朝比奈さんの死後、涼宮さんの精神状態は再び安定してきました。
それと同時に、僕の平穏とでも言いましょうか、
スケジュールがいつも通りのものになり、今ではぐっすり寝られます。
いやあ、よかった。
SOS団は気が付けば三人になり、その件で生徒会室に向かいました。
すると中から妙な音が聞こえるので、中をそっと覗き見ると……
喜緑さんが全裸で犯されていました。体は体液で濡れ、目は虚ろですが、
笑っていました。そして今少なくとも二人の男性に、なすがままです。
とりあえず、その場を離れました。

『妙なことになっている』
 電話口で新川さんが告げました。しかしこれは一体……?
『以前から彼からの連絡に対して不審に思っていた』
これも涼宮さんの力のせいでしょうか?
『わからん。だが今までのことが全て妙だ。
彼女近辺の女性がほとんど何らかの被害を被っている。
おそらく何らかの形で――』
僕は電話を取り落としました。閉鎖空間が発生したためです。
しかも、今までにない数の。
僕は急ぎました。涼宮さんのいる部室に。
閉鎖空間へ向かうより、問題を直接取り除いたほうがいいと考えたからです。
部室が面した廊下まで来ると、悲鳴が聞こえてきました。
それは紛れもなく涼宮さんのものであり、
近づけば近づくほど大きいものとなりました。
そして部室の前で聞いた最大の悲鳴――断末魔を最後に聞こえなくなりました。
それと同時に、閉鎖空間も消滅しました。
嫌な予感がした僕は勢いよく扉を開け、目にしたのは、
彼が涼宮さんを刺殺した姿でした。
「ははは。見ろよ古泉、神を殺しちまったぜ?」

彼の狂気じみた笑顔を、僕は黙って見ているしかありませんでした。

少したって、僕をすり抜けるように長門さんが中に入っていきました。
長門さんは、僕と彼を見据えて、言いました。
「涼宮ハルヒは自分の周囲に存在していた女性を、無意識に疎んでいた」
「何でだよ」
彼が問う。すると彼女は彼を見て、
「あなたのせい」
そう言ってのけました。彼は少し後じさり、
「俺が何かしたか?」
自分を指差して言いました。
「涼宮ハルヒはあなたに好意を持っていた。
ゆえに彼女は、その障害となりうる存在――あなた、ひいては自分の近辺の女性に危機感を抱いていた。そのため私達のことを無意識的に敵視し、能力を発揮した。一連の騒動はそれによるもの」
「じゃあ俺はハルヒに――」
次の瞬間、部室を揺さぶる地震が起こりました。
しかも震度は尋常じゃありません。本棚は倒れ、
湯のみや皿が落ちて割れていきます。
「涼宮ハルヒの死によって、世界の崩壊が始まった」
「何とかならないのか!?」
僕達は立っていられずしゃがみ込み、揺れによる被害を軽減していました。
「一応出来る。私が以前のように世界を創造すれば――」
「あれか! 頼む!」
「でも前のように戻ることは出来ない。それでもいい?」
「ああ。お前を信じる!」

お二人には見えませんが、入り口にしゃがんでいる僕からは、
窓から世界が崩壊していくさまが見えました。
まるでガラスの破片が吸い上げられていくように、
世界が――山や町がどんどん消滅し、暗闇になっていく。そんなところです。
長門さんが「呪文」を唱えている間、彼はずっと彼女の手を握っていました。
それを見て、何故それが涼宮さんに与えられなかったのか、考えました。
それは一種のきまぐれだと思うんです。一時のことで運命は変わり、
一人の女性が幸せになり、一人の女性が不幸になる。
ちょうど、手を握ってもらい、心配されている長門さんと、
刺殺され、放置されている涼宮さんのように。
崩壊が進み、もう暗闇は間近に迫ってきています。
暗闇が校庭を喰らいつくし、こちらに――
それよりはやく、僕の視界、いや意識がブラックアウトしました。

暗闇の中、僕は立っていました。そこに長門さんも立っており、
僕は近寄ります。長門さん、一体どうなったんですか?
「世界の再構成に成功した。今は移行までのインターバル」
「そうですか。それで彼は?」
長門さんは首を振り、続けました。
「あなたに頼みがある」
「出来る限りでなら、何でもどうぞ」
「あなたには今までの記憶を持っていてもらいたい」
それは彼の方が適任では? 長門さんはまた首を振り、
「彼にはやり直してほしい。今までのことを」
長門さんは一度言葉を切り、
「今日まで私は幸せだった。
でもそれは狂った歯車がたまたま私を引き当てただけ。
今度は、ちゃんと正々堂々、彼を手に入れる」
長門さんは目の高さで片手をぎゅっと握りました。
「それで、どんな世界なんです? あなたが創った世界というのは」
「今までの勢力関係や能力を無にし、皆普通の人間として生きる世界」
それは何故か平凡そのもののはずなのに、どこか神秘的な響きだった。

「前回との変異点は、全員北高に通っていること、それだけ。
入学式から始めるから、後は私にもわからない。
でも、間違った方向に進みそうなときは、あなたが正して」
わかりました。僕だけその世界をそのまま味わえないのは残念ですがね。
「ありがとう」
長門さんが初めて僕に微笑みかけてくれました。
なるほど、彼が恋慕の念を抱くのも、無理はありません。
闇が裂け、光が生まれ、光は広がっていき――

前回は味わえなかった北高の始業式。お偉い方の長広舌が終わり、
今はクラスでの自己紹介をやっています。
しかし、なんと言うか、長門さんは本当に細工をしていないんですかね?
僕は左を見る。そこには彼と涼宮さん。そして長門さんがいました。
ここまで都合よく集まってしまうと、喜びよりも恐怖を感じてしまいます。
彼の自己紹介が終わり、いよいよです。
涼宮さんが立ち上がり息を大きくすって……
「東中出身、涼宮ハルヒ! 宇宙人や未来人、
超能力者がいたらあたしの所にきなさい! 以上っ!」
その晴れやかな笑顔は、とても眩しいものでした。
長門さん、強敵ですよ?

今日の天気は快晴、まったくもって、探索には相応しい。 

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最終更新:2007年01月12日 00:57