♪rururururu~

朝、ベットの中・・・
遥か彼方から聴こえる電子音・・・
それは、間違いなく「嫌いな音」であり「好きな音」ではない。いや、好きな音であってはいけない。
仮に「好きな音」であった場合、安らぎや心地良さを感じ、この音が本来持つ役割を果たせなくなるからだ。
そして、この音は俺に軽い頭痛と薄明るくも眩しい光を提供してくれる。

今、何時だ・・・っ?!?

本日の起床予定は六時!今は六時十分!
どうやら先程の「嫌いな音」はスヌーズ機能の恩恵によるものだったらしい。
まったく、何やってるの俺!

大急ぎで髪型を整え、制服を着る。

(遅れたら死刑だからねっ!)

いつものハルヒの口癖が、脳裏をかすめ俺の行動が加速する。

飛び起きて僅か十数分、俺は自転車に飛び乗るところまで目標を達成していた。

そう、今朝は昨日の約束通りハルヒを迎えに行くのだ。


昨日の「一見平坦に見える心臓破りの坂」は、一人で駆け上がるには何の問題も無かった。加速して一気に登って行く。
ただ、若干の登りが連続するという事実は受けとめなければならない訳で、昨日「オアシス」と思わず呼んでしまった頂上の販売機にさしかかる頃には、少し息がアガッてしまった。

(団長として・・)

っ・・・!
不意に昨日の此所での事を思い出した。
ハルヒが見せたあの今まで見たこともない表情。
不意打ちの様なキス。そして・・・何故か俺と同じモノ・・・つまり缶コーヒーを選んだハルヒ。
いや、実を言うとコイツが一番厄介だ。
他人と似通う事を一番嫌うハルヒが何故だ・・・。

表情は光の加減・・・キスは・・・雰囲気か?
まあ、あの夕日の美しさは異常だったしな・・。
コーヒーは・・・たまたま飲みたかった?
いや、違うな。俺がコーヒーと言う前から「同じモノを」と言って・・・いたと思う。

さて、ここまで考えが進むと、俺の中に今すぐ解決すべき最大の問題が浮上した。

『どの面さげて、ハルヒに会えばいいんだ』

とりあえず自転車を飛ばしながら祈る。
昨日の全ての出来事が、ハルヒの気まぐれのみに因るモノでありりますように。


やがて、俺はハルヒとの待ち合わせ場所に到着した。


「おっはよう!七時ジャストね。まあ、キョンにしては上出来だわ!」

そいつはどうも。
で、足は大丈夫か?

「まあ、昨日程ではないわね。さっ、行きましょう!」

右膝から太股にかけて包帯を巻いているものの、ハルヒの身のこなしは至って軽い。

『平気なら明日から電車で行けよ』と突っ込みを入れる間も無く、俺の自転車の荷台に腰を降ろした。
ただ・・・微かに湿布の香りがして、俺は少し心配になった。

「さあ、出して」

おいおい、人の心配をよそに『出して』とは?
まるで、御屋敷住まいのお嬢様が執事かなんかに車を運転させるアレのつもりか?
昔のアメリカ映画で見たことあるぞ?

「早く出しなさい?」

へいへい。

結局、ここに着くまでの最大の問題なんてハルヒのペースに乗せられて何処かに消えてしまった。

そうだ、これでいい。
おそらく俺は、ハルヒといるこの感じが好きなんだと思う。
人は他人と関係する時に、必ず自分に無い要素を持つ人間を心の底で求めるという。
かといって、俺がハルヒを求めているとは言いがたいが、この心地よさの理由にするには十分だと思う。


俺達は、走りだした。


「キョン!なあキョンよ!何故に俺に話してくれなかった?そういう事なら正直に言ってくれよぉ!」

いつになく谷口が、暑苦しく迫って来る。
しかも、ここは始業直前の男子トイレときたもんだ。

なんだよ、朝から。
それに熱く語りたいなら、要点を明確にしてかにしろよな。

「涼宮と付き合ってたんだよな?あのな、キョン!いくら相手があの涼宮ハルヒでも、お前が選んだ道だ!俺は親友として限りなく祝福・・・」

ちょっと待て!

さっぱり解らん。どうしてそうなった?俺が理解出来る様にまとめて説明しろ!始業のチャイムが鳴る一分前までにだ!

「???だって、お前・・・全校内で噂だぞ!?今朝も自転車で二人・・・」

それか。

しかし、自転車で男子が女子を後ろに乗せて走るなんて事は、別に「付き合う」って事と関係無いと思うのだが。
じゃあ、あれか?
仮に、朝比奈みくるさんを自転車の後ろに乗せて走ったとしたら、俺と朝比奈さんは「付き合っている」という事になるのか?

