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━━━━最近、冷え込みが厳しくなって来たせいだろうか、起きぬけの布団の中の温もりが愛しくてしょうがない。
目覚めてからの数分間の至福の一時・・・
そして日曜日の朝の今、俺はこの愛しき温もりを存分に堪能するのだ。
忙しい平日の朝には叶わない、細やかな贅沢。
しかし、この至福の一時には日曜と言えども、僅ながら制限が課せられている。
ほら、その『制限』が廊下をパタパタと走りながらそろそろ来る頃だ・・・
朝のアニメを目当てに、無駄に早起きな『制限』がっ!

・・・「キョン君~おきろぉ~っ!」━━━━━━


【凉宮ハルヒの休日@コーヒーふたつ】


俺は、毛布の裾を強く握りしめ、来たるべき妹の猛攻に備えた。
(だいたい「一緒にマイメロ観ようよ~」とか言いながら布団をひっ剥がすか、布団越しに俺の上に乗って飛び跳ねるんだよな・・・)
ここで持ち堪えれば、昼までぬくぬくと布団の中で過ごせる。
俺は体制を保ちながら、布団の中で息を潜めた。
部屋のドアが開く音が聞こえ、妹の近付く気配がする。
(寝てるふり、寝てるふり・・・)
「キョン君~っ!寝てるの~?凉宮さんから電話だよっ?」

えっ?

俺は「たった今、目が覚めた」様な素振りをして見せながら、電話のある台所へと向かった。
まったく・・・携帯に電話してくれれば良かったのにな。
台所じゃ話し辛いし、しかも寒いだろうが。

やれやれ・・・と思いながら受話器を耳に当てると「もしもし」とも言い終わらないうちに、ハルヒの怒声が俺の耳を貫いた。

「ちょっとっ!何時間待たせんのよっ!」
「待たせたのは悪かったが『何時間』は大袈裟だろ!だいたい、携帯にかけてくれれば・・・」
「携帯が通じないから家にかけたのよ!
どうせ寝る前にウェブでもやりまくって、電池切れになったまま寝ちゃったんでしょうけどっ?」
「ぐっ・・・(そう言われると、そんな気がする・・・)」
「しかも、どうせ観てたのはエロサイトね?あ~嫌だ嫌だっ!」
「おいっ!それは違うっ!・・・馬鹿な事言ってないで、さっさと用件を言えよ!」
「大至急、ウチに来て!」
「はぁ?」
「緊急なのよっ!わかったわね?大至急よっ!遅かったら死刑だからねっ!」

そう言い終えると、ハルヒは電話機にトドメを刺す様な勢いで、電話を切った。

(一体、何だってんだ?)

さっぱり訳が分からないまま、俺は出掛ける支度をする。
適当にクローゼットの中から洋服を探し出し、着替えようと目の前に並べたところで、ふと重要な事に気が付いた。

(ハルヒの家に行くって・・・当然、日曜日だから親父さんやお袋さんも居るんだろうな・・・)

俺は、用意した「普段通りの服装」を元の場所に戻して、滅多に着ないジャケットと地味目な色のパンツを取り出す。
まあ、第一印象が肝心だからな。
そして、早々と着替えてコートをはおると、自転車に飛び乗りハルヒの家へと急いだ。




天気の良い日曜日だというのに、ハルヒの家の周りは静かだった。
いや!天気が良いからこそ、みんな何処かに出掛けたんだろうな。
それに比べて俺ときたら、ハルヒに都合よく呼び出されて・・・

とりあえず俺は、ハルヒの家族に対する挨拶の言葉を必死に探しながら、彼女の家の玄関へと向かう。
少しばかりではあるが、手土産も用意した。

(まあ、いずれこんな日が来るだろうとは思っていたが・・・緊張するな・・・。)

少し躊躇いながらインターホンを押すと『はい』とハルヒの声がした。

「ああ、俺だ。」
『ちょっと待って?今出るから』

やがて玄関のドアがガチャリと開き、ハルヒが顔を見せた。

「あがって・・・って、あれ?何でお洒落して来たのよ!」
「い、いや・・・ほら、親父さんとかに挨拶・・・」
「・・・アハハッ、馬鹿ねぇ!アタシ以外誰も居ないわよ。あ・・・そうとも言いきれないんだけど。」
「なんだ?それ。」
「まあ、いいわ!とにかくあがって!」

ハルヒは俺の手を引き、玄関からリビングへと導き入れた。
そして、リビングに入るなり自分の鼻先に人指し指を立てて「シーっ」と言う仕草をしながら、ソファーのある方を指さした。
ソファーの上には大きめの籠が在って、その中には・・・

・・・赤ん坊が眠ってるっ!


