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三時間目は物理・・・か。

テキストを机の上に揃えながら、俺は溜め息をつく。
別に、授業が憂鬱な訳じゃない。

今日、間違いなく何らかの形で告げられる一つの最悪なニュース。
それが、溜め息の理由の全てだ。

登校してから今まで、それは告げられずにいた。

しかし、確実にその時が迫るのが判る・・・

始業のベルが鳴る。

担当の教師が神妙な面持ちで教室へ入ってくる。

嫌な予感がした。

(今・・・来るのか・・・?)


「・・・皆さんに、残念なお知らせがあります。二年の朝比奈未来さんが、旅行中の事故で亡くなりました。」

ザワつく教室。

俺も動揺したフリをする。
仕方ないとはいえ、今の俺自身を俺は許せない。

そうだ、ハルヒは・・・?

息を飲みながら振り返る・・・

ハルヒは目を見開いたまま、呆然としていた。

「残念ながら・・・国内の事故では無い上に御家族全員が亡くなられたとの事で・・・今後の・・」

壇上でうつ向きながら教師が語り続ける。

教室の中のザワつきが激しさを増して行く。

俺は振り返ったまま、ただハルヒだけを見つめていた。













どれくらいの時が流れたのだろう。

気が付けば、教室には俺とハルヒ以外だれも居なくなっていた。

窓の外、グラウンドから野球部のかけ声が遠く聴こえてくる。

「アタシ、部室にいかなきゃ・・・」

突然、ハルヒはそう呟くと席を立って歩き始めた。

慌てて後を追う。

俺は、ハルヒを追いながら心の中で叫び続ける。

(なあ、朝比奈さん・・・いや、朝比奈さんを動かす未来の偉い人!こんなやり方、 正しい訳が無いだろ!なんとかしろ!なんとか・・・してくれっ!)

部室には、朝比奈さんの来ていた数々の衣装がハンガーに吊され、在りし日のままになっていた。

それらを目にした瞬間、ハルヒは床に崩れ堕ちて・・・


泣いた。


俺は、ただ肩を抱いてやる事しか出来ない。

「っぐっ・・・ううう・・・信じないわよ・・・信じないんだから・・・」


気が付くと、俺の頬にも涙が流れていた。

もう、朝比奈さんに会えない事には・・・変わり無いんだよな。








あれから、何時間経ったのだろうか。

酷くだるい。

俺は床に座り、足を投げ出して壁によりかかり・・・そんな俺の胸にもたれかかる様にして、ハルヒは眠っていた。


ふと、人の気配を感じ部室の入り口に目をやる。

そこには、古泉が立っていた。
そして、いつの間に現れたのか、窓際には長門も居る。

よう。

おまえ達は・・・全て知っていたのか?
いや、知っていたんだろうな。

ただ、俺は・・・今回の事は言うべき時が来るまで、本気で言わないでいようと思ってたんだ。
何か、こう・・・朝比奈さんの立場がまずくなるような気がして・・・・


古泉が珍しく神妙な面持ちで答える。


「結果的な部分で把握していました。
キョン君の判断は賢明だったと思います。
しかし、こんな野蛮な方法を彼等が用いるとは・・・」

「彼等」というのは、朝比奈さんをこの世界に送りこんだ張本人達を指すのだろう。

唇を噛み締める古泉をじっと見据えたまま、長門が続ける。

「彼等の認識には欠落した部分が有る。そしてそれは、この後起こりうる事態を悪化させる危険性を持つ。また、朝比奈みくるの召喚手段も適切では無かった。」


つまり、ハルヒにとって朝比奈さんがどれほど大切な存在だったかを把握せずに、「役目が終わったから帰れ」「後が面倒だから死んだ事にしろ」って感じか?

「そう。」

どうなるんだ、この先一体・・・

「とりあえず、涼宮さんは、このままでは目覚めません。」


「そして既に、この世界は書き換えられつつあります。」

そういえば!
外からは、あれほど野球部や陸上部の掛け声が聴こえて来たのに、校庭には誰も居なかった・・・

ハルヒの仕業か?


