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あの日俺とハルヒは喧嘩した。理由は本当に些細なことで、
俺が折れちまえばこんなことにならなかっただろう。
だけどもう手遅れで、俺の側にはハルヒはいない。
ハルヒどころかSOS団のやつは誰一人北高にいない。
……俺を除いて。



「お前の顔なんか見たくもねえよ!」
気付けば俺は怒鳴っていた。もう、止まれそうにない。
いつぞやの文化祭のときよりも俺は怒っていたね。
「あら、奇遇ね。あたしもよ!」
「気があうな!」
「残念ながらね!」
睨み合う俺とハルヒ。
いつもよりオロオロしている朝比奈さん。
本を読むのをやめてこっちを見ている長門。
それにこいつだ。
「お二人とも、落ち着いて下さい」
俺は落ち着いてる。
「あたしは十分落ち着いてるわよ!」
「……どこがですか?客観的に見てお二人とも、落ち着いていません」
何だか、古泉の口調がかたい。まるで、そう、怒るのを無理やり抑えているような口調だ。
「大体キョンがいけないのよ!」
「俺のどこが悪いんだ?お前の方が悪いだろう!」
そんな俺たちに愛想を尽かしたか、
溜め息をつくと部室を出て行く古泉。
「あたしのどこが悪いってのよ?どこにもないわ!」
「それだよ、悪いとこを認めないところだよ!」
「だから、どこが悪いのか言いなさい!」
……ああ、もう完全にきれた。もう、手加減しねえ。

俺の中で俺の知らない間にたまっていた
不平不満が口を裂いて飛び出さんというとき
「先に謝っておきますよ」
そんな前置きと同時にいつの間にか戻って来た古泉が、
その手に持ってきたバケツの中身を俺たちにぶちまけた。
「いったん落ち着いてください」
そう言うと古泉は俺たちにタオルを差し出した。
古泉はこれで俺たちが落ち着くなんて思っちゃいなかっただろう。
ただ、標的を自分に向けさせて事態の沈静化をはかりたかったのだろう。
でも、もう完全に手遅れだった。
「何でこいつが悪いのにあたしまで水かけられるわけ?」
「それこっちの台詞だ!もう、知らん。俺は帰る」
「さっさと帰りなさいよ、バカ」
ああ、帰ってやるさ。「お前と同じ部屋なんかにいられるか」
そんな言葉を残して俺は部室を出た。
あの日が全員揃ったSOS団を見る最後の日だなんて
想像もしなかった。

家に帰って部屋に引っ込んだ俺は、ベットに体を預けた。
「なんだってんだよ、ちくしょう……」
気怠さをともなった虚無感が俺を襲う。
結局その日は飯も食わずに寝てしまった。

次の日の朝はまるで俺の心を写したようにどんよりと曇っていた。
いつも以上にこの坂が恨めしい。
そんな風になる理由は分かっている。
昨日ハルヒと喧嘩したまま別れちまった。ただそれだけだ。
もし、いままでの関係を望むなら、謝ってしまえばいい。
俺が意地を張ってたってことにして、謝って
ハルヒがバカね、とか何とか言いながら許してくれる……。
少々癪だが、それが一番良い。
ところがそれは許されなかった。
間違った選択をしてしまった俺に引き返すという選択肢を
世界は用意してくれなかった。

教室に入ってもハルヒはいなかった。
「今日に限って遅いのかよ」
そうぼやいてもしょうがない。じっくり待つさ。

結局、ホームルームが始まってもハルヒは来なかった。
正確に言えば、いつもの場所にはこなかった。
あいつは担任と一緒に教室に入って来た。
「涼宮は、急なことだが、お父さんの仕事の都合で転校するそうだ。
たしか……」
「明日、出発です」
そう言ったハルヒの声は入学当初の頃のような苛立った声だった。
やることは全て終わったといったような顔でハルヒは俺の方へ
――正しくは俺の後ろの机へ――歩いて来た。
「ハル……」
「良かったわね、これでもう、あたしを見なくてすむわよ?」
ざわつく教室。
おい、なんだその態度は?せっかく謝ろうと決めてたのに、
やる気無くすだろう。

「あー、そんなわけだから、あと一日楽しく、すごしてくれ」
楽しく、ってところを強調しやがった。
ああ、俺だって楽しくすごしたいさ。
でもどうやら、涼宮さんが嫌みたいなんでな!
どうせこれもハルヒパワーの影響だろうよ。
休み時間に二人ほど話しかけて来た。
言わなくても良いよな?
「ねえ、キョン。喧嘩でもしたの?涼宮さんと」
そんなところだ、国木田。
「でも、今日で最後なんだよ?仲直りしなくて良いの?」
朝のあいつの言葉聞いただろ?俺にはその気があるんだが
あっちにはないんだよ。
「おい、キョン。涼宮とこんなに長くいたお前なら
あいつがどんなやつだか分かってるだろ?」
ああ、分かってるさ、谷口。わがままで、自己中心的で……。
「違う!」
なんだよ、何そんなマジになってんだよ。

「あいつは負けず嫌いと言うか何と言うか……。
ともかく、お前が何か言ってくるのを待ってるんだよ。
でも、そんなところを見せたくないから、あんなこと言ったんだ。
俺にだって分かるんだからお前に分からないはずがないだろ!」
それはどうかな?
お前はあいつのトンデモパワーを
知らないからそんなことを言えるんだ。
「ともかく、お前らはこのまま別れるべきじゃない。こんな状態で別れたって、御互い傷つく……」
「ちょっと黙ってくれないか、谷口?」
いい加減うざい。無性に腹が立つ。
「いいや、黙らないぞ。俺はお前らのためを思ってだな……」
「あんた、何か勘違いしてない?」
突然現れたハルヒ。
「何だよ、涼宮かよ。いいか、キョンにも言ったんだが……」
「あたしとこいつがどんな状態で別れようが勝手でしょう?
そもそもこいつなんかどうだっていいのよ」
言い切るハルヒ。分かったろ、谷口?もう黙ってろ。
「いいや、嘘だ。中学からずっと同じクラスだった俺が保証する。
お前はキョンとなんかやってるときは本当に楽しそうだ。
そんなキョンがどうでもいいやつなわけ無いだろう」
「……うるさいわよ!」
そう言うとハルヒは谷口を叩いた。

「……そうかい、分かったよ。
お前らがそう思ってるならいいが、必ず後悔するぞ。
これは予想なんかじゃないからな」
そう言い捨てると谷口は国木田と共に席へ戻っていった。
国木田は去り際に
「まあ、落ち着いたら?」
なんて言いやがった。何度も言うが俺は落ち着いている。

結局、放課後まで俺とハルヒがまき散らかす
不機嫌オーラは消えることはなかった。
「涼宮さん、送迎会やろうよ」
と阪中が話しかけている。
「やらないわ。あたしはSOS団の『三人』とやるから」
そう言いながら阪中をスゴい目でにらむハルヒ。
阪中は完全に腰が引けてる。
「ご、ごめん。あの、元気でね」
ふんと鼻をならして返事代わりにするハルヒ。
「精々、新しいところで浮かないようにしろよ」
とは俺。
「あんたには関係ないでしょ」
おお、そうとも。
全く、関係ないとも。ああ、もうお前に会えないなんて、
何て素敵な人生か。
「お陰様であたしも素敵な人生、送れそうだわ!」

最後の最後まで俺とハルヒは険悪なままだった。
あまりにひどいといえばひどい終わり方だ。
だけどもう戻れない。
俺たちの道は別れちまったんだ。


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