「あ~あ、退屈で眠れないわ……」
なぜ退屈で眠れないと言うセリフが出るのかがわからない人もいるはず。
ここ3日、あたしは何も起きない日常にストレスを感じ、深く眠れなかった。
ストレスを感じるのはそれだけが理由じゃない。
どっかのキョンっていう鈍感バカがあたしの気持ちに全然気付いてくれないことも、ストレスが溜まる。
ストレスさえどうにかなれば眠れそうなんだけど……。
あたしは視界の端に、携帯電話を見つけた。現在時刻は夜中の1時半。
みんなに電話かけたら違ったみんなが見られるんじゃないかしら……。
あたしは携帯を手に取り、アドレス帳を開いた。その中からSOS団のみんなの名前を見て、考えた。
「誰からかけようかしら……」
まず、キョンは最後。最後の方が邪魔になるから。
あたしが一番気になるのは……。

あたしはその番号を押した。1コール……2コール…………6コール…ピッ。
「………なに」
うっわ~……有希のメチャクチャ不機嫌そうな声が聞こえてきた。
「あ、ごめんね有希。寝てた?」
「………用件は」

……これは長引かせると嫌われちゃうかも…。
「と、特にないの!ちょっとヒマだったから……ごめんね?おやすみっ!」
「……おやすみ…ふわぁ」
プツッという音と共に電話が切れた。
最後のあれはあくびよね。そして眠そうで不機嫌な有希の声……楽しめたわ。
次はどっちにしようかしら……。

あたしが番号を押すと、2コールもしないうちに古泉くんは電話に出た。
「おやおや、涼宮さん。こんな時間に何かご用ですか?」
普通に起きてる……。
「と、特に何も無いけど……ヒマだったの」
「そうですか、それならば彼にかけてみれば良いのでは?……す、すいません!森さん、あと少し待っててください!」
な、なに!?今の声は!
「コホン、すみません。ちょっとバイトの関係で残業中なんですよ。何か面白いことでもあったら僕にも教えてください、それでは」
……切れちゃった。
森さん?こんな時間まで残業?しかもバイトの。
何かあるわね……って、あぁ!気になる!
気になったら余計に眠れないじゃない!
……みくるちゃんに期待するしかないわね。

1コール……………9コール……ピッ
「あふ……ふぁい…もひもひ?」

みくるちゃんったら期待にそぐわない萌えっぷりね。録音して男どもに売りつければよかったかしら。
「おはよ、みくるちゃん」
「あり?す、涼宮さん?なんれすかぁ?こんな夜中に……ふぁ…」
「いや~実はちょっと眠れなくてさ。みんなこの時間は何してるかなって……」
「涼宮さん。わたし、眠いです!ごめんなさいっ!」
プツッ…ツーツーツー…
怒った……というよりは意を決して逃げたって感じね。まぁ、元より相手にされるとは思ってなかったし。

「のわっ!!」
いきなり携帯が鳴りだした。誰よ……キョン!?急いで取らなくちゃ!

「なによ、こんな遅くに」
「起きてたのか、びっくりしたな」
このバカ……自分からかけてきといて。しかもあたしのイタ電作戦が台無しになったじゃない。
「起きてるかどうか確認するんなら電話なんかするんじゃないわよ!」
ここでキョンは信じられない言葉を言った。
「すまん、どうしてもお前の声が聞きたくなったんだ」
……胸の鼓動が大きくなった。マズい、キョンに聞こえてるかも。
「ば、バカ……な、なによそれ。あたしはあんたの恋人じゃないのよ……」
「恋人じゃないと電話しちゃいけないのか?……それより何してたんだ?」

キョン……あたしのドキドキなんて気付かないで平然としてる…この鈍感バカ。
「ちょっといろいろとあって寝れないのよ。それでみんなにイタ電してみてたの」
「へぇ……それ面白そうだな。どんな感じだったか聞かせてくれよ」
あたしはキョンにいろいろなことを話した。有希があくびしたこと、古泉くんの妙な態度、みくるちゃんに珍しく反抗されたこと。
「へぇ……意外だ。みんなやっぱり夜は弱いんだな……古泉に至っては謎だが」
「でしょ!……でも、あたしが一番謎なのは授業中でさえ寝てるあんたが起きてることね」
キョンは電話の向こう側で声を上げて笑っている。……なんかムカつく。
「なに笑ってんのよ」
「あははは、いや、悪い。図星だなって思ってな。じゃあ、いまから俺が起きてる理由でも教えてやるか」
はぁ?と思ったら、窓に石の当たる音がした。
……キョンは下にいた。
「あんた何やってんのよ!!」
電話にあたしは叫んだ。
「すまん。さっきのは訂正だ。お前の声を聞きたくてじゃなくて、顔が見たくて起きてここまで来たんだ」
うわぁ……顔が赤くなる。電話越しでよかった、こんな顔見られたら絶対キョンにバカにされたわ。
「あ、あんたよくそんな恥ずかしいことが言えるわね」
「はははっ、夜でテンション上がってるのかもな。ハルヒ、どうせ寝れないんなら星空の下を散歩でも行くか?不思議が見つかるかもしれないぞ」
それも良いわね、どうせ寝れないんならキョンと一緒に居た方が幸せだもん。
「そうね、いまから降りるから待ってなさい」
あたしは近くにある服……ではなくて、一番お気に入りの服を着て、ゆっくりと静かに外へ出た。
「よ、ハルヒ。行こうぜ」
キョンがあたしに手を出してくる。あたしはそれを躱して、腕に抱きついた。

