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「君、朝比奈さんの家を知ってる?」
「知りません。」
教えてくれるわけもないが。
「古泉君の家を知ってる?」
「知りません。」
知りたくもないが。
「あの子の自宅は?」
「知りません。」
あいつは極端に自分のプライベートをおれに話したがらない。
知っているのはハカセくんの家庭教師をやっていることくらいだ。
この時計でさえおれの自宅に郵送されてきた。
「長門さんの家は?」
「よく知ってます。」
よくSOS団で集まる。
というより、ハルヒよりおれの方があそこに上がったのは早かった。
「君に見つけてほしくないんだったら、そんなところにいるわけないじゃないの!」
「わかりやすいって言うんだったら、おれの家にいたほうがはるかにわかりやすい。」
うちの家族だったらどんな時でもあいつを上げるだろう。
「あの子がものすごく臆病なことは知ってるはずよ!」
根本的な所から言わなきゃならないようだ。
 
「『わたしはここにいる』っていうのは、『わたしはここから動かない』っていう意味なんです。」
 
わからなかったらどんなに楽だったろう。
あれはあいつからのはっきりとした拒絶の言葉。
ここから動かないから何をしても無駄だという意味。
だからあのメッセージを受け取った後、長門の家に向かうことができなかった。
電話をかけることさえできなかった。
古泉に言われて電話をかけたが、あいつが世界を捨てようとしたのをおれが救ったというのも勘違いじゃないだろうか。
今日、「ここにいる」という言葉は全てそのニュアンスで使われている。
長門に言った「おまえがここにいる」。
長門が言った「あなたがそこにいた」。
長門が言った「あなたがここにいる」。
全て「そこに当然存在する」という意味だ。
何よりもあいつ自身が「おれはここにいる」に対して「そこを動くな」と返してきた。
 
「そういう意味じゃなきゃいけないんです。あいつが『会いに来てほしい』と願ったなんて絶対におれは信じません。
あいつが願えば必ず叶う。
おれはそう信じているんじゃなくて、知っているんです。」
あいつの力について、ある程度話してもいいだろう。
今更だし。
 
「あいつはかつて、全宇宙に向かってあのメッセージを発信しました。
仮に、仮にですよ。
あいつが『わたしはさびしい。さびしいから誰か会いに来て』と願ったなら…」
 
「誰か会いに来るはずじゃないですか!」
 
誰もあいつに会いに来なかった。
あいつの前に誰もあらわれなかった!
そんなバカなことがあるか!
 
「長門や朝比奈さん、古泉にあいつが会うことができたのは、それから三年近く経ってからです。
それまでずっとあいつがひとりぼっちに耐えていたなんて、おれは信じません。」
 
