竹取物語

 


「今は昔、竹取の翁と呼ばれた男が野山に分け入り、竹をとりて、いろいろなことに使い、暮らしていました」
「ええっとだなハルヒ? そういう出だしはナレーションが勤めることが昔話の定番だと思うのだが、お前がマイク片手で情緒豊かに、あたかもミュージカル女優のようにややオーバーアクションで語り始めるのはどういう訳だ?」
「何言ってんのよキョン! そういう前例にないことをやってこそ、進歩があるのよ! 現状維持思考は堕落の第一歩! 21世紀の日本の政治家と公務員見てりゃ解るでしょ! あいつら、前例前例って全然新しいことをやらずに日本を衰退させまくって、のうのうとしているんだから!」
「すまんがまったく意味が分からんぞ。なんたって今はやっと西暦四桁になったばかり、11世紀最初の年なんだからな」
 そういうお前も、11世紀の割には、よく『西暦』とか『世紀』とか『ミュージカル女優』とか『マイク』とか『オーバーアクション』なんて言葉を知っていると思うんのすが?
「を? やっと出てきてたな。と言うか悪い。どうもハルヒの奴、今回はやけに舞い上がってやがるんだ。こっちもやれやれって気分なんだぜ」
「ちょっとキョン! 何よその言い方! あんた、あたしと一緒に居るのが気に入らないって訳!?」
「そうは言わんが、ちょっとテンションが高すぎやしないかって意味だ。だいたい何だってお前、そんなに力が入ってやがるんだ?」
「当たり前じゃない! 『消失』後くらいから、あんたと有希との絡みが多くなったし、『陰謀』もほとんどみくるちゃんが中心だし、『憤慨』はミヨキチと阪中さん、『分裂』はどっちかと言えば佐々木さんだったでしょうが! あたしがメ・イ・ン・ヒ・ロ・イ・ン・なの! 今のあたしは、どこぞの大食いシスター並みにエアヒロイン化しちゃってるし! まったく谷○流は何考えてんだか!」
 つまりそれは、キョンの相手が貴女以外だったことが相当不満だったと?
「そ、そんなわけないじゃない! あたしはメインヒロインとしての扱いを主張してるだけよ! 別にあたしはキョンのことなんか……そりゃキョンが嫌じゃないならそれでいいけど……」
「すまん。『別に』から後の言葉がよく聞き取れなかったんだが?」
 という翁のツッコミは妻の顔を一瞬で沸騰させました。
「うるさい! さっさと今日も竹を取ってきなさぁぁぁい!」
「お、おわ!」
 真っ赤な顔の妻の渾身の回し蹴りに後押しされて、今日も翁は山へと向かうのでした。
 それにしても翁とその妻って設定の割にはえらい若々しいなお前ら。まるで普段のお二人のようですよ。

 


 さて、今日もいつものように翁は竹を切っておりました。鉈で。竹林なので蜩(ひぐらし)はいませんよ。
「そういや、今回はハルヒのやつは妙なネタを挟まなかったな。ナレーションはともかく。俺はてっきりもう一回くらいやると思っていたんだが」
 そうは言いますが、あなたはご自身の現世の妻が来世の妻のようにボケるところを想像できますか?
「まあ確かにハルヒはハイテンションにボケるから、勘違いボケは苦しいかもしれんが……って、現世と来世って何だ!?」
 その辺りはお気になさらずに。規定事項ですよ、多分。
 おっと、そんなことより目的の竹がそこにありますよ。
「なんか誤魔化された気もするが今回はやけに展開を粛々と進めやがるじゃねえか。前回のボケてボケてボケ倒しやがってなかなか進まなかったアレは何だったんだよ」
 ほっほっほ、翁さんも随分と懐かしいツッコミですね。ベッキーさんでしたっけ? ベティさんでしたっけ? そーいや、ベティ・フープってさー、
「とと、いかんいかん。また脱線し始めるところだった。軌道修正軌道修正。おぉ。こんなところに光る竹が。おそらく、こういう竹を見れば普通は不気味がって逃げ出すと思うんだが、それでは話がまったく進まないので切ってみよう」
 棒読みで驚かれても白々しいだけだし、それならいつも通り、「やれやれ」と嘆息しながらだるそうに行動してもらえる方がマシな気がするのですが?
「黙れ!」
 気合一閃、翁はまるでツッコミを入れるかのようにその竹を切るのでした。
 そしてその中からは、

 


