涼宮ハルヒの切望Ⅶ―side K―


 ダメなのか……?
 俺はその光の靄に絶望の視線を向けていた。
 当然だよな。
 蒼葉さんとアクリルさん、そしてリラさんとネフィノスさんが最大限に出力した魔力でも俺の腕くらいまでしか大きくならないんだから。
「くそ……」
 俺は歯噛みしてその光にこぶしをぶつける。
 だが少しは食い込むがすぐに何か固いものにぶつかりそれが嘆きの壁の如く俺の行く手と希望を阻んでしまっている。
「……こちらからはこれが限界……ディメンジョンサークルポイントなしで、魔力を持たないあなたを目的の場所にテレポートさせようなんて……」
 悔恨の響きを持っているところが違うところだが、リラさんが長門のようにぽつりと呟くのが聞こえてきて、
 しかし俺には何も言い返せない。
 くそ……普段は特殊な力なんざいらないと思っていたが、今、こういう状況になるなら古泉か長門に妙な力を植え付けてもらっておくべきだった……
 などと後悔してもどうにもならないんだがな。
「……あなたはこちらの世界で生きる覚悟を決めなければならない」
 そんなことできるわけないだろう!
 重々呟くリラさんの言葉が俺に理不尽な神経の逆なでを導いてしまった。このリラさんの普段の態度と口調は長門を連想させてしてしまうんだ。それが余計に俺を追い込んでしまうんだ!
 気が付けば、彼女の両肩をひっつかみ、自分でもはっきり分かる。俺は今にも泣きそうな悲壮感漂う表情で、
「俺はまだ向こうの世界に未練があるんだ! ハルヒの奴を更正させなきゃならんし、朝比奈さんが未来へ帰るまでの時間を無駄にさせたくない! 長門にだって感受性豊かな女の子になってほしいし、古泉とは腹を割って話せる親友になっていないんだ! それに鶴屋さん、アホの谷口、国木田、阪中、妹、佐々木、橘京子、周防九曜にだってまだ話すことが残っている! あのいけすかない藤原をそこに含めてやってもいいくらいなんだ! それを全部諦めろだと!? できるものか!」
 って、はっ!
 気が付けばリラさんが沈痛の表情で伏せ目になっている。
 周りを見渡せば、ネフィノスさんは俺を見ていられないようだし、蒼葉さんとアクリルさんは憐れみと悔しさが同居した瞳で俺を見つめていた。
 そしていつの間にか俺の頬は濡れている。
 はは……情けねえ……あの十二月十八日以上の喪失感で俺は壊れてしまったのかよ……
 だいたい蒼葉さんもアクリルさんもリラさんもネフィノスさんも俺のために頑張ってくれたってのに俺は何様のつもりで八つ当たりなんざしてやがるんだ……


 キョン――


 どうやら本当に心をやってしまったみたいだな……あいつの……ハルヒの幻聴が聞こえやがる……


 キョン――


 ん? また……?


 キョン――


 幻聴じゃないのか!?
 俺は心の中で絶叫した。んで、どうやらそれは表情に出ていたらしい。
「どうしたの?」
 問いかけてきたのはアクリルさんだ。
 その表情には戸惑いが浮かんでいる。いやアクリルさんだけじゃない。蒼葉さんもネフィノスさんも、そして俺のすぐそばのリラさんも同じ表情を浮かべているんだ。
「いえ空耳が聞こえたみたいで……聞こえるはずのない俺の知っている奴の声が聞こえたものですから……」
 俺は自嘲の笑みで答えた。
 まあ仕方ないよな。たぶん、今のは幻聴だ。なぜならもう聞こえてこないからさ。
 そもそもハルヒはこっちの世界にはいないんだ。
 向こうの世界が恋しくて仕方がない俺の脳が生んだ幻聴に決まっている。
「キョンくん、ひょっとしてあの時、出会ったハルヒって女の子もあなたと同じでその魔石を持っているの?」
 が、蒼葉さんが神妙に聞いてきた。その視線は俺の懐、ブレザーの胸ポケット辺りを捕えている。
 むろん、そこにはあの魔石が入っているのだが。
「え、ええ持っていると思いますよ。あれは俺たち二人が、蒼葉さんのことを絶対に忘れまいという誓いの印として肌身離さず持っていることをお互い約束しましたから……」
 という俺の答えを聞いた蒼葉さんとアクリルさんが即座に顔を見合わせる。
 はて?
「キョンくん、今度はあなたから話しかけてみて」
 だ、誰にです?
 いきなりアクリルさんに促されて俺はおっかなびっくりしたが、もちろん、アクリルさんは気にしない。
 努めて冷静な面持ちで、しかしどこか何かを期待しているような焦った口調で、
「今、蒼葉が言ったハルヒって女の子によ。もし、あたしの予想が外れていなければあなたの声は届くはずだから」
 ――!!
 その言葉を聞いて俺は絶句した。
 嘘だろ? まさかそんなことがあり得るのか? いくらハルヒに世界を都合よく変革できる力があると言ったって、それは自分が存在する世界のことであって、この異世界にまでその力が及ぶとは思えない。
 もしそんなことができるなら、俺はとっくにハルヒに襟首つかまれて引きずるように元の世界に連れて行かれているはずだ。
 と言うか、それ以前に俺たちSOS団を巻き込んで異世界一周旅行ツアーを敢行しているかもしれん。
 だがその一方で俺はあることを思い出していた。
 それは蒼葉さんとアクリルさんが言ったセリフだ。