店長ほかが急に戸惑ったような顔をした。
どうでもいい。
知るか。
 
「だからあいつはあの時、『わたしはここから動かない。誰が来てもここから動かない。さびしくなんかないから。』と全宇宙に宣言したんです。
おれはそう信じています。」
 
なんだか気まずい沈黙になっている。
何も知らないで他人の秘密に踏み込んでいくからそういうことになるんだ。
もういい。
さっき脅かしておいたから、他にもらすことはないだろうし。
徹底的に言ってやる。
「あの時、あいつにおれが声をかける前、なんだか寂しそうに見えたのは……、きっと見間違いです。」
そうだ見間違いだ。
「おれがあいつと一緒に……、あのメッセージを書き上げてやった後は、あいつは満足そうにトコトコ帰っていきました。これは絶対に見間違いじゃありません。」
ほとんどあいつは仕事をせずに、全部おれがやらされたことは言わない。
言ってたまるか。
「あの『わたしはここにいる』というメッセージを発信して帰ったあと…、帰り道のあいつに『おれのことをよろしく』と声をかけた時には、あいつは怒ったような顔をしていましたが…、本当に不機嫌だったんじゃないことがおれにはわかったんです…。」
「世界を大いに盛り上げるためのジョン・スミスを」は言わない。
あの時でさえ恥ずかしかったんだから。
……なんだかまた空気が変わった。
最初にキョトンとしたような顔。
次に呆然としたような顔。
次に信じられないものを見たような顔。
これを各段階で全員が一斉にしている。
やっぱり電波か。
「繰り返します。
あいつは『さびしいから会いに来て』なんて願ってないんです。
あれは『ここから動かない。どんなことがあってもわたしはわたし。さびしくなんかない』っていう決意表明なんです。
あいつが願ったら、誰かが会いにくるはずです。
だけど織り姫も彦星も、宇宙人も、あいつに会いに来ませんでした。」
こんなことを言ったら本当に救急車を呼ばれるな。
常識的に考えて、宇宙人が会いに来るなんてあり得ないし。
「あいつに誰も会いに来なかったことはおれがいちばんよく知っています。」
「織り姫と彦星、七夕……、笹の葉じゃないの!」
そんなことはわかっている。
話の腰を折らないでほしいんだが。
「誰も来なかったことをおれは知っています。
なぜならあの夜おれは、あいつと一緒に星空を見上げていたんですから!」
あの空から誰も来なかった。
あの星たちは水晶のようにきれいだった。
だけどそれは、ハルヒを受け入れてはくれなかった。
たまらなく美しくありながら、一つ一つが見る者を拒絶していた。
つめたい光。拒絶から絶望へといざなうきらめき。
あれこそが水晶の夜だったんだろうか。
どっかと腰を下ろした。
「全てを拒絶し、全てに拒絶された少女。
少なくともそう思いこんでいた、思いこまされていた少女。
そんなあいつのたった一つの願いが叶わなかったなんておれは信じません。
自分のいるところの外にも世界があると信じたあいつの、一縷の望みが叶わなかったなんておれは信じません。
闇に閉ざされた少女の必死の祈りが届かなかったなんておれは信じません。
あいつはさびしくなんかなかったんです。
誰かに会いに来て、なんて祈らなかったんです。」
ぽろりと涙が落ちた。
「暗く冷たいところにいたあいつにせめて、一筋の光が差し込んでこなかっただなんて……、おれは信じません。
だってそれじゃあ、あいつがあまりにもかわいそ」
ガンッ!
「かわいそうなのは君の頭よ…。
やっぱり認知症なの!
自己陶酔はけっこうだけど、周りを不愉快にするなって言ったでしょ!」
モノサシで殴るのはやめて下さい…。
そこはさっき長門に殴られてコブになってるんですが。
「あなたは、あいつの願いが叶わなかったと思うんですか?」
「なんでそんなバカなこと信じなきゃいけないのよ!
あの子の願いが叶わなかったなんて誰が信じるのよ!」
 
