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━━━季節が移り変わるのは早いもので、気が付けばカレンダーが最後の一枚になっていた。

俺の波乱万丈な2006年も、あと少しで終ろうとしている。
思えば、今年はいろんな事がありすぎた。
本当に色々と・・・

まあ、ハルヒと付き合う様になってからは、比較的に穏やかな日々が続いている気がするが。

そして、俺は今朝も早朝サイクリングの如くハルヒを迎えに自転車を走らせているのだ━━━━


【凉宮ハルヒの指輪@コーヒーふたつ】



いつもの待ち合わせ場所に着くと、俺より少しだけ遅れてハルヒはやって来た。
しかし・・・何故か、私服だ・・・。

「おはよう・・・。」
-おはよう・・・どうした?

「うん・・・アタシ・・・今日は休むわ。」
-えっ?
「迎えに来てくれて悪いんだけどさ?ちょっとね・・・」
-あ・・・ああ、別に気にするな。それより大丈夫か?

「・・・。」
-ハルヒ?
「後で、メールするから。」

そう告げるとハルヒは背中を向け、自宅へと戻って行った。
俺は驚きのあまり詳しく話も訊けずに、しばらく唖然としてしまった・・・。
だって、そうだろ?
何が何でも、学校だけは休まなかったハルヒが・・・だぜ?
何かあったんだろうか。

心配ながらも、とりあえず俺は学校へと急ぐ。

考えてみれば、一人で学校へ行くのは久しぶりだ。
たまにはこういう感じも気楽でいい。
ただ、少しだけペダルが軽すぎる気もするが・・・。

学校へ着いて、下駄箱に向かうと谷口と国木田が居るのが見えた。

向こうも此方に気が付いたらしく、「アレ?」という顔をしている。
やはりハルヒが学校を休むって事は、第三者のコイツらにとっても意外な事なんだろうな。
とりあえず、挨拶を交しに俺は彼等に近付いた。

-よう!
「あれ?今日はキョン一人か?さては・・・遂に破局かっ?」
「珍しいね?凉宮さん、風邪かな?」

谷口に「アホ」の二文字が付いて国木田に付かない理由は、おそらくこの発想に関する格差に因るところだろうな。
アホな谷口はスルーして、話を続ける。

-ああ。俺もよく判らないんだが、具合が悪いらしい。

(本当によく判らないんだよな。
特に調子が悪そうにも見えなかったし。)

俺はハルヒが休んだ理由を少しだけ考えながら、二人と共に教室へと向かった。

普段通りに席に着き、授業の準備をする。

そして授業が始まり、退屈な時間が過ぎていく。
ふと振り返ると、誰も居ない後ろの席が俺の視界に触れた。

(放課後にでも、会いに行くかな・・・)

そんな事をボンヤリと思いながら、俺はゆっくりと流れる退屈に身をまかせた。


放課後、俺はとりあえず部室へ向かい、ハルヒが休んだ件と心配なので家に寄ってみる件をみんなに告げると、そのまま帰り支度をして自転車に飛び乗った。
少し急ぎながら、いつもの坂道を登っていくと、ポケットの中で携帯が一度だけ震えた。

(たぶん、ハルヒからだ。)

慌てて自転車を停め携帯を開くと、案の定ハルヒからのメールだった。

『今から来れる?』

(いつもなら『今から来て』とかなのに。何だか、ハルヒらしくないな・・・)
俺は、その短いメールから今朝のハルヒの様子を思いだして、少し心配になる。
そして、手短に【もう向かってる】と送り返すと、再び自転車に飛び乗って先を急いだ。



いつもの公園に近付くと、ハルヒが時計台の下に立っているのが見えた。
少し元気が無さそうだ。
俺は自転車を停めて、ハルヒに駆け寄る。

-待たせてすまないな?
「あ、ううん・・・大丈夫。」
-そう・・・か。

会話が続かない理由は、ハルヒの様子が普通じゃない事に他ならない。
あれほど訊きたかった休んだ理由さえも訊けずに、俺はただハルヒの前に立ち尽くす。
そしてしばらく沈黙が続いた後、ハルヒが呟く様に喋り出した。

「あのね、キョン・・・」
-ん?何だ?
「驚かないで聞いてくれる?」
-あ、ああ。
「・・・アタシ・・・妊娠した・・・。」



まさか!
頭の中が、真っ白になった。
何て答えたらいいのか・・・わからない。
ハルヒは、おそらく愕然としているであろう俺に続ける。

「しばらく、生理が無かったのよ。でも、元々アタシは規則正しく来る方じゃ無かったから、特になにも気にしなかった。
でもね、何日か前から嫌な予感がして・・・今朝、コレを使ったの。」

