「紅茶……でいいわよね? コーヒーきらしちゃってるから」
――カチャ
「ハーブには心を落ち着かせる効用もあるし、タンニンは体にいいわ。 ……飲まないの?」
――カチャ
「……そう。まあいいわ、別にお茶が飲みたくて、来てるわけじゃないもの、ね?」
「……正直なところ、私はどうかしてたと思うわ……不思議探索なんて……」
「え……? あ、違うわよ。今のことじゃなくて、中学の頃の話。」
「……自分でもわかってたわ。無駄に知識だけ持った子供が、公園走り回って、自分の知らないことを見つけるなんて……ありはしないわよ……」
――ズズッ
「それが元で、変人扱いされて……友達もいなくて……損ばっかりじゃない、私のすることとは思えないわ。」
「でも、だからといって、すぐそれをやめられるかなんて、出来ない。そんなこと……」
「どうして……って……バカみたいじゃない……探索なんてやめて、誰かと仲良くなって『あの時は何してたの?』なんて聞かれたら……」
「……不思議探索してました。なんて言えるわけない、それだけでまた壁ができるわ。」
「無駄なことに時間を費やしていた、なんて思われたくないし、嫌じゃない。そんなの。」
「……まあね、そのままそうしてるのだって、変なのかもしれないわ。でも……」
「でも、例えばの話……高い代金を払って自分で買った本が、すごくつまらなかった、とするわ。」
「いいから、例えば、よ、例えば……! でね、それをつまらないってわかっていながら、誰かに貸したとして……」
「で、当然その誰かは、私の本をつまらないっていうじゃない? でもそれってどう?」
「……嫌よね? つまらないのはわかってるけど、大金はたいて買ったものを他人に批判されるなんて。」
「だから、私は悔しいから、その誰かにありったけの知識振り絞って、その本が実は凄く深い、だとか、不明瞭な価値をつけるのよ。」
「だって、バカみたいに損したなんて思われたくないもの。」
「……ま、つまりそれと同じよ。私自身がそれが無価値なものだと認めるのを拒んだ結果、それに価値をつける形になったってわけ。」
「この場合は、『本』が不思議探索で、『高い代金』が私の時間、わかるわよね?」
「……今でも高校入学当時のことはよく思い出すけど……あんな自己紹介……電波キテるって、思わなかった……?」
「しょ……正直な、って、ちょっと……! 失礼ね……! ……でも、私も……今はそう思うわ……」
「普通の人間には興味ありません……この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら……か……」
「はっきりいって……辛かったんだから、あんなの……でもやるしかなかった……!」
「私だって……高校入ったら、心機一転して誰かと仲良くして普通でもいいから平和な毎日を送りたいってずっと思ってたわよ……!」
「でも、私が高校に入って急に『普通』になったら……同じ中学の奴ら……どう思うと思う?」
「あ~あ、やっぱり中学時代寂しかったんだ……頭おかしいふりしてると友達できないから丸くなったんだ……とかでしょ?」
「そんなこと思われたら……私の中学時代はなんだったのって話になるのよ……」
「だから……私は私のやってきた方々を意地張ってやり通すしかなかったの……!」
「辛かったわ……! 本当に辛かった……! 家に帰って……明日、みんなに頭おかしいと思われるために何しなきゃいけないか考えるの……!」
「ずっとずっと私は泣いてた……ああどうしてこうなっちゃったんだろう……どうして普通の学校生活も送れなくなっちゃったんだろ……って」
「明日はどうしよう……明後日はどうしよう……誰か助けて……そう思って……た……」
「昔の好奇心からでたツケはこんなにも私に重くのしかかるなんて……本当に救いのカケラもないわ……」
「でもね……そこに初めて救いの手が見えたのよ……」
――ガタッ
「それが……アンタだった……」
「今のSOS団のこと考えると……私は私のやり方を貫いてきて本当に良かったって……思えるのよ……」
「初めて神様が私を見てくれた……ってね」
「だから、あんな仲間の集め方もしたし、強引過ぎるとも思ったわ……」
「でも……でも私はキョンを……失いたくなかった……!」
「だから……だからってのも言い訳かもしれないけど……今は……あれでよかったって思えるのよ……」
「我が侭なのかもしれないけど……止まない雨は確かになかった……って……」
「……全部言ったら、すっきりしたわ……今日はありがと……キョン……」
「え……? 帰るの……? そ、そっか……もう遅いからね、気をつけて帰りなさいよ!」
「……そうだ……! キョン、明日もうちに来なさい……! まだ話たいことがあったわ!」
「……うん、わかった……じゃあ、また明日……」
――バタン
「キョン……」
「……」
「……明日……私の家……誰もいないんだよ……」
〈end......〉