涼宮ハルヒの切望Ⅴ―side K―


 むろん、既に俺の傍にハルヒ(幻影)はいない。
 リラさん曰く、あのムーンライトイリュージョンは夜のみに発動する魔法で、月の明かりと周りの暗がりと対象者の意識とを掛け合わせて幻影を生み出す魔法だそうだ。
 月の明かりと言ってももちろん、月は自ら光を発しているわけでもなく、太陽の光による照り返しで輝いているのであって、しかも、太陽の質量と比べればわずか1/400だから、太陽のように地上全体を明るく照らすことなんて到底出来やしない。せいぜいが暗闇の中で光って見える程度のものである。
 それでも月の引力は人の生理現象と密接な関わりがあり、海に浮かぶ波のように人の心の波にも多大な影響を与える。
 つまり、この魔法はプロジェクターで写す映像のような立体映像を作り出すわけで、しかもその映像元は俺の頭の中な訳だから、催眠術の一種でもあるのである。それゆえ、俺が『触れていた』という感覚は実際には『そう思いこまされた』とのこと。
 リラさんは今、俺を静かに見守っていた。
 俺が眠れたかどうかは彼女が一番知っている。
 実のところ、俺は一晩中、寝付きかけながら何度も何度も恐怖で目が覚めたのである。
 言っておくが傍にハルヒがいたからではないぞ。というか、リラさんの助言の通りになんて俺にはできなかった。それどころじゃなかったからだ。毎回悲鳴をあげて目を覚まし、しかし、それは隣で横になっていたハルヒ(幻影)の好戦的でどこかからかっている感じの笑顔と一喝のおかげで平静を取り戻し、なんとか眠りに着くということを繰り返した。
 熟睡できたか、と問われれば当然、否。しかしそれでもまったく寝られなかったわけでなく少しは体の疲れがとれている。
 しかしだな。
 今、目が覚めたとき、俺が思ったことはたった一つだ。
 この場にハルヒがいないという現実を思い知らされた。幻影のハルヒが消えて俺はどこか放心と寂しさが同居する感情を味わっていた。
 ハルヒ(幻影)が現れたときは少なからず平静を取り戻し、一晩中、元のハルヒ同様なんだかんだ言われながらもその声に俺は本当に安堵していた。
 いてもいなくても迷惑なんだが、今、この場にいないことがこれほど辛いとはね。
 なぜならこの世界には長門のようなリラさん、古泉のようなローレシアさん.、性格はともかく体型的には朝比奈さんのような(足してではあるが)蒼葉さんとアクリルさんはいてもハルヒのような誰かはいないんだ。
 ったく、お前の変わりは誰にもできないってことなんだよ。
 …… …… ……
 なんてこった……これじゃ、去年の十二月十九日の夜、長門のマンションから帰宅した時に道端で考えたことと同じじゃないか……
 ただし前と違うのは忌々しいとも思っていないし愕然ともしていない。


 俺は――ハルヒに会いたかった――


「また、あなたにお会いできて光栄です。今日はよろしくお願いします」
 はい?
 俺は目の前のにこやかな笑みを浮かべて左腕を腹部のあたりに当てて一礼しているローレシアさんに生返事を返すしかできなかった。
 というか思考が停止した。
 確か、一昨日、蒼葉さんとアクリルさんは自分たちとリラさん、ネフィノスさんの四人で俺の元の世界帰還に当たるって言ってなかったか?
「どうされました? 私の顔に何か?」
 ローレシアさんの笑みが苦笑に変わる。
「いえ……その……俺の方こそ、今日もお願いします……」
「はい。こちらこそ」
 俺の返事を聞いて、再びローレシアさんに爽やかスマイルが戻ったわけだが――
 一応、今日は一緒に来てくれるアクリルさんに聞けばいいのか? いや聞く必要はないよな。聞いてしまえば藪蛇だ。
 って、あっそうか。
 アクリルさんも不信感を持たれたくないから今日はローレシアさんにしたんだ。
「んじゃ行くわよ。あ、悪いけどローレシアさん、今日はキョンくんをおぶってくれる? 彼もあまりいい気分しないだろうけど仕方ないしね」
「分かりました」「はい」
 アクリルさんの笑顔での指示にローレシアさんは明朗に、俺は少し苦笑を浮かべて首肯した。
 まあそうだよな。
 アクリルさんだって、もう無理に俺に気を使う必要はないんだし。