「え? えええっ!? い、いいんですかぁ!? あたしがこの役でっ!?」

 


 と言う訳で、竹の中から出てきたのはそれはそれは天使の如き愛らしさと可愛らしさを存分にまき散らす、あたかも妖精のような女の子でございました。ちなみにサイズが小さいだけであの出るところは出すぎているプロポーションは健在のままです。
「で、この方を俺はお連れして家に帰ればいいのか? むしろ帰っちゃうよ?」
 そういう展開じゃないですか。というか、まず驚嘆しろ。で、貴方たち夫婦には子供がいない訳で、妻と二人で、その子を大切に育てるんですよ。
「ふわぁ~。おめでとうございますキョンくん。とうとう涼宮さんと結ばれたんですね、うぅ……長かったです~」
「あ、朝比奈さん、その言い方は何と言うか……! って、その涙目で祝福される笑顔も魅力いっぱいで……」
 おーい。だから話を進めろって。
 何でこう、いつもいつも脱線するのがステータスなんだか。
「そうは言うが、正直言って俺は現実逃避したいんだよ。考えてもみろ。このサイズの朝比奈さんを連れて行ったらハルヒがどう出るか。俺はともかく、本当にハルヒが大切に育てると断言できるか?」
「って、え? あたし、キョンくんと涼宮さんのところで暮らすんですか? それはお邪魔なんじゃ……」
 ええっと、朝比奈さん? あなたは自分の配役を理解していますよね? ついでに心配どころも違います。
 もっとも、どうやらそれは翁の方は分かっているようで。
「いいですか。朝比奈さん、自分自身の心の声に素直に心を傾けて想像してみてください。今のサイズの貴女を連れて行ったらハルヒがどういう反応を見せるかを」
「えっと……」
 苦渋に満ちた伏せ目の表情で翁は言い聞かせるように問いただしております。と言う訳で女の子もシュミレートしてみて――
 途端に顔が真っ青になりました。
「あ、あたしまさか……初めて涼宮さんに会ったときのような目に合うんですか……!?」
 それを悟って、今にも泣き出しそうな切ない表情で翁に縋るような視線を向ける女の子。そう、彼女はいい感じで着せ替え人形サイズだったのです。
 それよりさー、あーダルいから突っ込まなくていい? いつ、あなたが翁の妻と会ったんですか、と。
「禁則事項です」
 てことで、ナレーションも少し開き直りましょう。
「大丈夫ですよ、朝比奈さん」
 いいのか? そんなこと言って。前回も何もできなかったんですよ、貴方は。
「今回こそ、あいつが無理矢理朝比奈さんをおもちゃにするような真似をしようとすれば、俺が全力で阻止します」
 って、ナレーションの声を聞いちゃいねえ。つか、翁も結構妻に毒されたようです。
「ありがとう」
 ぺこりと頭を下げるはにかんだ微笑みのあまりの可愛さに翁は女の子を抱きしめたくなりましたが、そこは紳士の翁。しっかりと自重して、
「お願いします」
「お願いされましょう」
 などと、それでも女の子の嘆願を耳にした翁は太鼓判を押したのですが、そんな翁の約束が机上の空論、砂上の楼閣、太陽内部の水素原子のように崩壊したことは言うまでもありませんでした。

 


