……キョンがいなくなってからもう一週間が過ぎた。

あの日、キョンが行方不明になったと聞いたとき、あたしの頭に真っ先に浮かんだ言葉はなんだったのだろうか。

今から思い返してみると、あの言葉が出てきたことを心の底から後悔できてしまう。

……やっぱりか。

その言葉が。あの瞬間、あたしの頭によぎった言葉だった。

どうして、この言葉がよぎったのだろう。

どうして、知っていたのだろう。

……どうして、あの時、キョンを引き止めなかったのだろう

どうして、どうして、どうして……ひとつひとつ言っていくと、きりがないくらいの「どうして」が溢れてくる。

そしてその中で、もっとも大きなどうして……

 

どうして、やっぱりか。だったんだろう

 

やっぱりか。

この言葉は、一般的に、予想していた通りのことが起こってしまったときに使用する言葉だ。

知っていたのなら、なぜ行動しなかったのだろう。

でも、どう行動すればよかったのだろう。

……そして、なぜ知っていたのだろう。

突き詰めていけば、そこから溢れてくる疑問の数は計り知れない。

しかし、あたしは知っている。

それらの疑問に対し、強引に解を求めさせてしまうものがあることを。

そして、全ての疑問はそれから出発し、そこに帰結する……そんなメビウスの輪のような表も裏も無い繰り返しがずっと繰り返されていることを。

あの日、あの時、あの場所で……あたしの中に疑問の芽を芽吹かせ、そしてキョンの作文を糧にし、広がって行ってしまったもの。

……あたしは、それをもう一度確かめるため、パソコンのUSB端子にフラッシュメモリを差し込んだ。


 

無題1   長門有希

 

あれはいつだったのだろうか。

脳内に刻まれているはずの記憶を引き出そうとしても、でてくるのは涙ばかり

図書館であなたと一緒に存在していたこと

今はもうそれすら叶わない

 

今は、という表現

これはわたしにとっては意味をなさない

わたしの今はあなたの明日

わたしの今はあなたの昨日

わたしの今は…わたしの明日?

でも今は、わたしの今はあなたの今だと、そう信じていたい

 

あなたは追っている。

ひたすら蝶を追っている。

しかし蝶を捕まえるには、あの川を渡らないといけない。

でもあなたは行ってしまった。強引に橋を架けて。川の向こうへと

 

それはあなたの今ではないけれどわたしの今ではあなたは向こう

けれどわたしの今はあなたの今だと。そう信じていたい

 

あなたが確かにわたしとあの日

図書館で共に存在していたこと

そのことだけは、わたしの今ではない

でも、忘れない。

そのことだけは、永遠に。そう信じている

 

 

 

 

 

 

 

 

さようなら


 

 

この作文を有希から提出されたとき、全く意味が分からなかったのを覚えている。

そしてあたしは訊こうとした。有希に、この作文を提出したわけを。

……でも、あたしは結局訊かなかった。

訊けなかったのではない。訊かなかったのだ。

最近のキョンの変な行動……それについて知る鍵が、ここにはあると思ったから。

あたしは次の日から、この作文を一日に十回は読み返した。そして鍵を探した。

……しかし、鍵を見つける前に、キョンが合鍵を持ってきてしまった。

 

あたしはショックのあまり、何も考えずに家路についてしまった。

そして家で必死に考えた。キョンが、あの空想のばかげた世界に行ってしまわない方法を。

寝る間なんて無かった。寝るよりも大切だった。あたりまえだった。

……しかし、なにも出てくることはなく朝を迎え、あの知らせを聞いてしまった。

 

キョン?あたしね、淋しいよ。

キョンのいないSOS団なんてつまらない。

あのね?あたし、あのひから学校お休みしてるんだよ?

きょんがいなくてさびしいの。

ねえ、きょん

へんじしてよ。

いないの?いるんでしょ?

……あれ?

なんだ。そっか。

 

きょんは、ずっと、あたしのとなりにいたんだね

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

……さて、また会いましたね。しばらくでした。

今回は、彼に近い人物を紹介させていただきました。

彼女は最後、狂ってしまったのでしょうか

それとも、あるべき場所へと戻ったのでしょうか。

そして彼の行く末は?

そもそも彼は……

 

いえ、やめておきましょうか。

 

……わたはしやすみず

……いえ、なんでもありません。気にしないで下さい。

 

さて、みなさん

少し雑談をいたしましょうか。

この世界とは……いかにも不安定なものだと思いませんか?

この世界は、一人のわがままな神様の物語をつくりだしてしまった…

さて、ほんとうにそうでしょうか?

そのわがままな神様に望まれてこの世界ができあがった……それを否定する術がどこにありましょう。

さて、それだけではありませんね。

 

あなたは本当に……

 

いえ、やめておきましょうか。

この世界が、本当にあなたの見ている世界であること

そのことを祈って、ここでお別れさせていただきます。

それでは、またいずこかでお会いしましょう。

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最終更新:2020年05月17日 17:25