夏休み。
今日は団活も休みでやることがなくヒマだ。……やっぱり俺はSOS団の連中といないとダメらしい。
というよりハルヒに会いたい。どうやら俺はハルヒに惚れていたというのに気付いたのは、6月だった。
ハルヒが雨に濡れたのか、風邪をこじらせた時に会えなくてとても寂しかった……って思った時には好きになっていた。
まぁ、そのときに見舞いに行ったことでハルヒの家を知ることになったわけだが、上がったことは無い。
俺の部屋には上げたのに、これじゃ不平等じゃないか?
「……そうだ、ハルヒの家に行ってみるか」
俺は呟いた。たまにはいきなり行って俺が驚かす側に回ってもいいだろう?
そう思い、すぐに着替えて俺は自転車に飛び乗った。


ハルヒの家までは20分で着いた。俺は自転車を止めて、鍵をかけた。
そしてドアに近付いて、インターホンを鳴らした。
「はいはい!……あ~もう!歩きにくいわ!!」
ドアの向こうからはそんな声が聞こえてきた。うむ、ハルヒの元気の良い、いつもと変わらない声だ。
そして、ゆっくりとドアが開いた……え?

「わわっ!キョ……キョン!?なんであんたがいるのよっ!!」
そこには浴衣を完全に着こなした、かわいいという表現より綺麗という表現が似合っているハルヒが顔を赤らめて立っていた。
「いや……ヒマだったから。お前なんで浴衣なんだ?」
ハルヒは半分だけ顔をドアから覗かせて答えた。
「だって、今日お祭りがあるからさぁ……浴衣姿をちゃんと整えてからあんたを呼び出そうと思ったのに……。約束もしてないのに突然来るなんてずるいわ!!」
なんか悪いことをした気分になるな……。だが、俺は今ある言葉を発せずにはいられなかった。
「そりゃ悪かったな。しかしハルヒ、メチャクチャ綺麗だ。似合ってるぞ」
そう、まるで吸い込まれてしまいそうなくらい似合っている。いつものかわいくて、うるさいハルヒとのギャップがまた俺の目を釘付けにした。
「あ……うん、ありがと」
頬を赤らめるハルヒ。まったくもっていじらしい。
「一緒に、行ってくれるわよね?お祭り……」
「もちろんだ」
聞くところによると、祭りは17時くらいかららしい。今は14時半、まったくもって時間がありすぎる。
突然、ハルヒの後ろから綺麗な人が顔をだした。
「あら、あなたがもしかしてキョンくん?私がハルヒの母です」
おいおい……美人親子とはこの二人のことを指す言葉で間違いないと確信したね。
浴衣とかは着込んでいないが、エプロン姿でも綺麗さが分かる程、美しい人だった。
「ふ~ん、ハルヒが話してた通りの子ね。……そうだ!お父さんの浴衣があるからキョンくんも着ていきなさいよ!ほら、早く早く!!」
なるほど、ハルヒの強引さは母親譲りか。などと考えながらも俺は引きずられてハルヒの家の中へと招待された。

俺がちょっと手の込んだ浴衣を着せられてる間、ハルヒは自室待機だった。
ハルヒ母いわく、「そっちの方が盛り上がるでしょ?」だそうだ。メチャクチャ似た者親子である。
「よし!出来上がりよ。早くハルヒに見せていらっしゃい!」
と言われて、ポンと背中を押された。俺は軽く頭を下げて礼をすると、ハルヒの部屋へと向かった。