「ここにいる全員が…、あの子の願いが完璧な形で叶ったことを知っているわ!」
 
誰があいつの願いを叶えてやったんだろうか。
やっぱり……、古泉だろうか。
あの後ハルヒは、古泉に会ったんだろうか。
「もし…、あいつの願いを叶えた奴に会ったら…、やさしくしてあげて下さい。」
自販機のコーヒーでも奢って下さい。
おれが奢らなくてもいいなら節約になる。
「ぶん殴ってやるわ。」
「店長……、もう殴ってますけど。」
「誰が一発だって言ったのよ。」
「すでに二発殴ってますけど…。」
「何でそいつはいいことをしたはずなのに殴られるんですか?」
古泉を殴る気か?
止めないけど。
「だって、あまりにもバカだから!
下手に頭が切れるぶん、余計に腹が立つわ!」
店員と言い争い?をしていた店長さんがこっちに向き直った。
「君はさっきあの子の君のいない三年間がさびしくなかったと信じさせたとか言ってたけどね…、」
ジョン・スミスか。
あいつはハルヒに「宇宙人、未来人、超能力者はいる」という情報を与えた。
経典宗教と同じだ。
聖書は聖書そのものじゃなくそこに書かれている情報が意味を持つ。
本自体を神聖視したら偶像崇拝になってしまう。
ハルヒにとって重要だったのはジョン・スミスそのものじゃなく、彼から与えられた「情報」なんだ。
それが長門、朝比奈さん、古泉を呼び寄せた。
その情報を温めていた間はさびしくなかったと信じさせることができた。
「君はそう信じさせたりしてないわ!」
なるほど、おれにそんな影響力があるはずがない。
「君はあの子に、さびしくなかったと信じさせたんじゃなくて……、思い出させたのよ!」
「何はともあれ、あいつの願いが叶ったんなら……、それでいいです。」
おれは、おれのいない三年間、あいつが孤独だったら良かったと願っていたのかもしれない。
恥ずかしい話だ。
幸いなことに、どうやらそうではないらしい。
ただ、それをさせたのがジョン・スミスじゃなくて古泉だということだ。
おれは今日、ハルヒに三年前に古泉に会ったことを思い出させた。
それによってハルヒに自分が孤独だったわけじゃないことを思い出させた。
古泉は自分がハルヒにとって何なのかをすでに三年前に知っていた。
知っていたからこそ接触することができた。
だけどそれに不満がないわけじゃない。
あいつをニトログリセリンとして扱っていたことは気に入らない。
あいつはニトロなんかじゃなかった。
不発弾だったんだ。
いつまでも誰にも触らせないようにするべきじゃなかった。
いつまでもあいつの周りを立ち入り禁止にするべきじゃなかった。
そんなことをしたからあいつは自分が孤独だったわけでもないのに、孤独だと思い込んでしまった。
そう思い込まされていたんだ。
不発弾ならば、多少時間をかけてでも丁寧に信管を取り外してやればいい。
それだけのことだ。
「君がやったように?」
「おれにはそういうやり方しかできなかった。
あいつに対して腫れ物に触るみたいな距離を取ってから接触するということがどうしてもできませんでした。
だけどそのやり方が結果的にはハルヒにとって最善だったと信じています。
古泉もそうするべきだった。」
「君、古泉君のやり方ができた?」
「今、できないと言った筈ですが。」
「だったら、君のやり方が古泉君にできたと思うの?」
「できたはずです。」
「ものすごく不愉快な答えが返ってきそうな気がするけど、一応聞いてみるわ。
何で?」
「おれにできたことが古泉にできないわけがない。」
「だから、何で君にできたなら古泉君にもできたと思うわけ?」
それをおれの口から言わせようというのかこの人は。
悪趣味だな。
