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入学してしばらく、SOS団という部活に慣れ始めた今日この頃。
朝倉が消え、山根が燃え尽きているのを見ながら、
「ああ、やっぱり朝倉は男女共に好かれてたんだな」と思っていた。
今は授業中。物思いにふけるにはちょうどよかったりする。
色々あった。
鶴屋さんはこの世を去り、朝比奈さんは学校に来なくなった。
しかたがないと今は納得している。
長門はいじめに遭い、それを見つけてから長門とは前より傍にいる。
またいじめられたら嫌だからな。長門はそのせいか前より表情を見せるようになった。
まあ気づけるのは俺くらいだけどな。ついでに行動もわりと積極的になった。それについて情報ナントカ体が気なったが、お目付け役の喜緑さんが何も言ってこないのだから、別にたいしたことではないのだろう。

「今日はみくるちゃんを励ましにいくわよ!」
放課後、ハルヒはまたはた迷惑なことを言い出す。
担当医からはOKサインが出されていないのだから、行かないほうがいいと思うだが。
「やめておけ。医者からは……」
「そうと決まればいざ出発!」
俺は拳を握り締めた。人の話を聞けよ。ハルヒはそんな俺を無視し、扉を開けて出ていった。
古泉はそれについていく。
「大丈夫?」
長門が袖を引いて訊いた。上目遣いのその仕草にくらっときたが、
何とか持ちこたえる。ああ。大丈夫さ。俺は長門の頭を撫でて言う。
「そう」
長門は気持ちいいのか、目を細めた。

朝比奈さんの家(マンションだ)は意外と俺の家と近い距離にあった。
……監視とかされてないよな?
事情を話して管理人と付き添いで鍵を開けてもらう。
それをハルヒが邪魔に思ったらしく、古泉が何やら携帯電話で密談を交わしている。
すると管理人の携帯電話が鳴り「ちょっとすいません」と辞した後、
共同廊下の一番奥、非常階段の辺りで電話に出たところ、
スネークこと新川さんが軽やかに管理人の後ろに躍り出たかと思うと、
すぐさま怪しげな液体の入った注射器を首筋に突き刺した。
ぐったりする管理人さん。さっさと飛び降りた新川さん。
ここ七階なんだけどな。ちなみにここまでの所要時間はわずか三秒。
とうのハルヒはまるで反応せず、管理人から奪った鍵でドアを開けようとしていた。まったくもって勝手なやつだ。

部屋の主に了解も得ずずかずか侵入するハルヒを見て、
しぶしぶと付いていく。普通、他人の部屋、
もしくは未知の空間に進入する場合、少しは歩く速度が落ちるものなのだが……ああ、忘れてた。
あいつは「普通」じゃなかった。「異常」である。
部屋の中は大きなリビングが大半を占めていた。
別になっているのはキッチンと風呂・洗面所、トイレくらいなものだ。
節操が無い間取りである。誰だ設計したヤツ。
朝比奈さんはその端っこのベッドに横になっていた。
朝比奈さんの周囲に散乱する衣類に目を奪われていたが、
長門に足を踏まれて正気を取り戻す。すまん長門。だが次からは優しくしてくれ。骨が折れる。

朝比奈さんは俺達に気づいたのか、だるそうに身を起こす。
寝間着姿がこれまたお美しい。……などと言っている場合ではない。
朝比奈さんは虚ろな瞳を俺達に向け、一言。
「おはようございます」
と告げた。今は夕方ですよ朝比奈さん。
この人が時間を間違えるということが、今回の事件の重さを伝わらせた。
閉め切った窓から入ってくる橙色の陽光がそれを引き立てる。
「みくるちゃん。学校に来なさい」
相変わらずの上級生に向かっての命令口調。
オブラートに包まないストレートな物言い。少しは優しくしてやれ。朝比奈さんだって疲れているだろうし。
「うるさい」
ぴしゃりと言われた。俺が悪いのか。
「学校を休むのはどうだっていいわ。でも部活には来なさい。
SOS団はマスコットキャラ兼メイドのあなたがいないと始まらないの」
お前のフラストレーション解消用の奴隷の間違いじゃないのか?……というつっこみは心にしまっておこう。俺も新川さんに始末されてしまう。
「…………」
朝比奈さんは長門のスキル、三点リーダの使用により難を逃れた。
いや、別に状況は改善されていないけどな。
「聞こえないの!?」
お前の大声を間近で聞いて聞こえないやつなんてこの近辺にいるのかどうか知りたいものだ。
「すみません! ごめんなさい! もう止めてください!」
するとどうだろう。朝比奈さんは決壊したダムのように謝罪を述べ始めた。しかしいつもとは違って何か物々しいものだった。
「嫌! もう嫌! 何であたしばっかり! 何で!? あたしが何をしたっていうの!? 鶴屋さんを返して! ねえ、返して!! お願いだから!!」
ハルヒに掴み掛かる。誰と勘違いをしているのだろうか。
しかも不登校の原因はまだ別にあるかのような口ぶりだ。
ハルヒはというと驚愕したまま表情を固定し、部屋から俯いて走り去っていった。
勝手に焚きつけて手に負えないからって逃げるなよ。
こういうときに限って尻拭いは俺に回ってくる。やれやれだ。

