※前回投下した「涼宮ハルヒの恋人」のオマケみたいな感じ。
手間だけどそっちを先に読んでもらった方が分かりよいかも。

~最初のデート~

俺とハルヒが付き合い始めて5日程経った。
その5日間は付き合う以前のハルヒと様子は変わらなかったが、
日曜日―――その日はハルヒの様子がおかしかった。

『ヴー、ヴー…』
俺はこの日、耳障りな振動音によって目覚めさせられた。
窓辺を見ると心地良い朝の日差しが差し込んでいる。昨日の大雨が嘘のような快晴だ。

『ヴー、ヴー…』
「なんだ、人が折角気持ちよく寝てるってのに…」
そうイラ立ちつつ俺は携帯を手に取り、寝ぼけたままで通話ボタンを押す。

「…もしm「もしもし、キョン!?」」
瞬時に通話の相手が誰だか分かった。というかディスプレイを見れば一発だったが。

「あー…どうした?ハルヒ」
「バカキョン!日曜日はあたしに一日服従って、忘れたの?」

…そうだった。俺はこれから先日曜日は休めない事になっているんだったな。
それを差し引いても、ハルヒと一日を過ごせるってのが嬉しい俺がいる。いやスマン、ノロケちまった。

「そうだったな」
「何よそれ。まぁいいわ、10時に駅前に集合よ!わかった?」
「あぁ、わかった。…ところでハルヒ」
「何よ?」

「…これって、デートか?」
普段のハルヒなら不機嫌声で反論するだろうな、というかこの時も反論されると思っていた。

「…そうね、あたしから誘ってあげたんだから感謝しなさいよ!じゃあね!」
嬉しそうにこう返された。
これが世に言うツンデレってやつだな。よく理解したぞ。

さて、時計を見れば現在9時50分。
時間ノルマの異常な厳しさは変わってないみたいだな。やれやれ…

俺は着替えやら朝食やらを全速で済ませ、9時57分に家を出た。間に合わんだろ普通に…。


数分後、俺は無事駅前に辿り着いた。
左腕の腕時計を確認した――10時12分。

また奢りか…などと考えながらハルヒを探したが、見当たらない。
おいおい、自分が設定した時間に遅れるとはどういうことだ?
そう思ってベンチに腰掛け、特に意味の無い溜息を吐いた。

「遅いのよ!バカキョン!!」
後ろから馬鹿でかい怒鳴り声が聞こえる。
振り向くと、そこには腕を組んでこっちを不機嫌顔で睨んでいる恋人が立っていた。

「何?俺の方が早かったんじゃないのか?」
「あたしは10時ちょうどにはここに居たの!あんたが遅すぎるから隠れて待ってたのよ!」
「そうなのか?…遅れてスマン」
隠れて待つなんて趣味悪いのもいいとこだが。
「え、あぁ…まぁ、許してあげない事も無いわ」
「…やけに寛容だな」
「うっさい!ほら、行くわよ!!」
こうして俺とハルヒの最初のデートが始まった。

しかし俺たちは初デートにも関わらず行き先を決めていなかった。
まぁ今日は街でうろつけばいいだろう。ハルヒも何やら楽しそうだしな。
今俺たちは手を繋いで歩いている。少し恥ずかしいな。

「なぁハルヒ?」
「んー?」
「買いたい物とか、無いのか?」
「え、何?奢ってくれるの?」
率直な奴だな…まぁその方がこっちも言い易いが。
「まぁ、折角だからな」
「へぇ~~」
なんだその何か言いたげな眼は…

「キョンってば、あたしに甘えて欲しいんだ~?」

その時、俺の理性崩壊度は一気に70%まで跳ね上がった。
何だその質問は、というかその挑発的な眼をやめてくれ。可愛すぎる。
くそっ。認めたくないがこいつの勘は鋭い。

「まぁ、その…アレだ。こ、恋人なんだから、たまには…」

言っちまった。てか何でこんなに緊張してるんだ、しっかりしろ俺。

「…じゃ、今日は目一杯甘えちゃおうかな!」

…心臓が止まるかと思った。
ハルヒとは思えない言葉の後、こいつは俺に抱きついてきた。大勢の人が歩く中。

「ちょ…!!待てハルヒ!!離れてくれ!!」

「やだ」挑発的に、ニッコリと笑う。

「それに、あんたが甘えて欲しいって言ったのよ」
頬ずりまで始めやがった。理性崩壊度、80%

「もう絶っっっ対離してあげないからね!」
そう言ってより一層きつく抱きしめられた。やれやれ…可愛い奴だ、ちくしょう。

ハルヒに全身全霊で甘えて貰って俺は非常に嬉しいんだが、よく考えてみてくれ。
今や俺たちの周りには、小規模なギャラリーが集っている。
まぁ、こうなったハルヒは今やかなりの美人なんだから人が集るのも頷ける。俺もそれは認めよう。
だが何とかこの場を離れないと恥ずかしくてならない。

「は、ハルヒ、そろそろ買い物の方にでも行かないか?」
「いいけど…離れるのは嫌だからね」
「…流石にこのままじゃ歩けないだろう。手を繋げばいいじゃないか」

「…なら腕がいい」
「え、あぁ…」

告白したあの日の様に、ハルヒは俺の腕に抱きつく。
これでも充分恥ずかしいが仕方ない。俺も男だ。
そのままこの場を離れ、買い物に臨むことにした。
「何が買いたいんだ?」
「んー…特にないかな」
何だそりゃ…