「例の閉鎖空間を生み出す瞬間と次元のズレ方が酷似しています。しかし、全くの・・・別物で、こんなのは初めてです。」

長門が窓際から離れ、廊下の方を指さす。

「この近く。急速に情報の連結と解除が繰り返されている空間がある。」

「そこが異世界への入り口ですね!」

長門が黙って頷く。

とにかく行くしかないな!

俺はハルヒを机の上に寝かせると、少し待ってろな・・・と呟いた。

昔、何かの余興でバットを地面に垂直に立てて、こちらに向いているバットの先端部分に額をつけたまま、ソコを中心にクルクルと回り合図とともに駆け出す・・・というのをやった事がある。

当然、足はふらつき真っ直ぐに走る事は不可能なのだが、なんとかゴールを目指し必死に走る・・・

今の俺は、正にそれだ。

部室を出てから間もなく歪み出した廊下を俺達は必死に駆け抜ける。

「こっち」

先導する長門も、いつものスタンスは崩さないものの、相当走り辛そうだ。

そして古泉と俺が長門を追う。

そして、長門はある場所で立ち止まった。

ここは!あの茶室じゃないか!

「ここ。でも、私には無理。」

そう言って長門は古泉を見つめる。


「はい、承知してますよ。」

古泉は以前、閉鎖空間に初めて俺を連れて行った時の様に、手をゆっくりとかざし茶室の入り口に触れた。

「むっ?ぐう。」

どうした?

「どうやら並の代物では無い様です。長門さん?ここは、ひとつ力を合わせるという事で構いませんね?」

「いい」

何だってんだ?説明しろ!

「ここは、僕レベルの能力者が単体で辛うじて侵入できる程の空間です。」

それほどか!

「ええ!ですからキョン君、アナタは当然此処には入れない!」

ああ、そうだな。

「そこで僕が此処の中に入り、中で得た情報を長門さんに全て送る様にします。」

なんだって?


「長門さんには、この情報により此処の中と同じ疑似空間を構築して頂く!これで、どうでしょう!」

なんとなく、わかった!任せる!

長門も、俺の横で頷く。そして手を差し出し、古泉に「はなさないで。」と言った。

やがて古泉は、長門の手を握った右腕だけを残し、体の半分以上を異空間であろう「茶室」に沈めて行った。





















「来る」





ん?長門・・・?

な に が

く る ん だ




あ あ

周りが し ろ い




し ろ い

し ろ





俺は、夕闇の中を自転車で走る。

今日はいつもより忙しく疲れたものの、得意先に貰った手土産のおかげで、ペダルがすこぶる軽い。

長い橋を渡り、少し坂を登った所にある我が家は、狭いながらも最近出来たショッピングモールに近く、小さいけれど隣に公園もあって、わりと気に入っていた。

家に辿り着いた俺は、慌ただしく自転車に鍵をかけ、同じキーホルダーに付いている鍵で玄関を開ける。


ただいまーっ

「おかえり・・・あ、なにそれ?」

ハルヒは俺の手にぶらさがった包みを目ざとく見付け、瞳を輝かせる。

ああ、海老だ。
今日、取引先でさ?貰った。

そっけなく言ってみたものの、おそらく俺は得意げな顔をしてる・・・と思う。

「けっこう沢山入ってるじゃない?ウフフ・・・そうねぇ・・・」

ハルヒはニヤニヤしながら、この海老の運命の行く末を思案中らしい。

「よおし!喜びなさい?この海老は今夜天ぷらになる事が決定されたわっ!衣のサクサク感に悶絶するのよっ!」

そう言うと、ハルヒはキッチンへと勇み足で向かって行った。

ん?

おい、ハルヒ?

「なーにー?」

みくるの泣く声がしないか?

「わかんなーい、みてあげてー?」

全くこの、お気楽極楽主婦は我が家に0歳児が居ることを自覚してるんだろうか。

普段の生活が懸念されるぜ。

俺は、みくるのベットのある部屋へと急ぐ。

「ふえ~ふえ~」

やはりだ。

我が家の愛娘、みくるは器量こそ良いものの泣き声に説得力がイマイチ足りない。
とりあえず、オムツは・・・大丈夫だな。

おーい、ハルヒー?

ミルクは何時にあげたんだー?

