ハルヒの唇は柔らかく、薄く塗ったリップの味がした。ような気がする。

「ん。一応ファーストキスなんだからね、大事にしなさい。」
言われなくても。忘れるわけないだろ。

そう言うと、今度は俺がハルヒを抱き寄せ唇を重ねた。思い出すだけで体温上昇と新陳代謝が活発になりそうだ。
細くくびれた腰に手を回し片方の手で肩を抱く、ドラマでもなかなかないよう『理想型』で抱きしめていた。
ハルヒも俺の制服の袖をぎゅっと握り気持ちに応えてくれているようだった。

             心があたたかくなった。 気がした。   

が甘い時間は、永遠に続きそうだった。このまま朝比奈さんも長門も古泉も空気を読んで来ないで欲しい。
そんな思いは「SOS団の人間は部室にはノックしないで入る」暗黙の了解によって脆くも崩れ去った。
ドアノブが回り蝶番が無粋な音をたてるまで俺とハルヒは抱きしめあっていた。
入ってきた相手が誰なのかは俺からではわからなかった。

「有希」

そう、入ってきたのは掃除当番で遅れてきた長門だった。ハルヒは少し長門と分かり安心したのか
やんわりと俺の体から離れ。少しばつが悪そうに長門を見つめた。

「あたしとキョン付き合うことに…」
「そう。」

いつもどうり抑揚の無い声で短く事務的に答え。長門はパイプ椅子に腰掛けた。
時間は元の様に流れだす。ハルヒはパソコンを立ち上げ。俺は入れる途中だったお茶を入れようとした。
なんつー気まずい空気なんだよ、長門がハルヒの言葉を遮ってしゃべるなんて前代未聞だぞ。
嫉妬か?いやアンドロイドに嫉妬なんて感情があるのだろうか?

妙に合点の行かない事を考えていると不意にズボンのポケットの中の携帯が震えた。

『何でこのタイミングで有希が来るのよー!!もっとぎゅっってしたかったのに
でも、あんたに抱きしめられると何でだろ。心があったかくなった気がしたわ。以心伝心ってヤツかしら!?』

まさかこのメールを打つためにパソコンを立ち上げたのか。だからマウスのカチカチ音が少なかったと言うわけか。
ここで俺は迷った。ハルヒの携帯に返信するべきか。このままパソコンのアドレスに返信するべきかだ

が、迷った挙句俺は返信せずにお茶を入れることを続けた。心のどこかで長門に気を使っていたのだろう
いつものSOS団に戻ってくれと切に願っていたのかもしれない。もちろんハルヒとはこの関係のままがいいのだが。

その後、朝比奈さんと古泉はほぼ同時に来たのだが、下校時刻も近づいていたので今日は帰ることになった。
帰り道でハルヒは今度の土曜日の不思議探索は中止の旨を伝えた。なんでも「兵士の士気を上げるためには休息も必要よね」らしい。
やれやれ、わかりやすいというかなんと言うか。皆が下手に勘ぐらなけりゃいいんだが。 特に長門が気になるな。
帰り道でも長門はいつもの調子だし、特に変化が見られるわけでもなかった。
まぁコイツの変化は相当熟練した洞察眼じゃないと見抜けないはずなんだが。

朝比奈さん・古泉と別れて。三人での帰り道。さっきの部室と同じような空気が流れ
俺たちは黙りこくってしまった。その沈黙に耐えられなくなったようにハルヒが口を開いた

「キョン。今度の土曜日暇なんでしょ?あたしに付き合いなさい。いいわね!」
いつものように俺には拒否権がない。与えられているのは黙秘権のみだ。まぁ返事が無い=承諾なのだが
へいへい。
しかし、長門がいても平気なのがコイツの強みだな。体面上は気にしてないけどもしかして、気を使ってるのか?

「それじゃ。」
長門が不意に言い別れて行った。

あぁ、また学校でな。
その後は、どこぞのラブコメの様にお互いが顔を赤らめつつ手をつないでゆっくりと歩いて帰った。

「あんた、なんでメール返さなかったの?」
あれは、空気を読んでだな。

「そんなの、関係ないじゃん。メールぐらい打ってたって有希は気づかないわよ」 
そういう問題じゃないだろ。やれやれ、んで土曜はどうするんだ?

「そうね。普通ならあんたがエスコートするするんだけど、初回サービスであたしがプランを立ててあげるわ」
そりゃ、心強いや。期待してるぜ我らが団長さん。

「バカ。コレはプライベートよ!団長の肩書きよりあんたの彼女っていう肩書きを優先するところよ。空気読みなさい!」
へいへい。んじゃ楽しみにしてるよ。『彼女』様。

そういって、我ながら恥ずかしくなるような本日二度目の抱きしめてキスをしてしまった。
コイツに心底はまっていってるんだな、俺。深みにはまる音が聞こえるようだぜ
それからお互いの帰路に着くまで何もしゃべらずに
俺が強く手を握るとコイツも握り返すみたいな。少し前の俺では信じられないことを繰り返して俺たちは家路に付いた。

握っていた手はいつまでもあたたかいままで、今日あったことが全て嘘偽りの無い事実だと言うことを証明していた。



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