そう言いながら、ハルヒは白い小さな棒状の物を俺に見せた。

-なんだ?それ・・・
「妊娠検査薬。・・・ここの小さい穴にね?・・その・・・オシッコをかけるのよ。それで青い線がでると妊娠してる事になる・・・。」

ハルヒが指差した穴の部分には、まぎれもなく青い線が出ていた。
俺は、返す言葉も無く黙りこむ。
ありったけの思考を巡らすが、この現実を受けとめるので限界だ。
それに・・・考えても仕方がなかった。こんな重大な事を聞かされて、簡単に語るべき言葉が浮かぶ筈がない。
今はただ、俺の心の中の妙な反射神経が「冷静になれ、冷静になれ」と呪文の様に俺の頭の中で煩いだけだ。

-わかった!大丈夫だから・・・とにかく、また明日来るから・・・体、大事にしててな?

俺は、今言える精一杯の言葉をハルヒに告げると、その場から立ち去った。


(何やってんだよ、俺っ!まるで逃げ出すみたいじゃないか!)

情けない自分を壊してしまいたい衝動に駆られて、俺は馬鹿みたいに全力で自転車をこいだ。
さっきのハルヒの表情が、頭の中にコビリついて離れない。

(俺は、どうすればいい・・・)


気が付くと、俺は家に着いていた。
全力で自転車をこいで、少しだけ疲れたせいだろうか。
さっきより、自分が平常心を取り戻している事に気が付く。
(真剣に・・・考えなきゃな・・・)
とりあえず部屋に戻り、椅子に座る。
そして、今するべき事を必死に頭の中に思い浮かべて掻き集める。

俺の親とハルヒの親に報告・・・というよりは謝る事になるか。あとは出産費用の準備・・・そして学校は・・・当然辞める事になる・・・だろうな。
中絶?まさか・・・それだけは絶対に避けたい。
俺はもの心ついた時には、産まれたばかりの妹の世話を手伝っていた。
その為だろうか、中絶という行為は絶対に許せない。
こう言うと語弊があるかもしれないが、俺にとって中絶とは「赤ん坊を殺してしまう」事と同義なのだ。

だから、このような結果になってしまった以上は、ハルヒには産んでもらいたいと思う。
ただ、それには問題が多すぎて・・・かといって、しかも考えがまとまらないうちは、誰かに相談する事も出来ない。
そして一番の問題は、まだ俺は年齢的にハルヒと一緒になれないということだ。

考えれば考える程、深みにはまっていく。
そして、どうする事も出来ないまま俺は目を閉じた。


気が付くと、窓の外はすっかり暗くなっていた。
どうやら、椅子に座ったまま眠ってしまったらしい。
明かりも灯さないまま、俺は再び考え始める。

そして、いちばん肝心な部分を忘れている事に気が付いた。

(ハルヒは、どうしたいんだろうか。)

確かめなくてはいけない・・・そう思って、机の上の携帯に手を伸ばす。
そして、ハルヒの番号を呼び出しかけて・・・やっぱりやめた。

自分の考えもまとまっていないのに、ハルヒに「お前は、どうしたい?」なんて聞ける筈も無かったから。

そして、逆に俺はどうしたいのか考えてみる事にする。
ハルヒには産んでほしい・・・その為には俺は・・・どんな努力や苦労も惜しまない・・・そして・・・

ハルヒと一緒にいたい!

一日やそこら悩んだところで、出せる答えはこの程度だろう。
しかし俺は、明日ハルヒに会って直接伝えようと思う。
ハルヒがもし、違う答えを出していたら・・・その時は仕方が無いのだが、今は考えずに行こうと思う。
とにかく、明日・・・


結局、俺は眠れずに夜を明かした。
窓から差しこむ朝の日射しが、今日の晴天を告げている。
寝不足にも関わらず、自然と体は軽い。
とにかくハルヒに会いに行くんだ。
そして、伝えよう。


俺は、ハルヒが起きる時間を狙って電話をかけた。


-もしもし・・・?
「・・・キョン?」
-ああ。今日・・・学校はどうする?
「・・・今日も休む。」
-そうか。俺も休むよ。
「・・・なんで?」
-話があるんだ。
「昨日の・・・事だよね?」
-あたりまえだろ?
「うん・・・解った。」


十一時に行く・・・俺はハルヒそう告げると電話を切った。
そして慌てて着替え、玄関から飛び出して自転車に飛び乗ると、学校とは反対の方向へ向かって走りだした。
しばらく走ったこの先に、十時から開店するショッピングモールがある。
俺は少し時間を潰して開店を待ち、開店と同時に急ぎ足で店内へと進んだ。
そして、アクセサリー売り場の前で立ち止まり財布の中を確かめる。

(5千円と、ちょっとか・・・)

とにかく、買える範囲の指輪を選ぶ事にする。
当然、ハルヒへ贈る為の物だ。
なんとなく気休地味た事かもしれないけど、俺が出した答えを伝えるには指輪が絶対に必要・・・なのだ。

ショッピングモールを出ると、慌てて買い物を済ませた筈なのに時間は十時半近くになっていた。
とにかく急ごう・・・ハルヒの待つ、あの公園へ。


いつもの公園に近付くと、ハルヒが待っているのが見えた。
なんとなく、昨日より元気そうで少し安心する。

-ごめん!待ったか?

