俺はまたもや吐き気と目眩のダブルパンチに襲われていた。来るときと違って頭痛がないのは幸いだ。
これで、いいのか?
俺は念じて訊いてみたが、返事はない。
まあでも、俺がこうしてまたどっかに飛ばされてるってことは、あそこでの俺の役目は果たしたってことなんだよな?
 
ハルヒは車にひかれた。だが、命だけは取り留めた。
これが今回の、朝比奈さん的に言う規定事項なんだろうね。
んで、俺は今どこに向かってるんだ?
市立病院か? 俺んちの玄関先か? それともまた別の所か?
『玄関先』
返事があった。
俺はすぐさま次の質問をする。
俺はこの後どうすりゃいいんだ?
『私に会って』
あっちのおま
 
もう少し訊きたいことがあったのだが、どうやら時間切れらしい。
俺の視界には光が戻り始めていた。
完全に視界が回復すると、俺の目の前には目を閉じて口をアヒルにしたハルヒがいた。
「うおっ!?」
急な展開に俺は思わず奇声を発した。
「何変な声出してるのよ?早くしなさいよ」
ハルヒは目を閉じながら俺にそのまんまのツッコミを入れてキスをせがんできた。
だが、
「……なあハルヒ」
やっぱり言うしかないよな。
「何?」
多少の苛立ちが垣間見えるハルヒの返事にひるむことなく、俺は俺的規定事項を告げた。
「キスはやっぱり中止だ」
そう言うやいなや、ハルヒの目は見開きムスッとした表情で俺の両眼を睨み付けてきた。
「今更何アホなこと言ってんのよ! 本当はしたいんでしょ? 我慢することないわ、」
ハルヒは一旦言葉を区切ると、妖艶な声色で次の句をつけた。
「……あたしもしたいから」
クラッときたね。いつもの俺なら確実にそのままフォーリンダウンしてただろう。
だが、それでも俺は落ちなかった。いや、落ちるわけにはいかなかった。
俺は俺の決意が固いことを示すためにそっぽを向いて沈黙を保った。
こういう時はこれに限る。変に何か喋って墓穴を掘っちまうよりなら、何も喋らないでいたほうが何倍もましだろう。
さわらぬ神になんとやらだ。
「どこ見てんのよ。あたしの眼を見なさい!」
ハルヒは俺の首に回していた手をほどき、いつかのように胸ぐらを掴みながら言った。
もちろん俺はあさっての方向を眺めながらだんまりを決め込む。
「ちょっとキョン! 何とか言いなさいよ!」
何とか言えと言われてもな。今起きたことをそのまま言うわけにもいかんだろうし、かといってナイスな言い訳が思い浮かぶわけでもない。
と、なるとだ。俺が帰結するところはやはりサイレントモードでしかあり得ないわけである。
そんな俺の態度をみて、
「……なによ、いつもはあんたからしてくるくせに」
少しシュンとなるハルヒ。心を痛めつつ黙秘権を行使する俺。
俺の態度が変わらないとみるや、ハルヒは眉をつり上げ、
「もしかしてあたしを焦らそうってんじゃないでしょうね? バカキョンのくせにいい度胸じゃない!」
どうやらさっきのショボーンとした感じのは演技だったようだ。
心を痛めて損したぜ。慰謝料は請求できるのか?
「もうじゅ~ぶん焦れたわ! あんたの勝ちでいいから、ホラッ」
そういって両の眼を瞑り、俺の目の前にその可憐な唇を捧げ出すハルヒ。
正直たまらん。
まあ、今の俺の理性は無敵艦隊イージス艦並の防衛力を誇っているからそうやすやすと落ちるようなことはないのだが、
こうしている間にも時間は刻一刻と過ぎ去り、このままだと『遅刻』という名のタイムオーバーが俺を待ち受けることになってしまうのは甚だ明白なので、
