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「うげっ!」
朝一番からキョンのマヌケな声が聞こえてきた。いったいなんなのよ……。
「は、ハルヒ……。今日は何曜日だ?」
今日は水曜日だ。何を当たり前のことを聞いてるんだろうか、このバカキョンは。
「水曜よ。それがどうかしたの?」
「最悪だ……木曜の時間割持ってきちまった。水曜と被ってるのは体育だけしかねぇ……」
救いようのないバカだ。こんなのがSOS団の一員だと思うと頭が痛くなる。……ま、居てもらわなきゃ困る存在ではあるんだけどね。
キョンはしばらく頭を抱えて悩んでいた後、二、三歩隣りに向かって歩いた。
「なぁ、佐伯。今日一日だけ一緒に教科書見せてくれ。時間割間違えたんだ」
あたしの斜め前の席、キョンのま隣りの席にいる佐伯さん。その人にキョンは教科書を見せてもらうよう頼んでいた。……何でまずあたしに相談しないのよ。
「あははっ!キョンくんって意外に抜けてるんだね。いいよ、あたしが机動かしたげるよ」
キョンは『すまんな』とか言って、そのまま佐伯さんと話をしていた。
どうでもいいような話があたしの耳に入ってくる。笑い声、笑顔……。

あたしには見せてくれない表情や態度を佐伯さんには惜しげもなく見せている。
ふん、いいわよ、別に。あたし達は団長と団員なんだから……。


話が盛り上がってるのか、授業中も二人はコソコソと話していた。
いろいろな案を思いついたのに、キョンに伝えることが出来ない。だって、楽しそうなんだもん……。
シャーペンを突き刺したいはずのあたしの大好きな背中が遠い。
休み時間になってもその距離感はそのままだった。
「キョンくんって結構面白い人だったんだね」
「そうか?ま、あんまり喋らなかったしな」
「だねぇ~……あ、大野木が呼んでる。ちょっと行ってくるね」
やっと離れたけど……もう喋る気力も失せちゃった。佐伯さんが羨ましいな、授業中も喋れて。
「どうした、ハルヒ。なんかやけに元気ないな?風邪か?」
そう言ってあたしの額に手を当ててきた。恥ずかしい……もしかしたら顔が赤くなって熱があるのと勘違いされるかも……。
「なんともないな、元気出せよ」
ポンッと頭を叩くキョンに「余計なお世話よ」と言った。あ~、もう。バカ、鈍感。
……ってさっきからあたしおかしいわね。なんでキョンにかまって欲しがってるんだろう。
そうよ、なんにもイラつくことは無いじゃない。そろそろ二限目が始まるわ、切替えていこっ!

二限目になっても二人の会話は止まることはなかった。目の前で……煩わしいったらありゃしないわ。
「こら!キョン、佐伯。うるさい!廊下に出とくか?」
「「す、すみません!」」
たまには教師も役立つじゃない。これで落ち着いて授業を受けれるわ。
しばらくは大人しくしてた佐伯さんがコソコソしはじめて、キョンにニヤッと笑いかけた。
何してんだろ……。
ちょこっと体を起こして覗き込むと……二人は筆談を始めていた。

う、羨まし……くなんかないわよ。うん、キョンが誰と仲良くしてても関係ないわ。
あたしは恋愛なんていう精神病にかかってる暇なんてないのよ!
黒板に目を移す。その度に視界に入る二人の楽しそうな顔。なんなのよ、もう……。
こんな調子で三限、四限と消化していった。
やっとお昼の時間。今日は急いで行く気力もないしゆっくり歩いていこ。
「あれ、キョンくんもお弁当なの?じゃあわたし達と一緒に食べようよ!」
「あ、でも俺は谷口と国木田と食うし……」
「国木田くんと谷口も一緒なの?じゃあみんなで食べようよ、そっちの方が楽しいし……あ、涼宮さんもくる?お弁当分けてあげる!阪中が仲良くなりたいって言ってたよ!」
佐伯さんはいい娘だ。わたしなんかにも気をつかってくれる。キョンにはこんなお世話焼きが必要なのよね……。
「ううん、あたしは学食で食べてくるわ。そこのバカキョンに優しくしてやってね」
そう言って、教室から出て、学食に向かった。
なんか……全部が色褪せて見える。キョンと喋らないとこんなにも普段がつまらないなんてね。
キョンはあたしにとって、もっとも大事な人だったんだ。ずっと喋っていたいと初めて思った。
でも、もう佐伯さんと仲良くなって、かなりいい雰囲気だから、あたしとだけずっと喋るなんて絶対に無理だ。
バカキョンにこんなに悩まされるなんて……。
中途半端にあたしに優しくするから。中途半端にかまってくれるからあたしが勝手に勘違いして好きになっちゃったのよ……バカ、鈍感。
食堂で一人でご飯を食べて、中庭で授業まで一人で休んだ。
キョンが他の女の子と仲良くしてるのを見るのが辛いから。

……あ、次は体育だったっけ。そろそろ戻ろう。


着替えを済ませて、体育館へと向かった。今日はバスケだ。
準備体操、点呼と済ませて班にわかれてパス練習をする。この班が佐伯さん達と一緒なのがあたしの溜息の回数を促進させた。
さっきお昼も断っちゃったしやり辛いな……。
男子は外でサッカーをしてるのが見えた。陽が暑いのによくやるわね。
キョンはどこかな……いた。突っ立ってたら抜かれるわよ……やっぱり。しかもしりもちまでついた、かっこわるいわね。
「涼宮さん、そっち!危ない!」
「へ?」
頭に重い衝撃が走った。ボールが当たったみたい。そのまま、倒れた拍子に頭を打った。
天井がぼやけて見える……キョンよりかっこわるいわね、あたし。別にいいや、このまま寝ちゃおう。
あたしはそのまま目を閉じた。