俺は自転車を停めながらハルヒに声をかけた。
少しビクッとして、ハルヒが此方に目を向ける。

構わずに急いでハルヒに駆け寄ると余程驚いたのかだろうか、ハルヒは目を丸くしていた。

-どうした?
「う・・・うん、びっくりした。いつものキョンじゃないみたい・・・。」

(最近のお前だって、そうだったさ・・・)

-いや、すまない。あのなハルヒ・・・俺、頑張るから・・・産んでくれないか?
「・・・!・・・な、なによ!突然・・・」
-本気なんだ!
「・・・ワケわかんない・・・。何て事言うのよ!アタシは、何とかするから心配しないでって言うつもりで来たのよ!?
変な事言って混乱させないでよっ、バカキョン!」
-何とかしなくていい。いや、むしろしないでほしい。
「か、簡単に考えるんじゃないわよ!アタシ達、まだ高校生なのよ?学校とかどうするのよ!」
-辞める事になる・・・だろうな。でも俺はハルヒが側に居ればそれでいい。
「・・・SOS団のみんなは?親には?何て言えばいいのよ・・・。」
-俺から話をする。
「・・・結婚だって・・・。」
-少し待てば出来るさ。


ハルヒは黙りこむと目を閉じて深く息を吸った。
そして目をあけ、少しだけ俺に近付くと静かに呟いた。

「キョンは・・・それでいいの?」

俺は何も言わずに、ハルヒの左手をそっととり、さっき買ったばかりの指輪を薬指に通した。
ハルヒが驚いて俺を見上げる。

-もし、ハルヒがそれを望まないなら・・・今すぐ外して捨ててくれ。

俺が言葉を終えないうちに、俺を見上げたハルヒの瞳から大粒の涙が溢れ落ちた。
そして俺を見上げたまま左手をそっと胸に当て、右手で左手の薬指を確かめる様に触れる。

「・・・バカよ。本当に・・・。」

俺もハルヒを見つめたまま、しばらく動かずにいた。
そして、ただ静かに言い様のない力が胸の奥から沸き上がって来るのを感じていた。


数時間後・・・俺達は電車の中に居た。

とりあえずハルヒを、隣町の産婦人科へ連れていく為だ。
一度は行かなければならないと思ったし、なによりも俺達は妊娠や出産に関して解らない事だらけだったから・・・。

目的の駅で電車を降りると、ホームから見える線路際の看板にこれから行く産婦人科の広告が出ていた。
(北口から100メートル進んだ左側か・・・)
俺はハルヒの手をとると、ゆっくりと歩き出した。


駅から少しも歩かないうちに、産婦人科へは辿り着いてしまった。
入り口に立つと、電車を降りてから無言のままだったハルヒが、俺の手をギュッと握り締める。
俺は「大丈夫だ」と声をかけ、入り口のドアを開けた。

病院の中には妊婦さんらしき人が一人、待合室の椅子に座っているだけだった。

空いている事に安心しながら、とりあえず受付を済ませる事にする。
ハルヒが受付に保険証を差し出すと、受付の女の人が「おや?」という顔をした。
俺は、すかさず「初診です、お願いします。」と告げ、ハルヒの手を引いてその場を離れた。

そして、待つこと数分・・・「凉宮さーん、凉宮ハルヒさーん!1番にお入りくださーい!」と呼び出しのアナウンスが流れた。
繋いだままのハルヒの手から、彼女の不安と緊張が伝わって来る。

-待ってるから・・・な?
「うん・・・行ってくる・・・。」

ハルヒはゆっくりと立ち上がると、「1」と書いてあるドアの向こうへと消えた。


「付き添いの方ですね?凉宮さんの・・・」
不意に声をかけられて顔をあげると、俺の前に看護婦さんが立っていた。

-はい、そうですが?

