「たっだいまー!!」

部室の扉を開けると、中で読書をしてた有希がゆっくり顔をこっちに向ける。
相変わらずの無表情だけど、それが有希の、おかえりなさいの合図。
中をよく見たら、キョンもいるじゃないの。・・・って

「あれ?キョン?・・・寝てるの?」

北高女子生徒用のカーディガンを羽織り(あ、足元に電気ストーブ。早速自分で使ってるわね)、
長机の上に両腕を枕代わりにして、寝息を立ててる。
さっき有希を見た時違和感を感じたと思ったら、これだったのか。

「カーディガン貸してあげたの?キョンなんかに優しくしちゃだめよ、有希」

有希は目線を本に向けたまま、何も言わなかった。

目線をキョンに戻す。授業中寝てる時の後ろ姿そのまんまね。
それにしても孤島に行った時もそうだったけど、コイツけっこうすぐ寝るわよね、どこででも。
おまけに団長であるあたしが帰ってきたのに、寝たままなんていい度胸よね。
あ~、なんか腹立ってきたわ。
こらぁ~!!キョン!!起きr

「だ、だめですよぉー!涼宮さんっ!」

言いかけたあたしを、後ろからみくるちゃんが背中から抱き止めて言い放つ。
肩越しに後ろを見ると、みくるちゃんは助けを求めるような顔であたしを見てる。

「あっ・・あの・・・きっと疲れてるんですよ、たまにはそっとしておいてあげましょうよぉ~~」

と、びくびくした声であたしに言った。
ったく、この子ほどお化け屋敷の脅かし役が似合わない子もいないわね。
そんな事はどうでもいい。現実に頭を戻す。疲れて寝てる、か。

う~ん、しょうがないわねぇ・・・
DVD用の画像や動画もたっぷり撮れたことだし、あなたに免じて、今日だけは許してあげるわよ。
あ、いいこと思いついた。

それじゃあ、みくるちゃん?

「はぁい、なんですかぁ?」

「そろそろ下校時間だし、さくさく制服に着替えましょうか!?」

「え?えぇ!?で、でも、キョン君が・・・」

「なによ?そっとしておいてあげましょうって、今みくるちゃんが言ったんでしょ~?」

恩は仇となって返ってくるっていう日本社会のシステムを団員に教えてあげるのも、団長の仕事よね?
あたしがみくるちゃんに飛びかかろうとしてる間に、

「学校に帰ってきても、我々を探しに来なかったということは、本当に、よっぽど疲れていたようですね」

後ろでずっと立ち往生状態だった古泉君は、横目でキョンを見ながら、
レフ板を部室の隅っこに置いて、また外に出て扉を閉めた。

みくるちゃんを着替えさせてる間、有希はなにやら本棚から新しい本を取り出してた。
どうでもいいけど今日に限って本棚に向かう回数やたらと多くない?
結局キョンは起きなかったわ。
ちっ、惜しい・・・。



「雨が降り始めましたよ。みなさん傘は持ってきているんですか?」

戻ってきた古泉君に話を振られて、初めて外の雨の音に気付いた。
あ、あたし持ってきてないや。今日は晴れてほしい気分だったし。

「んと、あたしは、折り畳みをいつも持ってますから、大丈夫です。」

さすがみくるちゃんねぇ、でも折り畳みだと小さいし、あたしが一緒に入れないじゃない。

「問題ない」と今度は有希。

古泉君は、下駄箱に小さなビニール傘を置いてるらしい。

みんな持ってきてるということは、天気予報の降水確率高かったのかしら?
まぁいいわ、下駄箱の傘立てに、1本くらい忘れ物があるでしょ?
それを聞いたみくるちゃんが苦笑い。
どうでもいいけど、キョンは持って来てるのかしら?

とか考えたりしつつ、その後しばらくは、みんなで雑談タイムになった。
その間に古泉君は自分の分のカードゲームを片付けてたわ。

相変わらずキョンは起きなかったけど。

パタン、と有希が本を閉じる音がして、本日のSOS団の活動は終了。
窓から外を見ると、もう暗くなり始めてる。

さて、部室の鍵を取りに職員室に行かなきゃね。

「鍵は私が閉めとくわ。3人共先に帰っていいわよ。このバカはなかなか起きそうにないし」

「では、下駄箱までご一緒しましょうか?職員室に行くには、通り道ですし」

古泉君がいつもと変わらぬ笑顔でそう言った。
みくるちゃんがいれてくれたお茶の残りを一気に飲み干し、あたしたちは部室から出た。

「それでは、キョン君の事はよろしくお願いしますね?涼宮さん」

みくるちゃんが靴を履きながら、笑顔であたしにお願いする。

「そうねー、部室に戻ってもまだ寝てるようなら置いて帰るわよ~」

自分用の傘を捜しながらあたしは適当に返事を返した。
こういう時に限って1本もないってついてないわねぇ。
職員室か、宿直室にでも行って探してみるしかないか。

「じゃあ、また明日ねっ!有希は明日、今日撮ったビデオの編集手伝いなさいよ!?」

「わかった」

まっすぐこっちを向いてうなづき、踵を返してそのまま帰って行った。
古泉君とみくるちゃんも後を追うように歩いていく。

さて・・・・と。

職員室に入って、入口すぐそばの鍵掛けから「文芸部室」と書かれたキーホルダーのついた鍵を取る。
一度「SOS団」に修正しようとしたんだけど、キョンに強く止められちゃったのよ。
今日のDVDみたいに、キョンがいない時にやってやろうっと。

職員室の傘立てにも1本もなかったのでそのまま宿直室へ。
あったわ!よかった。緑色でダサいし、職員用って書いてるけど、この際まぁ目を瞑りましょう。

      • ん?何か期待してたの?なんもないわよ、ここは。


部室に戻る。

今やこの小さな部屋の、大きな置き物みたいになってるキョンは、
予想通りというかなんというか、あたしが部室を出た時のまんまの格好で寝てたわ。
ただちょっと違うのは、少しだけ身体を小さくしてる所かしら。

寒いのかな?

12月だけあって起きた時って寒いもんね。あたしですら布団から出るのに躊躇っちゃう事もあるわ。
このままほっといて、風邪なんてひいたらつまんないからね。


あたしは、今まで自分が着てたカーディガンを脱いで、キョンの肩にかけてあげた。


小さくなってたキョンの身体から力が抜けたような気がした。


まぁ、たまには団員を労ってあげるのも、団長の仕事だしね。

でも、下校時間すぎてるし、いい加減起きてもらわなきゃね。

う~~ん・・・

とりあえず、カメラ片付けちゃおうかな。

ふとキョンの顔を見る。









………………………………パシャッ










近くに行って、キョンの顔を覗く。

それにしても、マヌケ面で寝てるわねぇ。



「お疲れ様、・・・キョン」



そっとつぶやいてみた。もちろん反応はない。

雨もやまないし、どうやって起こそうかしらねとか考えていると・・・・!!


フイに、キョンの目が開いたっ!!

やばっ!!今の聞かれた!!??

「うわっ」

わ・・・・わわ・・・・・・

あたしは後ろに仰け反りながら、目覚めたキョンを見る。
キョンが寝惚けた目でこっちを見てくる、目が合った。
何言われるのかしら?さっきの言葉??聞こえたの!??


「あ~、お前だけかぁ~」

寝惚け眼をこすりながら、キョンが言った。

聞こえてなかったみたいね、よかったぁ。
って何?あたしだけじゃ悪いみたいな言い方じゃない?今の。

「なによ、悪いの!?」

いつもの調子で言葉を返す。よかったぁ・・・。



おしまい。

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