「やっぱり夜中は寒いわね。あったかいわ、あんた」
「そっか。じゃあそのままでいいから行こうぜ」
なんだろう、キョンが大人っぽく見える。普段の頼りないキョンは守ってやりたくなるけど、今のキョンに守ってもらいたいかも。
……なんちゃって。あたしらしくないわね。


星を見ながらの散歩は1時間くらい続いた所で休憩。あたし達は有希の家の近くの公園にいた。
「う~ん……だいぶ気楽になったかも。空気もきれいだし、星もきれい。ストレスが取れちゃったわ」
「あぁ、俺も同感だ」
雲一つない星空でムードは最高。こんな時に告白されたいわよね……あたしからしようかな?だって、キョンが好きだもん。

「わひゃっ!」
考えてると携帯が震えた。ヤバい、親にバレちゃったかな?
あたしはすぐに携帯を開いて電話を取った。
「星空がきれいで、言いやすそうな雰囲気だから言う。付き合ってくれ、ハルヒ」
……あたしは携帯をそっと耳から離し、ディスプレイを見た。
《通話中・キョン》
……やってくれるじゃない。あたしはすぐに携帯に耳をつけ、口を開いた。

「あんたにしてはやるじゃない。ポイント+10点で、あたしと付き合う権利をプレゼントしたげる」
あたしは横を向くと、キョンと目が合った。同時にニヤリと笑う。
「キスもつけてあげるわ」
電話越しに続く会話、こっちの方が楽しいからどちらとも電話を切らなかった。
「もちろんもらうぜ。甘くて、寒さを吹き飛ばすようなのをしてやる」
そう言ったキョンは電話を切ってキスしてきた。あたしは手をキョンに回して体を引きつけた。
……ってちょっと待って。ヤバい、キョンって初めてじゃないのかな?気持ちいい……力が……入んない……。

キョンが口を離す頃にはあたしはグッタリとしていた。回した筈の手も離れて、キョンがあたしを抱きかかえて支えてるような状態。
そんなあたしに今度は電話越しじゃない言葉が聞こえてきた。
「どうしたんだ?ハルヒ」
いじわるな、イタズラに成功したこどものような笑いを浮かべてあたしの顔を覗き込むキョン。
「あ、あんた……初めてじゃないのぉ?」
まだ体中の力が抜けている。……恥ずかしい。
「初めてだったさ。……あぁ、俺さくらんぼのへたを口だけで結べるんだ」
キョンはあたしに向かってペロッと舌をだした。この余裕がムカつく……。
あたしはその舌を掴んだ、引き抜くくらいの勢いで。
「痛ぇ!」
「うるさい!あ~、もう!今ので疲れて立てなくなっちゃったわ。あんたおんぶしてあたしを運びなさい!」
キョンは一瞬、顔をしかめたがすぐに微笑んで答えた。
「へ~へ~、了解ですぜ。団長様」
立ち上がったキョンにあたしはおぶさった。意外に幅のある背中は、頼りがいがあって、気持ちよかった。
だけど、立てないなんてのは全然うそ。あたしはそれくらいでへたるような人間じゃない。

ただ……甘えたかった。


あたしの家まであと少し。あたしは電話をかけた、目の前にいるキョンに。
「のぅわっ!」
いきなり震えだした携帯にキョンは面白い反応をした。それから電話にでた。
「まったく……どうした?乗り心地が悪いのか?」
「いえ、乗り心地は最高よ。ただ、どうしても伝えたかったのよ……大好き」
キョンが立ち止まった。あたしを背中から降ろして向かい合った後、携帯から聞こえてきた声。
「そういう大切なことは面と向かって言えよな」
キョンは笑ってそう答え、あたしの肩をポンと叩いた。
あたしは空に輝いている星に負けないくらいの笑顔を作り、キョンに顔を見せながら携帯に向かって喋った。
「大好きよ、キョン」
「イタ電じゃないが……3点だな。5点たまったらお姫様抱っこしてやるよ」
あたし達はそこから手を繋いで帰っていった。
もちろん、次にかけるイタ電の内容を考えながら……。

おわり

|