━━━━普段、「自習」となれば騒がしくなるこのクラスも、「試験の二日前の自習」ともなると流石に静かだ。
あの谷口ですら、神妙な面持ちで机に向かっている。
まあ、谷口の場合は中間試験が散々な結果だったから、今回で何とかしないと非常にマズい…あ、それは俺も同じか。
と、とにかく教室の中は試験前の張りつめた空気で満たされていたっ!

…俺の後ろの席の約1名、ハルヒを除いて。━━━━━━

【凉宮ハルヒの暇潰@コーヒーふたつ】


自習となった今の時間…四時間目が始まってから10分余りが過ぎた頃、俺の背中に予想通りの攻撃が開始された。
初めは間欠的に「チクッ、チクッ」、そして気付かない振りを続けていると「チクッ」は「ブスッ」に変わってくる。

まったく、ある偉人が「ペンは剣より強し」という言葉を残したが、ハルヒの場合は違う意味でそれを実証しかねない。
「ブスッ」とやられた時の痛みは、本気で殺意を覚える程だ。

ただ、今日の俺はいつもの俺とは少し違う。
いつもなら、背中への猛攻に屈して振り返るところだが、今日はこうなる事を予測して四時間目が始まる直前に段ボールを背中に仕込んでおいたのだ。
なので、ハルヒの「ペン撃」などは蚊に刺された程度にしか感じない。

(ふふ…まあ、精々頑張ってチクチクやっててくれ。)

俺は、ハルヒの妨害から自らのテスト勉強の為の時間を守りきった事に充足感を覚えながら、テキストを鞄から取り出した。
そしてそれを開こうとした瞬間…

机の上にマナーモードにして置いておいた筈の俺の携帯が、大音量で鳴りだした!
一斉にクラス全員が、俺に軽蔑の視線を投げかける。

(な、何でだっ?まさか…っ)

思わず後ろを振り返ると、ハルヒがニヤニヤ笑っている。

そして、携帯のディスプレイには「受信メールあり」と表示されていた。

(くっ!さっきのはハルヒの仕業かっ!)

慌てて携帯のメールフォルダを開いてみると、案の定ハルヒからだった。
『バーカ、無視した罰よっ!』とか書いてやがるっ!
俺は直ぐにマナーモードを設定しなおすと『いつのまに解除したんだ?まったく、人の携帯を勝手にいじるな!』と打ち返した。
すると、驚くべき事にものの2秒程で返事が返って来た!。
一般的に女子の方が男子よりメールを打つ速度が早い事はもはや定説だが、ハルヒのメールを打つ速度は異常だ。
とりあえず驚きつつも、俺は再びメールフォルダを開いてみる。

『休み時間に机の上に置いたままにするアンタが悪い!』

なるほどね…そういう事かよ。
まあ、いいや。
これ以上のヤリトリはは時間の無駄だ。
俺は『とにかく、もうやめろよ?また、後でな!』と打ち返した。すると、再び物凄い速度で返信が来る。

ハルヒは自分に都合の悪い話は耳に入らないという迷惑な特性の持ち主だが、どうやら都合の悪いメールも目に入らないらしい。

『そうだ!ねぇ、キョン!メールでしりとりするわよ!』
『しない!』
『じゃあ、アタシからね!焼きそば!』
『しないって言ってるのに…



バイリンガル』
『る?…ルックチョコレート!』
『おい!商品名出すのはフェアじゃないだろ!
とりあえず「ト」か?時計!』
「い?イカフライ!」
『石頭!』
『巻き寿司!』
『…お前、腹減ってるだろ』
『う…うるさいわねっ!次行くわよ!』
『「し 」か?獅子笛!』
『海老ドリア!』

まったく、キリがない。
俺は、しりとりの答えを考える振りをしながら、ハルヒを黙らせる効果的な方法を模索してみる。
そして…ひとつだけ思いついた。


『「ア」だよな?


愛してる!』

俺は送信ボタンを押してから、そーっと振り返ってハルヒの様子を伺った。
すると、耳まで真っ赤になったハルヒが、携帯を持ったまま固まってるのが見える。

ふふ…こちらも相当恥ずかしいが作戦成功だ!
さて、勉強勉強…

「キーンコーンカーンコーン…」

テキスト開いた瞬間に鳴ったのは、ハルヒからのメール着信ではなく、終業のベルだった。


お…しまい。

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