 ――魔法に関して言えば彼女の方がはるかに上ね。魔力そのものは似たようなものだと思うけど、使い方とかになるとアクリルの方が断然勝ってるわ――
 ――あたしは魔工科学分野だと蒼葉には全く敵わないけど――

 今俺に聞こえたハルヒの声が『魔法』と関係するものであれば?
 そしてこの魔石は蒼葉さんが魔工科学の技術で作り上げたものだと聞かされた。つまり、この魔石の力が何らかの形で作用されたとしたら?
 ましてやこの二人はこの世界一の魔法使いと魔工科学者だという話だ。
 そんな二人にハルヒの不思議パワーが呼応したとしたら?
 もしかしたら今俺がいるこの世界とハルヒたちがいる元の世界の次元断層を越えたのかもしれないという仮説が成り立たないか?
 いやもちろん都合のいい妄想かもしれん。
 しかしだな。それを妄想と決めつけるよりも試してみてはどうだろうか?
 試さなければ可能性は0かもしれないが、試してみれば可能性は0ではなくなるんだ。たとえそれが0.の後に限りなく0が続いて最後が1だとしてもだ。
 俺は意を決して――そして、是が非でも届けたいという気持ちをこめて、


「聞こえるか、ハルヒ!」


 思いっきり声は荒げてしまっていたぞ。
 しばしの沈黙があって、
 ――ははっ……あたしも末期症状ね……あいつの……キョンの幻聴が聞こえるなんて……――
 聞こえる!? と言うことは本当にハルヒと繋がったってことか!?
 などと驚きながらも、どうにもハルヒの声が元気がなかったので、
「こら! 誰が幻聴だ! しっかりしやがれ!」
 思わず怒鳴ってしまったね。しかしだな、どうやらそのおかげで向こうも少しは元気が戻ってきたみたいだ。
 ――って、キョン! ひょっとして幻聴じゃないの!?――
 二度目に聞こえてきた声には張りが戻っていたもんな。
「そうだ俺だ。まさかそっちから俺に連絡を入れてくれるとは思わなかった! いや、これは誤解を招く言葉の使い方だな……よく連絡を入れてくれた!」
 俺の声には如実に歓喜と安堵感が溢れ返っている。
 ――キョン! あんた今どこにいるのよ!? あたしが……あたしがどれだけ心配してんのか分かってんの!? ううん、あたしだけじゃない! 有希もみくるちゃんも古泉くんも鶴屋さんも妹ちゃんも……みんな心配してんだよ!――
「それについてはマジで悪い。けどな、俺もこっちでなんとかしようとしていたことだけは信じてほしい。まあ……結局何もできなかったんだがな……」
 どうもハルヒの声色からするとあいつが泣いているような気がしたんだ。
 あんな声出された日にゃ悪びれるしかないってもんだぜ。
「どうやら向こうの声が聞こえるのはキョンくんだけのようね。でもまあいいわ」
 アクリルさんがとっても真剣な表情で俺を眺めていらっしゃいます。
 と言うか、今の言い方からするとハルヒの声は俺にしか聞こえていないってことか?
「その通り。私たちにハルヒってあなたが呼んだ子の声は聞こえていない。でも、キョンくんの様子からキョンくんだけに聞こえていることは信じてあげる。
 で、これは奇跡なんて言葉すら生温い好都合よ! 向こうでも異次元穴(ディメンジョン・ホール)開けようとしてたってことなんだから!
 しかも、キョンくんとハルヒって子がお互いの声が聞こえたってことは、少なくとも魔石を通してこっちの世界と向こうの世界に一筋の糸のような道が繋がったってことよ!」
 奇跡すら生温い現象!?
「だってそうでしょ? 異世界の数と広さは前にも言ったけど天文学的数字でさえ足りるかどうか分からないのよ。しかも向こうとこっちで連絡手段なんてない、と言うかあり得ないのに同じことをお互い知りえない状況下でやっている確率なんて誰にも想像できないわよ。
 ごく稀に確率論を無視する輩に出会わないこともないけど、こんな偶然、確率論を無視するったって限度がある範疇を完全に超えているわ!」
 マジか? しかし一体どこの誰が向こうでそんな真似ができるってんだ? 言っておくがハルヒは除外だ。アクリルさんが『確率論が通用しない限度を超えている』って言ったんだ。だったら、いくらハルヒに確率論が通用しないと言ってもこの場合は当てはまらないってことだ。
