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魔法を使えたらいいなと思う。

 

なかなか人生ってうまくいかないもので、頭の中でイメージできてもその通りにはならない。

例えば、この凍える街をを南国の楽園のような姿に変えれたらと思う。

首元に突き刺さるような冷たい風を、フルーツの甘い香りが混じった暖かい風へ。

真上に光る三日月を、眩しくて笑っちゃうような太陽へ。

葉の落ちた侘しい木々を、絵にかいたようなヤシの木に。

 

バス停のベンチは氷のように冷たい。駅前なのにあたりに人影は少なく、この世界に存在する者はあたしだけのような気分になる。

あたしはただ目の前に転がる、コカコーラの空き缶を見つめていた。

 

「寒いわねえ。なんだか急に冷えちゃって」

 

いきなり聞こえた声に驚いてあたしは小さく悲鳴をあげる。

隣にはいつのまにかおばあさんが座っていた。

グレーの豹柄のロングコートを着ていて、高価そうな老眼鏡をかけていた。

髪には白髪がまじっていたが、なにやら不思議な強さ、若さ、あるいは威厳を感じた。

 

「そうですね。どうせ寒いなら雪でも降ればいいのに」

老婆は上品に小さく笑い、優しい声で言う。

 

「そうね、あなたは雪がすきなの?」

「そうですね。雪は好きです。なんだが物語の中にいるみたい」

それを聞くと、老婆は感嘆の声をあげた。

 

「あなたは感性がすばらしいわ。そうね、物語ね・・。」

しばらく沈黙が続いた。老婆はその間ずっと淡い微笑みを浮かべていた。

 

「この先、未来で本当に雪が物語の上のものになってしまうこともあるかもしれないわね。」

老婆はそう言ったあとに小さくため息をつく。過ぎたことを悔やむような溜息だった。

「あたしの孫も雪が大好きなの。空車に乗って、、あ、今のは忘れて間違えちゃった。車にのってる時に「雪の華」っていうとても古い曲を口ずさむの。なかなか上手いのよ。それに本当にかわいい孫なの。少し赤い髪で顔は可愛くて、、あらノロケ話になっちゃったわね」

老婆はそう言って笑った。

そらぐるま・・?それに「雪の華」って中島美嘉のだったらそんなに古くないけど。。

「時期に神様が動き出すわ」

そう言って彼女は微笑んだ。まるであたしのために神様が動く、そう言ってるように聞こえた。

「どうしてわかるんですか??」

 

「そんな気がしただけよ」

老婆はそう言って微笑み、バスに乗らずに駅のほうへ消えた。

なんでバス停に来たんだろう。まるであたしに話しかけるためだったように思える。

 

 

かなり珍しい出来事だったが不思議な老婆のことはすぐに忘れてしまうことになる。

交際している宮下秀樹が交通事故で病院に運ばれたとの連絡を受けたからだ。

命にかかわるほどではないが、あの人に限って交通事故は驚いてしまうことだった。

タクシーを降りて病院に駆け込み、四階の個室に向かった。

 

「いやー、死ぬかと思ったよ」

彼はそう言って奇妙な鳥のような笑い声を立てた。

話を聞けば、仕事のため寝不足だった彼は運転中一瞬まどろんでしまった。

飛び起きた時にはもうガードレールが目の前だったという。

右足と鎖骨の骨折、それと唇が切れていた。全治一か月らしい

「なに笑ってんのよ。ほんとに死んでたかもしれないじゃない」

あたしは少し声を荒げて言った。

「いや仕事が忙しくてさ、寝不足だったんだよね。でもよかった、よかった。心配かけてすまなかった」

そう言って彼はわざとらしく頭を下げた、幼児の声を真似てごめんね!ごめんね!なんて言ってる。

「そうやってふざけて・・・。もう、、だれか巻き込んでたらどう責任とるのよ」

「だからしょうがないだろ、忙しかったんだからさ。それよりちょっとベッド入りなよ、ここ個室だし誰もこないし」

「ふざけんなよ、エロ野郎!マスでもかいてろ!・・・ばか!」

そう言ってわたしは部屋を出た。背中に情けない声を浴びながら。

 