「ん~三時ー」

おいおい、もう六時だろ!
待ってろな、今持って来てやるから。

バタバタとミルクの用意をしてると、ハルヒがキッチンから顔を覗かせてニヤニヤしてるのが見えた。

何だよ?

「な、なんでもないわよ・・・」


ふん。

「ただ・・・」



「キョンで・・・良かったなあって・・・」

・・・バカ







ンくん


ョンくん


キョンくん


「キョン君!起きてくださいっ!」

ん・・・あがっ!?

い、今のは何だっ?


気が付くと、俺は床に倒れていた。そして俺の横には、呆然自失して座りこむ長門を支える血まみれの古泉の姿があった。

どうした!何があった!

「申し訳ない・・・侮りました・・アレは閉鎖空間なんてもんじゃない・・・超現実空間です。」

なんだと?

「つまり・・・書き換えられた世界です・・・」

馬鹿な!

「今・・私たちが居る場所こそが・・閉鎖空間という事になります・・・。」

まさか・・・

「そして、向こう側が凉宮ハルヒが望んだ・・・世界です。」

!!


確かに、さっきの・・・ハルヒが居た気がした。

しかも俺もだ。
赤ん坊も居たな・・・名前は・・・思い出せない・・・何故だ?

「もはやアナタはアナタでは無くなり始めている。いや、僕も長門さんも・・・。」

わからん、それはどういう・・・

「つまり!アチラは現実の世界、こちらは夢の世界と・・・」

そう言いかけた途端、古泉は大量の血を吐いた。

「ハァハァ・・・体に負荷がかかり過ぎた様ですね・・・」

おい!古泉!しっかりしろ!

「大丈夫、僕は長門さん程じゃない・・・」

畜生、どうしたらいい?
俺は、どうしたらいいっ!?



そうだ!


あの中には、確かにハルヒが居た!
ハルヒが元の世界を望めば!

だが、どうする?
長門も古泉も、恐らくもう立ち上がる事も出来まい・・・しかし・・・

そうか!


なあ、古泉!
向こうへの入り口を開けてくれ!

「なんですって!?」

俺が行く!行ってハルヒに言わなくちゃいけない事があるんだ!

「無理です!僕みたいに・・・肉体的に負荷を受けるだけじゃ済まない!既にアチラ側に存在する本物のアナタに取り込まれて、今のアナタは完全に消滅しますよ!」


俺は俺だ!

頼むから・・・

「・・・解かりました。僕の手を握って・・・瞳を閉じて下さい・・・・そして・・・ゆっくりと体を・・・此方に・・


さ あ





ど う ぞ


薄れていく意識の中で
俺は思ったんだ
ハルヒ
お前が今一番望む世界は
そんなんじゃないだろ?





「ねえ、キョン!起きなさいっ!」

ん、ああ・・・今何時?

「もう十時よ?早く出掛けないと。午後になると、もう結構冷えてくるのよ。みくるに風邪ひかせる訳にいかないし。」

「陽射しが暖かいううちに・・・ね?」

ん、ああ。わかった・・・っ。

(そういえば、今日は日曜日だったな・・・。)

軽く朝食を済ませて、俺達は足早に出かけた。
十二月上旬とは思えない暖かな陽気に、少し背中が汗ばむのを感じた。

「ねえねえ、キョン?久しぶりに見晴らし台に行くってのはどうかしら!出産後のお腹のたるみを解消するには絶好のウォーキングコースだと思うのよ!」
少し遅れて歩く俺に、ベビーカーを押すハルヒが振り返りながら言う。

あの坂道を登るのか。


高校の頃は、良くハルヒを乗せて自転車でこの坂道を登ったものだが。
今は・・・正直一人で歩くのも遠慮したい。大体、日曜日に疲れてどうする?日曜日くらい体を休めなければ、我々サラリーマンは日々戦えんのだぞ?

それに、ハルヒは出産前とそれほど体型は変わっていないと思うのだが。
自分の体型に過敏になるのは女の性か?


「さあ!もたもたしてると置いてくわよっ!」

やれやれだ。

おーい!初めからペース上げすぎると、息が上がるぞっ!