「ハルヒ、入るぞ」
返事が来る前に俺はドアを開けた。ベッドに腰掛けて、浴衣のまま俺を見るハルヒと目が合った。
「あんた……それなりのカッコすればなかなかのもんじゃない」
珍しくお褒めの言葉をもらったので、礼を言っておくとするか。
「ありがとよ。……ん?なんでお前顔赤いんだ?」
ハルヒはそっぽを向いて機嫌悪そうに言った。
「ば、バカ!なんでもないわよ!」
「……そうか。ハルヒ、お前ともあろう者が俺の浴衣姿に見惚れたな?」
などとふざけたことを言ってみた。当然、『ふざけんな!』と言われることを前提にな。
「そ、そうよ……。べ、別にいいじゃない!悪い!?」
なんてことだ。そんな返し方されると俺の顔まで赤くなるじゃねーか。
「い、いや。悪くないぞ……むしろうれしい。サンキュな、ハルヒ」
そこで俺は立ちっぱなしもなんなので、ハルヒの横に座った。
顔は合わせられん、恥ずかしいからな。というわけで、ハルヒの部屋を観察することにした。
まず目についたのは本棚、あやしい感じの本が建ち並んでいる、特に宇宙人のが多いな。
次に一番に確認しないといけないはずの部屋全体の様子。かなりきれいに片付けられていて、いかにも女の子っぽい一面だな。
あとは机か。普通に教科書とかが立ててある。……お?《SOS団用アルバム》か。興味あるな。

「ハルヒ、ちょっとこれ見せてもら「ダメっ!これだけはダメ!!」
俺が手に取ったアルバムをすぐに奪い取られた。よっぽど見られたくない写真が入っているのだろうか?
「お願い!これだけは見ないで!……ね?」
そんな顔で『ね?』なんて言われたら何もできねぇよ。俺は諦めて、もう一度ハルヒのベッドに腰掛けた。
少し話したおかげか、今度はすんなりとハルヒの顔を見ることができた。
チョコンとベッドに座っているハルヒを見ると、どこかしらおしとやかなイメージを持ってしまう。
「な、なに見てんのよ?」
ハルヒが再び顔を赤らめて口を開いた。
「悪い。綺麗なお前に普通に見とれてた」
今なら恥ずかしがらずにこのセリフを何回でも言えるね。むしろ、好きだとも言えるはず。
……なんてな。
「な、なにを恥ずかしいこと言っちゃってるのよ……あ、そろそろ時間だし行きましょう?」
歩いて30分の所で開かれる祭り。小規模ながら花火も打ち上げられるとか。
俺はハルヒに倣い、立ち上がると後ろからついていった。なれない浴衣を着て…な。


ハルヒの親に一時の別れを告げて、外にでた。だいぶ涼しくなり、かなり歩きやすいあったかさになっていた。
俺はハルヒの手を取った。振りほどかれることもなく、むしろ握り返してくれたが緊張しているのか、俺の手は少し汗ばんでいた。
まったく恥ずかしいな。
ちょくちょくとあれがしたい、これがしたいと喋りながら祭りの会場へと向かい、着いた。
「まず何からしよっか?」
いつもなら自分の好きな所に勝手に突っ込んで行くハルヒが聞いてきた。珍しいな。
「お前の好きな所でいいぞ。ゆっくり回ろう」

そう、俺はすでに幸せだったから特に行きたい所などなかった。ただハルヒの笑顔が見れればそれだけで充分だ。
「じゃあ……たこ焼きでも食べよっか?あたし、お腹空いちゃったわ」
同意して、たこ焼きの屋台まで歩いた。途中で思ったが、やはり支払いは俺なのだろうか?
「安心しなさい。自分の分は自分でだすわ」
……顔に出てたかな。俺が払ってもよかったがここは好意に甘えておこう。
「おじさん!たこ焼き一つちょうだい!」
元気よく買い物をするハルヒは、たこ焼き屋のおっさんと一言二言と会話をしてたこ焼きを手に持って戻ってきた。
「えへへへ、おまけしてもらっちゃったわ」
気持ちはわかるぜ、おっさん。こんなかわいい奴に上手い言葉をもらえば確かにおまけしたくなるもんさ。
「はい、キョン。あーんして?」
……やれやれ。まったくなに考えてるかわかりゃしねぇ。そう思いながらも口を開けてたこ焼きを待った。
「あっちぃ!バカ、熱いって!」
たこ焼きを口の中に思いっきり押しつけられた。浴衣でどんなにおしとやかに見えても、やっぱりハルヒはハルヒだった。
「あはははは!おいしいからいいじゃない!」
それから俺達は綿菓子や、りんご飴や、イカ焼きなどの屋台をまわった。……食ってばっかだな。
しばらく歩いていると、豪快な音が響いてきた。花火が上がり始めたようなので、人ごみを避けた所に二人で腰掛けた。
「意外に良いもんだな、小規模な打ち上げ花火ってのもさ」
「そうね……、今一つインパクトが足りないけどね」
派手好きなこいつには物足りないかもしれないな。しかしながらハルヒと二人きりで花火を見ることになるとは考えもしなかったな。

