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古泉君に助けられた次の日、あたしは普段通りに登校した。
普段通り、って言うと語弊があるわね。確かに表面は普段通りよ。
でも、内心は昨日の古泉君の言葉で大いにかき乱されていた。
もし、あたしの精神状態を反映した世界があるなら、
そこはきっと阿鼻叫喚の地獄絵図が繰り広げられてるわ。
……なんてね。こんな馬鹿なこと考えなきゃ、やってられないわ。
もう一度あの頃をやり直す、なんて大それたことは願わない。
でも、キョンに謝りたい。ゴメン、って一言だけでも言いたい。
許して貰えなくても、あたしは自分にけじめを付けたい。
……許して貰えなくてもいいってズルイ考えよね。
結局自分の事だけ考えてるってことだし。
ああ、やだやだ。こんな自分が嫌になるわ。
面白いこともないし、自分自身が嫌。憂鬱よ。
こうなると、もう何もかもがどうでもいいわね。

頭の中であたしが言う。
『受験?ふん、どうだっていいわ。大体ね、大学に入ったからなんだってのよ。
あたしは未来人とか宇宙人とか超能力者とかいう超常現象が
実在するか知りたいの。そんなのやってない大学なんて行く意味ないわ』
もう一人のあたしが言う。

『違うわ……。それは嘘よ。“あたし”が一番知りたいことじゃない。
“あたし”の知りたいことは今、一つしかない。
それをどうにかしないと何も出来ないわ。
分かってるでしょ?素直になったら?』
一人目のあたしは、顔を赤くして怒鳴った。
『うるさいわよっ!』
『図星だからって、そんなに怒らないの、“あたし”』
二人目のあたしは、冷静にそう言ってのけた。


……あー、もうっ!あたしの心は支離滅裂よっ!特に二人目、生意気よ!
そんなこんなで、期末の成績は相当ヤバイものだった。
こんな点数始めて取ったわ。
問題自体はあくびが出るくらいに簡単だったのに……。
「どうしよう……」
三年になる直前にこれはまずいわよね。
何にも集中出来ないせいだ。やっぱりあたしはけじめを付けなきゃいけない。
でも、どうやって?突然電話でもかけてごめん、とでも言う?
それじゃ、駄目ね。面と向かって言わないと。
……なら、キョンに会うにはどうすればいいの?
あいつのところまで二、三時間はかかる。
所詮子供のあたしが気楽に行けるところではない。

鬱々としたあたしの気分のことなんか無視して季節は過ぎて行く。
今はもう、暑くなり始めるころ。
少し気の早い蝉が鳴いている。
「うるさいわねー。天ぷらにして食べてやろうかしら?」
そんなことを呟きながら、家へ向かう。
誰の家かは知らないけど庭に笹が飾ってある。
「今日って、七夕だっけ……」
七夕を忘れるって相当まずいわね。

「ただいまー」
「お帰り。
そうそう、新聞見てみなさい。前の高校がニュースになってるわよ」
「北高が?」
半信半疑で、新聞を見る。

………
……


嘘……。
何で、こんな事が起きるのよ?

あたしはあるだけのお金を財布につめて家を飛び出した。

「ちょっと、どこ行くの!?」
「ごめん、今日は帰ってこない!」
「あっ、待ちなさい!」
無理!待てって言われて待つバカはいないわ!
駅まで走って、電車の切符を買う。
駅員さんが不審そうな顔したのは何でだろう?
けど、今はそれどころじゃないのよ。

「遅いわね、この電車。もっと速く走んないの?」

イライラしながら目的地に到着するのを待つあたし。
他の乗客の人がこっちをちらちら見て来るのは……。
「あ、制服のまま家飛び出てきちゃった」
こんな時間に制服着た女の子が電車乗ってたら、変って思うわよね……。
でも仕方ないじゃない。急いでるんだから。

「着いた!」
半年ぐらいしか経っていないとは言え、懐かしいわね。
あたしは目的地まで全速力で駆け抜けた。
そこには一人の人影があった。


※キョン視点になります。

古泉の野郎との電話が終わったあと、俺には一つの計画があった。
時期的にぴったりで、あいつはそこまで見越して
電話かけてきたんじゃないかと疑ってる。

それの効果のほどは分からない。
効果がありそうな気もするんだが、ないような気もする。
でも、この計画以外にハルヒにメッセージを伝える方法は思い付かない。
電話?却下だ。
なにせ大事な事は面と向かって言わなきゃいかん、って奴だからな。
ちょっとした危険もあるが、まあ、いいだろう。
「となると、必要な物は……」
部屋の中を探し始める俺。こんな時に日頃の整理の大切さを知るな。
だが、目的のものは割とあっさりと見つかった。
これがないと、はっきり言って話にならん。
「日にち的にも問題なし。
後は、まあ、何とかするしかないんだがなあ……」
事前準備が一番面倒臭いな、これ。

次の日は俺の気分と反比例したような快晴だった。
今日しなきゃならない事を考えると、今の俺の気分は
鯨に飲まれるプランクトンっていったところか?

