昼過ぎに授業が終わったある日、
ごくごく自然な足取りであの空間に足を運ばせていた。



掃除の業者が入ったらしく、ごく僅かに薬品の臭いが残る
部室にハルヒはもう到着していた。
俺は団長から少し遠い場所に腰掛ける。



換気をする為に開け放たれた窓からもたらされる風。
風にさらされ、なびくその髪を気にもせず団長はモニターの前で
行き場に困ったような動作で指をカチカチとしている。



「よ~」っと挨拶から始まるいつもの会話。
そいつの嫌味と皮肉とわがままを体の中全てにいきわたらせる。
俺の皮肉と嫌味と説教じみた台詞をそいつにぶつける。
あいつはアヒル顔、俺はおなじみの4文字で確認する。



────かわらない。全然。



あえて言うならほんの少しだけ臭いが気になるな。
もう少し換気を。 俺はいつもの扉を開け放って固定する。




しばらくすると薬品の臭いもすっかり失せた
。相変わらず他の連中はこない。
開け放たれた扉だけがいつもと少し違う空気を運んできた。
それはひどく心地の良いものだった────



眠いけど、眠くない。あー寝たい。寝たくないけど。



「なぁ~ハルヒ~」
机に両腕をはわせ、頭を団長机に向けて言葉を紡ぐ。



「何よ!しゃきっとしなさいよしゃきっと!」



なぁ~、ちょっと寝てもいいか~
「何よ!夢の世界に遊びに行くの?こっちに持ってこれるなら許可するわよ!」
じゃ~やめるわぁ~
「…ふざけんなっ!」



飛んでくる三角錐のあれ。避ける気力も無く・・・命中。
「…いてぇ~」
「ほら!どうしたのよ?あれ?あんた調子でも悪いの?」
額から何か流れるものを感じる。ふーむ、暖かいね。



「ちょ…血が…ごめ…ふん!そんなものすぐにでも治まるわよ…」
お~気にしてないぞハルヒ~…
「なんっか、あんたほんとに大丈夫?色々と…」
お~う、今は何だか気分がいいんだ~
「そうなの?」
お前もここで寝そべってみるといいぞ



「暇ねぇ~あんたが…そういうならやってみるわ」



椅子から立ち上がり我が団における奉仕係専用の椅子を持ち近づいてきた。
そしてもぞもぞと体と椅子の位置を滑らせる。快適な場所を探す猫のように。
「猫みたいだなぁ~」
「そうかもねぇ~これは大発見ねぇ、…ぁあ」
目の前であくびをするハルヒ。そういや初めて見たな。あー俺も、ぁあ…



「んんっ~」
伸びと弛緩を繰り返すハルヒ。俺はぼんやりとそれを見つめている。



「ねぇ~」 なんだぁ~ 「ん~これさぁ~」 お~「ここがベストかしらぁ」 
自分で探せ~ 「ふぁあ~…」





──溶けていく言葉。溶けていく。
   何故か自然と笑顔が生まれてきた。2人とも──




「贅沢よねぇ…」 そうかもなぁ…「本当に贅沢よ」 そうだなぁ



のんびりと俺の額に手が伸びてくる。
「ごめんねぇ~」 悪いと思ってないだろ 「ん~…そうかも」…
「ね~場所~そっちがいい~団長命令よ~」 命令かよ
風の香りに心地よいものが混ざりはじめた。
なぁ~… 「んぅなによ~」 近いぞ~ 「そ~?」



お互い、自分の片手を枕にして向き合う。
「そこの場所のほうが良さそうに見えるのよ、変わりなさいよ~」
お前が俺を動かしてくれ~「あんたが動きなさいよ~」



中途半端に浮かんだアヒルの一番潤った部分に指で触れてみた。



「ね~」 なんだ? なんかど~でもよくなってきたわぁ~ そうだなぁ~



ハルヒ~  なぁに~




好きだぞ
ダメね」




「…つまらないわ~ありきたりよ~そんなのダメよ全然」
そうだなぁ~、俺もそう思うんだよ~
「そうだったんだぁ~…普通すぎよねぇ、キスでもしてみる~?」
それも普通だなぁ~ 「そうねぇ~どうすればいいのかしらねぇ~」



「ないなら作ればいいだろよ」
・・・そうねぇ~発見王~、一つになりたいとか、どうかなぁ~
それもありきたりじゃね~かぁ~…



 ゆらゆらと延びる手が腰に回り始める。同時に俺は引き寄せる。
ゆっくりと近づき額と額を合わせてきた。枕にしていた手をぴたりと付ける。
椅子の上にある体は唇以外の空間を埋めた。その状態で目を合わせる。





          あれ?  ・…おいおい



ねぇ~、なんでドキドキしてないの~ おまえもじゃないかぁ~



…これは不思議ねぇ~、私の知識には無い状況だわ  不思議だなぁ…



お互いに鼓動を探し当てる。 どちらとも無く同じリズムに合わせる。




       消失していく。 自分のそれが。
       ハルヒしか聞こえなくなった。




    ねぇ~私今いるの?  なぁ~俺いるかぁ?



    俺はこれがいいなぁ  私はこれがいいわねぇ



 こっちに入ってるみたいだ  こっちに来てるみたいよ



一つになったら出来ないねぇ  一つだったら分からないわぁ





          ぷっと同時に吹きだした。





少し顔を離す。所在を確かめたくて。
「あんた、ほんと捻くれてるわねぇ」
「おまえもだ…素直じゃねーなぁ~」
お互い、体も心も捻くれちまってるのかよ。



でも何故か笑顔はとまらない。



「なぁ、今何故かSOS団の事について考えてるんだけど…」
「奇遇ね、私もなのよ。困ったわね、どうでも良くないの」



「今のままでいいんじゃないか?これなら」
「・…甘いわねあんた。鈍いのよ…」
「違うって、機関誌にだしたお前の論文…か?あれまだあるんだろう。」
「・・・あんた、あれ理解できるの?もうすぐ書ききる所だけど。」
「俺はSOS団が無くなることも壊れることも望んじゃい無いし
信じてない。絶対にそうさせない・・信じられるか?」
「………バカ」




「ねぇ・・・いいわよ、ありきたりな言葉でも、今ならいいわ」何だそりゃ?
「ありきたりな行動とってもいいわよ・・・お願いだから」…ふん。





    閉めるか?扉…  やらしいわねぇ…




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──────



バタン



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