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冬休みのとっても寒い日だった。雪が降る坂道をあたしは一人で歩いて登って行く。
今日は12月26日。昨日のクリスマスパーティーから一夜明けて、片付けのために集合をかけた。
団長たるものとして、やっぱり他の団員の見本にならなくちゃいけない。というわけで、あたしは集合の2時間前の9時に学校の門をくぐった。
靴箱を通り、静かな学内を過ぎて部室へと一直線に向かっていく。
やっぱり誰もいないなぁ……。まぁクリスマスの次の日に朝早くから学校に来るのはあたしくらいのものよね。
部室棟の中を歩き、あたしが部室のドアを歩くと有希がいつもの席で本を開いていた。
窓の外に降り続ける雪と、その雪のように白い肌の有希。ものすごく絵になってる。
……だけど、なにか様子が違うわね。
あたしはゆっくりと有希に近付いていった。
「………すぅ…すぅ」
ね、寝てる?あの有希が部室で、本を読んでいる途中に?しかもなんでこんな早くにここにいるのかしら?
あたしはためらいながらも、有希を起こした。
「……おはよう」
おはようじゃないでしょ!!……と言いたいけど言えなかった、神秘的な有希の目がきれい過ぎたから。
「お、おはよ!……なんで、もう有希がいるの?」
有希は目をゴシゴシとこすると、いつもと変わらない平坦な口調で返事をした。
「あなたのことだから一人で片付けをすると思い、手伝いにきた」
さすがに驚いた。有希があたしの思考パターンを読んだ上に手伝いまでしてくれるなんてびっくりするしかない。
だけど、せっかく有希があたしに心を開いてくれてることだし、手伝ってもらおう。

「そっか……じゃあさっさと始めちゃいましょう!SOS団の万能選手二人でやればすぐに終わっちゃうわ!」
そう言ってあたしはゴミをまとめ始め、有希は飾り付けを外し始めた。
正直に言うと、あたしはもっと有希と仲良くなりたいし、無理矢理にSOS団にひきずり込んだことも謝りたかった。
もっといろんなことを喋ったり、一緒に街で買い物したり遊んだりもしたい。
今だって二人で黙々と別の作業をするんじゃなくて、一緒の作業を笑いあいながら、話しながらしたかった。
……そういえば有希の笑った顔って見たことないな。
「おわった」
あたしはビクッと体を反応させた。
「びっくりした……いきなり肩に手をおかないでよ。終わったんならこっち手伝ってくれる?」
有希は頷いてあたしを手伝いだした。今はこれだけでも満足かな、少しずつ有希と仲良くなっていこう。
「あ~、疲れた!有希、なにか飲み物買いに行きましょう!」
あたしは有希の手を握って部室を出た。
有希の手は冷たかったけど、柔らかかった。そうこう考えていると、有希が心配そうに声をかけてきた。
「あなたの手が冷たい。……寒い?」
「うん、ちょっと寒いかな。まぁ、雪が降ってるししょうがないわよ!」
あたしは寒いことより、有希が自分から声をかけてくれたことがうれしかった。
……突然、あたしの手があったかくなった。有希が着ているコートのポケットに、自分の手ごとあたしの手を突っ込んだのだ。
「これなら寒くない?」
「……うん!メチャクチャあったかい!ありがとっ、有希!」
手だけじゃなくて心まであったまったよ……ありがと。