まあ、それはそれで何か良い・・・いや、そうじゃない!そうじゃなくて!

谷口よ。誤解だ。
だから、お前の灼熱の祝福はいらん。

やがて、始業のベルが鳴った。


谷口に言わせれば、俺は今「噂の男」なんだろうが、生憎俺は周囲の自分に対する視線や空気感に妙に鈍感な時があるんだな。
だからこそ、今まで散々SOS団絡みの事で周囲から興味を持たれても、それほど気にもとめなかった訳だ。

そしてそんな感じで、「噂の男」になってしまった今も、普段と変わらず過ごしている。

ただ・・・

ハルヒはどうなんだろう。

俺達をとりまくこの妙な噂を、どのように受けとめているんだろうか。


まあ、ハルヒが細かい事や人の噂をいちいち気にする性格なら、今のこの生活は有り得ないわけだし、ましてやSOS団も存在しないだろう。

それに・・・

「恋愛感情なんてのは精神病の一種」なんて事を前に言ってた気がする。

だから、そんな噂が耳に入ったところで、「なにそれ、くだらないわね」なんて一言で簡単に片付くんだろうな。

そんな事を、ぼんやりと考えながら俺は午前中の退屈な授業をやりすごした。

昼休み。

ハルヒに足の具合を聞こうと思ったのだが、終業のベルが鳴るや否や、教室から出ていってしまった。

大方、保険室か部室でコッソリ湿布を取り替えるんだろう。

(隙を見せるのはポリシーに反する・・・)

昨日の放課後にハルヒが言ってた言葉を思い出した。


なにも、そこまでしなくてもいいのに・・・

早々に昼飯を済ませた俺は、少しばかり昼寝をしようと考え教室を出た。

朝六時(正確には少々寝坊したが)に起きて、隣町までのハイペースなサイクリング・・・
腹を満たした俺の中に睡魔を降臨させるには十分過ぎる条件だな。

さて、何処で寝ようか。
窓の外は十月半にしては、暖かい陽差しだ。
やっぱり、あの木の下・・・だな。
俺は玄関に向かった。

木の下には先客が居た。
女子二名が木洩陽の下でランチの真っ最中らしい。

間違いなく俺は招かれざるアレだな。部室にでも行くか・・・
俺は再び校舎に向かい歩きだした。

「ねえ!」



「おーい!」



後ろから・・・木のある方から呼ぶ声に振り返ると、先程のランチ中の女子が手を振っていた。

呼ばれるままに近寄って行くと、その女子二人が見覚えのある顔である事に気が付く。

ああ・・・確か軽音部の・・・

「久しぶりね、あの時はどうも。涼宮さんは元気?」

思い出した、榎本さんだな。

「噂になってるね?色男?」

こっちは財前さん・・・て、おい!
色男とは一体!?

「私達さ?文化祭の後に涼宮さんの教室に行った時から、なんとなく気付いてたんだよ。ね?」
「ね!」

一体何の話です?

「ん?アナタと涼宮さんの話よ。ね?」
「ね!」



今朝、谷口が騒いでいたアレか・・・

俺は、ハルヒの怪我の事。団長命令で泣く泣く御抱運転手の真似事を毎朝する羽目になった事を簡潔にまとめて説明した。

まあ、販売機での事や、その前の「おひめさまだっこ」の事は禁則事項だから言わないが。

「なんだぁ、残念!」「でもさ、今朝の二人乗りだけが噂の原因じゃ無いと思うよ。」
「うんうん。」
「だって、元々付き合ってたんじゃないの?って言ってる子も居たし。」

マジかよ!

「それにね、これは私達も自分達の目で見た事だから言える事なんだけど・・・」

「ああ、今朝の!」

「涼宮さんね、アナタの背中に寄り添って、物凄く幸せそうに微笑んでたのよ。」



結局、昼寝は出来なかった。

(涼宮さんね、アナタの背中に寄り添って、物凄く幸せそうに微笑んでたのよ)

俺は先程の榎本さんの言葉を思い出しながら、ボンヤリと授業を聞いていた。
そういえば今日は、一日中ボンヤリしていた気がする。
馴れない早起きのせいだろうか。

幸せそうな微笑・・・って、ハルヒが「いいこと思いついた!」の時に見せるアレか?
まあ、女子が男子の自転車の後ろに乗ってニコニコしていれば幸せそうにも見えるだろうし。
ただハルヒの場合、もっと笑顔の要素が違うところにある気がするんだが。
俺は、ふと思い付いて後ろを振り返った。

なんとなく、後ろの席に座っているであろうハルヒの顔を少しだけ見たくなったのだ。

あれ?