 などと考えたわけだが、現実は違った。
 アクリルさんが俺をおぶらなかったのは俺のことを嫌がったとかではなくまったく別の理由だった。
 そして俺はもうちょっとこの世界が元の世界と全く違う世界であるということを理解しておくべきだった。
 と言っても別に後に悔んだわけじゃないぜ。
 衝撃的なことが俺の身に降りかかったから改めてこの世界に驚嘆したってことだ。


 この世界に迷い込んで二日目に蒼葉さんはうっそうと茂る樹海の森の奥へと俺を連れて行った。三日目はアクリルさんと山間の洞窟に、そして昨日の四日目は再び蒼葉さんと山の頂上へと向かったのだが、はたしてファンタジーの冒険場所として人為的でないものに限定して定番と言えば、後はどこがあるだろうか。
 という訳で今日の五日目である。
 場所はなんとも不気味な雰囲気を醸し出している枯れ木群生地帯。
 空気さえもどんよりした紫色に淀んでいる気がして、体に粘りついてくるかのような霧が辺りを覆っているので視界もあまりよくない。
 で、俺たちの目の前には何があるのかはもう想像ついたよな?
「今日は、この沼の探索よ」
 心なしかアクリルさんの笑顔もどこかヤケっぱちに見えないこともない。というか間違いなくヤケっぱちだろうよ。
 そう、定番と言えばこれも定番だな。
 対岸どころか右も左も見えないだだっ広い沼。その奥底に潜むものは何か、ってやつだ。
「ええっと……この沼はどんな場所なんで……?」
「この沼は近隣の住民から奇妙な生き物が見られると評判の沼なんです。ですからその真相を確かめに来たということですよ」
 答えてくれたのは俺の隣にいるローレシアさんだ。
 ちなみにアクリルさんは俺たちの少し前、沼のすぐほとりに佇んでいる。
「……奇妙な生き物とディメンジョンサークルポイントがどう関連付くので?」
 やや憮然と問いかける俺。
 が、答えはあっさり、しかも納得できるもので返ってきた。
「奇妙な生物ということは未確認生物(アンノウン)の可能性が高いということです。それが、もしこの地上に存在しない生物であれば、どこか別の世界から来たとも考えられます。その入口がこの沼の奥にあるかもしれないということで来たんですよ」
「んじゃ行くわよ。ローレシアさん、キョンくんをよろしくね」
「はい」
 アクリルさんの促しに、俺たちは沼の中へと潜水することになったのである。