そこから自販機で飲み物を買い、部室に戻るまでずっとそうしたまま移動した。
部室に戻ると、有希は窓際に、あたしはパソコンの前に陣取った。いつもの配置でみんなを待つ。
マウスをカチカチと鳴らしていると、ふとあるものの存在を思いだした。
あたしが迷惑をかけた有希に感謝をするために用意したクリスマスプレゼント。
みんなの前で渡すのは少し贔屓みたいで抵抗があったけど、今は二人だけだから誰にも見られてない。
あたしは有希に向かって声をかけた。
「ねぇ、有希。いろいろ巻き込んでごめんね?ほんとはゆっくりと本を読んでいたかったんだろうけどさ……」
有希は本から目を外してこっちの方を見ていた。
「いい。わたしもけっこう楽しんでいたから」
「うん、わかってる。……でもね、ちょっと謝っときたかったから」
わたしを見つめる有希の目に少し《疑問》の色が浮かんだ気がした。
「なぜ?」
「あたしね、もっと有希と仲良くなりたいから。いろんなことをお喋りしたり、一緒に買い物に行ったりしたいから、自分の中のモヤモヤを取り払うために謝ったの」
……………。
沈黙が流れる。あたしが言いたいことは大体言ったから、有希の返事待ち。
「……そう。わたしも……あなたともっと仲良くなりたい」
「ほんと!?じゃあさ、今日どっかに遊びに行きましょう?解散したあとにさ!」
有希は頷いて返事した。あたしはとてもうれしかった。有希との距離が少し縮まった感じがしたから。
何処に行こうかな?新しく出来たお店のデザートが美味しいって評判だからそこに行こうかしら?
あたしがいろんな思考を巡らせていると、有希が立ち上がってあたしの横まできた。
「どうしたの?有希」
そして、あたしの前で握っていた手を開いた時、そこには雪だるまのストラップがあった。
「……仲良くなったしるし。わたしとおそろい」
そう言って有希はそのストラップをわたしに手渡すと、携帯を出してそこについている雪だるまを見せた。
「メリークリスマス」
有希は平坦な声でそう言うと、元の位置に戻り椅子に座った。
あたしは急いで鞄から有希のために用意したプレゼントを取り出した。
「はい、これお返しね!」
そう言ってあたしが渡したもの、それはあたしが手縫いで作った、有希をかたどった小さな人形のような物。
「……これ、わたし?」
有希は指で輪っかの部分をつまみ、ぶら下げて眺めていた。
「うん、そのつもり。携帯にはちょっと大きいかな……鞄にでもつけてくれるんならうれしいかも」
有希はしばらく考えたあと、携帯にその人形をつけ始めた。
「携帯だと、休日も持っていられるから」
その静かな声がうれしかった。少しだけ、まだ完全に分かりあえたわけじゃ無いけど、確実にあたしと有希は仲良くなれたことを感じてうれしかった。
「そっか。うん、ありがとね、有希。大事にしてね?」
その問いに返事は返って来なかったけどうれしかった。
有希は窓の外の雪にその人形をかざして、ずっと見ていたから。答えは聞かなくてもわかったから。
しばらく人形を眺めていた有希を見ていると、こっちを向いた有希の珍しい姿を見た。
「ありがとう」
そう言って微笑む有希を見たのだ。その瞬間はまるで部室の中に白い天使が舞い降りてきたようだった。
見とれていたあたしに有希が声をかけたことで正気に戻った。
「……どうしたの?」
さっき見た天使の姿はもう消えて、いつも通りの有希の姿に戻っていた。
「あれ?ハルヒ、長門、二人で片付けすませちゃったのか」
キョンが部室に入ってきた。あたしが時間を確認すると、もう10時50分。
いつの間にか、けっこうな時間が経っていた。
みんなが来る前に見た、あたしだけが見た有希の微笑みが頭に残っている。
仲良くなれた証拠って考えていいよね?
キョンに怒鳴りつけながら、あたしはよろこびにほころぶ顔を抑えられなかった。
「キョン、遅いっ!罰金!」
あたしはキョンの反論を無視しつつ、有希と仲良くなれたことに機嫌をよくしながら窓を開けた。
風で雪があたしの顔に当たる。気持ちいい。
「うん、いい寒さだわ!」
あたしの一日が始まる。有希と仲良くなれたし、今日はどんなことをしても気分がいいはず。
さ~て、今日は何をしようかしら!!


おわり
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