「それはハルヒの気持ちがおれなんかよりも古泉に向か」
ガンッ!
「やっぱり最後まで聞くと不愉快になりそうだったから殴らせてもらったわ。」
痛い。
頭と心が痛い。
どちらかというと心が痛い。
「ウソね。
長門さんは君の心にかすり傷さえつけさせないって言ってたけど、
ここにいる全員がよってたかっても君を傷つけることなんてできない。
残念だけどね。
君が女に自分のことを言われてキレるようなせこい男じゃないことはわかっている。
だけどそれが原因じゃないわ。
君は誰もがほしくてたまらない物を最初から持っている。
君の言い方を借りれば、神様から徹底的にエコヒイキされている。」
神様はおれを虐待しているが。
と言えばさらにめんどくさくなりそうなので黙っていた。
「君みたいな幸せな男を、
持てる者を持たざる者が傷つけるなんてできないわよ!」
モテるのはおれじゃなくて古泉のほうです。
「君、『上からの演繹』って知ってる?」
佐々木がそんなことを言ってたな。
「判断材料から結論を出すんじゃなくて、結論をあらかじめ設定してしまい、その結論に合うように判断材料である事実の方を捻じ曲げてしまうことですね。」
「言葉だけ知ってても意味がないっていう典型ね、君は。
何が始まってもいないのに終わってしまった、よ。
物語ならとっくに始まってるじゃないの!
三年前の七夕、最高ののシチュエーションで始まったじゃないの!
しかも、絶賛進行中じゃないのよ!」
あいつと古泉のドラマがどんな風に始まったか、おれは知らない。
知るつもりはない。
だけどこれだけは言える。
古泉はもう、あいつをニトロみたいに扱うべきじゃない。
彼女として扱うべきだ。
自分が相手に好意を持ち、相手から好意を受けていることがわかった以上は何らかの決断をするべきだ。
「たから決断をしなさいって言ってるでしょ!
君の仕事はあの子の不安を根本から取り除くことなわけね。
もうあの子の不安は相当程度取り除かれている。
それが君の功績だと認めるのにはやぶさかでないわ。
あの子の、君を見る時のキラキラした目を見れば誰にだってわかるもの。
だけどね、あの子が必死に握りしめている命綱に対してさえも突っ張った態度しかとれないのは、
もうご両親に対する不安からじゃないわ。
君に対する不安よ!
あの子をめんどくさい奴だとか言ってるけど、あの子をめんどくさくさせているのは君自身よ!」
長門も今日はめんどくさかったな。
「長門さんに対してはあれでいいわ。
丁寧に伏線を張ってから一気にたたみ掛ける。
あれ以上はないってくらいに完璧だった。
だけどハルヒちゃんには、もうそんな段階じゃないでしょう!
君がのんびりと前置きしている間に、あの子はどんどん不安になる。
シュリーフェン・プランだとか釣り野伏せだとか…、君のやり方はまだるっこしいのよ!
作戦っていうものはねえ、もっとザックリしてなきゃいけないのよ!」
津野田是重みたいなことを言う人だ。
誰かが言った。
「店長のやり方ですね…、常に攻めの経営。」
「これに関しては誰にも文句は言わせないわよ。
わたしは常にこの方法で勝ってきた。
次に何をするべきかわからない時は、とにかく全速力で敵艦隊に突入するのよ!」
今度はネルソンだ。
それとも桜井規矩之左右か?
「あの子の不安を完全に取り除くものすごく簡単な方法を教えてあげるわ!
アレやりなさい。
アレ!」
「えーと、あれとは……。」
「アレって言ったら決まってるでしょう!
かつて世界を失いかけた少女に全てを取り戻させた、問答無用の反則技よ!」
「あいつにだって尊厳があるでしょう!
できればやらずに済ませたいんです!
だから反則技なんです!