 できることとできないことがある。
 それは普段もそうだし、この世界では常識である『魔法』でもそうだ。
 しかしだな。
 やっぱり『魔法』という力はとても便利なものだね。できるなら俺も使いたいくらいだ。
 もちろん、それは叶わない願いで、叶わないからこそ欲しいと思うし、手に入らないからこそ、行使できる蒼葉さんたちを羨ましくも思う。
「どうしたの? 随分と機嫌がよさそうね」
 声をかけてきてくれたのは俺の隣にいるアクリルさんだ。
 むろん、俺はローレシアさんにおぶられている。んで俺たちは肩を並べてゆったり静かに降下していた。言っておくが、このゆったり静かに降下しているのも飛翔魔法のおかげだ。急激に沈むよりゆっくり沈む方が周りを見渡せていいってことだ。
 それにしても声が聞こえるってのも不思議なもんだね。
 ここは沼の中だから、多少の泥っぽい感覚は勿論あるわけで、あまり気分がいいものではないのだが、音は空気を振動させて伝わるもののはずなので振動させる空気がない、この水中で声が聞こえるはずがないにもかかわらず、俺の耳には間違いなくアクリルさんの声が届いている。
「これも魔法の力なんですか?」
 俺は少しだけ苦笑を浮かべて問い返していた。
「魔法がない世界から来たんだからそう思うのも仕方ないかもね。魔法は万能ではないけれど通常以上の力はあることは確かだから、水中で呼吸できることも音を届けることも可能にしたわ」
 羨ましい話ですね。どうして俺は魔法の世界に生まれることができなかったのかと、ちょっと思ってしまいますよ。
「……なるほど。キョンくんが機嫌よく見えるのは現実逃避したいから、か……」
 ぎくっ!
「どう? リラさんは役に立った?」
 アクリルさんの寂しげな笑顔の問いかけに俺は自嘲の笑みを浮かべる。
「まあ……ね……」
「それは何よりです」
 割って入ってきたのはローレシアさんだ。
「彼女もああ見えて、あなたと同じような経験がおありですからね。それでアクリルさんも適任と思い、彼女をあなたの傍に置いたんです」
 俺と同じような経験?
「正確には違いますけどね。ですが彼女も今は帰る場所を失っているんです。詳しくはお話しませんが」
「ふふっ。ローレシアさん、あなたに彼女を気遣う余裕なんてあるの?」
「それを言われると辛いですね。ですが私も彼女に負けているつもりはありませんよ」
「その通りよ。もし、あなたが少しでもリラさんに自分が劣っている風な発言をするようだったら許さないところだったわ」
「恐縮です」
 俺には意味不明の二人の会話ではあるがとりあえずどうでもいいだろう。おそらく俺とはまったく無関係の話だ。
「ねえキョンくん」
 何ですか?
「リラさんの話し方、少し変わってるけど大目に見てあげてね。前はもうちょっと流暢に話できていたんだけど、あの子、四六時中魔道書を呼んでることが多くて、最近はあまり普段、人と話することがない分、どうしても喋り方が本の文章っぽくなってしまっているのよ」
「気にしていませんよ。というか、あの喋り方に俺も救われていますんで」
「は?」
「いえその、俺の友人にも似たような喋り方する奴がいるものですから」
「そうなんだ。あ、でも勘違いしないで。リラさん、別に孤立しているわけじゃないから。あたしやローレシアさんもそうなんだけどリラさんの事情をみんな知ってるのよ。だから一生懸命な彼女を見守ってやることにしているの」
 どんな事情かは聞かない方がいいですよね?
「くす。ありがと。キョンくんがこの世界でずっと暮らすなら教えてあげても別に構わないんだけどね」
 いえいえ、だったら聞かないことにします。
 というたわいもない会話が続いて――
 不意に何かが俺たちの目の前を横切って行った。
 何だ?
 何気にそちらに視線を移す。
 って!
「マグナムドライブ!」
 それが何かを悟ると同時に甲高い掛け声とともに俺の背後から解き放たれた一つの弾丸っぽいエネルギー波がそれに着弾と同時に破裂! 爆撃音を響かし、撃退する!
 撃ったのはもちろんアクリルさんだ!
 つか、ちょっと待て! ここは沼と言う水中なんだろ!? 何で爆撃魔法が使えるんだ!?
「そちらの世界には『魚雷』という兵器は存在しないのですか?」
 俺の疑問に答えてくれたのはローレシアさんだ。
 その表情には思いっきり苦笑が浮かんでいる。
「魚雷、ですか……?」
「ええ、弾頭にエンジンと高速スクリューを組み合わせ、潜水艦のように水中を移動し、衝突した艦船などを爆発によって破壊することを目的とした兵器のことですが、今の魔法はそれと理屈が同じで相手に着弾して初めて爆発するものですから、水中でも爆発前ですから有効に発動するのですが」
 な、なるほど……
 いちおー言っておくが俺の住む世界にも魚雷はある。これほど詳細に説明されなくてもおおよそどんな兵器かは分かっているぞ。
「ご理解いただけたようでなによりです。さて、申し訳ございませんが私に振り落とされないよう、しっかりしがみついておいてくださいよ」
 ローレシアさんがどこか好戦的な表情で前を見つめた。
 つられて俺も視線を前方へと移す。
 んな!?
 さすがに絶句した。
 いや、それは無理もない話なんだ。
 なんたって、俺たちの前方には沼で視界が悪いせいかほとんど漆黒に見えるピラニアとサメとシーラカンスを足したデザインの半漁人みたいな化け物がまるで餓えた肉食獣のように両眼をぎらつかせて俺たちを見つめているんだ。