「朝比奈さん。落ち着いてください」
今にも暴れだしそうな朝比奈さんの両肩を押さえ、言ってみる。すると瞳に若干の光が戻り、
「キョン……君?」
はいそうです。気がつきましたか。
「あれ? 何であたしの家に?」
「団長の命令です」
「そういえば涼宮さんは?」
どうも先ほどまでの記憶が欠落しているらしい。俺は精神科医では無いのでさっぱりだ。
「えーと。まあ、先に帰りました。……古泉も一緒に」
古泉もいつの間にかいなくなっていた。哀れな。
「そう……ですか」
「やっぱり女友達の方がいいですか?」
「いえ、その……涼宮さんと一緒にいると、思い出しそうだから……」
「……そうですか」
「何を?」と訊けなかった俺をチキン呼ばわりするならすればいい。
だけどな、あんな錯乱状態見せられた後でそんなことを訊けるほど俺はハルヒじゃない。
「学校に行く気はありませんか?」
一応訊いてみる。
「……考えたくありません。鶴屋さんがいなくなってから、
もうあそこにいる意味なんて無いんです」
「ハルヒの監視はどうなるんですか?」
これがきっかけになるなんてハナから思っていない。でも念のためだ。
「実はもう時間の断層はほとんどありません。
ですから涼宮さんの監視はもう大して重要性がないんです」
やっぱりか。重要なら代わりを送るはずだからな。
「私の任務は時間の断層が完全に修復するまでの間、
この世界――時間に変動が起きないか監視するだけになりました。ですから、別に登校する意味なんてなかったんです。ただそこいれば楽しかったから。SOS団や、学校生活が楽しかったから――ただそれだけなんです。でも……」
後は嗚咽で言葉にならない。朝比奈さんはふとんを涙で濡らした。

「なあ、長門。朝比奈さんに何かあったとき、止められなかったのか?」
朝比奈さんの家からの帰り道、長門に聞いてみた。
「出来たかもしれない。でも、そんな状況じゃなかった」
長門は一度言葉を切り、
「あの時はあまり広域の探知をしたくなかった。私への揶揄、悪戯を知ってしまうから……」
「そうか」
「ごめんなさい」
「お前のせいじゃないさ」
また頭を撫でてやる。最近くせになったきた気がするな。

「昨日は死ぬかと思いました」
翌日の放課後、部室で目にくまのある古泉が言った。
「ずっと神人が沸いてきて……仲間の一人は過労で倒れました。
いやあ、普段の1~2体ならともかく、30体以上出ると……ははは……」
徹夜明けのやつ特有の笑いで古泉はそれを締め括った。
今部室にいるのは長門と古泉だけだ。ハルヒはまだ来ていない。
いや、こないかもしれない。教室でもずっと黙っていたしな。
これに懲りてあいつも少しはまともに――
「みんないる!?」
なるわけがないか、やっぱり。

「あたし一日中考えたの! 
どうすればみくるちゃんが元気になるかって!」
そのための沈黙だったのか、とても残念だ。
「それでね、毎日あたしが説得に行けば、
なんとかなるんじゃないかと思うの!」
昨日の出来事をまるで教訓にしていないお前はそれはそれですばらしい。参考にはせんがな。
「というわけで、しばらくは三人で仲良くするのよ? じゃっ!」
ハルヒは乱暴に扉を閉め、走り去った。