次に目が覚めたのは保健室だった。なんかスカスカする、体育服のままだからか。
「あ、よかったぁ……起きてくれたね」
あたしの横には、佐伯さんがいた。
「涼宮さん、ごめんね?こっち見てると思って投げちゃったら……」
「ううん、あたしがよそ見してたから。それより授業は……?」
「今、六限目だよ」

そんなに寝てたんだ。佐伯さんにも迷惑かけちゃった。まだ……一人でいたいな。
「ごめん。あたしまだ頭痛いし、寝とくから戻っていいわ……キョンをよろしくね」
頭から布団を被り、何も聞こえないようにしてもう一眠りした。
お礼の一つも言えないくらい、あたしは佐伯さんの顔を直視出来なかった。
もう、最低だ。自分が嫌い。こんなんじゃキョンにも嫌われちゃうよ……。
そのまま布団を被ったまましばらくの間、涙を流した。

「おい、いい加減起きやがれ。ハルヒ」
……また寝ていたみたい。目を覚ますと今度はキョンがいた。
「大丈夫か?今日はなんかおかしいぞ?お前」
えぇ、おかしいわよ。だって精神病にかかっちゃったんだもん。
「精神病?何言ってんだ。ほんとにだいじょ……「キョン、お願い。しばらく一緒に布団に入って」
あたしはキョンに背を向けてそう言った。キョンは驚いているんだろうな。あたしがおかしくなっていることに。
しばらくの沈黙の後、背中に暖かい感触が当たった。
……キョンが布団に入ってきた。
「これでいいのか?」
今度はキョンの方向を向いて、キョンの胸板に頭をつけて抱き締めた。……あたし、何してんだろ?
「ば、バカ!何をやってんだ、お前は!」
「うるさい。しばらくこうさせてよ」
あったかくて、落ち着く。ここをあたしの居場所にしたいと思った。
離したくない、離したくない……。
「……なぁ、ハルヒ。お前妬いてたのか?俺と佐伯が仲良くしてたから」
うえぇっ!?な、なんでわかるの?こんなに鈍感のくせに……。
あたしは沈黙を守ることにした。喋るとボロを出しそうだったから。
「阪中が言ってたぞ。『今日の涼宮さんはおかしい』ってな。『たぶん妬いてるんだと思うの』ってさ」

阪中さん……あたしのこと見てたみたいね。あたしと仲良くなりたいって言ってたみたいだから気付いたのかな?
「お前って、俺のこと好きなのか?」
このバカ、鈍感にも程がある!もう我慢ならないわ!
抱き締めている力を一気に強くした。
「そうよ!悪い?あたしはあんたが好きなのよぉっ!」
自分の力を全て込めてキョンを抱き締めた。……キョンと一つになりたいと、願いを込めて。
「痛ぇよ!離せ、落ち着け!マジで痛い!」
聞こえない。やだ、離したら絶対キョンは逃げちゃう。
その瞬間、顎を手で持ち上げられてキスされた。
かなりの不意打ち。この展開は予想してなかった。
さらに、ちょこっとだけ舌を入れられてあたしはだんだん力が抜けていった。
「な、何すんのよぉ……エロキョン……」
「やれやれ、どっちがエロだ。まったく……一方的に告って、死ぬ程強く抱き締めるってどんな人間だ、お前は」
だって……離したら、どっか行っちゃうと思ったのよ。
そう伝えると、キョンにデコピンを食らった。
「バカ。好きな奴から離れる理由なんてあるわけないだろったく……素直じゃねぇな」
え……?キョンも……?

「あぁ、好きだよ。離さないでいてやるから帰るぞ。そろそろ保健の先生帰ってくるからな」
あたしはキョンが出ていった保健室で一人着替えて、帰り仕度を整えた。
その時、携帯が震えた。見たことない番号だ、誰だろう……。
《もしもし、佐伯です。キョンくんに番号聞いたの。大丈夫?涼宮さん》
「あ、うん。全然平気」
《よかった!……キョンくんは来てくれたかな?上手くいった?》
顔が一気に赤くなった。何よ、そのセリフ。
《あはははは!動揺してるのかな?……わたし彼氏いるからやきもち妬く必要なんて全然ないよ?》
「へ?そ、そうなの?じゃあ、なんでキョンと仲良くしてたの?……いや、あたしの勝手な勘違いなんだけどさ」
《あなたとキョンくんと仲良くなりたかったのよ。阪中がえらくあなたを気に入っててさ!》
「そっか……あ、キョンが待ってるからもう切るね。また明日……よかったら一緒にお昼食べない?お弁当持ってくるからさ」
《……う、うん!一緒にね、約束ね!早くもラブラブだね、お幸せにっ!》
向こうから電話が切れた。
……あたし、少しは人を寄せ付けれるように変わったかな?
「お~い、まだか?あんまり遅いと覗くぞ……冗談だ」
変われたとしたら、外で待っているあたしの彼氏のおかげだ。
ドアを開けて、キョンを見上げた。
「ありがとっ!」
キョンは不思議そうな顔をしていたけど、すぐに笑いかけてくれた。
「よくわからんが、どういたしまして」
少し照れ隠しをするように早足で歩きだしたキョンの腕にあたしはしがみついた。
そして満面の笑みでキョンに向かって口を開いた。
「絶っ対に離さないんだからねっ!」


おわり
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