 それも……ざっと見ただけで数は……もしかしたら1グロスはいるかもしれん……
「なるほど――こいつらが未確認生物(アンノウン)ね――」
 アクリルさんが俺たちの前に、まるで流れるように、そして俺たちを守るように移動してきて、彼女もまた好戦的な笑みを浮かべている。
「アクリル様、私には彼らが友好的な存在に見えないのですが?」
「同感ね。あいつら、明らかにあたしたちを欲している目をしているわ。ただし――食料として、よ――」
 見たままですか!?
「そりゃそうでしょ。あたしにしろローレシアさんにしろ、こういう場数は何度も踏んできているわ。相手の雰囲気で大抵の状況は把握できるわよ。ついでに言うなら、あたしはさっき一匹吹っ飛ばしたのはそういうこと。こいつらとは話し合いなんて無理よ」
 アクリルさんの説明が終わるや否や!
 半漁人の未確認生物(アンノウン)たちは俺たちに襲いかかってきた!
「スターダストエクスプロージョン!」
 刹那!
 アクリルさんが魔法を開放する!
 って、この魔法って、まるで一瞬この場が宇宙空間に包まれて無数の惑星が流星の勢いに破壊されていく様な錯覚を受けるぞ!?
 そうだ!
 例えるならギャラクティカマグナムかギャラクシアンエクスプロージョンの背景にペガサス流星拳が重なったそんな感じだ! 元ネタが解らないときはスマン!
 そんな流星たちが沼のぬかるみも水の抵抗もものともせずに未確認生物(アンノウン)たちを打ち砕く!
 一気に半数が消滅!?
 しかし、相手も消えた半分に一瞬動きは躊躇させたが、それでも即座に我を取り戻し、再び俺たちめがけて突進!
 相手はおそらく、どころか見たまま水中で活動する生き物だ!
 動きに関して言えばこちらをはるかに凌駕していることだろう!
「クールドラグーン!」
 アクリルさんが何かを連射している。そうだな。何か透明の固い矢のようなものだ。
 なるほど、さっきのスターダストなんとかって魔法は連射可能な魔法ではないってことか。確かに迎撃するなら連射できる魔法の方がいいもんな。
 しかも、その矢も未確認生物(アンノウン)に結構高確率で命中する。
 これでは向こうも迂闊に近づいてこれなくなるはずだ。
 それにしてもアクリルさんも凄い。
 100以上は軽くいた未確認生物(アンノウン)たちをたった一人で相手しているんだからな。
 って、そう言えばローレシアさんは援護しないんですか?
「申し訳ございません。私は複数の魔法を同時使用できないんです。というか複数魔法同時使用となるとこの世界ではその使い手はわずか三人だけです。しかも三つ以上となるとアクリル様と蒼葉様の二人だけなんです」
 複数魔法同時使用?
「ええ、私はあなたと私をレビテーションで支えているのです。これで一つ魔法を使っていることになりますのでこれ以上魔法を使用できません」
 なるほど……ん? じゃあ今、アクリルさんはいったいいくつの魔法を同時に使っているのですか?
「そうですね。おそらくは自身を支えるレビテーションと、我々の水中呼吸を可能にしている魔法、声を水中でも届けられるようにしている魔法、そして今、戦っておられる際に使用している魔法、少なくとも四つは常時、使用していることになります」
 四つって……
「まあ、アクリル様は最大五つの魔法を同時行使されますから。
 もっとも最初のスターダストエクスプロージョンはあの魔法一つでも三つの魔法同時使用に当たりますので、今回の威力を見る限り力が半減していましたが」
 あ、あれで半減!?
「ええ、もし完璧なスターダストエクスプロージョンでしたら彼らは間違いなく全滅したでしょうし」
 もはや絶句しかできん。
 どうりでアクリルさんもローレシアさんも余裕があると思った。
 確か、蒼葉さんもアクリルさんも自分自身の命を賭けなきゃならんような場所に俺を連れて行くことはできない、とか言っていたが、この程度の相手なら、油断さえしなければ俺の命を危険に晒すようなことはないってことだ。
 しかも今回、アクリルさんが守るべき対象は俺だけじゃない。俺をレビテーションとかいう魔法で支えているので攻撃手段がないローレシアさんも護衛していることになる。
 なるほど。これが俺をアクリルさんがおぶらなかった理由か。
 おそらく、アクリルさんほどの強さがあったとしても足枷はできれば無いに越したことはないんだろうぜ。そして俺とローレシアさんが固まっていれば、それはそれで護衛対象が一人と同じって意味だから守りやすくなるってことだ。
 ったく、俺も平和ボケした日本人だな。
 アクリルさんが俺をおぶらなかった理由について戦術じゃない方を真っ先に想像してしまうなんてよ。
 いつしか生き残った、すでに最初の三分の一以下に減少した未確認生物(アンノウン)たちは俺たちから距離をとり取り囲んでいた。
 なるほど四方八方からの集中攻撃か。
 これなら動きは向こうの方が早いんだ。功を奏すかもしれないな。もし並の相手であれば、だが。
 なんたって俺が恐怖を感じていないんだ。
 となれば、この先の展開はもうすでに見えたも同然だ。
 スッとアクリルさんが左手人差し指を天に突き出し、
 と、同時に未確認生物(アンノウン)たちが急襲開始!
 が!
「オーロラサドンフリージング!」
 アクリルさんが吠えると同時に、球状に囲われた俺たち以外の空間が一瞬にして凍りついた。
 むろん、残った未確認生物(アンノウン)すべても一緒に――