(いいのよっ!キョン?風の伝説を感じさせる走りをするのよ!)

んっ? ハルヒ、何か言ったか?

「えー?何?」

いや・・・なんでもない・・・


見晴らし台に付く頃には、俺は汗だくになり息をきらしていた。
ハルヒは・・・そうだ、こいつは昔から無駄にパワフルでスポーツ万能・・・なんだったな。こんな坂道程度じゃ堪えない訳だ。
そういえば、色々な部活から誘われたが、飽きっぽいのが災いして結局三年間帰宅部だったんだよな・・・。

「こらっ!情けないわよっ!」


ああ。まったく、お前には敵わないよ!

「ふふん。まあ、いいわ!キョン?ちょっとベビーカーをお願い!」

そう言うと、ハルヒは販売機のある方へ走って行った。

「ちょっと!キョン?ボケーッとしているんじゃ無いわよ?ほら、コレ!」

ハルヒはそう言うと、俺に冷えた缶コーヒーを手渡した。

そして自分もカフェオレを開け、グイッと飲んで見せる。

「プハァーっ!旨いっ!スポーツの後のコーヒーは最高だわっ!」

ふん、本物のコーヒーは苦くて飲めない癖に
(・・・アンタと同じでいい。)

まただ。さっきから、一体なんだ・・・?

俺、疲れてるのか?
とりあえずベンチに座る・・・か。

「どうしたの、キョン?」

ベンチに腰を降ろした俺の顔をハルヒが覗きこむ。

なんとなく、キスが出来る距離だな・・・と思う・・・

キス・・・

(喜びなさい?キョンの今回の申し出に対して、SOS団長として私は・・・)




ああ、そうだ!俺は・・・





ハルヒ!


「な、なによ!キョン?」

俺は・・・平穏で、それなりに毎日が楽しければいいと思ってたんだ!

「?」

でも、高校に入って・・・・とんでもない女に出会っちまった!

とにかく我が儘で強引で・・・でも繊細で優しくて・・・割と器用に何でもやってみせるんだ!

でも、彼女は退屈してた!何をやっても楽しく無かった!
だから、自分の思うままに仲間を見付けて、思うままに楽しく過ごそうと考えた!

普通なら・・・そんなに都合良くやれるもんじゃないさ!

でも!彼女には、それが出来てしまうんだな!

「キョン?」

何故なら彼女は、自分の願うままに世界を変える不思議な力を持っているから!

「ちょっと、何を言っているの!?」

そんなある日、大切な仲間・・・いや!ある意味、愛してさえいたいた仲間がこの世から消えた!

「キョン、やめて!」

彼女は悲しくて悲しくて、今までの世界を終らせて新しい・・・世界を望んだ!

「いや・・・」



彼女の名は涼宮ハルヒ!









瞬間、俺とハルヒの周囲から全てが消えた。後に訪れたのは・・・










ハルヒの声がする

「願いは、叶うのかしら。」

叶うさ

「でも・・・アタシは・・・」

わかってる

「キョンは?」

ハルヒの・・・願うままに。





気が付くと俺は部室のドアの前にいた。
とりあえず、例によって朝比奈さんの生着替を警戒・・・

ん?

朝比奈さん?

俺は慌ててドアを開けた!

少し丈の短いチャイナドレスを纏った、朝比奈さんが居る!

今更敢えて言う事も無いだろうが・・・物凄く良い!
大満足のハルヒが腕を組んで頷く。

「うん!完璧ね!いますぐフカヒレスープを注文してあげたくなるわ!」

相変わらず、訳が解らない。

ところで、何でチャイナドレスなんだ?

「アンタ、知らないの?ミクルちゃん、一週間ほど南町の来来軒でバイトするんですって!」

何っ?

ハルヒっ!お前、また何か!?


「何よっ!紹介料代わりに餃子無料券10枚貰っただけでしょ?アンタなんかには餃子あげないんだからっ!」
・・・・お前なあ!

「餃子・・・十枚」
長門が呟く。

そして、古泉がニヤけながら上手くまとめた。

「まあまあ、皆さん!帰りにでも来来軒によって行きましょう!ね、朝比奈さん!」




終わり
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