「あれー?キョンくーん、あたしのプリン知らなーい?」 
「あ、あれお前のだったのか。すまん、食っちまった」 
「えー!?酷いよぉキョンくん!!」 

…はあ、やれやれだぜ 

折角の日曜、不思議探索もなく機嫌も最高潮であり、調子に乗って冷蔵庫にあったモロゾフのプリンを食して大いにくつろいでいた俺は、妹の悲痛な叫びにより都心の百貨店にあるモロゾフの店までプリンを買いに走らされていた。……俺にはなにかがとりついているのかもしれん。みこみこ朝比奈さんに祓って貰おうかな。 

 そんな軽口を頭の中で叩くのもしんどい……あー、不幸だ 
「……次はー、三宮ー、三宮ー」 
お、もう着いたのか……早いな。 
 よっこらせっと……さあ、行くとしますか。……平和だなぁ 
 しかし、俺は脳裏に浮かぶ(また何か起こるんじゃないか?)という不安を拭い去ることはできなかった…… 
~~~~~~~~~~ 
「えーと……食品街は分かりにくいな……モロゾフはどこだ?」 
 モロゾフモロゾフ……と。案内板によるとこっちらしいんだが…… 
「お、あった。……ん?」 
「うーん……迷うのです……資金に限りはあるし……うーん」 
……どっかで見たようなツインテールがはしたない真似をしているような 
「んんっ……もうっ!こんなことなら組織にもと請求すればよかったのです。でも鶴屋家みたいなスポンサーもいなければ今回の事件で信用も失っちゃったし……はあ、不景気の波は恐ろしいのです」 
……無視、無視。あのー、このプリンください 
「ん?どこかで聞いたような……あー!!キョンさんなのです!!その節はどうも」 
……ちっ 
「こんなところでどうしたんですか?お家はもっと向こうの方じゃ……はっ!!やっぱりキョンさんも甘党で、わざわざモロザフのために上京してきたとか!!」 
「アホか。これは妹のためだ。それにこの距離でしかも買い物のために来ることを上京とは言わん」 
「んふふー、キョンさんも甘党なのですかー。いいですよねえ甘い食べ物って」 
「聞けよ!!」 
「キョンさんがシスコンまでは聞きました」 
これ以上こいつと話していてもらちがあかんことを悟った俺は、困り顔の店員からプリンを受け取り、この場を去ろうとした。 
「あ……、もう行っちゃうのですか?」 
あん? 
「その…できれば選んで欲しいのです!」 
何をだよ 
「あたしが持ってる資金はスイーツ一つ分……ささ、この二つのケーキで迷ってるのです。キョンさんが選んでくれた方をあたしはおいしくいただきます。それではどうぞ!!」 
どうぞって…… 店員さんは「彼女さんですか?」的笑みを浮かべながらもその表情の裏からは「さっさとこのちんちくりん連れてけよコノヤロウ」とのオーラも出ている気がする。いやね、違うんですよ、店員さん。こいつは……あー、なんか弁解するのもめんどくせー 

そして橘はというと、俺が片方のケーキを選ぼうとすると 
「あー、やっぱり定番のレアチーズケーキにしますかー。でもこの林檎とはっさくの乗ってるのもいいと思ったんですけどねー」と言い、かといってもう片方を選ぶと 
「やはり期間限定メニューですか。でも定番も捨てがたかったりするんですけどねー」と言う。どうしろって言うんだよ。 
そしてなにより、コイツの目が「両方食べたいのです!!食べたいのです!!」と叫んでいるのが俺にも分かるのだからタチが悪い 
あー、もう。こうなったら…… 

