昨日の夜、明日の予定についてハルヒから電話があり、それによるとどうやら今日は午後三時に駅前集合らしいのだが、
昨日と同じ轍は踏むまいと一人意気込んだ俺は、二時間も前に目的地へたどり着きはや二時間近くが経過していた。
 
なんなんだろうね。
 
やることなすこと全て裏目に回っちまうのは俺がそう望んでるからなのか? だとしたら俺は相当なMだな。
いやそんなことは決してないが。
 
と、一人黙々と頭の中で自問自答を繰り返していると、何やらけったいなリュックを背負った団長様がようやくご登場なすった。
時計を見ると時刻はぴったり三時。
ギリギリ遅刻ではないようだが、今日はやけに時間通りだなハルヒ。
「遅刻じゃないんだからどうでもいいでしょそんなこと。それよりちゃんと昨日言った通りにしてきたの?」
「ああ、昼は抜いてきたし、ゴザも持ってきた。ほれ」
そう言って俺は手にさげてた袋を見せた。まあ昼は多少入れてきたんだがな。
「うん、いい感じね。それじゃ行くわよ」
「行くって何処に?」
「いいから。ついてくればわかるわ」
 
そう言ってハルヒは俺の手をとり走り出した。
多少腹に入れてきたとは言っても俺はまだ全然空腹なんだ。
そんなに早く走られたら今にも倒れちまう。
などとは口にせず、結局俺はハルヒとともにバスに乗って目的及び目的地不明の旅に出ていた。
バスの中でリュックの中身は何なんだ? とハルヒに訊いてみたものの、
「着いたらわかるわ」
と、一蹴された。一体何なんだろうね。
 
宇宙人を呼び出すためとか時間旅行するためとか超能力を目覚めさせるためとかそういった装置でないことを切に願う。
そんなことしなくても十分間に合ってるからな。
それに宇宙人にも時間旅行にも超能力者にももう飽き飽きしてきたところだ。
これ以上新規メンバーが増えても俺は覚えてやらんぞ。
そう思うのも俺は最近またもやけったいな問題に巻き込まれつつあるからであった。
そういった諸事情も含めて、これから目的も目的地も依然として定かでない旅をしなければならないのかと思うと俺は自然と憂鬱気分になっていた。
それが顔に出ちまったのか、ハルヒが不安そうな面もちで訊いてきた。
「もしかして今日都合悪かった?」
「いや、そういうわけじゃないんだ。ちょっと考え事をな」
「……そう」
納得したのか、ハルヒはそれだけ聞いてまた窓の外を眺め始めた。
 
バスにゆられること十分。ようやく目的地付近のバス停にたどり着いたようだ。
 
俺たちがたどり着いたそこは、なんというか普段はめったに来ない郊外であり、
ここいらにある高校生の男女二人が遊べるようなスポットと言えば小高い丘の上に造られた公園くらいなもんで、
その公園もだだっ広いだけでこれといったアトラクションは何一つないといった有り様だ。
だが、どうやらハルヒはその公園に行くつもりらしく、俺の憂鬱な気分は空腹という燃料も加わり最早どうしようもなく加速の一歩を辿るのみであった。
 
「ほら! もっとシャキッとしなさいよ。公園についたらすんごくおいしいご飯にありつけるわよ!」
 
俺が知らない内にあそこの公園の近くに何か飲食店でもできたのだろうか。
ハルヒがこんだけ絶賛しているのだからさぞかしおいしいに違いない。昼を抜いてこいという指示にも合点がいく。
 
少しだけ楽しみになってきた。
 
徒歩で移動すること約二十分、ようやく俺たちは丘の頂上である公園にたどり着いた。
そこはやはりと言っていいか、人の姿はまばらだった。
そんなことより俺はもう腹が減ってどうにかなりそうだ、さっさと飯にしようぜハルヒ。
「そうね、あたしももうお腹ペコペコだわ。それじゃ……あそこがいいわね」
と、言ってハルヒはデカデカと公園の隅に陣取っている一本の松の木まで駆けていった。
 
