放課後、あたしはお別れパーティーを五人でしていた。
最後の一人は鶴屋さんよ、言っておくけど。
「ハルにゃんがいなくなるとこの学校も寂しくなるっさ」
そうしみじみ言って鍋をつつく鶴屋さん。
あたしもそう思うわ。あたしがいなかったら誰が学校を盛り上げるのよ?
……にしても古泉君の手際にはびっくりよ。
放課後、たった三十分で鍋の材料揃えちゃうんだもん。
どっかのバカとは……。
「どうしたのかな?そんな沈んだ顔して?」
あたしの顔をのぞきこんで鶴屋さんが言う。
「そう言えばキョン君がいないねっ?もしかしてそのせいかい?
どうしたんだい、彼は?」
あいつは関係ないわっ!
「おやおや、ご機嫌さんが斜めにょろね?
……ああ、なるほど分かったさ。喧嘩別れしたんだね。
でも、人生は一期一会。
たとえどんな人であろうと出会えた事実は大事にしなきゃだめっさ。
その人が大切な人ならなおさらだよ?
怒ったままサヨナラは寂しすぎるっさ」
なんか鶴屋さんにまで腹が立ってくる。
「あいつはただの一般人なのよ。大切でも何でもないわ!」
鶴屋さんは一瞬ぽかんとした。

「そうなのかな?ま、本人がそう言うなら『今は』それでいいっさ。
……それより鍋が無くなるよ!」
「ああ、有希!いつの間にそんなに食べてんのよ!」
「二人が話している間」
そんなことは聞いて無いわ……。
でも、融通が聞かないところは有希らしいけど。
「そうだ、みくるちゃん」
「は、はい!」
そんなにかしこまらなくてもいいわよ。最後まで可愛い先輩ね。
「そこらへんの服あげるわ」
そう言ってあたしが指で示したのは大量の衣装。
「でも、あれは、涼宮さんが買ったものじゃ……?」
「いいのよ。新しい学校に限らず、
みくるちゃん以上の萌えキャラなんていないんだから」
あたしがそう言うと涙ぐんでしまうみくるちゃん。
「何、泣いてんのよ?別に今生の別れってわけじゃ……」
あたしはそこから先を言えなかった。
みくるちゃんが泣き始めちゃったから。

「たの……、楽しかったです。い、色々、ありま、したけど。
次の……、学校、でも、元気にしてて……、くださいね?」
「泣き過ぎよ、みくるちゃん」
こうやって泣かれちゃうと、今日で最後なんだって実感してしまう。
SOS団で二年間活動して来て、
中学とは比べられないほどの思い出ができた。
全部、そう、きっと全部、いい思い出よ!
こうやって『みんな』があたしのお別れパーティーを開いてくれる。
そんな友達に囲まれたんだから、絶対にいい思い出なのよ!


何かが欠けたまま……。
そんな気持ちをあたしは抱いたまま、お別れパーティーが幕を閉じた。

家に帰って部屋に引っ込むあたし。
「それにしても、親父の転勤急すぎよ。
もう少し前に教えるものじゃないの?
これじゃ何時かの朝倉じゃない」
一人でぼやきながら布団に入って目をつぶった。
あたしの瞼に浮かんで来たのは、忌々しいことにあいつの顔だった。
「あんたなんかいなくてもやっていけるんだから!」

嫌な気持ちのまま寝ると寝起きも気分が悪い。
「あ、遅刻する……て、そうだった。今日は引っ越しだった」
いつもよりゆっくり過ぎる朝の時間。
今日で最後になるこの家での食事。
「お母さんちょっと予想外だったのよ」
突然話が始まる。
「何が?」
「ほら、転勤が急だったから、
お父さんは先に行ってあたしたちは後から行こうかって訊いたら
あんた、一緒でいい、って言ったじゃない」
それがなんかおかしい?
「高校入ってからあんたよく学校の話、するようになったじゃない。
前は学校なんてつまんないって言ってたのにね。
それでね、あんたの話によくでてくる友達と
もう少し長くいたかった、って言うと思ってたのよ。
特に、ほら、誰だっけ?キョン君?その子とね。
彼は今日、見送りに来てくれたりとかしないの?」

「しないわ」
思わずぶっきらぼうに言ってしまう。
「あらあら、悪いことしたわねえ」
なんて笑いながら言ってる。何か勘違いしてるみたい。

お母さんが時計を見た。
「もう、こんな時間?荷物はちゃんとまとめてあるわよね?」
「まとめてあるわ」
丁度そのとき、引っ越し屋が来た。
正直に言って知らない人達が自分の家に
入ってくるのはあまりいい気分じゃないわね。
……仕方ないんだけど。
それからしばらくすると家の中は空っぽになった。
生活の跡は抹消され、静けさだけが残っている。
あたし達は家を出て、車に乗る。
出発してから家の方を振り返る。思い出を振り返るつもりで。
いつの間にか遠くに行ってしまった家の辺りに
人影が一つあったように見えたのはあたしの気のせいだと思う。

そう、きっと、気のせい……。



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