二章

非常によくわからん。よくわからんが一つだけ言える、俺は幸せ者だ。
まさかあの日の帰り道に朝比奈さんのほうからデートに誘われることになるなんて夢にも思わなかったさ。
そして今日はデートの日。俺と朝比奈さんが共犯で探索活動をさぼった日だ。
ハルヒに絞られるだろうな……いや、しょうがない。
ここは気分を変えて朝比奈さんとのデートを楽しむ事だけに全てを注ごう。
「す、すいませぇ~ん」
朝比奈さんが小走りでこっちに向かって来た。
暑いにもかかわらず、肌の露出が少ないのはやはり日焼けを気にしているのだろう。
ただ、間違いないのは何を着ても似合うということだ。
「ふぅ…ふぅ……ま、待ちました……かぁ?」
息を途絶えさせながら上目遣いで俺を見てくる。もう、3時間くらい待たされても許してしまうだろう。
「いえいえ、今きたばかりですよ」
こう言うのが礼儀だろう。
その礼儀が正しかったのか、朝比奈さんはニッコリと俺に微笑んで言った。
「よかった!それじゃあ……行きましょう?」
出だしからこの幸せ感……一日で幸せを全て使い果たしそうで怖いな。

今日のデートの行き先は、俺の脳内では決まっていた。
午前中は朝比奈さんの要望でデパートで買い物。そして、午後は湖に行くつもりだ。
いつぞやの合宿での《船は浮力で浮いてる》ってのを簡単に体験させてやろうと思った次第だ。
何しろ、あそこは涼しいし人が少なくて落ち着く。
そんなわけで、まずはデパートに行くのだが……。

俺達は裏道を通り、さらに裏道を通った。何故なら探索に出ているであろう三人に見つかったら全てが終わるからだ。
俺と手を繋ぐ朝比奈がクスクスと笑いだした。
「うふふ……。なんか、恋愛ドラマで駆け落ちする二人みたいです」
まったく……ビビってるのは俺だけですか。朝比奈さんとなら駆け落ちも悪くないな……なんて考えてる内にデパートに着く。
畜生、駆け落ちにしとけばよかった。
デパートで何を買うかと思えば…やっぱりお茶だった。
お茶の銘柄などさっぱりわからない俺は、朝比奈さんに腕を引かれるがままだった。
「次のお茶はこれでいいですかぁ?」
だから香りも銘柄もわかりませんよ。
「俺は朝比奈さんが選んだのならなんだっていいですよ」
俺がそう言うと、朝比奈さんは顔を赤らめてレジに走って行った。……ちょっとクサかったか。
その後は、デパート内で昼食を食べ、二人で色違いのお揃いのストラップを買った。
「涼宮さんには内緒ですよ?」
えぇ、もちろんですとも。それより、俺が思うのはほんとのカップルみたいなことをしてるなって事だけだ。
朝比奈さんが俺を?……都合がよ過ぎる考えだな。
俺達はデパートから出て、警戒しながらも湖に向かって行った。

「ふわぁ……すごい広くて…涼しくて…きれいです」
と言うのが未来人から見たこの湖の感想らしい。
まぁ、この説明通りの所だ。俺が休日にシャミセンや妹の相手をするのが面倒な時にお世話になる場所。
環境は良いが、人が少なすぎるためボート屋は開店休業状態である。まぁ、そのおかげで一日ボートの上で寝て過ごすなんてことも出来るわけだが。
そんなボート屋に向かう為に曲がりくねった湖沿いの道を歩く。普段なら20分で着く道を、野草や花を見つける度に朝比奈さんが立ち止まるので1時間程かけて歩いた。

ボート屋の親父に金を払い、ボートに乗り込む。やはり気をつけなければならないのは朝比奈さんだろう。
「わ、うわわわっ!」
予想通りにこけそうになる所を、俺は抱き留めた。
「気をつけてくださいよ。その服高そうですし」
「あ……は、はい。ありがとう……」
かなり接近して朝比奈さんの顔が赤くなる。とうとう俺にも古泉並の魅力が備わったか……とはいかなかった。
自分の顔もみるみる赤くなるのがわかり、すぐに離れて顔を逸らしてしまった。なんて情けない男だ。
そこから漕ぎだすこと10分。湖の中心近くでボートを止めた。
「あ、え?此処で止まるんですかぁ?」
俺に疑問を投げ掛ける朝比奈さんをよそに、ボートの上に寝転がる。
「まぁ、気にしないで俺と同じようにしてください。俺の腕に頭のせていいですから」
完璧な作戦。当初から見せる予定だった景色にプラス腕枕。役得だな、俺。
二人でボートの上に寝転がり、空を見上げた。
「すごい……」
広がる青空、聞こえるのは鳥の囀り。俺にしてはいい場所を見つけたなとつくづく思う。
「こうしてると世界に一人だけ……いや、今なら二人きりしかいないって思いませんか?」

