「うーっ、寒いっ!」

二人を乗せた自転車がいつもの坂道を下り始める頃、夕暮れ時の紫色は深い藍色へと変わり始めていた。

アタシはキョンの背中に隠れて、風の冷たさをやりすごす。
制服の生地越しに、キョンの体温を感じて、少しドキドキした。

キョン・・・

「なんだ?」

なんでもない・・・

最近、アタシ達はこんな噛み合わない会話ばかりてる。
原因は『キスより先が欲しい』アタシの気持ち以外の何者でもない。
二人で過ごす時間と、その場所の事を考えればそんなのは無理だって解ってる。

この前の様な偶然は度々起る訳も無いし。

でも・・・
時折、高波の様に押し寄せるあの時の記憶・・・キョンの温もりやキョンがアタシの中に染み渡っていく感覚が麻薬の様にアタシを揺さぶり、たまらない気持ちにさせるんだ・・・

キョンは、どうなんだろう・・・

「ん、俺の顔になんかついてるか?」

べ、別に何でもないわよっ!

気が付くと、アタシ達はいつもの公園に着いていて、キョンが振り返ってこっちを見ていた。

「ハルヒ、ちょっと降りろ。」
-何?
「顔が赤い。熱でもあるんじゃないか?今、診てやるから。」
-いい、大丈夫!
これは・・・そんなんじゃない・・・
「いいから!」

そう言うと、キョンは左手をアタシの額に当て、右手を自分の額に当てた。
そして、驚いて目を丸くする。

「おい、ハルヒ!今日は玄関まで送ってやる。」
-えっ、何?
「家に帰ったらちゃんと体温計ってみろ。相当な筈だ。」

嘘・・・だ。アタシは色々とキョンに死んでも言えない様な妄想をして、勝手にノボセてただけなのに。

とりあえず自転車を公園に停め、アタシの家の玄関まで二人で歩く。

キョンが体を支える様に歩いてくれる事に、少し罪悪感を感じる。こまったなあ・・・熱なんか無いのに・・・

あれ?ウチ、誰もいない?

玄関に着くと、駐車場にある筈のオヤジの車と、母さんの軽自動車が無い事に気が付く。

-キョン、ちょっと待ってて。

玄関にキョンを待たせ、台所のテーブルの上に目をやる。小さなメモがある!やっぱり・・・だ。
『自治会の寄合に父さんと行ってきます。夕食は適当に済ませてください』
メモの隣には五百円玉が一枚置いてあった。
母さんのケチ。

そうだ、キョンを待たせたままだった!

慌てて玄関に戻る。

-あのね、キョン!家に誰も居ないみたいなの!
「なんだ、困ったな?」
-困る事なんか全然無いっ!早くあがんなさいっ!
「な、なんだ?おい!ハルヒっ?」
-熱計ってくれるんでしょ!

「俺が計るなんて言ったか?うああっ、引っ張るなって・・・」

ドンッ!

アタシがキョンを無理矢理引っ張り過ぎたせいだろう。
キョンとアタシはリビングの入り口で転んだ。
「痛ってー。」
-だ、大丈夫?
「お前も大丈夫そうだな?」
-なに?
「熱・・・。」
-あ!・・・うん。
あ、あのさ・・・もう、帰っちゃう?

心配そうに聞くアタシを抱き寄せて、キョンが答える。
「帰るわけないだろっ。」

そして、いつも通りの優しいキス。
でも、今日はここで終らせないっ!

-キョン?今この時は、その先が無いキスなんて拷問でしかないわっ!
覚悟しなさいっ!



おわり

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