「ど、どうしたんだ?それ!」
「あ・・・馬鹿っ!静かにって言ってるでしょっ?起きちゃうじゃないのよ!」
「す、すまん・・・」
「ちょっと、こっちに来て!」

ハルヒはそう言うと、今度はリビングからキッチンへと俺を引っ張った。
一息ついてから、再びハルヒに訊いてみる。

「で、どうしたんだ?」
「うん・・・。今朝ね?隣の祥子姉ちゃんが来て、午後まで預かってくれないか?って。」
「ええっ?お前、赤ん坊の世話なんかやった事無いだろ?しかも、どう見てもアレは0歳児だぜ?」
「ちがうの!親父も母さんも留守だったんだけどね?
そこのスーパーの朝市に行くって言ってたから、すぐに帰ってくると思ったのよ。
母さんさえ帰って来れば別に問題無いと思ったし、祥子姉ちゃんもそのつもりで預けて行ったんだと思うんだけど・・・」
「思うんだけど・・・どうした?」
「さっき、親父から電話があって『天気が良いから、このまま母さんとデートしてから帰る』だってさ。
コッチの話なんか聞かずに、言いたい事だけ言って電話を切っちゃうのよ?困ったもんだわね!」
なるほど!その親にして、この娘在り・・・と言うところだな。
「それで、俺に電話をしたと?」
「ふふん、そういう事。まあ、二人でやれば何とかなるでしょ!」

何とか・・・って。
やれやれ、とんだ日曜日になりそうだ。

しかし、赤ん坊の世話なんて何年ぶりだろう。
妹が生まれた時は・・・とにかく嬉しくて、母親に色々訊きながら子供ながらにも一生懸命世話をしたっけ。
はたして今、その内容を覚えているものだろうか。
俺は、かつての記憶をなんとか思いだそうとしてみる。
すると、ハルヒが突然声をあげた。

「あれ?ねぇ、キョン!
赤ちゃんの声が聞こえない?」
「ん・・・ああ、本当だ!おそらく、起きたな。」

(たしか・・・起きたらオムツを替えて、ミルクをあげるんだったよな。)

「おい、ハルヒ!オムツを用意してくれ!
あと、お湯で濡らして絞ったタオルもな。」
「え?ああ、わかった。」

俺は、赤ん坊に近付くとハルヒからオムツを受取り、それまで赤ん坊が着けていたオムツを手早く外す。

タオルが冷えてない事を確かめると、赤ん坊の股をサッと拭き新しいオムツを履かせた。

「随分、手慣れてるのね・・・」
「ん?ああ。妹が生まれた頃によくやってたからな。
ところで、ミルクは?」
「一応、「作り方」見ながら作ったけど・・・」

ハルヒはそう言いながら、珍しく自信無さげに捕乳瓶を差し出した。
俺は、それを受取りながら温度を確かめる。
「もう少し冷ます様だな。捕乳瓶ごと振って、人肌の温度くらいまで冷ますんだ。なかなか冷えなかったら、水道の水で冷やしてくれ。
でも、冷やしすぎに注意するんだぞ?」
「う、うん!」

ハルヒに言い終えてから、俺は少しだけ自分自身に驚く。
我ながら意外と・・・記憶に残っているものだ・・・。

しばらくすると、ハルヒが捕乳瓶を持って戻って来た。
俺は、赤ん坊を抱きかかえながら、ミルクを飲ませる。
そして、飲ませ終ると赤ん坊を横に抱いた状態から静かに縦に抱き直し、赤ん坊の背中をトントンと指先で軽く叩いた。
その様子を、ハルヒが不思議そうに見ている。

「ねえ、キョン?何やってんの?」
「こうやって、ゲップをさせてやらないと吐いちゃうんだ。赤ん坊は自分でゲップが出来ないからな。」
「ふ~ん。」

ハルヒは、頷きながら何か考えている様な素振りをすると、急に納得した様な表情を見せた。

「ん?どうした?」
「うん。なんとなく、妹ちゃんがキョンにベッタリな理由が解る気がしただけ。」

また訳の解らん事を・・・と思いながら、俺は抱いている赤ん坊に幼い頃の妹の表情を思い出して重ねてみる。
(帰ったら、少しだけ妹のゲームの相手でもしてやるかな・・・)


気が付くと、赤ん坊は再び眠りについていた。
俺は、元の場所に赤ん坊を寝かせると、ハルヒと一緒にリビングから先程のキッチンへと場所を移した。
ハルヒはキッチンに立つと「まあ、適当に座ってよ。」と言いいながら、お茶の用意を始めた。