冷たい街に出ても怒りは収まらなかった。すれちがう女の子がおびえた顔で見ている。

きっと般若のような顔をしてるんだろう。

昔からそうだった。男勝りで気が強かったあたしは女友達がひとりもいなかった。

同い年なのにいつもなつみさんと呼ばれて、敬語使われて。。

あたしは何も危害なんか加えないのに、なんでだろう?とあたしは不思議に思ってた。

ケンカはいっぱいしたけど全部あっちからちょっかいかけてきた時だけ。それも全部男。

 

でも、あたしは寂しくなかった。強がりではない、本当にそうだった。

とても大切な友達がいた。ユウは少し情けないけど優しくて繊細で、なにより綺麗な心をもっていた。

小学生だったある日、二人でセミを採りに行った。近所の公園で、とても暑い中を走り回ってセミを採った。

全然採れないユウを尻目に、あたしは9匹のセミを採った。いやもっと籠が大きかったらもっと採れた。うん、確実に

夕方になりセミでいっぱいの籠を手に、公園の真ん中にある小さな山を登った。

そこからは自分たちの街を見下ろすことができる、いわゆる絶景スポットだった。

あたりを赤く染めた太陽がだんだん沈んでいくのを二人で見ていた。

「ねえ、あたしたちずっと一緒だよね??」

「もちろん、僕一緒じゃなきゃやだよ」

「ユウはあたしがいなきゃなんにもできないもんねー」

そう言って笑った。ユウも笑うと思ってたけど憂鬱な顔をしてうつむいてしまった。

ユウの顔が夕日に照らされて赤くなり、うつむくことで陰影ができていた。

「ごめん・・・嘘だよ~ん・・うん、ユウはなんにもできなくなんかないよ」

「違うよ。なっちゃんがいなくなるのが怖いんだ」

そう言ったユウはまるで捨てられる子犬のような目で訴えかけていた。いなくならないで。いなくならないで。

あたしはすごくうれしくなった。誰かに求められてる歓びを初めて知ったのもこの時かもしれない。

たまらなく愛おしくなってユウの髪をくしゃくしゃにしてやった。

ユウは痛いよ、やめてよ。とか言いながらもなんか嬉しそうだった。

 

「ユウ、そろそろ帰ろうか、日が暮れるとまた怒られちゃうよ。セミも見せたいし」

「だめだよ。セミは逃がしてやらなきゃ可愛そうだよ」

「え、でもせっかく捕まえたのに・・」

「僕らはセミと追いかけっこして遊んだだけだよ。捕まえたんじゃないの」

「・・・・そうだよね。ユウはほんとに優しいなあ。そうだよね七日間しか生きられないのにかわいそうだよね」

本当にそう思った。彼は純粋な子だった。

「七日間しか生きられないの?」

「そうだよ、知らないの??バカだなー」

 

 

なんで今、こんなこと思い出すんだろうか。

けれども怒りがいつのまにか消えてるのを感じてひとり小さく笑った。

冷たい街がなんだか暖かくなった気がしたよ。ありがと、ユウ。

 

 

 

 

アパートに着くと、部屋の前に人が立ってるのを見つけた。

背の高い、すらりとした男性だった。たぶん自分と同い年ぐらいだろう。

女の子にもてそうな顔をしている。彼はあたしに気づくと、華やかな笑顔を見せた。

「あ、もしかして204号室の方ですか??」

「え・・はい、そうですけど・・」

「初めまして、僕、隣に引っ越してきた古泉一樹と申します。あいさつに参ったんですけど、お留守だったみたいで・・。ちょうどよかった」

彼はいかにも高級そうな洋菓子を差し出した。

「お口にあうと嬉しいです」

 

そう言って俳優のような笑みを見せた。

 

 

つづく・・・

 

 

 

 

 

 

 

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