足音が聞こえなくなったあたりで、古泉に聞いてみた。
「大丈夫なのか?」
「鍵は彼女が未だに所持していますので、問題はないかと」
「そっちじゃない。朝比奈さんの方だ」
「昨日の反応を見る限りでは、少々苦戦するでしょう。
ですが涼宮さんは同じ轍を二度踏みはしないと思います。
ですから昨日のような失態はないかと」
「どうだかな。むしろ朝比奈さんが苦痛を強いられている気がするぞ。
俺も行った方がよかったかもな」
「それではダメなんです」
古泉が人差し指を立て、掲げた。
「あなたを単身で行かせた場合、朝比奈さん、
もしくはあなたが何らかのアクションを起こすかもしれない。
涼宮さんは多分こう考えたのでしょう。
それに、彼女一人でこの件を解決すれば、彼女はあなたの自分に対する評価が上がる。そう考えていると思います」
俺の評価何か上げてハルヒに何の意味があるっていうんだ?
「そこらへんはご自分で考えてくださいよ」
古泉は肩をすくめた。そのとき、古泉の携帯が平凡な着信音を発した。
「……失敗のようです」
やっぱりな。

ハルヒの思いつきが開始されて数日、
俺と長門はいつも通りの平凡な日常を続け、古泉はやつれていき、
当のハルヒは一日中その日の作戦を考えていた。
余談だが山根は学校を休み、カナダ旅行に出発した。無駄なことを。
「自分が今どこにいるのか、たまにわからなくなるときがあります」
昼休み、部室で五本もの栄養ドリンクをストローで同時に吸い上げている古泉が言った。すでに目のくまはデフォルトになっており、髪はボサボサ。そろそろ髭が目につくようになってきた。
「そうかい。俺と長門はいつも通りだがな」
長門の手作り弁当を食いながら言う。
長門はすでに食い終わり、読書に耽っていた。
教室は最近弁当に切り替えたハルヒがいるので危険なのである。
「ははは。それはよかったですね。こちらはもう五日で五時間しか寝ていなくて……もう何がなんだか」
単純計算で一日一時間か。それはキツイな。
古泉はドリンクを飲み終え、カロリー・メイトに噛り付いている。
お前ほど多忙な高校生は世界中でもそういないだろうな。
「夕方五時から朝の六時まで、ずっと神人狩りですからね。
そうそう寝られませんよ。学業も疎かにする訳にはいきませんし」
女の尻を追いかけてばかりの谷口に聞かせてやりたいね。いや、言えないんだけどな。いっそのこと学校休んだらどうだ? 一回くらいどうってことあるまい。
「そうしたいんですが、涼宮さんがこちらにまでやってきそうで……」
その気持ちはよくわかる。
あいつにはプライベートという文字は存在しないからな。
散々引っ掻き回した挙句去っていくだろう。
家宅捜査する警察官よりたちが悪い。

そろそろ朝比奈さんが心配になってきたな。一度見舞いに行ってみるか。
「私も」
沈黙を保っていた長門が賛同した。お前も朝比奈さんが心配なのか?
「あなたが心配」
どういう意味だ、それ。

長門のおかげで鍵が無くても部屋に入ることが出来た。
足を踏み入れると、ハルヒが目に入った。その場でへたり込んでいる。
何故か緑色のロングヘアーのかつらを被っていた。次に朝比奈さんが目に入り、俺は驚愕した。
朝比奈さんが首を吊っていた。パジャマから出ている手や足に無数の引っかき傷があり、
喉を掻き毟った後も見受けられる。血と汚物が朝比奈さんの下で水溜りを作っていた。顔からは涙がまだ流れている。
「キョン……」
ハルヒが俺に気が付いたのか、震える唇で呻いた。
「鶴屋さんのね、格好をしたら突然暴れだして、
あたし気絶しちゃって……それで気が付いたら」
ハルヒが朝比奈さんを見上げる。
体中が震えているハルヒはそれ以上何も言わなかった。
長門はその間に古泉を呼び、古泉は『機関』に報告した。

朝比奈さんの死は、友人の後追い自殺として、片付けられた。
もちろん俺達はその場にいなかったと処理され、
管理人が住民の苦情で見に行き、発見したということになった。
ハルヒは「鶴屋さんの後を追いたかったのよ、きっと」と、
空々しく言ってのけた。その時、俺の中の怒りが殺意を伴い始めた。


ハルヒ粛清編へ続く 
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