居ない・・・

どうしたんだろう・・・。さすがに大事をとって早退して地元の医者にでも行ったか?
俺の心配をよそにハルヒは、その後の授業も欠席した。

放課後。

なんとなく部室にハルヒが居る気がして、俺は早足で部室棟へと向かった。

心配だから?いやいや、ちがうな。たぶんそんなんじゃない。
そんなんじゃないけど・・・なんとなく。

例によって朝比奈さんの着替えを警戒しつつドアをノックする。

「おや、お客さんの様ですよ?」

中から、古泉の声がする。
と、言うことは長門も朝比奈さんも居るな。
根拠は無いが、そんな気がする。

ハルヒは・・・どうだ?

俺はドアをあけて、予想通り居た三人に軽く挨拶した。
そして、ハルヒの机がある方に目を向ける。

居た!

てゆうか、ずっとココに居たのか?

「煩いわね。今大事なトコなの!後にして!」

ハルヒは、いつになく真剣にパソコンに向かっている。

俺は、(今度は一体何をしようとしてるんだ?)という意を込めて古泉に視線を送った。

「さあ、なんでしょうね」と言わんばかりにニヤける古泉。

長門は相変わらず読書中か。

しばらくすると朝比奈さんがお茶を持ってきた。

「今日は試しに鉄観音茶にしてみました。」
いや、ありがとうございます!

そう言えば昨日は部活が無かったから飲めなかったんだよな、朝比奈さんのお茶・・・

何かの本に「会えない時間が愛を育てる」という件が書いてあった気がしたが、正に現在の朝比奈さんの癒しの笑顔と、お茶に捧げるべき言葉だろう。

ああ、一日ぶりのお茶・・・美味し・・

「みんな!重大発表よっ!よおーく聞きなさいっ?」

それまで、黙々とパソコンをいじっていたハルヒが、突然叫んだ。

ああ、俺の癒しの一時が・・・

ハルヒは続ける。

「我がSOS団はこの度、日本最大級のインターネット掲示板に殴りこみをかけて、その存在を知らしめる事が決定されたわ!」

おい。それって2・・・

「まずは、『スレ立て』ね!キョン?あんたやんなさい!」

一体何処の板に!

「あー、楽しみね!こういうのをwtkkするって言うのかしら!」

「それは何です?」と小泉がニヤニヤしながら聞く。

「『ワクワクテカテカする』って意味よ!この掲示板には他にも特殊な用語が盛りだくさんよ!あんたたちも勉強しなさい!」

おい・・・それを言うならwktkだろ。


そんなこんなで、一日振りの活動は訳が解らないまま終了した。

ハルヒ、帰るか?

「いい。駅まで歩いて、電車で帰るわ。」

そうか・・・って、おい!それ、机の上にあるの薬か?


「そうよ、痛み止。仕方がないから昼に学校抜け出して変態田代のトコに行ってきたわよ。今飲めば、家に帰るくらいまでは何とかなるから。」

無理すんなって!
送ってやる。約束したろ?

「いい。」

いい・・・って、おい!

「迷惑よ。」


送ってもらって、迷惑って何さ?

「違う!キョンが・・・。」

俺?

「噂に・・・なってるじゃない。」



俺は今、予想だにしていなかった事態にとまどっている。
ていうより、正直に言ってしまえばどうしたら良いか解らない。


ただ言えるのは、ハルヒが自分を学校まで乗せた事で、俺との間に妙(?)な噂がたってしまったのを気にしているという事。
そして、それを回避すべく嫌悪感をこらえつつ変態田代の診察を受け痛み止を貰い、帰りは何とか一人で帰ろうとしているという事。


ああ、こんな時・・・気の効いた言葉の一つも言えない俺って!


「じゃアタシ帰るから。」

・・・。

「?」

待てよ!

「なによ・・・。」

俺は噂なんか全然気にしていないし、むしろ・・・

「?」

別にそれならそれで良いって思ったくらいだから気にするな!

「なによ・・・わかんない・・・そんな答え・・・想像すらしてなかったわよ・・・バカ・・・」

ハルヒが泣いている
でも・・・微笑んでいて・・

あ!

俺は、昼休みに聞いたあの言葉を思い出した。

(涼宮さんね、アナタの背中に寄り添って、物凄く幸せそうに微笑んでたのよ。)

とりあえず一緒に帰ろう

駐輪場までは「昨日のヤツ」で行ってやるから。

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