今日は一日中暇なはずだったんだが、妙な思いつきからこんな幸せなことを出来るなんて思いもしなかった。
……なんて俺らしくないか。もうじき花火も終わる。そしたらハルヒともお別れで、また明日から団長と平団員に戻るんだよな。
そんなことを考えている間に最後の花火が打ち上がって開いたあと、静かに闇に消えていった。
「……終わったわね。うん、帰ろっか!」
ハルヒはそう言うと、俺の手を取って歩きだした。
「……ちょっとだけ、ここで待っててくれないか?」
ハルヒにそう告げると、俺は一人早足で歩きだした。『ちょっと……どこ行くのよ!?』なんて後ろから聞こえて来るが、気にせずに俺は近くの店へと向かった。


「……何してたのよ、バカ」
ハルヒは少し悲しげで、不機嫌そうにそう言った。俺はハルヒの前に買ってきたものを出して、言葉を発した。
「これ、お前と一緒にしたくてな。俺が一番好きな花火なんだ」
線香花火と、百円ライター。それが俺の買ってきたものだった。
「線香……花火?あんた、意外にロマンチストなのね」
ハルヒはニヤリと笑ってそう言った。あぁ、ロマンチストでいいじゃないか、好きなんだよ。
二人で半分ずつに分けて、一本ずつ火をつけて眺める。赤い小さな玉が火花を出して、しばらくして落ちる。
こんなことを繰り返している間、二人は一言も会話を交わさなかった。
しばらく楽しんだあと、ハルヒが口を開いた。
「ねぇ、どっちが長持ちするか勝負しない?負けた方は勝った方の命令を聞くこと!決まりね!」
やれやれ、勝手に決定か。どうせハルヒが勝つんだろうが受けてたつか。

二人で同時に火をつけて、向かい合って眺めた。俺はひたすら手がぶれないように神経を集中させた。
「……あ、落ちちゃった」
とても予想外なことにハルヒのが先に落ちてしまった。
「じゃあ、俺の命令をハルヒが聞いてくれるんだな?」
ハルヒは頷いた。……しかし、俺が負けるものだと思っていたから何も考えてない。
俺の今一番の望み、俺の今一番の望み……。
「じゃあ、俺と付き合ってくれ」
……今、俺とんでもないことを言わなかったか?無意識に。
ハルヒの顔をうかがっても口をパクパクしてるだけだった。長門が改変した世界以来か、ハルヒのこんな顔を見る野は。
「……め、命令なのよね。仕方ないわ、付き合ったげる」
これは暗に告白したらOKをもらえましたと考えて良いんだよな?
「ただし!まだもう一本ずつ残ってるからもう一勝負ね!」
次に負けたら別れなさいって命令されるのだろうか。とはいえ、もう一勝負を断るわけにはいかないので俺は線香花火を握った。……頼むぜ、俺の右手。
ふとハルヒの顔を見ると、無邪気な微笑みで線香花火を見つめていた。
その無邪気な微笑みに見とれてしまい、俺は線香花火ごと落としていた。
「あんたマヌケね!でも、あたしの勝ちだから命令するわよ!」
ハルヒは100ワットの笑顔を作って言ったが、次のセリフを吐く時には、浴衣のイメージにピッタリな少し恥じらいだ顔になっていた。
「あたしに……キスしなさい」
真っ赤な顔で上目遣いで俺を見て来るハルヒに引き寄せられるように近付いた。
「優しくね。……これも命令だから」
俺は言いつけ通りに、ハルヒを優しく抱いてキスをした。

「さぁ、帰ろうぜ」
俺はハルヒにそう言うと指と指をしっかり絡ませながら手を繋ぎ、ハルヒの家に向かう道を二人でゆっくりと歩きだした。

おわり

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