だから今日もそれだけは使わずになんとかまとめました!」
「君は女の尊厳ってものを根本的なところではき違えているみたいね。」
「おれはかつて、あっちの世界に行こうとしていたあいつの手首をひっつかんで、無理やりこちらに引きずり帰しました!
あんな強引な方法しかなかったのかと今でも思ってます!
だけどあの時は、それしかなかったんです!」
「君、あの子が本当は、自分が特別に扱われるんなら多少乱暴にされてもいいと思ってることを知ってるはずよ!」
「だからそれをやるのはおれじゃなくて、もう一人の男です!」
もうあいつの名前を言うのはいやだった。
「君、そんなことを言ってると、今度こそ後ろから刺されるわよ!」
「長門はもうそんなことはしません!」
「長門さんじゃないわ、ハルヒちゃんよ!」
「あいつはおれを殺しませんよ。」
「どうかしらね……。」
「世界六十億人を殺しても、あいつはおれだけは殺さないんです。
自分の両親を含めて、世界中の全ての人間を殺す。
人間だけでなく、山も海も花も草木も、そこに転がっている石ころさえも、すべて否定するっていうことです。
世界を捨てるっていうのはそういうことです。」
「なるほど……、それでもあの子が君だけを殺さないのはなぜ?」
「原因なんか知りませんよ。おれが知っているのは結果だけで」
ガンッ!
コブになっているところを狙ってるでしょう…。
モノサシで語るのはやめて下さい。
「メジャーで語ってあげようかしら…。」
えーと?
「これを君の首に二重にまわしてキュッと…。」
死にたくないです。
「あの反則技…、それをすればあの子が言うことをきくだろうと思ったのはなぜ?
これはあの子の気持ちじゃなくて君がどう思ったかを聞いているんだから、ごまかさずに答えなさい!」
「えーとですね。これも原因は知りませんが、あいつはどうやら肩にトラウマがあるみたいです。」
他人のトラウマを利用するのはいいことじゃないが。
「肩もみでもするっていうこと?」
「いえ、座ってる時のことじゃありません。
さっきも言いましたが、あいつは常におれの前に立つんです。」
「君はさっき、車道側に立つって言ってたわね。」
「車道側の後ろに立ちます。
真横からの暴走車両には対応できませんが、斜め後方から来たら、おれが先にはねられることができます。
どっちにしろ、どこから来るかはわかりませんから。」
どこから来るかわからないから暴走車両なんだ。
あれ? あいつは絶対に事故に遭わないんだったかな?
「あの子が常に、無防備な背中を君に晒しているのは?」
座っている時はおれの背中の方が無防備なんだけどな。
長門はああ言ったが、おれがあいつを襲うわけがない。
「ただの安心感ですね。」
「『ただの』だの『程度』だの『だけ』だの言うんじゃないわよ。うっとうしいわね…。」
立ち上がってマネキンに正対し、両肩をぐっと摑んだ。
マネキンの顔をじっと見つめながら言った。
「あいつはこうされると、誰の言うことでも聞くんです。」
電話じゃなかったらこうしてたな。
楽だし。
「誰の言うことでもっていうのは…。」
「おれの言うことでさえ何でも聞くからで」
ガンッ!
だからモノサシは…。
「メジャーじゃないだけ感謝しなさい!」
ありがとうと言ったらまた殴られるな。
さっき長門にそうされたし。
「切れるはずがないものを切れる心配をしているのは君も同じよ。
せめて告白すべきよ。
それであの子との縁が切れてしまうのを心配してるわけ?」
「違いますよ。
そんなことをしたらあいつを傷つけるだけです。
今日の混乱は全てここに起因しています。」
「告白されて傷つくって意味がわからないけど…。」
何を言ってるんですか。
 