ここいらで何らかのアクションを起こす必要があるのもまた明白であるのは否めない。
だが、どうすりゃいいのかさっぱりわからない、というのが現状だ。
いや、やるべきこと、というかそれしか方法がない、ということならわかっている。
……ここはやはり口から自然と紡ぎ出される言の葉に全てを託すほかないよな?
俺はハルヒに即興の作り話を披露する決意を固めた。
「実はなハr『バタン!!』
俺の言葉は呆気なく別の音によってかき消された。
その音の源はというと、妹が力一杯開けはなった扉だった。
ハルヒはビクッとして閉じていた目を開き、その視界でまず俺を確認し、さらに俺の背後にいる我が妹を確認した。
「あら、妹ちゃんじゃない」
ハルヒはなあんだといった感じで吐き捨てる。
「あー! はるにゃんだ!」
妹のほうは久しぶりに会うハルヒに少し興奮気味だ。
「はるにゃん学校行かないのー?」
妹は俺を押し退けその大きな双眸をハルヒに向けて訊く。
「そりゃあ行くわよ、あたしが学校に行かないなんてハレー彗星が居眠りでもして地球に落っこちちゃうくらいの確率だわ」
ハルヒは妹には理解できないであろうメタファーを織り交ぜて答えた。
「じゃあ一緒に行こう!」
妹は聞きたかった返事を聞き満足気な顔をしながら言った。
我が妹ながらGJだ! ナイスフォロー! ここは盛大に賛同の意を添えるべき場面であろう。
「え……ごめんn「ああそうだな! たまには三人でいくのも悪くない! そうしようか! なあハルヒ?」
と、一通り言い終えてからハルヒが何か喋っていたことに気づいた。
ごめん?
てことはハルヒは妹の誘いを断るつもりだったのか。だが、いくら団長様の意見とはいえ今回ばかりは却下させねばなるまい。
来るであろうハルヒの反論を俺は待ちかまえていたのだが、俺の耳には思いも寄らぬ言葉が飛び込んできた。
「わかったわ妹ちゃん! 一緒に行きましょ!」
ハルヒは妹にそう微笑みかけた。
「うん! じゃあ行こー! キョンくんも!」
妹の表情はまさに日本晴れといった感じだ。
何とか丸く収まったみたいだな。
「それj「キョン、あんたは歯磨きしてきたほうがいいんじゃない? 口臭いわよ」
へ?
「それじゃあ行きましょ妹ちゃん」
ちょっと待て、コイツはいきなり何を言い出してんだ?
「えー! キョンくん歯磨きしてないのー!?」
いやいや何を言うかこのアホは。毎朝お前の隣で歯磨きしてるのは一体誰だ?
俺だ。
それより、問題はハルヒだ。
「いきなr」
ハルヒは俺の言葉に聞く耳持たずといった感じで妹の手を取りズカズカ歩きだした。
「おいハr」
おいハルヒ、と言い切る前にハルヒは首だけで俺の方に振り返り、
「あんた何してんの? さっさと歯磨いてこないと遅刻するわよ。あたしと妹ちゃんは先に行ってるから」
と、あくまでその意味ありげなアルカイックスマイルを崩さずにハルヒはそう言い放った。
なるほどね。そういうことね。OK把握したぜ。
ハルヒは俺と一緒に学校へ行きたくないと。
そういうことなんだろうね。
ハルヒはそんな俺の一貫した沈黙状態に対し、
「じゃあまた学校でね」
と吐き捨て、妹ともに俺の前からいなくなった。
終始?状態だった妹に後で何か埋め合わせでもしてやろう、などと思いながら俺は五分ほど間隔を開けて学校へと向かった。
強制ウォーキング&ハイキングコースを黙々とこなしながら俺はとりあえず頭の中でいろいろと整理した。
 