「うん、ここでいいわね……ちょっと、何ボサっと突っ立ってんの? 早くこっちに来てゴザ広げてちょうだい」
とりあえず言われるがままにした俺だが……何が何だかさっぱり分からん。
俺の昼飯は一体どこにいっちまったんだ?
「何言ってんのよ。目の前にあるでしょ」
目の前ったって……そこいらに転がってる松ぼっくりでも喰えってのか?
「もう、あんた真性のアホね。頭のネジどっかでなくしちゃったんじゃないの?」
こいつに言われると無性に腹が立つが、さっぱりなのも事実だ。俺はおとなしく教えを乞うことにした。
「ああもうアホでも何でも構わん。俺は腹が減って死にそうなんだ。早いとこ何するつもりなのか教えてくれ」
そう聞くとハルヒはニヤリと不適な笑みを浮かべながら背負ってあったリュックの中身を、
「じゃじゃーん!」
という幼稚なかけ声とともに取り出した。
 
なるほど、そういうことか。
 
確かに、『敷物』『公園』『木の下』などとこれらのキーワードから導き出される最もありきたりな解答はこれだな。
 
だがな、相手はあのイレギュラーの申し子ハルヒだ。
 
よもやこいつがそんなありきたりなことを望んではいるまいと思っていたから、
多少の予測はあったもののそれらの全ては俺の頭の中で五秒も経たないうちに虚しくなっていたのだ。
でもまあ起こっちまったもんは仕方ない。
俺は従順にもハルヒ特製手ずから弁当とやらで腹を満たすことにした。
万事に於いて万能であるこいつが作ったんだ。おそらく本当にすんごくおいしいに違いない。
ああもう御託はいいからさっさと喰おう。
 
俺はとりあえず俺に喰ってくれと言わんばかりにいい感じの色をかもし出している唐揚げを箸でつまみ上げ自分の口に持っていこうとした。
 
パクッ
 
「うん、自分で言うのも何だけどやっぱりおいしいわ!」
 
唐揚げ君は俺の口に触れることすらできずにハルヒの胃袋へと消えていった。
俺は唐揚げ君のそんな無念を晴らすべく、ハルヒに徹底的に抗議してやるつもりだったのだが……何だこいつ?
 
ハルヒは「私を食べてはぁと」とばかりの食べごろ完熟トマトよろしく顔を真っ赤にしていた。
自分でやっといて何恥ずかしがってんだかなとは思ったものの、トマトさながらに顔を真っ赤にするハルヒは目眩がするほど可愛かった。
「な、なにジロジロ見てんのよ! あんたもさっさと食べたら? すんごくおいしいわよ」
 
食べようとはしたものの誰かさんによって見事に阻止されちまったんだがな。
とは言わず、空腹の絶頂にあった俺は今度こそ唐揚げ君を俺のお口に導くことに成功した。
 
「……」
 
うますぎて声も出なかった。いや、マジで。
そんな俺の沈黙に見かねたハルヒは、
「……どう? もしかして口に合わn」
俺はハルヒの言葉を遮り、
「いやそんなことはない。ハルヒ、お前この唐揚げで店開けるぞ。間違いない」
俺のオーバーなリアクションにハルヒはまた顔を赤くしながら、
「な、なにそんなに大げさに言ってんのよ! ……まあでも嬉しいわ。ほらもっと食べなさいよ。たくさん作ってきたんだから」
と、まあそんな感じの会話を混ぜつつ俺は海原雄三も舌を鳴らすであろうハルヒ弁当で腹を十分に満たした。
 
弁当を食べ終えた後、不思議探索か何かでもやるのかと思っていたがそうではなかった。
俺とハルヒは他愛もない世間話を繰り返すだけで、ハルヒはそれで満足しているようだった。
ただ、ときたまハルヒがもがもがしていたのは一体何だったんだろうな。

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