 それから三ヶ月、女の子は見る者すべてを惹き付け虜にしてしまう輝くばかりに美しい娘へと成長しましたので、いつしか『かぐや姫』と呼ばれるようになっていました。ついでに言えばあまりのサイズに着物の帯の部分が見えなくなりそうな感じでした。どこがって胸です。
 まあそんなだから彼女の日常など押して知るべしでしょう。
「さあ、みくるちゃん、今日はこっちにしましょうかぁ~~~」
「ふ、ふぇ……」
 かぐや姫が青ざめて震えている目の前ではにこにこ笑顔の翁の妻はいったいどこで仕入れたのか、スクール水着に体操服(もちろんブルマ)に白ブラウスに水色のプリーツスカートの夏服セーラー服をひけらかしております。
 どうやら今回は学校萌えに挑戦しているのでしょうか。
「何でこの時代にそんなものがあるんだ?」
「決まってるじゃない。ネット通販よ」
 いちおー、というか絶対に間違いなくネット通販もないと思うのですが、翁の妻が『在る』と思えば『在る』のですからどうにもなりません。無自覚なだけにタチが悪いのですが、まあいいでしょう。だってハルヒだし。
「いいのか?」
 翁は露骨に嫌な顔をしてあさっての方向を向いてツッコミを入れておりますがいったい誰に対してツッコミを入れているのでしょうか。
 と言うか、いい加減止めないと奥さんが悪ノリしてますよ。
「とと、いけね! おいハルヒ! そろそろやめとけ! 朝比奈さんが涙目じゃないか!」
 ようやく翁が割って入った時にはセーラー服をお召しになっておりました。
 え? どうして体操服やスク水じゃないかって?
 それはこのお話を書いた作者の趣味です。(きっぱり)
 ちなみにこの制服は北高のものではなく、昔懐かしのセーラー服でちゃんとスカーフ、スカートも短く、もちろん臍出しブラウスです。
「細かい描写説明はいらん」
 でもあなたも似合っていると思ってるでしょ? 顔がニヤけてますよ?
「キョンくんまで……」
「ち、違うんです朝比奈さん! これはその……!」
「なぁにが違うのかしらぁ?」
 涙目のかぐや姫にしどろもどろになって言い繕う翁の背後から、嫌味と殺気を足したような視線を向けるその妻。
 とまあ別にだからと言って何が起こる訳もなく、二、三日にいっぺんはこういうやり取りがある訳でもう日常茶飯事ですから問題なし。
 ついでに翁の家にはかぐや姫用のコスプレ衣装が溢れ返っているわけですけどその財源はいったいどこから出たのでしょうか。
「あ、言っておくが俺の収入じゃもちろん足りないが、だからと言ってハルヒと朝比奈さんが働いたってわけじゃないぜ。実を言うとだな……」
「そうそう。みくるちゃんのあまりの可愛さがすっごく評判になって貴族たちがこぞって貢いでくれるのよ。それを売っぱらってお金を作ってるってことね」
 うわ酷っ。その人たちも報われませんね。
「そうでもないわよ。あいつらが貢いでくれるからこうやってみくるちゃんに色々な格好させられるし、ついでに遊んでても暮らせるだけの蓄えもできたから、それであいつらは充分、役目を果たしているってもんよ」
 そ、そうかなぁ……何かが激しく間違っているような気がするのですが……
「でもそうね。一生遊んで暮らせるだけの財産もできたならあいつら用なしだし……よし、キョン! いつも貢物を持ってくるあの熱心な五人を集めるのよ!」
「それは構わんが……いったい何を企んでいるんだ?」
「どうでもいいじゃない。いい? あんたはまず集めるの。その後のことはあたしたちに任せなさい、いいわね!」
「はぁ……やれやれ、何かまた碌でもないことを仕出かしそうだな……」
 嘆息しつつ、翁は外出の身支度をしておりました。
 その後ろでは、
「みくるちゃん、この五人が集まったらこう言うのよ。んで、みくるちゃんのこと、諦めてもらうから」
「あ、あたしが言うんですかぁ? こういうセリフって涼宮さんの方が適任ですよぉ……」
「何言ってんの。あたしが言う意味ないじゃない。あいつら、みくるちゃんが目当てなんだし、だいたいそろそろこの家も物があふれて置場が無くなっちゃたんだから、こっちもいい加減迷惑なのよ」
 と、翁の妻とかぐや姫が打ち合わせしております。
 つか、ナレーションだけですね。ちゃんと設定キャラの名前を言うのは。
 と言う訳で、翁の妻がかぐや姫に何を吹き込んだのかと言いますと、

 


「ええっと……ただの貢物には興味ありませぇん……この中に……仏の御石のぉ鉢、蓬ぉ莱の玉の枝ぁ、火鼠の皮衣、龍のぉ頭の玉ぁ、燕の子ぉ安貝を持ってる人がいましたら……あたしのところに来てください……以上……!」

 