さっきのあれは恐らく俺とハルヒが山頂の公園で別れた後のハルヒだろう。
そして俺はそこに送り込まれた。
誰によって? 長門によって。
何のために? ハルヒの死を防ぐために。
何故このタイミング? ……それは分からん。長門に会って確かめるしかないだろう。
ところで、こっちの長門はどうなってるんだ? あのとき、去年の12月の長門みたいになってたりしないよな?
まあそれは会えば分かるとして、……何か、他にも、……何かが引っかかるんだが……まあいいか、当面の目標は長門とのコンタクトということにしておこう。
 
そういえばこの世界にきてからすぐにこっちの俺との同期とやらが始まったっけか。
こっちの俺はどうやらハルヒに告ったらしい。何をとち狂ってんだろうね。
ん? 待てよ。ここはハルヒの望み通りの世界なんだよな?
ということはハルヒは俺のことが……?
 
「よおキョン!」
いやそんなまさかな。
「どうしたんだ今日は? いつも涼宮とニケツで登校してるくせに」
だったらどうして? 恋愛なんて精神病の一種だと豪語したあのハルヒが何故俺と……?
「何で今日はお前一人で歩いてるんだ?」
いや、仮に、あくまで仮にだ。ハルヒが俺に対して好意を抱いているのだとしたら辻褄はバッチリあう。
「まさかケンカでもしたのか? それともふられたのか?」
やはりハルヒは俺のことが好きなのか? ……様々な事象をあらゆる角度から検討した結果、最早そうとしか考えられん。
「図星なのか。そうかそうか、悪いことは言わん。すっぱり諦めろ。そっちのほうが身のためだ」
だが、何故俺なんだ? 俺のどこが? 宇宙人でも未来人でも超能力者でもない普通の男子高校生に何故ハルヒは?
「なんだ? そんなにショックなのか? 気にすることないぜ。今まで付き合えてただけで奇跡と呼べる。俺なんて……」
「なあ谷口」
「うわっ! いきなり声出すなよ! びびるじゃねーか」
俺は谷口のそんなオーバーリアクションを華麗にスルーして続けた。
「俺って、普通の男子高校生だよな」
「はあ? どっかで聞いたことある質問だな。……お前が普通の男子高校生ってんなら、俺なんかボルボックス並に普通だぜ」
「……そうかい」
こいつに聞いた俺がバカだった。
「それよりよお、さっきのあれはないんじゃないか?」
「あれって何だ?」
まさかこいつ俺とハルヒの早朝からの修羅場を一部始終観てたとか言い出すんじゃないだろうな?
そんな俺の憂いは幸いながら杞憂に過ぎなかった。
「お前俺のことずっとシカトしてたじゃねーか。我ながら恥ずかしかったぜ。端から見たら知らない奴に必死で話しかけてる変人だったからな」
何だそんなことか。
「すまんな、わざとだ」
俺の言葉に谷口は苦虫を噛み潰したような顔になりながらも、
「そうかい」
と、皮肉を込めて俺のフレーズを盗用した。
 
こっちの世界にも谷口いるんだな。性格も変わらないし。
などと思いながら谷口であって谷口でない谷口との適当な会話をこなしつつ俺は学校へと足を運んだ。
 
北高の玄関に着いてから気がついた。
当面の目標は長門とのコンタクトだったが、その前に解決しなければならない大問題がある。
ハルヒに朝のことをどう弁解すればいいんだ?
今回の事件はほとんど俺主体で動いてるからここで俺がとちるわけにはいかない。完全にハルヒを納得させなければならんだろう。
……少し気が引けるがこの手で行くか。
「何ボーっとしてんだ? さっさと行こうぜ」
「ん? ああ」
俺は一応の策を練り終えてから谷口とともに教室へと向かった。
俺はいつものように教室に入りいつものようにハルヒに声をかけた。
「よお」
俺にとってはいつものことなのだが、こっちの俺にとっては結構久しぶりなことだ。無駄にややこしいな。
ハルヒは手で支えながら窓の外に向けていた顔をこちらに向け、
「あらキョン、おはよ」
と、意外にもハルヒからの返事はあった。
あったのだが、そのしれっとした態度から察するに、ハルヒの機嫌はどっちつかずの黄色信号ってところだろう。
俺は自分の席に横向きに座り顔だけをハルヒに向けて、
「まだ怒ってるのか?」
と、訊いてみた。
「……別に、そんなんじゃないわよ」
と、口では言っているハルヒだが視線はまた校庭に注がれている。
さて、話をどう切り出そうか。
当初の予定では今頃はハルヒによって今朝のもろもろについての尋問が行われているはずだったのだが、どういうわけかハルヒは何も訊いてこない。
自分から切り出すのも言い訳がましい感じがして気が引けるのだが、この際仕方ないか。
「なあハルヒ」
「……なによ」
ハルヒは顔の向きは変えず横目で俺の顔を捉えて気だるそうに言った。
よし、ついさっき考えた言い訳でも御披露目するとしよう。
「実はな――」
俺はこう言った。
 
今朝、お前が来るちょっと前に電話があってな。
お袋も親父もなんか忙しそうだったから俺が取ったんだよ。
んで、相手はめったに電話なんかかけてこない叔父だったんだ。いつになく真剣な声色だった。
叔父の話は朝っぱらから耳にするにはちょいとヘビーな話でな。
叔父さんの娘、まあ俺にとって従姉妹にあたる人がな、……交通事故にあったらしいんだ。昨日の夕暮れ時のことらしい。
んで、従姉妹はまだ意識不明なんだそうだ。
だから、さすがにそういうことを聞いた後にああいうことをする気分にはなれなかったんだ。
朝はお前に話しても仕方がないことだと思ったから話さなかったが、誤解を生んだままでいるのもどうかと思ってな。
 
