いったい何が起こったんだろう。
あたしには分からなかった。
月曜朝のHR。あいつはいつもギリギリに近い時間で、けど少しだけゆとりある時間で教室に入ってくるはずなのに……
岡部教諭が入ってきてもまだあいつは現れなかった。ただ岡部教諭だけは事態を飲み込んでいたみたい。
「えー、――くんだが家の都合で今日は欠席する」
少しだけざわつく教室。
この『――』部分はあいつの本名。と言っても、あたしは別の呼び方をしてるけど。
欠席……?
この言葉に正直言って違和感を感じた。
だって体調不良なら『病欠』って言うはずだし、残念ながらあたしたちSOS団はインターハイとは無縁だから部活関連で休むなんてあり得ない。
家の都合にしたって、あたしは何も聞いていないし、一昨日もそんな話をあいつはしていなかった。
どういうこと?
あたしはこのときはまだ事の重大さに気が付いていなかったし、もちろん漠然とも感じていなかった。
でもね。
結果から言えば、あたしは後々激しく後悔した。そしてその後悔は思ったより早くあたしを包み込んだものだから後悔が絶望に変わるまでの時間はそんなに長くはかからなかった――
涼宮ハルヒの切望Ⅰ―side H―
その日、あたしはどうにも前の席が気になった。
ん? もしキョンがいないから寂しかった、なんて想像したならお門違いよ。
そもそもあいつのことだから今日は欠席しても、明日、何食わぬ顔でひょっこり現れるだろうし、家の都合なら親戚に不幸があったのかも知んないし、ならそっとしておいてやる方が当然よね。
というか、今はあたし自身があいつの顔を見たいと思わない。
なら、今日のこれは好都合ってもんよ!
「あのぉ……涼宮さん……今日、キョンくんは……?」
「家の都合で欠席」
どこかおどおど問いかけてきたみくるちゃんに、棒読み口調で即答のあたし。
「家の都合、ですか?」
「そうよ。親戚に不幸でもあったんじゃない?」
第二の問いかけはいつもは目の前にキョンが居てボードゲームに勤しんでいる古泉くん。
もちろん、彼の問いにも予想を交えて即答。
「……まだ怒ってる?」
って、有希! 何そのいつもは無表情なのに今日ばかりは妙に哀れんだ瞳は!
そもそも何でSOS団全員がヒラで雑用のあいつが気になるのよ!
「――SOS団全員ということは涼宮さんも気にしておられるということですか?」
じろ
「これは出過ぎたマネでした。ですが、一昨日、あんなことがあったというのに彼のことを心配なされている姿に僕は感動したものでして」
苦笑を浮かべて古泉くんが続けてきた。
ふむ。そう言われると悪い気はしないわね。
え? 土曜に何があったかって?
んなこと聞いてどうするのよ! また蒸し返して怒りがこみ上げてくるだけだわ!
まったくキョンと来たら、集合場所に一番遅れるだけならともかく、あたしに無断で他の女と一緒に駅に来るなんてどういうつもりかしら!
しかもよ! 「仕方ないだろ。今日一日預かることになったんだ。けどまさか他人の家に一人で留守番させるわけにはいかないだろ。今日だけ同伴で頼むぜ」なんて言うのはまあ器量の広い団長なんだから認めてあげないこともないけど、それにしたって何であんなに仲睦じいわけ!?
「あのー涼宮さん?」
「何よ!」
「いえ……なんでもありません……」
みくるちゃんが何か聞いてきたけどどうでもいいわ!
む~~~~~~~~思い出すだけで腹が立つ!
「涼宮さん、彼の言葉を信じてあげてもよろしいのではないかと」
「どういう意味よ! まさか古泉くんもキョンのあんなたわごと信じてるわけ!」
「いやまあ……確かに僕も初めて本人を目にしては、とても信じられるものではありませんでしたが……」
古泉くんがごにょごにょ引き下がる。
キョンが連れてきた女の子がどんな子ですかって?
ふん! キョンは小学六年生、もうすぐ十二歳の十一歳とか言ってたけど絶対嘘よ! 可愛らしいのはまあおいとくとしても、あんな発育のいい小学六年生がいるわけないじゃない! はっきり言って、あ……じゃなくて! 有希といい勝負なんだから!
あ、何で今言い直したんだって思わなかった?
……否定はしないわ……だって、それくらい発育良かったし……
って、何暗くなってんのよあたしは!?
などと思いつつ、今日は苛立ったままで一日が過ぎてしまった。
うん。寝る前に牛乳をたくさん飲もう。たぶん、カルシウムが足りないんだ今のあたしは。
間違ってもあの女の子に負けないためじゃないわよ。
そこんとこ誤解しないように!