俺は、そんなハルヒの姿を見ながら「思った程、悪くない日曜日だな・・・」と思う。

しかし、そんな気持ちは次の瞬間に脆くも崩れ去った。

「ふぎゃ~ぁぁああっ!」

リビングから赤ん坊の泣く声がする!
ひと息いれようとキッチンに来た俺達は、ものの数分でリビングへと呼び戻されてしまった。
(やれやれ、お茶くらい飲ませて欲しいぜ)
激しく泣いている赤ん坊を見ながら「何で泣いてるのかしら?まさか、もうお腹がすいたとか?」とハルヒが首を傾げる。
俺はオムツが濡れていない事を確かめると、「何かオモチャみたいなヤツは無いか?それかオシャブリとか・・・」とハルヒに訊いた。
ハルヒは「ちょっと待って?」と言いながら、赤ん坊の母親から預かったと思われるトートバックをガサガサと覗きこむ。

「おかしいわね・・・。オシャブリがあったと思うんだけど。」
「無いのか?」
「んー、見当たらないわ・・・」
まったく、ハルヒはいつもそうだ。
いつぞやの課題のノートも然り、とにかく無くし物が多い。
俺は少しイヤミを込めて「無ければ自前でなんとかしたらどうだ?」と言ってみる。

「あ、そうか。それは名案ね!」

(いっ?冗談のつもりだったのに・・・)

「ちょっと!キョンは向こう向いてんのよ?
アンタを喜ばせる為に片乳出す訳じゃないんだからねっ!」
そう言うと、ハルヒはシャツのボタンを外し始めた。
「ほら!向こう向いてなさいよっ!エロキョン!」
エロキョン・・・とはあんまりだ。
俺は仕方無く壁と向き合い、耳のみでハルヒの様子を伺う事にした。
赤ん坊は・・・泣きやんだ様だ・・・。

「うふふっ・・・いゃだ、くすぐったいわね・・・」

なんとなく気になって、ハルヒにバレない様に少しづつ振り返る。
すると、昼下がりの柔らかい陽射しに包まれたハルヒと、ハルヒに抱かれながら乳房に顔を埋める赤ん坊が、まるで本物の親子の様に俺の視界に飛込んできた。
ハルヒが優しく、赤ん坊に微笑みかけている。
なんだか、胸の奥がじんわりと暖かくなる。
(もしも、俺とハルヒが結婚したら・・・こんな光景に、また巡り逢えるのだろうか・・・)
俺は、ぼんやりとそんな事を考えながら、こっそりと二人を見つめ続けた。



しばらくして赤ん坊も落ち着きを取り戻し、ハルヒも今更ながら「もう、こっち向いていいわよ!」と言うので、俺は元の姿勢に体を戻した。
気が付くと、時計の針は午後の1時を回っていた。
「そろそろ、祥子姉ちゃんが迎えに来るわね・・・」
ハルヒが寂しそうに呟く。
たしかに、こんなに大変だったにもかかわらず、いざ居なくなると寂しいものだな。
「携帯でさ、赤ん坊の写真でも撮るか?」
そんな気やすめを言ってみた瞬間、インターホンが「ピンポーン」と鳴った。
ハルヒは「ちょっと待ってて?」と俺に告げると、赤ん坊の眠る籠を静かに持ち上げながら、玄関へと向かった。
そして数分後、がっかりした顔でリビングへ戻って来た。




「あーあ、帰っちゃった。・・・つまんないの。」
「仕方が無いだろう?まあ、将来に向けて育児の予行演習が出来たと思えば、このうえないじゃないか!」
「予行演習・・・ねぇ。」
そう呟いた途端に、ハルヒは少し頬を赤らめながら『いい事思い付いたっ!』の時の顔をした。
「な、なんだ?」
「ふふっ、ねえキョン?育児の予行演習の後は、その前の段階の予行演習をやるって事でどう?」
「はあ?」
「もうっ!鈍感ねっ!親父も母さんも、夜まで帰って来ないのよ?」
ハルヒはそう言いながら俺の側に詰め寄り、肩に頬をすり寄せる。

(なんだ・・・そういうことか。)

俺はハルヒの顔を、覗き込むように見つめながら「ふん、さっきは人の事をエロキョン呼ばわりした癖に。」と意地悪っぽく囁く。

そして、ハルヒの唇が小さく「ゴメン」と動くのを確認して、少し長めのキスから始めた。


おわり
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