こんな感じのことを話した。
俺の話を聞いている間のハルヒは初めは訝しげな表情だったが次第に困惑した表情になり終盤はぼんやりした感じになって、
「……そう」
と、えらくぞんざいな感想を残し、また窓の外を眺め始めた。
この反応は一体何なんだ? 少なくとも怒っているようではないからOKなのか? いや、OKだろう。多分。
そこで担任の岡部が登場し朝のHRを手短に終え、クラス全体は本日の授業へと移行した。
退屈かつ無意味な授業を受けている間、俺は長門にいつどこでどのように会うべきかを考えていた。
あれこれと考えはしたが、結局昼休みに部室で会うことにした。
ハルヒには「腹痛いからちょっとトイレ」的なことを言うつもりである。
 
そして、昼休みがやってきた。
 
「キョン、ちょっといい?」
さっそくハルヒが後ろから声をかけてくる。残念ながらちょっといくはないんだよな。
「す、すまんハルヒ……ちょっとトイレに行ってくる」
俺は席を立ち、さも腹が痛いとばかりに両手で腹を抑えながらそう言った。
我ながら迫真の演技だ。
「そう……まあいいわ。早く帰ってきなさい、話があるから」
「ああ、悪いな」
俺はそう言い残しそそくさと教室を後にした。
 
部室までの道のりで、また新たに増えた懸案事項について考えていた。
ハルヒ曰く、話って何だ?
いつもなら、四限終了のベルと同時に「キョン! 行くわよ!」とか叫びながら中庭まで強制連行なんだが。
今朝のことでも掘り返すつもりなのか?
しかし、どんなに考えても憶測の域をでることはない。
実際に聞けばわかることだから後回しにしておくとしよう。
 
そんなこんなで部室に到着。
とりあえずノックをしてみるとすぐに扉が開き、そこには長門がいた。
「よお、長門」
長門はその静謐な両眼で俺をじっと見つめ、
「入って」
と、まるで自分のマンションに上げるかのように俺を部室へと招き入れた。
もちろん期待などしてはいなかったのだが、どうやら長門はいつもの長門のままらしい。
そう、長門は長門だった。
「お前は俺のよく知ってる長門だよな?」
2ミリだけ首肯する長門。
「よし。それじゃあいろいろと訊きたいことがあるんだが、今朝のあれはお前の仕業か?」
「あなたの異次元同位体との同期、過去に発生した高次元閉鎖空間への時間移動及び侵入、どちらも私が指揮をとった」
「えーとつまり、今朝の一連の流れはこっちのお前がやったことなのか?」
「そう」
どっちの長門の仕業だとしてもそんなことはたいした問題ではない。
「それじゃあ何故あのタイミングで俺を過去のなんとか閉鎖空間とやらに送ったんだ?」
わざわざこっちの世界に送り込んでからあっちの世界での過去の出来事に逆送させたんだから何かそれなりの理由はあるのだろう。
しかも朝っぱらから。
そんな俺の質問に、長門は間髪入れることなく返答した。
「高次元閉鎖空間は完全に独立した空間、どちらの世界から侵入しても情報操作のプロセスは変わらない。だけど、一番の理由は他にある」
なるほど、それで一番の理由ってのは何なんだ?
「あなたと涼宮ハルヒの不純異性交遊を阻止するため」
「ふ、ふじゅん? ……なんだって?」
ボイスレコーダーの準備をしておくべきだった。
こう言うのも俺がまったく予期していなかった言葉を長門が口にしたからだ。
長門はこう言った。
 
「あなたと涼宮ハルヒがキスするのを防ぐため」
 
あれ? 長門ってクールデレだったっけ? と思わせるほどの発言だった。
俺としてはこの台詞を顔を赤らめながら上目使いで控えめに言ってくれればそれだけでご飯三杯はいける。
だが残念なことに、長門は俺とハルヒのそんな恋人的諸行の邪魔をしたくなるほどの焼き餅に駆られたわけではなかったようだ。
 