一時間目の授業を俺はサボった。
サボって何してたかと言うと、今日の準備だ。

心臓が止まるかってぐらい緊張した。もう二度とやらん。
二時間目からは授業を受けるべく、教室へ行く。
「おい、キョン。遅刻とは珍しいな」
「なんか体調が悪くてな。夏風邪かもしれん」
わざとらしく咳をしてみる。
「ゲェ、移すなよ」
そうだな、それもいいかもな。風邪は移せば治ると言うからな。
「馬鹿なこと言うなよ」
夏風邪はなんとかがひくってな。
「アホか。そもそも風邪じゃねえだろ」
わかったか。
「確かに風邪じゃねえさ。寝不足でだるいがな」
「んな事だろうと思ったよ。どうせまだ落ち込んでメソメソと泣いてんだろ?」
さすがにそれはない。「そんなことするのはお前一人で十分だ」
「俺はしねぇ!」
おっと、授業が始まるな。次は数学か?
さっぱり分からん。

今日ほど一日が長いと思った日はないな。
しかし、今はもう夜で、『計画』を実行する時だ。
まずは――

………
……

――できた。まあまあな仕上がりだな。
出来上がったんなら後は帰るに限る。宿直の教師に見つかる前に。


「お帰りなさい。どこ行ってたのかしら?こんな遅くまで?」
教師には見つからなかったが、日付変わってからの帰宅におふくろは怒り心頭。
俺は平謝りに謝った。平身低頭、誠心誠意。
反省、いや、猛省しております。二度としませんから、ここはどうか……。

やっとの事で開放されたのは、午前二時。
これじゃ明日――今日、か?――は睡眠不足でぶっ倒れんな。

その日の高校の雰囲気は寝不足でぼんやりしてる俺にも分かるぐらいにうわついていた。
騒いでる理由は分かってるから俺は何も言わないで、寝ていた。
寝ないと本当にもたない。そんなわけで授業はほとんど聞いていない。

「ああ、もう終わりか」
国木田がよってきた。
「キョン、今日寝過ぎじゃない?」
本当の理由を言うわけにもいかない。
「試験が近いだろ?徹夜で勉強しててさ」
「それで授業寝てたんじゃ本末転倒だよ」
「分かった。今日はちゃんと寝る事にする」
寝れたらな……。
「じゃあね」
「おう」
俺も鞄を手にとり校門前まで歩いて行った。


辺りはもう真っ暗だ。
「今日は、晴れてて星がよく見えるな……」
もう、帰るかと諦めた俺の目に息を切らして走る人影が映った。
「ハルヒ!」
ハルヒは立ち止まってしまったようだ。
「キョン……」
「ようハルヒ。久し振りだな」
「キョン、やっぱりあんたなのね」

「『あたしはここにいる』。
今の俺にはぴったりだったもんでな」
そう、俺が昨日したのは、いつかハルヒが描いた宇宙に宛てたメッセージの再現。
宛先が宇宙とハルヒって違いはあるがな。
「……何で、意味が分かったの?」
ハルヒの目はこれでもかってくらいに見開かれている。
「話せば長くなるんだが……、」
「良いわ。本題は、そっちじゃないから。
言わなきゃいけないことがあるの」
俺だって言わなきゃならんことがある。
俺はハルヒに深く頭を下げた。
「ハルヒ、すまん」
「な、なにが?」
分かってるだろう。
「わ、わかっては、いるわよ……」
何で黙っちまうんだよ。
「あたしのこと、怒ってない?」
最後の日のハルヒの態度は今でも覚えている。
「正直に言って、今でも時々、腹立たしい」
俯いてしまうハルヒ。「だがな、お前がいなくなってから俺は何一つ集中できなかった。
いつの間にかハルヒの存在が俺の中で大きくなってたんだ」
「……それって」
まあ、待て、とハルヒを制す。
他にも言いたいことがある。