 結局、今回も残念ながらディメンジョンサークルポイントではなかった。
 アクリルさん曰く、『召喚ゲート』とのこと。
 その昔、召喚術を行使した術士が自身のキャパシティの限界を超える召喚をやってしまったがために、魂を召喚魔法陣に喰われてしまい、いわば開きっ放しの扉となってしまったらしい現象だそうだ。むろん、その扉が繋がっている世界はたった一つでそれ以外の世界と繋がることはない。
 が、今回はそのゲートを見つめながらアクリルさんが神妙な顔をしていたことを俺は見逃さなかった。
 腕を組み、左手人差し指をクの字に曲げて下唇に当てている姿はなんとも凛々しかったな。
 残念ながらアクリルさんが何を考えていたのかは俺には分からないし、ローレシアさんはただ、本当に古泉のようにただ微笑んでいるだけだった。
 いったい何を?
 俺は、その時はそう思えたのだが、いつもの宿泊部屋に戻ってきたとき、そんな思考は吹っ飛んだ。
「な、なあリラさん」
「何?」
「今日は蒼葉さんは来てくれるかい?」
「来る」
 間髪入れず答えてくれたリラさんに心底、安堵する俺。
「あとアクリル様とネフィノスさんも一緒」
 ああ構わんさ。人数が多ければ多いほど、俺を早く酔いつぶしてくれそうだからな。昨日、理解できたんだが、蒼葉さんがお酒を持ってきたり、キミが俺に熱心に薦めていたのはああいうことだったんだろ?
「そう」
 ……本っっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ当にキミと長門とは関係ないんだよな……?
「むろん。なぜなら私はナガトと言う人を知らない。夕べ、あなたから創り出した人物をナガトさんと勘違いした。それが私がナガトさんを知らない理由」
 まあ、いいか……
「ちなみに多少の補正は加えられているかもしれない。私も、そしてローレシアさんも」
 何だ? その補正って?
「補正とは、足りないところを補って、誤りを正すこと、もしくは誤差を除いて適正な値を求めること」
「いや、意味を聞いているんじゃなくて」
「ジョーク」
 なんとなくこれも長門が言いそうな気がする冗談だぞ。
「私が言った『補正』はこの物語の雰囲気に合わせるという意味。この方が展開的に情緒を持たせる」
 やっぱりか!
 つーことはこれ以上は詮索せん方がいいな。
「分かってくれて嬉しい」
 そうかい。
 などと俺とリラさんの、そうだな。この部屋にいるときには日常会話と化している気がヒシヒシするやり取りがひと段落するタイミングを見事に見計らっていたかのように、
「ちはー♪ まいどー♪」
 なぜだかとっても明るい蒼葉さんがこれまたいつも通り、酒樽を二つ持って現れた。

 

 

 

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最終更新:2011年05月03日 09:40