 んで、アクリルさんの歓喜に等しい咆哮を聞いている俺に再びハルヒの声が届く。
 ――キョン! 確認するけど、今、あんたの声が聞こえるのは幻聴じゃないわよね!?――
「もちろんだ。と言うか、もう一回確認するような聞き方をしてきたってことはそこにみんないるってことか?」
 ――.うん。有希もみくるちゃんも古泉くんもいるわ――
 長門と朝比奈さんと古泉がいるだと?
 てことは長門がこっちの世界と向こうの世界を繋げたのか? いや長門は仮想空間に入り込めても次元を隔てた空間には入り込めなかったはずだ。
 例外の一回を除けばな。その一回はコンピ研部長失踪事件の時のカマドウマ空間のときなのだが、あの一件は俺にはどうにも長門が作り上げた仮想空間という疑念がぬぐい去れていないだけに何とも言えん。いまだに真実は闇の中ってやつだ。
 ――キョン……?――
 再び、ハルヒの今度は自信無げ声が聞こえてきた。
「ああ悪い。どうやら俺の声がお前だけに聞こえるのは前に俺たちがもらったあの石のおかげのようだ」
 とりあえず俺の声がハルヒに、ハルヒの声が俺に届く理由は教えてやらなくちゃな。
「ハルヒ、覚えているか? あの石がテレパシーを可能にするものだということを。向こうの世界で俺たちは結局使わずじまいだったが、元に戻ったときに、あの石を介して俺たちの世界に別世界からの声が届いたことを」
 ――と言うことはまさか!――
「その通りだ。あの石を通じて俺の声がお前に、お前の声が俺に届いているんだ。もっとも一つずつだから俺たち以外には俺たちの声は聞こえていないみたいだがな」
 思わず俺は苦笑を浮かべる。もちろんハルヒには見えていないけどな。
「キョンくん! 今がチャンスよ! 向こうの世界とこの世界が一本の糸でつながっているならあなたを向こうの世界に送ることができる!」
 ――!!
 今度は蒼葉さんが歓喜の声をあげた。
「これはあたしの予想だけど!」
 と、前置きしたのはアクリルさんだ。もっともその割には確信めいた勝利の笑みを浮かべている。
「向こうには『異空間に入り込める能力』を持った人、『空間を飛び越える能力』を持った人、こっちへ意志を届けた人、すなわち『道を創造した人』がいる。そして、その『三つの力を融合して昇華させた』人もいる! それがあの魔石でこっちの世界と向こうの世界が繋がった理由! しかもその空間には次元断層の狭間とトリガーが存在しているはず!」
 ――!!
 まさか……それは!
 いや、だとすれば説明がつく! ハルヒの力と古泉の能力と朝比奈さんの持つデバイスを長門が情報連結したなら可能かもしれん。
 しかもだ。
 もし、今、ハルヒやみんなのいる場所が文芸部室だとすれば?
 確か、あの部屋は古泉曰く、俺には理解不能の色々な力が鬩ぎ合い、均衡を保って見えるが、とっくに異次元空間化しているとのことだ。
 てことは言いかえればあの場所は他の世界との境界線が普通の場所と比べて著しく弱いってことじゃないか?
 んでトリガーはあのしょぼいSOS団のホームページのトップに張り付けてあるあのミミズがうねっているような我が団のエンブレムだ。今回の事態を受けて長門が元に戻したのかもしれん。
「キョンくん! 向こうに言って! 今から魔石を利用してこっちから道を広げてそっちに扉を開くって! たぶん、向こうにはこの言葉の意味を理解できる人がいるはずよ!」
 再びアクリルさんが吠えて、
「ええっと……だな、ハルヒ! この石を介して今から今からこっちから道を広げてそっちに扉を開く……!」
 と、俺もつられて声を大にするのだが、
「ちょっと待って!」
「って、あ、はい……?」
 思いっきり腰を折ってくれたのもアクリルさんだ。
「その前に向こうの立ち位置の確認が必要よ! あたしが言う通りに伝えて!」
 もっとも彼女はまったく気にすることなく、どうにも得意満面の笑みで、
「向こうにはハルヒって子も含めて、四人いるはずなの。んで、ハルヒって子から見て、残りの三人がどういう態勢を引いているのかを教えてほしいのよ」
 何でです? どういう意味が?
「説明してもいいけど魔法理論の話よ。魔法が認知されていない世界から来たあなたが理解できるとは思えないけど?」
