そ、そんなんじゃないわよ! ただ……まだキツいから一緒に居てくれたら楽だなって……。
 キョンはちょこっと余裕の笑みを浮かべた。
「でも、ハルヒは俺のこと『大ッキライ』だからあんまり一緒に居たくないだろ?」
 昨日からキョンは優しいけど、いじわる。
 あたしが元気がないから、いつもの反撃をしているのだろうか?
 ……何でもいいわ。《好き》とか《嫌い》とかは今は関係ない。
 ただ、一緒に居たいから、あたしは頭を使って口を開いた。
「あたしが言ったのは《キライ》であって《嫌い》じゃないの。だから昨日のは冗談だったのよ」
 自分でも恥ずかしくなるような苦しい言い訳。かっこわるい。
 そんなあたしの言葉を聞いて、キョンは声をあげて笑っていた。
「ははははは! ハルヒらしくないな、……わかったよ。一緒に居てやるよ」
 恥ずかしさのあまり、頭まで布団を被っていたあたしに、キョンは優しく手を置いた。
「病気で辛い時くらい素直に甘えろよ。そんなに俺は信用ならないか?」
 顔だけを布団から出し、首を横に振った。
「なら普通に横になれ。今からお前の親にタオル用の水を変えてもらってくるから」
 キョンは部屋を出て行った。あたしの心臓は高鳴っている。
 キョンが一緒に居てくれる喜びと、さっき言った自分の言葉の恥ずかしさに。
 そして、なによりもキョンの頼りになる一面に。
 
 ……惚れちゃったかも。でも、勢いで告白したりするのは嫌だな。
 いろいろと考えていると、キョンが戻ってきて、タオルを変えてくれた。
「よし。後は……手を繋いでてやればいいか?」
 ううん、ここに来て。
 体を少しずらして、ベッドを半分開けた。
「……おい、ふざけるな」
 ふざけてなんかないわよ。……あ、寒い。凍え死んじゃいそうだよ、キョン。
「……伝染ったら慰謝料取るからな」
 布団に並んで入ってくれたキョンの腕を取り、自分の頭の下に置いた。
 たぶんね、あたし熱が出て免疫が低下してるから精神病にかかったんだと思うの。
「……そうか。だからこんな奇妙な行動をとらせるわけか。それで、その精神病は熱が引いたら治るのか?」
 ……さぁ、わからないわ。あんたは治った方がいいと思う?
「俺は……どうだろうな、わからん」
 やっぱり肝心な所でキョンはお茶を濁す。
 ……やっぱりキョンはキョンね。ん~、暖かい。
 腕まくらをされたまま、あたしは伸びをした。
「あんまり動くなよな、痛いから。あぁ、もしも伝染ったら……慰謝料だけじゃなくて看病もついて来るんだよな? 精神病の分まで」
 ん?それって……。
「こういうことだ」
 あたしが枕にしてるキョンの腕が曲がり、あたしの体がキョンとぶつかって、抱き留められた。
 
「どうやら病気に先立って、精神病だけが伝染ったらしい」
 あたしのが伝染ったらしいわね。……こんなにうれしいことはないわ。
 深呼吸をして、らしくないセリフを吐いた。今なら熱のせいに出来るから。
「キスして。出来るだけ優しく……ね?」
 あたしは当然してくれるもんだと思っていた。だけど現実はそんなに甘くない。
「断る。……それこそ病気が伝染っちまうからな」
 ……そうね。でもいいわ、治ったら飽きるほどやってもらうから。
 いや、違うわね。治ったら飽きるほどやってあげるじゃないとダメね、あたしが求めてるみたいになっちゃう。
「はぁ……どっちでもいい、早く寝ろ。俺は早くお前と一緒に学校に行きたいんだ」
 この何気ないキョンの一言がうれしくて、恥ずかしくてあたしは目を伏せた。
 昨日は掌だけで伝わっていた感覚が、今日は全身にある。
 キョンと気持ちが繋がっている。……もう病気さまさまね。
 しばらく目を閉じていると、聞き慣れた寝息が聞こえてきた。
 こういう空気の読めない辺りは大ッキライ。……でも、大好き。
 気持ち良さそうに眠る顔に、もう一度だけ言葉をかけてあたしも眠った。
 
「おやすみ……大好き」
 
 
おわり

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