「女ってのはけっこう『格』ってやつにこだわる!」
 
店長にではなく、店全体を見回しながら言った。
「それを受けるにしろ受けないにしろ、自分に告白してくる男が周りの女たちにどれだけ評価されているかによって自然に自分の格が決まるような気がする。」
女は自分のために、着飾る。
鏡を見るために、着飾る。
そして他の女に見せるために、着飾る。
ほとんど女にしか価値がわからない衣服が商品として通用し、こういう女しか来ない店に需要があるのはそのためだ。
女は、その被差別意識から男に対する時は連帯するが、その内部は決して一枚岩ではない。
女集団のヒエラルキーがある。
しかもそのカーストは決して性差のような絶対的なものではない。
この子にはかなわない、この子よりはマシと、それぞれの位置で思っている。
だから美人と不美人の階級闘争など起こりようがない。
谷口が女にもてないのは、女たちが密かに、自分の心の内だけでやっていることを「表現」してしまうからだ。
だから、谷口がバカにされているのは自業自得なんだ。
そうでなきゃいけない。
これだけは予定されたものであってはならない。
アニメやマンガじゃあるまいし、主人公にバカにされるためだけが役割のキャラクターを造形する神様など、おれは認めない。
無論女たちだって、男が自分たちを格付けしているだろうことはわかっている。
しかしそれを公表されれば、自分たちがやっている後ろめたいことを異性にえぐられているような気がする。
谷口に褒められても誰も喜ばないのはそのためだ。
「ここに入ってきてはっきりとわかりましたがね、何でこんな美人とサエない男が一緒にいるんだとみなさん思ったでしょう?」
さすがに多くの女たちが目を伏せた。
「この二人が彼氏彼女の関係であるはずがない。
そうであったらあの娘は大したことはないと思いませんでしたか?」
みんな居心地悪そうな顔をしている。
だけど絶対にお互いに目を合わせようとはしない。
「だからあの後すぐに思ったんですよ。
なぜこれだけ女たちがいるところであんな、ウェディングドレスを着ておれの隣に立ってほしいなんて言ってしまったんだろうって。
もちろんすぐに気がつきましたよ。
二人だけの時ならともかく、多くの同性がいるところでこんなことを言ったら、あいつの挌を下げるだけだって。
あいつを傷つけることにしかならないって。
今日大騒ぎをしてフォローしなくちゃならなかったのはね、結局はこれが原因です。
おれの心ない一言によって、あいつを傷つけてしまったからです。」
しかし決して目を伏せようとしない女が一人いた。
店長だ。
「たしかに、ここに入ってきた時の君をナメていたのはわたしを含めてみんなそうよ。
君が試着室の前であの子に『似合ってるぞ』って言うまではね。
長門さんとの会話を聞くまでは、ここまでスゴい男だとは思わなかったけど。」
おれにとってはどうでもいいことですけどね。
いつものことだし。
「そうね、君にとってはどうでもいいこと。
君は本心からわたしたちなんかにどう思われてもかまわないと思っている。
君は涼宮ハルヒと他の女をはっきり区別している。
だけど、最初にそれをしないと宣言していたのに、
ここにきてあの子を一般論の女に当てはめるのはどうしてなの?
なんであの子も他の女と似たような考えをすると思うの?」
「それはですね、奴が………」
わざとニヤリと笑ってみせた。
今日初めて笑えたような気がする。
 
「……女の中の女だからですよ。」
 
いい意味でも悪い意味でも。
 
「女の中の女みたいなあの子を……」
店長さんもニヤリと笑った。
 
「そっこらへんの下らない女どもといっしょにするんじゃないわよ!」
バッシーン!
何だ? 平手打ちされた?
さすがに顔を手で殴られるのは傷つくぞ。
なんて思ってる暇はなかった。
髪をつかまれて顔を腰の辺りまで引っ張り下げられた。
「痛いですよ、ちょっと!」
「いくらなんでも今のは我慢できないわ!
みんな、あとはお願いね!
君は事務所まで来なさい!」
髪をつかまれたまま階段を連行された。
事務所の床に正座させられた。
女を馬鹿にしているのか、と言われた。
していないと答えたら、だったら告白しろと言われた。
フラれるのはいやだと答えたら、やっぱり本音はそれかと言われた。
「背水の陣」という言葉を知らないのかと言われたので、井陘の戦いにおける韓信の戦術について出典からくわしく説明しようとしたら殴られた。
溺れるのはいやだ、玉砕するのはいやだと言ったら、もし玉砕したらこの場で裸踊りをしてやると言われた。
そんなものは見たくないと言ったらまた殴られた。
ハルヒのなら踊っていなくても見たいと言ったらまず告白しろと言われた。
攻撃は最大の防御という言葉を知らないのかと言われ、今日はとりあえず負けではないのでそこまでしなくていいと答えた。
すると「あの子を絶対に逃げられないようにしておきながら常に自分は退路を確保しようとするのは卑怯だ」と言われた。
「勝ったら逃げる、負けたら粘る」が軍事学のセオリーだと言ったら開き直るなと殴られた。
「どうせあいつから逃げられるわけがないんだから、おれとしては追いつめられるのを待っていればいい」と本音を言ったら頭突きまでされた。
ようやくやってきたハルヒがおれの顔を見て「誰にやられたんだ、あたしの前に連れて来い」と大騒ぎを始めた。
「階段から落ちた」と言ったら、「あたしをまたあんな目に遭わせる気か」とハルヒにまで殴られた。
おれにトラウマが増えた。
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