 う……それは……
 ま、まあ、確かにそうだな。こっちの世界なら常識でも向こうの世界では電波話にしか過ぎないんだ。理解しろって方が無理だし、仮に理解したところで向こうの世界に戻ってしまえば一生役に立ちそうにないトリビアにすらならない話だ。
 ――ちょっと! どうしたのよ!?――
 とと、ハルヒがしびれを切らす前に、
「いやすまん。ところでだなハルヒ、お前の前に長門と朝比奈さんと古泉がいるはずだ。その立ち位置はどうなってる?」
 ――立ち位置?――
「そうだ。言っておくが俺の言葉を理解しようなんて思わなくていい。とにかく三人の立ち位置を教えてくれ」
 どうにも多少不機嫌ながらもハルヒは長門たちの立ち位置を教えてくれた。
 ハルヒが長門の正面に立って向かい合いその距離はおよそ3m。二人の中心から左右に展開して、これまたハルヒと長門の離れているくらいの距離で古泉と朝比奈さんが向かい合うように立っているとのこと。方位的には北にハルヒ、南に長門、西に古泉、東に朝比奈さんらしい。
 つまりはハルヒ、長門、朝比奈さん、古泉は十字を切って正方形で位置している――
「――だそうです」
「なるほどね。じゃあ、今度はこっち。あたしは北に立つ。蒼葉はあたしの左側に、リラさんは右側で、とネフィノスはあたしの正面。向こうと同じように十字を切るから、キョンくんはとりあえず十字を結ぶあたしたちのちょうど中心、光の霞――次元の扉の傍に立って」
「え? 俺はこの位置に?」
「んまあ概ねその辺りね。んでキョンくんはそのままで今度はもう一回あたしたち。各自逆時計廻りで60度ずつズレて、でもキョンくんから自分たちの距離は1.5mを保つこと」
 どういうことだ? この陣形にどんな意味があるんだ?
 と言うか、一つ分かったことがある。
 この世界でも時間とか距離の単位は俺たちの世界と同じってことだ。
 それとも前に蒼葉さんが言ってたように、心の底からツッコミを入れたいのだが入れちゃいけない補正ってやつか?
「あっそうそう。向こうに、コイズミさんって人とアサヒナさんって人の立ち位置をあたしの言う通りに変えるように言って、んで、さっき間違いなくやろうと思ったはずの異次元穴(ディメンジョン・ホール)を開けるよう言ってくれる? あなたにハルヒって子の声が届いたときのやつ。んでネフィノスとリラさんはその位置で魔力のみを出力アップ! 理由はコイズミさんって人とアサヒナさんって人の能力を強化するためよ!」
「は、はい」「了解」「分かりました」
 まあ素直に従おう。リラさんとネフィノスさんも即答で了承しているぜ。
 てことは、おそらくアクリルさんは俺にはまったく理解不能の、しかしリラさんとネフィノスさんには解っている何かの法則に基づいて指示しているはずだからな。
「ハルヒ! 立ち位置を少しだけ変えてくれ! 四人を結ぶ中心の位置から距離は同じで、だが、古泉と朝比奈さんの立ち位置は長門寄りに長門から60度ズラして、だ! それでもう一度、俺に声を届けたときのをやってくれ!
 たぶん、いや間違いなく、お前たちは異次元穴(ディメンジョン・ホール)を開けようとしたはずだ! それをもう一度やってほしい!」
 しばしの沈黙があって、
 ――いいわよ! キョン!――
「おし! OKだそうです!」
 俺は正面に捉えている蒼葉さんとアクリルさんを見つめた。
 その瞳には確信めいた自信の炎が揺らめいている!
「いくぞハルヒ!」
 そんな二人の自信に満ちた表情が見て取れれば俺も確信を持てるってもんだ。
 今、帰るぜ――ハルヒ――そして、みんな!
 蒼葉さんとアクリルさんが長門張りに何かを早口ではないが呟いている。
 と、同時に二人からなんだか色が違うオーラが立ち上り、しかし二人の頭髪をマントを揺らしている。
 かっ!
 呪文を唱え終えたのか、二人の目が見開いた! そして聞こえてきた単語は――
『サモンズゲートテレポテーション!』
 ――!!
 んな馬鹿な!? 蒼葉さんとアクリルさんは何も打ち合わせしていなかったはずなんだぜ! なのにどうしてこうまで見事にハモった同じ言葉が飛び出すんだ!?
 などと言う驚嘆も一瞬。
 なぜなら――