「お前が引っ越す日に学校抜け出してお前の家に行ってみたんだぜ?
そしたら、家はもぬけの殻。俺は、道化役者かっての。笑っちまうよな。
こんなに落ち込むんなら意地張らずに謝っちまえば良かったって何度思ったか。
長かったよ、ホントに。やっと言えた」
一息つく俺。まだ俯いてんのかハルヒ?
……って肩が小刻みに震えてんのはもしかして、もしかするのか?
「ハルヒ、どうした?」
「あんたが、史上最大のお人好し並みに優しいから……!
何でよ……、謝んなきゃいけないのはあたしなのに、
何で……、何であんたが謝ってんのよ!」
「喧嘩両成敗って言うだろ?」
なんか例えがおかしい気もするがな。
「わけ分かんないわよ!
ああ、もう!駄目、やっぱりあんた相手だと……」
不自然に切るなよ。
「言えないのよ、あんたに、面と向かって。一言で良いのに……」
そんな噛み千切らんばかりに唇を噛むな。痛そうだから。
「なあ、ハルヒ。言わなくても分かるものもあるんだぞ」
キッ、と俺をにらむハルヒ。
「あたしが、納得できないのよ!」
納得できんならやりたい事をやればいい。
「それも……、できないのよ」
前世のおれは何か悪事でもはたらいたのか?
「やれやれ。何でこんな厄介な事になったのか?」

「どういうことよ」
そんな喧嘩腰に言うなって。
「なんでこんな意地っ張りが好きになったのかな、って」
「意地っ張りじゃな……。
って、ちょっと、待ちなさい、キョン。今、なんて?」
キザなポーズが似合わんのは百も承知だが、肩をすくめてみせる。
ハルヒの目を見る。
「好きだ。この数か月で嫌ってほど分かったよ。
ハルヒがそばにいないのが悲しかった。さみしかった。
それ以上に悲しかったのは、お前と喧嘩別れしちまったことだ」
ハルヒの涙腺が崩壊した。
「……ごめんね。
やっと分かったわ。あんたに素直になれないわけが。
あんたに見て欲しかったのよ、きっと」
随分とひねくれてんな。好きなやつに意地悪をすんのは小学生までにしとけ。
「あんたが言うの?この鈍感」
「鈍感なつもりはない。お前が分かりづらいだけだ」
「そんなことないわよ」
「分かったよ。そういうことにしといてやる。
さて、どうすんだ?その格好見る限り、家飛び出してきたって感じだが?」
「そうね、あんたんちに泊めてもらうわ」
「そうか……、って待て待て待て。俺んち?」
文句でもあるのかと言いたげな顔でハルヒは言う。
「彼氏の家に泊まっちゃいけないの?」


「ただいま……」
「お帰り。また、遅かったわね。どこ行ってたのかしら?
……あら、お客さん?」
「あー、何だ。その知りあ、痛てっ、じゃなくて、友だ、痛てぇって、
でもなくてあれだよ、あれ。えーと、‘か’の付くやつ」
つねるな、ハルヒ。お前は社交辞令を知らんのか?
「そんな、かわいい子連れ帰ってきて、どう、するつもり?」
どうもしない!
「根性なし……」
後ろで俺の理性を崩すようなことを呟くなあぁぁぁ……。

「なんでこうなる……」
今俺の部屋にはハルヒがいる。
「部屋がないんだって言うからしょうがないじゃない」
だからって年頃の男女を同じ部屋に入れるか?
「良いじゃないの」
いいのか?
「あんたには色々訊きたいこともあるし、聞いて欲しいこともあるのよ」
「そうか」
「何か期待してたでしょ、エロキョン」
「してない」
「ひどいわ、あんた女の子に興味ないの?」
「そんなわけあるか!」


奇しくも今日は七月七日――七夕。
離れ離れになってた俺たちが再会するのにはぴったりだ。
またお前に会えて嬉しいよ。
明日にはまた離れ離れだけど今度はちゃんとやっていけるさ。


時は過ぎ、四月。満開となった桜の下。
これから通うことになる大学を俺は見上げていた。
ふと前を見ると、同じようにしているやつがいる。
そいつは中途半端な長さの髪を後ろで括っていた。
俺はそいつのそばに行って、こう言ってやった。
「よう、ハルヒ。似合ってるぞ」
FIN.
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