~~~~~~~~~~~~ 
「でも……本当によかったのですか?」 
「なんなら返してもらってもいいんだぞ?」 
「う……でもでも……」 
あの後、結局どちらかに決断することが出来なかった俺は、仕方が無いからと片方を選び、そしてもう片方を俺のポケットマネーで購入して橘に渡した。 
なぜそんなことをしたかって?こいつがあまりにもしつこかったから……と、言いたいんだが、本当は違う。 
こいつの目からは欲しいです欲しいですビームが出ていたのだが、その中に悪女特有の「あたしのためだから買うのです!」という邪な考えが一切浮かんでいないことを長門検定一級とともに妹検定準一級の経験をもとに読み取ったからである。……本当に食べたかったんだな、二つとも。 
今、俺は適当なパラソルの下に机と椅子がおいてあるゾーン(名前がでてこんのだ)にて橘と一緒に座っていた。 
「食わないのか?」 
「むー、じゃあ、お言葉に甘えて……」 
橘はそう言うなり、今まで抑えていた何かが爆発したのか、おいしい、おいしいとニコニコ笑いながらスイーツを食べ始めた。……妹みたいなやつだな 
……ん?それぞれのケーキを半分くらいずつ食べ終えたところで、橘のフォークはぴたっと止まってしまった。まさか腹がいっぱいになったとかじゃないだろうな…… 
「ぐすっ……」 
は? 
……橘は泣いていた。 
「どうしたんだ?腹でも痛いのか?」 
「ち、違いますよぉ……ただ……えぐっ……ひっく」 
あの橘が泣いている。 
俺でもちびってしまいそうな森さんの不敵な笑みを正面から受けても笑っていた橘が、未来人や宇宙人のわけの分からない戦いに巻き込まれても、泣かなかったあの橘が、一般人代表の俺の目の前でお気に入りのおもちゃを取られた子どものように泣いているのだ。 
「あたし……キョ……さんに…ひっく…いっぱ……迷惑……かけて……計画も、しっぱ……して、ひっく、組織のひとにも……怒ら、れて……それでも、優しくしてくれて……ひっく、もう、どうしていいのか……わからなっ……ぐすっ」 
……やれやれだな、この少女には。 
こいつは怖い目にあっても、辛い目にあっても、恐ろしいほど不可解で、ワケがわからなくて、でも自分の状況がまずいことはよく分かる場にいても涙をけして流さないのに。 
人のことを想うためなら涙をこぼすことを厭わないのか。 

……気がつくと、俺は橘を抱きしめていた 
「ふぁ……キョン……さん?」 
「橘……俺は今、お前に会えて本当に良かったと心から喜んだところだ。だからもういい……なにもしなくても、お前は俺にお礼以上のことをしてくれたんだよ」 
「……むう」 
我ながら歯の浮くような台詞だったと思う。 
俺は心底十秒ほど前の自分を呪いつつ、橘へのホールドを解いて席へと座った。 
橘は涙の溜まった目をぐしぐしとぬぐうと 
「……なんだか上手くやり込められた気がするのです」 
と言ってまたフォークを動かし始めた。そしてケーキを一口口に含むと、おいしい。と言って笑顔になった。 
「……そうやって笑っていればいいんだよ」 
「え?なにか言いましたか?」 
おっと、口に出ていたようだ。 
「別に、何も」 
そう返すと橘は下を向き、 
「キョンさんはずるいのです……」 
「なにか言ったか?」 
「なんでもありません!」 
……やれやれだな。 

橘が最後のケーキのかけらを口に入れて飲み込んだのを見て俺は、そろそろ帰るよ。とカバンを手に取り、顔を上げ―――― 
柑橘系の香りとはっさくの味が俺の口の中に流れ込んだ。 
「な、ななな………」 
顔が真っ赤になっていくのが自分でも分かった。 
「これは……今回のお礼なのです。少し多い気もしますが、お釣りはとっといてください。それじゃあ!!」 
橘は、俺と同じく顔を真っ赤にしてそれだけを告げると、俺にメモを渡して出口へと走っていった。 
そのメモには、「今までのお礼はまだしてないのです。欲しければ、この連絡先に連絡下さい」という文字と、メールアドレスとおぼしき文字列と電話番号らしき数字が走り書きにしてはいやに丁寧な文字で書かれていた。そして端っこに小さく「まってるのです」との追伸とともに。 
やれやれ、それにしても――――― 

「こんなお礼なら、何回でも受け取りたくなっちまうじゃねえか……」 

そう呟いた、とある日曜日のことだった。


おわり 


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