 蒼葉さんたちの中心、俺の立ち位置にくすぶっていた光の靄が輝きと大きさを増していくんだ! しかも明らかに靄が渦を巻き始めた!


「こ、これは!?」
 お決まりのセリフを驚愕とともに漏らす俺。しかも光の渦は俺を覆っていくのか、周りが何も見えやしねえ!
「キョンくん聞こえる!?」
 届いた声は蒼葉さんのものだ。
 てことはどうやらこの光が遮っているのは俺の視界だけらしい。んでもって、おそらく蒼葉さんからも俺の姿が見えないんだろうぜ。
 でなきゃ、あんなに大声で俺を呼ぶはずがない。
「聞こえますよ!」
 てことで俺も声を大にして応える。
「良かった! んじゃあ次にやることを言うわよ! 今、あなたを飲み込んでいる光の渦の中心に手を突っ込んで!」
 光の渦の中心?
 きょろきょろ見回すがそんなもの……と言うか眩しすぎて認識できません!
「ちゃんと目を開けてよね! 目、瞑ってたら見えるものも見えないわよ!」
 蒼葉さんの叱責が聞こえてくるのだが。
 いえ、ちゃんと目は開けてますよ。まあ瞼半閉じであまりに眩しいので手を翳してしまってますが。
「それが閉じてるってことよ! この光は太陽の光とかと意味合いが違うものなんで目をやられるってことはないから、しっかり目を開きなさい!」
 そ、そうなんですか!?
 しかしまあ蒼葉さんが言うんだ。この光が魔法原理とかいうものに基づくものであるなら従うしかない。
 と言う訳で思い切って目を開ける。
 ん……? 確かに眩しいは眩しいが何か光が流れていることは認識できるな……
 てことはこれか!?
 俺のちょうど目の前に光の流れが渦を巻くようにある一点に収束して行っているのがはっきりと目視できるんだ!
「見えます! で、この渦に手を突っ込めばいいんですね!」
「その通りよ! そしてハルヒって子にこう言って! 『自分を引っ張ってくれ』って! 端的に理由を話すけど、今やってることは向こうにあなたを召喚させるって意味の術だから! でも召喚呪文を持たない存在が何かを召喚させるには引っ張り出すしかないの!」
 意味がまったく分からんが、とにかく俺はハルヒに引っ張ってもらえばいいらしい。
 しかしそれではこっちにハルヒが引き込まれてしまうことはないんですか?
「それはあり得ない。なぜなら呼び出された者は召喚主に抗うことはできないから。召喚術は主従の儀式でもあり、主に逆らうことができなるよう呪術的力が意図せず施されてしまう。今回の場合は向こうが呼びだす側。よって、あなたが向こうに行くことはできても向こうからこっちに来ることはできない」
 なんだかリラさんのこの言い回しにも不思議な気分を感じるぜ。何と言うか待ち遠しいって気持ちが膨らむって感覚に似てるんだよな。
「ハルヒ!」
 俺は最高の笑顔が浮かべてハルヒに呼びかける。いや、.浮かれている気さえする。
 ――キョン!?――
「今から俺はそっちに手を伸ばす! んで、お前が俺を引っ張り出してくれ! 何、心配するな! こっちにお前が引きずり込まれることはない! 理由は俺にも説明できないが、とにかくお前は俺を引っ張ってくれればいい!」
 ――わ、分かったわ!――
 ハルヒの返事を聞いて、俺は即座に光の渦の中に手を入れた。
 ほどなくしてその手を掴む温かい感触が全身を駆け巡る!
 ハルヒ――!
 俺は、その感触を味わいながらされるがままに光の渦に吸い込まれていった――

 

 

涼宮ハルヒの切望Ⅷ

涼宮ハルヒの切望Ⅶ―side H―


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