そう言うと、沈黙が走った。俺は空を見続けたままだから朝比奈さんの表情がわからんがマズいこと言ったか?
まぁいいか。今はゆっくりとこの景色を堪能しますか。
しばらく経つと、俺は目を瞑って音を堪能することにした。
今日はせっかくハルヒが居なくてくつろげるんだ、ストレスを全部捨てないとな。
瞼の裏からさしこんでくる光がなくなった?……雲でもかかったか?
俺が目を開けると、朝比奈さんが上に居た。
……瞬間、キスされた。
「は、はいっ!?いきなり何ですか!?」
「あ…キョ、キョンくんそっちは!!」
参ったね。
視界がグルッと回り、俺は頭から湖の中に落ちて行った。やれやれ……幸せなのか不幸せなのか。
俺は沈んで行く中でそんなことを思っていた。


「……っくしょい!」
「あの……大丈夫ですか?」
大丈夫なわけがない。いくら夏だからといって、水浸しのまま歩いていたら風邪だってひくだろう。
「あはは……まぁ、どうにか大丈夫です」
「ほんとにごめんなさい……。キョンくん見てたら……我慢出来なくなっちゃいました」
我慢出来なくなった?それって俺に気が……。

「あ、あ、それじゃわたしはこれでっ!帰ったらお風呂でしっかり暖まってくださいねっ!!」
顔を真っ赤にしたまま朝比奈さんは走り去った。……あ、コケた。
まぁいい、とりあえずは帰って風呂だ。そろそろ本格的に寒くなってきたぞ。

家に帰り、妹の追撃を振り切り風呂に入った。
そこで一つ思い出した。俺は携帯を開けてみる。
ディスプレイが真っ暗だ……これはマズいね。午前中、ハルヒからの連絡はなかったが間違いなく夜にはくるはずだ。
『あんたなんで来なかったのよ!!』ってな。しかし、携帯が壊れているということはだ、間違いなく俺が携帯の電源を《故意に》切っているとあいつなら思うだろう。
………仕方ない、学校の日に朝イチであいつに謝ろう。
もちろん、嘘を混ぜながらな。


週明け、学校に行くと俺はまず驚いたね。
閉鎖空間から帰って来た日のように、ハルヒの頭がちょっとしたポニーテールだった。まぁ、いつもの気まぐれだろう。
「あ~、ハルヒ。おはよう。実はだな、俺の携帯が水没して壊れていたんだ……悪かった」

「あら、そう。だからアレだけ電話してやったのに繋がらなかったんだ」
なんか…不機嫌と言うか…落ち込んでないか?こいつ。
「なぁ、ハルヒ。だから俺、携帯買いに行くから一緒に行かないか?」
ハルヒの元気がないと、こっちの調子が狂うようになっちまったからな。いろいろな所に連れ出せば元気を出すかもしれん。
「あたし……いいわ。ちょっと疲れてるの」
……やはりおかしい。粘るか。
「そんなこと言うなよ。団長だろ?団員の言う意見には耳を傾けろよ」
「団長の意見は最優先なのよ。あたしが行かないって言ったら行かないの」
「じゃあ……ついて来てください、お願いだ」
ハルヒの顔が少し迷いの表情になった、もう一押しか。
「晩メシ……奢るぞ?」
「む……晩ご飯だけ?」
「なんならお前の好きな物一個だけなら買ってやる」
「……そこまで言うならついてってあげるわ、しょうがないわねっ!」
ハルヒはそう言うと、少しだけ普段の笑顔に戻った。やっぱり、こうでなくちゃ張り合いないな。


こうして、俺は放課後ハルヒと出かける事になった。
……朝比奈さんの事については保留しておこう。



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