ハルヒが出て行った教室に俺はしばらく残っていた。
そんな俺に阪中が恐る恐るといったふうに近付く。
「ねえ、涼宮さんの送迎会に、行かないの?」
聞いてただろう、俺は呼ばれてないんだよ。
「行ってあげたら喜ぶと思うよ」
怒るだけだと思うがな。
「ちょっと、様子見るだけでも、ね?」

その後も俺たちは押し問答を繰り広げ、最終的に
阪中に押し切られる形で俺は文芸部室前に行くことになった。
中からいい匂いが漂ってくる。また、鍋か。
入って、と眼で阪中が言っている。
俺がドアノブに手を掛けた丁度そのときにハルヒが中で叫んだ。
「あいつは『ただの』一般人よ!」
いつの間にかあいつの中で俺はそこまで格下げされていたらしい。
それはだいぶきつかった。
確かに俺は平々凡々な一般人だが、
それなりに団員として――こう言っていいのか甚だ疑問だが――
誇りを持っていた。それを踏みにじられた気分である。
何よりも、ハルヒがまだ拒絶の態度を崩していないのがショックだった。
「やっぱり、帰る」
そう言って俺は部室前を後にした。


あいつはどこまで意地っ張りなんだ。
それとも本気で俺が嫌になったか。
……どっちにしろ、もう終わりだ。
明日、ハルヒはずっと遠いところへ行っちまう。
もう、会うことはないのだろう。
そんなことを考えながら寝転がっていたのがまずかった。

俺はそのまま寝てしまい、結局二日連続で晩飯を抜くはめになった。

「だるい……」
晩飯を抜いたうえに、私服のまま寝てしまった俺は次の日、
体調不良と言う名の報いを受けていた。
「今日は、坂の途中で野垂れ死ぬかもな……」

どうにか、こうにか到着した教室で
ぽつんと一つ、座る主がいない机があった。
「そういえば、今日出発だったか」
意識しちまうと、もう駄目だな。授業に身が入らない。
一時間目が終わると俺は荷物を持たずに教室を出た。

「まさか、体調不良がこんなところで仇になるとはな」
学校を走って出たのは良いが、俺の体力が尽きるのは早かった。
息も絶え絶えな俺がハルヒの家についたとき、
そこには誰もいなかった。
「遅かったか……」
ここから遠くに見えるあの車に乗ってるのか?
……そんなわけはないな。
「結局、駄目だったか」
俺は独り言のつもりで言った。
だから後ろから答えが返って来た時、それはもう驚いた。
「そうみたいですね」
「古泉?」
なんでお前がここにいるんだ。
「僕だけではありませんよ」
古泉の後ろには朝比奈さんに長門がいた。
「あなたが学校を飛び出したと聞きまして、慌てて追いかけたわけです。
しかし、あなたも不思議な人ですね。何も今日じゃなくて
昨日謝ってしまえばよかったのに」
心底呆れたといったような口調で言う。
「俺だってそのつもりだったさ。
ところがあいつは俺の顔見るなり
『これでもうあたしに会わないですむわね』
だぞ?そりゃ、謝る気もなくなるだろう」
俺が聞いた中で最大級の溜め息。
「本当に困った人達だ」
悪かったな。

「まあ、本題に入りましょうか」
今のは違うのか?
「ええ。取りあえず今後の僕たちの
身のふり方に付いてお教えしておきます。
僕は二学期の終わりに転校します。
さすがに今度は彼女と同じ学校とはいきませんが、
それなりに近いところに行きます」
なんで転校する必要がある?
「お忘れですか?あくまで僕の仕事は涼宮さんの監視と
閉鎖空間の対処です。ここまで言えばわかりますよね」
ああ、分かりすぎるぐらいだ。
「長門と朝比奈さんもですね」
こくりとうなずく長門。
しかし朝比奈さんは首を振った。
「あたしはもともと今年までしかこの時間平面にいられないんです。
だから、卒業と一緒にお別れです」
「本当はもう少しあなたといたかったのですが、仕方ありません」
そうだな。仕方がない。
「取りあえず、そんな予定です。もしかしたら
また、どこかで会うかもしれませんが」
そう言って、古泉は身を翻した。
長門はその顔に寂しさを滲ませて去っていった。

「まだ、早いけど、さようなら、キョン君
楽しかったです」
朝比奈さんはそう言い残して去った。涙とともに。

ああ、俺は全部無くしちまったんだな。
高校生活そのものといっていいSOS団を。
正直に言って、俺はあいつらの目的を忘れてた。
いや、意識する必要がなかった。
なぜなら、俺はずっとハルヒといるつもりだったから。
でも、そうじゃなくなった。
一体どうしてこんなことになったのか。
誰も答えてはくれない。



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