「1番に、お入りください。」
-俺が・・・ですか?
「はい。」

俺は訳の解らないまま、ハルヒが診察を受けている部屋へと呼ばれた。
ドアを開けると、ハルヒと向かい合って座っている先生が、俺に「彼氏さんね?」と声をかける。
若い女の先生だ・・・。
先生は少し笑いながら続けた。

「・・・短刀直入に言うわね?凉宮さんは・・・只の生理不順よ。」
-えっ?
(な・・・なんでだ?そんな筈は無い・・・)
「つまり、妊娠はしていません!って事。」
-そ、そんな・・・。

ハルヒは黙ってうつむいている。
俺は、驚きを隠せずに立ち尽した。

「あら、もう少しホッとした顔をするかと思ったのに!フフッ」
-い、いや・・・でも先生!検査薬で・・・
「確かに、アレは便利なモノなんだけどね?必ずしも正確とは限らないのよ。」
-そう・・・なんですか・・・。
「そう。でも、ホントに意外だったわ?」
-何が、です?
「いや・・・私ね?アナタがもし、少しでもホッとした顔をしようものなら怒鳴り飛ばしてやろうと思ってたのよ。
こんな可愛い彼女を不安にさせて、アンタは何をやってるんだ!ってね?
だから、アナタをここへ呼んだ。」
-は、はぁ・・・
「でも、アナタの様子を見てたら・・・そんな気は失せたわ。
余程覚悟を決めてきたみたいだし・・・ね?」
-・・・はい。
「・・・うん、まあいいわ。その覚悟に免じて、ひとつだけ忠告してあげる。
私は・・・医者の私がこんな事を言うのはどうかと思うんだけど、たとえ高校生同士であっても、愛し合ってSEXをしてしまう事はは仕方が無い事だと思ってる。」
-・・・。

「でもね?それによって、お互いが傷ついたり悩んだり・・・困ったりする様な事になるのは絶対にダメ。
だから、お互いが・・・いや、まず第一に彼氏であるアナタが、責任を持って行動しなければならない。解るわね?」
-・・・はい!


「よし!二人とも帰ってよろしい!・・・ふふっ、今日の所はお代はいらないわ。」



俺達は・・・呆然としたまま、病院を後にした。
力が抜けた・・・というか・・・何も考えられない。
ボンヤリと駅まで歩き、切符を買ってホームに向かう。
ただ、なんとなく歩いて・・・俺達は、気が付くとホームの端に居た。

-なあ、ハルヒ・・・
「・・・なによ?」
-何か・・・飲むか?
「・・・うん。」

俺は、少し離れた所にある販売機でコーヒーとカフェオレを買い、カフェオレをハルヒに手渡した。

「・・・ふふっ」

カフェオレを受け取ったハルヒが、不意に笑い出す。

-どうした?
「ううん・・・なんか、カフェオレを買って来てくれたキョンが、いつも通りのキョンに戻った気がして・・・
さっき、アタシに指輪をくれた時のキョンとのギャップがおかしくて・・・ごめんね?」
-な、なんだよ!それ・・・
「ごめん!それと・・・今回の事も・・・ごめんね。」
-別に・・・ハルヒが謝る事じゃないさ。
「アタシ・・・キョンの事・・・いっぱい悩ませて、しなくてもいい決心させて・・・」

そう言いながら、ハルヒは左手の薬指から指輪を抜き取って俺に差し出した。

「そして、必要無い買い物までさせちゃったわね・・・」
-ハルヒ・・・。
「ふふっ、かなり嬉しかったけどねっ!まあ、この指輪の分は後で何か奢るからさっ?」

俺は指輪を受けとると、ポケットにしまった。そして少しだけ考える。

(これで・・・良かったのか?)

「ちょっと、キョン?何黙ってんの?」

-ん?ああ・・・なあ、ハルヒ・・・
「・・・?」
-もしも・・・もしも、だぞ?俺達の気持ちが、この先も・・・ずっと変わらずにいられたら・・・その時は・・・

肝心な言葉を言いかけた時、俺達しか居ないホームを回送列車が騒がしく走り過ぎた。
そして、それまで線路の向こうから照らしていた西日を遮り、俺達を・・・驚いたハルヒの表情をフラッシュバックさせる。
思いがけずに激しく交錯する光の中、俺は躊躇わずにハルヒの左手をとり、薬指に再び指輪を通した。

「・・・キョン?」

気が付くと、ホームは静けさを取り戻していた。
俺は何と無く恥ずかしくなってハルヒから目をそらし、線路が続く彼方を見つめた。


そんな俺には構わず、ハルヒはいつもの調子で喋り出す。

「まったくキョンは・・・普段はトロい癖に、妙に気が早い時があって困るのよねっ!」
-う、うるさい!要らなければ返せっ!

「い・や・だ・っ!返さないっ!死んでも返さないっ!・・・うふふっ、ねえ?キョン・・・」
-な、なんだよ?

「えっと・・・一度しか言わないから、良く聞きなさいよっ?」

ハルヒはそう言うと、俺の肩を掴んで自分の方へ向かせ、グッと詰め寄って俺を見上げた。



「アタシを・・・キョンのお嫁さんにしてください。」



おしまい
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