それからどれだけの時間ハルヒを抱きしめていただろうか。ハルヒは泣き止んでからも手を解こうとはせずに
お互いの存在を確かめ合うように動かなかった。

「帰る」

搾り出したようなハルヒの声で世界は再び動き出したような気分を感じると
同時に俺は自分がしてしまったことの重大さと作戦は失敗だった事に気づき失念した。

「送らなくていいから。こんな顔見せらんないわよ。」
すまん…ハルヒ…

そう言うのが精一杯だった。決して気まずないはずなのになぜかハルヒの姿を直視することができなかった。
ハルヒが部屋を出て行った後、俺は茫然自失状態で、まさに万策尽きたといった感じで部屋にいたたずんでいた

やれやれ。

口をついて出るのはそのセリフばかり、最近の人型ロボットでももう少しボキャブラリーがあるだろう。
二兎を追うもの一兎も得ずか。まさにその通り昔の人はいい事を言うもんだ。
全部が全部元通りになるはずもなく一度崩れれば波打ち際の砂山の様にもろい。
ハルヒがいくら恋愛経験に免疫がないとはいえ、自分の意義を確かめる為のSOS団を際し置いてまで
恋愛を取るなんて思わなかった、彼氏冥利に尽きるとはこのことなんだな。
今は、そんな悠長なことも考えていれないがな。

とりあえずハルヒにはフォローのメールを送っておいた。するとすぐに返信が来た。

『とりあえず、アンタは今後一週間はアタシの命令には絶対服従よ!!
アタシを泣かせた代償はどんな罪よりも重いんだから!』

元気そうで安心したが、しばらくは無事に帰宅できそうもないな。
仕方がない我が家の大蔵省に財政難の旨を伝えておくか。

  • 一週間後-
さて、あれから一週間が過ぎたわけだがその間に俺は大蔵省に頼み込むこと3回、大蔵省に怒られること二桁を記録し
野球なら打率がいいところまで行きそうな勢いでいた。

学校では一週間ずっとSOS団の活動を休止して、放課後デートもといハルヒ的愛情制裁に忙しんだ。
ありとあらゆるデートコースを試し、時には普通に映画だったりウィンドウショッピングだったり
どこで見つけたのかわからないようなまさに隠れ喫茶店でお茶をしたりとこの町の8割のデートスポットを体験したのでは
ないだろうか?ハルヒはその間はずっと楽しそうで笑顔を絶やさなかったし、特に不機嫌オーラを発散することもなかったのが救いだ。

んで久しぶりのSOS団の活動なのだが、珍しくフルメンバーが揃っていた。
朝比奈さんと古泉、長門もいつもと変わりない時間に来ていつもと同じようにお茶をいれ
本を読み俺とボードゲームをしていた。まるでこないだのいざこざがなかったかのように時間は過ぎていった。
長門が本を閉じる音を合図にして、皆が帰るのもいつもどおり。
もしかして、ハルヒの力か?そう錯覚させるには十分すぎる風景だった。

「これ、読んで」

長門が不意に差し出してきたのはいつもどおりの物騒なタイトルのハードカバーだった。

わかった、今日中に読んだほうが良いのか?
「いい」

長門の相変わらずな返答に少し安心していたが、パラパラと本をめくるといつもの様にしおりが挟んあり
そこには『部活が終わったあと教室で待つ』とだけあった。
これは今からと言うことなんだろうか。しかし、ハルヒ達はぼちぼち外に出て行く準備をしているし、どうしたもんだ。

わかった。なるべく今日中に読むよ。
「そう」

長門は先に教室を出て、一人で帰ってしまった。残った俺たちは以前の様に揃って下校するはずだった。

「失礼、今日はバイトの時間が迫っていますので少し急いで帰ります。皆さんお気をつけて。お先に失礼します。」
そう古泉

「私も、最近家庭教師の人が来ちゃって。えっと、早く帰らないとお母さんが怖くて…すいませんっ!」
そういって朝比奈さんまで走って帰っていった。古泉はともかく朝比奈さん、もう少しマシな理由なかったんですか?

それから未来との話し合いはどうなったんですか?

「なんだみーんな無理して来てくれたってワケなんだ。やっぱSOS団はみんなに必要って事が証明されたわ!」
相変わらずのポジティブさを遺憾なく発揮してくれるよオマエは。

「なによー、アタシは本当の事を言ったまでじゃないの。みんな予定があるにもかかわらず来てくれてるのよ。
これもアタシの類まれなるカリスマ性ね。」

やれやれ。そうしておくか。
さて、そろそろ。長門を放って置くわけにも行かず、俺は学校に戻ることにした。しかし、正直に言えるはずもなく
いつの間にか『彼女』ハルヒの決めた条例の第2条「嘘は決してつかない」に背く訳だが
長門に会いに行かなくて命の危険に晒されるよりはマシなわけだ。
ちなみにハルヒ条例は全部で十条あり破ると重さにかかわらず「死刑」なのだ。

あぁ、スマン。携帯を教室に置いてきちまった。ココで待っててくれるか。すぐ戻る。

ありきたりと言えばありきたりだが、俺はハルヒを置いて一目散に学校の中に戻っていった。
色々言い訳するよりこうやって行動したほうが真実味が増すだろ、せめてものリアリティの追求だ。スマン、ハルヒ。

夕暮れ迫る教室には、長門一人だけが佇み。窓のほうをずっと見ていた。
こうしてりゃ、普通の朴念仁な美少女なんだがな。不意にそんな不謹慎な考えが浮かんだが0.2秒で消し去った。ホントに。
教室に入ると気づいた長門は振り返った。いつぞやのハルヒの様に逆光で顔が見えず俺は目を細めた。



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