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そして、そんないつものSOS団活用内容とさほど変わらないモラトリアムな時を過ごしながら、俺は辺りが段々とオレンジ色の光に包まれつつあるのを感じていた。
昨日別れた時刻に近づいてきたな。ていうか、そろそろ帰らなきゃ帰りのバスもなくなっちまうんじゃないのか、ハルヒ?
「えっ……何?」
「だから、こんな時間までここにいて帰りのバスは大丈夫なのか?」
「だ、大丈夫よ! あんたがそんなこと心配する必要ないわ」
「そうかい、……ところでハルヒ」
俺はいつになく真剣な面もちでそう呼びかけた。
ハルヒはどことなく顔を赤らめつつ、
「な、なによ?」
と、ぶっきらぼうに返してきた。
 
「俺……トイレに行ってくる」
 
「あっそういってらっしゃいごゆっくり」
と、今度はえらくぞんざいに返してきた。
一応断っておくが大きいほうではないからな、と心の中でつぶやきながら俺はトイレへとたった。
 
トイレをすませた俺は全速力でハルヒのもとへと走っている。
なにもハルヒの顔を今すぐに見なければ死んでしまう病にかかったとかそういうわけではない。
 
事の始まりは妹からの電話だった。
 
似たような台詞を前にも使ったが、この際そんなことはどうでもいい。
妹からの電話はマジで笑えない内容だったからな。
 
トイレをすませ(くどいようだが大ではない)、俺は鏡を見ながら適当に髪を整えていた。
まあ別に大した訳もなく何の気なしに携帯を手にすると、それと同時にバイブレーション機能が発動し危うく落としかけた。
適当に携帯をとったらちょうどよく着信するってよくあるよな。
んでその発信源が自宅であり電話の向こうには妹がいたわけだ。
 
「もしもし」
「あっ! キョン君!? よかったぁ……ぅぐっ……ひぐっ」
妹は泣いていた。
「どうした我が妹よ。友達とケンカでもしたのか?」
俺の可愛い妹を泣かせた奴は一体どこのどいつだ!
と、内心甚だしく業腹であったのだが、俺の半分冗談の混じった言葉に対する妹の深刻かつ悲壮感溢れる返事を聞いたとき、
俺はTPDD使用時に伴う空間把握能力の著しい欠如によるあの不快感にも勝るとも劣らない吐き気というか目眩というかそんなものを感じた。
 
「おかあさんが……ぅぐっ……ひぐっ……おかあさんが」
「お袋がどうかしたのか!?」
「いまね、救急車がきてね……ぅぐっ……ひぐっ……キョンくぅん……ひぐっ」
 
妹の言葉から察するにお袋になにかあったのは間違いない、それにこの様子はただ事じゃない。
 
「分かった。すぐ帰るから……大丈夫だ、大丈夫だからそんなに泣くな。兄ちゃんがすぐ行くからな」
「ぅん……ひぐっ」
 
俺はハルヒにこのことを伝えるために全速力でダッシュした。
「キョ、キョン!? どうしたのそんなに慌てて? 紙が無かったとか?」
だから大ではないと何度言えば……ってそんなことはどうでもいい。
 
「……ハルヒ、すまないが俺今すぐ家に帰らなきゃならん」
 
「え!?」
ハルヒは途端に悲と惑の二文字で彩られたような表情になった。
 
「……じゃあハルヒ。俺もう行くわ」
 
俺はハルヒに背を向け全速力ダッシュを再び繰り出そうとした。
 
よし行くぜ待ってろよ我がいもうt
ガクン
 
????
 
「……」
 
無言のハルヒが俺の襟を掴んでいた。
 
「あのなぁハルヒ、俺は家に帰らなきゃならんのだ。どうかその手を俺の襟から離してくれんかね」
 
「……嫌よ」
 
ハルヒの声はあまりにも小さすぎてマジで聞き取れなかった。
 
「何だって?」
「嫌だって言ってんのよ!!」
次こそ聞き取ろうと耳に全神経を集中させていた俺はハルヒのバカデカい声に恥ずかしいくらいひるんでしまった。
いくらなんでもそりゃ不意打ちだ。
 
「キョン、今日はあたしに一日中付き合う約束だったわよね!? だから帰っちゃだめよ! これは団長命令だわ! 何が何でもあんたを帰らせたりはしn」
「ハルヒ!」
俺はハルヒを落ち着かせるべく声を荒げてハルヒの名を呼んだ。
「な、なによ!? 団長様に意見しようってわけ!? そんなのだめよ。団長であるあたしの意見より平団員のあんたの意見が通ることなんてまずないわ。だから諦めて今日はずっとあたしと一緒に」
「おい、ハルヒ!」
 
俺はさっきより数段デカい声で、怒鳴った。
 
「……」
 
ハルヒはようやく静かになった。
 
「……実はな、さっき妹から電話があったんだ。妹の話によると俺のお袋が病院に搬送されたらしい。
……いつもは笑ってばっかのアホみたいな妹がな、家で一人で泣いてるんだ。だから俺は家に帰らなきゃならん。わかってくれ、妹のためにも俺は」
俺の言葉は遮られた、
「わからないわ」
俯いたハルヒの淡々とした言葉によって。
「……ハルヒ?」
 
ハルヒの様子は明らかにいつもと違った。
 
「……いやよ……あたしだって……今日のために……覚悟だって……そんなことで」
 
俯きながらのハルヒの言葉はボソボソとしていて聞き取ることができなかった。
「おい、ハルヒ?」
 
「……いやよ……ぜったいにいや………あたしが……そんなやつに……あたしの……」
 
「ハル……ヒ?」
 
「……そんなやつ……キョンの妹なんか……いなくなっちゃえば」
 
「っ!」
 
今ハルヒは何て言った!? 俺の妹がいなくっちまえばだと!? 確かにそう聞こえたぞ!?
「おい、ハルヒ! 今お前何て言った!? 俺の妹がいなくっちまえばだと!?」
 
思ったことが口に出ていた。
「え……いや……そんなこと」
「その言葉今すぐ訂正しろ! 俺の妹はいなくなるべきではないと心から思え! ほら、早くしろよ!」
俺はハルヒの肩を鷲掴みにしながら怒鳴った。
完全に動揺しきっていて自分でも何言ってんだかわけがわからなかった。
 
「い、痛いわよ!」
「そんなことはどうでもいい! 俺の妹はいなくなるべきではない! 早くそう思え!」
「わかった、わかったから手を離して……本当に痛いのよ」
俺はハルヒの肩から手を離し、できるだけ冷酷な口調で告げた。
 
「……今度そんなこと考えでもしてみろ。俺の家族に何かしでかしやがったら、いくらお前でも容赦しないからな」
 
そう言い残し俺は急ぎバス停へと向かった。
 
「なんで……どうして……あたしはただ」
ハルヒが何かつぶやいているようにも感じたが、気のせいだろう。
 
帰りのバスはあった。俺はそのバスに乗り急いで家へと向かった。
 
……雨?
 
さっきまであんなに晴れていた空には一面の暗雲が立ちこめポツリポツリと生み出された雨がアスファルトを濡らしていた。
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