「あなたと涼宮ハルヒがあの行為をしていたらあなたはあちらの世界に回帰できなくなっていた」
「……なんだそりゃ?」
率直な疑問だ。
「涼宮ハルヒの情報改竄能力によるもの。涼宮ハルヒはあの行為の際にいつもあなたの精神を書き換えていた」
「何でまたハルヒはそんなことするんだ?」
これまた率直な疑問。
「涼宮ハルヒの精神には不安定要素が存在していた。それを埋め合わせるのがあなたの役目だった」
「あなたってのはこっちの俺だったやつか」
「そう」
なるほど。つまりこういうことか。
ハルヒはこっちの俺を自分の都合いいように動かしてそれで満足していた。
長門曰くあの行為とやらの際にそれは実行されていた。
それで俺の精神改竄を防ぐためにあのシーンに俺を飛ばしてあの行為をする気を失わせた。
なんだかんだがあって現在見慣れた部室、といった感じだろう。
さて、ここで特筆すべき点は他でもない。
不安定要素?
俺の思い違いでなければ、たしかここはハルヒの望んだ世界。どうして不安定要素が発生するようなことがあるのか、皆目見当がつかない。
むしろ俺はハルヒの精神はいつになく安定してるもんだと思っていたくらいだ。
とりあえず、新たに発生した懸案事項については後回しという方針をとることにして俺は次なる質問を長門に浴びせかけた。
「俺はこれからどうすればいい?」
「あなたの好きなようにすればいい」
似たような台詞をどこかで聞いた気がする。
「ヒントはそれだけか?」
ほのかに首を傾ける長門。
「そうか」
さて、どうしたものかね。
好きなようにと言われても俺自身が何をしたいのかさっぱり分からないからどうしようもない。
だからといって悠々と考えているわけにはいかない。こうしている間にもあっちの世界が消失せんとしているらしいからな。
となるとだ。俺のしたいことが一体何なのかを早急につきとめ、なおかつその行為によってハルヒの精神及び魂を元いた世界に連れ帰らなければならない。
それが今回の作戦内容であり目的であるのだろう。
答えが分からないミッションなら前にもあった。あの時だってなんとかなったんだ。だから今回も必ず……。
そういや時間がないと言ったらハルヒを待たせてるんだっけなと俺が別次元のこと考え始めたら、長門が思いついたように口を開き、
「腕」
「へ?」
「ナノマシン」
ああなるほどねと思い俺は腕を差し出した。
長門は俺の腕をそのか細い両手で掴み顔を近づける。長門が完全に作業に入る前に俺は一応確認とった。
「ところで長門、一応訊いておきたいんだが、今回は何のためにそれを注入するんだ?」
長門は俺の腕に向けていた視線を俺の顔に向けて、
「あなたの精神改竄阻止及び――」
その時だ。部室棟三階の廊下をものすごい早さで走ってくる人の気配を感じた。
ドタドタバタン
気づくのが少し遅かった。
「ゆっきー! 一緒にご飯食べましょ!」
そう叫びながら部室のドアを勢いよく開けたのは、誰あろう涼宮ハルヒであった。
固まる俺と長門、加えてハルヒ。
この状況をどう打開しようかと混乱しながらも最高速度で回転しているマイブレイン。
だってそうだろ?
腹痛いつってトイレに行ったはずの人物が何故だか知らんが目の前にいて……それに何だこれは?
谷口的美少女ランキングAマイナーでありSOS団随一の無口かつおしとやかキャラの長門有希がそいつの腕に顔を近づけて何やらしでかそうとしている。
俺がハルヒの立場だったとしてもここは徹底して問い詰めたくなる場面だ。
したらば、それに対する言い訳を考えるのは至極当然なことであり、だからといってうまい言い訳がなかなか思いつかないのもいつものことであった。
状況分析だけはプロ並じゃないか? あはははは。全然笑えやしねえ。
そんな置物と化していた俺を後目にハルヒは部室を飛び出していった。
手に提げていたお弁当箱をその場にフリーフォールさせて。
ハルヒにしては珍しい反応だ。てっきりものすんごい剣幕で迫ってくるもんだと思っていたんだが。
もちろん、ここで俺が何をすべきかは重々承知している。するなと言われてもするだろう。いや、むしろしたい。
「長門、すまんがナノマシンは後だ。ここは俺の好きにさせてもらうぞ」
長門が手を離す。
「了解した……だが推奨はできない。87%の可能性であなたは消滅する」
俺は長門の言葉を最後まで聞かずに部室を飛び出していた。

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