「いい事思いついた!キョンが選べばばいいのよ!」

「へ?どういうことだ?」
意味不明な理屈は毎度の事だが。

「だーかーら…キョンが私の為に何か買うの!」
そういう事かジャイ○ン。というかいつにも増して大胆だなこいつは。
「何かって何だ?何がいい?」
「バカキョン!それ言っちゃったらキョンが選んだ事にならないでしょ!!」

「なるほど…じゃあ欲しい物はお前の中では決まってるんだな」
「え…あっ…何言わせんのよ…もぉ…」
少しイジワルしてしまった。まさにバカップル状態じゃないか。
しかし中々いいリアクションだな、ハルヒ。
「…まぁ、あんたがあたしの欲しい物当てれるとは思わないけどね」

「当てる気なんて無いがな」
わざと素っ気無くしてみる事にした。
俺は早足で歩き始める。
「な、何よ、ちょっと待ってよ。き、キョン…ごめん…あたし…!」
「嘘だ」
ドッキリ大成功!泣きそうな顔になったハルヒを挑発する。
その後痛恨のグーパンチを顔面にもらったのは計算外だったがな。

…とまぁそんなこんなで俺はハルヒの欲しい物をこのやたら広い商店街から見つけなければならないのだが、
そんな事常識のある奴なら一発で無理だと分かるだろう。
ここは俺の巧みな話術を駆使してハルヒ本人からさり気なく聞きだす作戦に出よう。
「ハルヒってアクセサリーとか似合いそうだな」
「さぁねー♪」
あっさり流された…。何か妙に上機嫌だが。
ちくしょう。こうなったらもうあの作戦に出るか…!

「ハルヒ…もう俺が勝手に買っていいか?」
…実に単純明快だが、これに勝る作戦は現時点では無いハズだ。それにシンプルイズベストとか言うだろ。
「いいけど、それがハズレだったらもう一発グーパンチよ?」
「…覚悟しておく」

何故ベガスのギャンブラーも真っ青なこの賭けに出る気になったかは俺自身分からないが、
俺はそれなりの時間をかけて悩んだ挙句、何とかプレゼントを決めた。

「ほら、ハルヒ」
店の外で待っていたハルヒに、わざわざ店員に包装までして貰ったプレゼントを手渡す。
「ちゃんと包装までしてるのね!感心感心」

「開けてみてくれ」
俺も随分肝が据わったもんだ。
「うん!」

「あ…もしかして、カチューシャ?」

そう。俺が買った物は…リボン付きの、太陽のように真っ赤なカチューシャ。
いや実際地球から見た太陽は白なのだが、赤の方がハルヒに似合うと思ったのだ。
ちなみに質素な出来の割には値段は高かった…足元見られた気がする。
「まぁな…ハズレか?」

「…嬉しい!ありがと!!」
「え?…ってことは当たりだったのか?」

「んー………実は、ぇっと…キョンが買ってくれた物なら何でも良かったのよ…」
あぁ~なるほどそういうテクニックか。やられたぜハルヒ。

「ハルヒ、着けてみてくれないか?」

「…当たり前でしょ!バカキョン!」
何を照れてらっしゃるんだか。
そう言い放ったハルヒは、馴れた手つきで今現在着けていたカチューシャと俺がさっき買ってやったそれとを着け替えた。
「どう?」

「似合ってるぞ、ハルヒ」
俺は閉鎖空間に迷い込んだ翌日の台詞を復唱した。

「へへ…ありがと、キョン!」
子供っぽい悪戯な笑顔が輝いた。


俺が無事ハルヒの無理難題をこなした数時間後、
俺たちは2人で帰り道を歩いている所だ。
日ももう沈みかけて、雲一つ無い空を赤く染め上げている。
まさかハルヒにあれほどの破壊力があるとは思ってなかった。
実際あれだけの笑顔を見せられて理性を保っていられた自分を褒めてやりたい。よくやったな俺。

「今日は満足のいく一日だったか?」
俺は隣で俺の腕を掴んで歩く少女に訊いた。
「まぁまぁね」
…おいおいあれだけ喜んどいてまぁまぁかよ。

「…嘘。凄く楽しかった」

「そうか。一安心だ」

「「………」」

もう直ぐ楽しい一時が終わるのかと思うと少し寂しくなる。また明日になりゃ会えるってのに。
ハルヒも同じことを考えているのか、少し俯いて黙っている。

「ねぇ、キョン?」
ハルヒが先に沈黙を破る――
「何だ?ハルヒ」

「もう一回だけ甘えていい?」

「あぁ」

「キスして」
何故だか予想はできていた。
そういえば…告白の日も、約束してたのにキスしてやれなかったんだな…。
俺は相変わらずの鈍感らしい。

「…いいぞ」

「じゃあ、そっと、ね…?」
そう言って、ハルヒはその煌く瞳を閉じる。
一瞬の静寂。

「いくぞ」
決意した俺たちは抱き合い、ゆっくりとお互いの顔を近づけ、言われた通り、そっと――
――キスした。

「「………」」
再び訪れる静寂。

「…ふふっ」
再びハルヒが沈黙を破った。
「何が可笑しいんだ?」

「ううん、何でも無いわよ」

「そうか…?」


「………キョン」

「…何だ?ハルヒ」
互いに相手の名前を確認するかのように。

「……………だいすき」
俺の腕の中で、顔を朱に染め、はにかんだような笑顔。
やっぱりハルヒには笑顔が一番似合ってるね。誰が何と言おうが、絶対。

「…あたしを甘えさせるとこういう目に会うんだからね…」

―――あぁ、今度から気をつけるさ。…多分な。
                                  fin.

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