 家に集まったかぐや姫に特に熱心な御執心五人衆、石作り皇子、車持皇子、右大臣阿部の御主人、大納言大伴御行、中納言石上の麻呂の前に思いっきり満面の苦笑を浮かべてちょこんと正座したかぐや姫は、毅然と、というには程遠い、なんとも困った口調で口上を述べられました。
「ちょっと、みくるちゃん。違うでしょ。そのセリフはもっとこう、高圧的に命令口調で、馬鹿を見るような眼で蔑むように言わないと意味ないじゃない」
「そ、そんなことできませんよぉ……だって、この人たちにとってもお世話になっているのに……」
 ああ、なんて心優しいのでしょうかぐや姫は。でも言ってる事は外道です。
「その前に聞きたいんだが、なあハルヒ、何だ今のセリフ回しは? それに物自体も伝説上の存在でなかなか手に入らないような気がするぞ」
 翁が、いつも通りやれやれと呟きながら問いかけます。
「何言ってんのキョン、いい? 最初から無いと諦めるのは頭の中が脳の代わりにウニが詰まっているってことなのよ! だいたいみくるちゃんに釣り合う相手となればこれくらいの貢物を用意できるやつじゃないと、このあたしが認めないわ! ついでに、この言い方じゃないと意味ないの。これからの時代の言い回しなのよ。今年の流行語大賞に選ばれるかもしれないじゃない!」
 この時代に流行語大賞なんて無かったと思いますし、ついでに今の言い方が本当に脚光を浴びるのは千年先なのですが。
 それにしても『仏の御石の鉢、蓬莱の玉の枝、龍の頭の玉、火鼠の皮衣、燕の子安貝』と『宇宙人、未来人、異世界人、超能力者』と、どっちの方が見つかる可能性が高いのでしょうか。
「俺に聞くな」
 翁が明後日の方に向かってツッコミを入れている間に、
「って、あら? みんな根性ないわね。なんか背中を丸めてすごすご引き下がっていっているわ」
「涼宮さぁん……それは根性とかじゃなくて……」
 翁の妻があっけらかんと事情説明をしてくれました。
 それにしても今の五人。いったい誰だったのでしょう。WAWAWA~とか言ってたようなそうでもないような。


 そして三年後。


 かぐや姫と翁とその妻は時の帝の邸宅に匿われておりました。
「で、何だ? この物々しい警備は?」
 翁が隣に居る帝にうんざり感たっぷりに問いかけます。つか、いいのか? タメ口きくなんて。曲がりなりにも相手は帝なのですよ。いちおー身分的には竹取りとは比べ物にならないくらい高いはずなのですが。
「いいんです。僕としてもその方が都合がよろしいので。そもそも僕は彼に羨望と達観の念を抱いておりますから、丁寧語なんて使われると逆に恐縮です」
 爽やか笑顔で京中の女性陣に絶大の人気を誇る帝は丁寧にナレーションの声に応えてくれました。
 で、いったい貴方は翁のどこに羨望と達観を感じたのでしょう?
「それはもちろん、涼宮さんを始めとして、宇宙人、未来人、超能力者を前にして、なおかつ様々な出来事に遭遇してもほとんど動じない屈強な精神に、です。他の方でしたらとっくに正気を失っていると思いますよ」
「……いちおーこう言った方がいいと思うんだが、いったい、俺はいつ、宇宙人、未来人、超能力者と遭ったんだ? ハルヒとは確かに遭ったがあいつに何かあるのか?」
 はい、翁が正論です。
 しかし帝は笑顔に興味津々という色を加えて、
「これから遭遇するのですよ。涼宮さんの正体を宇宙人、未来人、超能力者の観点からそれぞれ聞かされて、その後、いろいろな出来事に巻き込まれるんです。こことは別次元の世界に迷い込んだり、無限ループで終わりの来ない夏休みに巻き込まれたり、超常現象が普通の生活に溢れ返ったり、いきなり世界が変わってしまったり、夢か現か区別が付けられないファンタジー的な冒険にも出ます」
「うぇ……奇怪なモンとの遭遇なんざハルヒだけで充分だ。その役目は現世の俺じゃなくて、輪廻転生のどこかの俺に任せるぜ」
「それが賢明かもしれません。でもご安心ください。その時は僕たちもご一緒させていただきますから」
「……気のせいか、よけいややこしくなるような気がするんだが……?」
「そうかも知れませんね」
 あのなあお前ら、千年後の話をするんじゃない。だいたいファンタジー的な冒険って何だ?
「おやご存知ないのですか? それは困りましたね。まあ断片的なことは我々が何者かの陰謀によって雪山に遭難した時に見ることができますよ」
 だから千年後の話をするなっての!
「しかもこの物語は未だに終わりを見る事がないのです、まさに驚愕せざるを得ませんね」
 とりあえず、新刊の発売は平成23年5月25日に決定しましたよ。上下巻二冊の600ページで――
「ちょっとキョン、みくるちゃんが呼んでるわよ。あんた何したの?」
 ……タイミングが良いんだか悪いんだか……とにかくストーリー進行上の都合というやつで翁の妻がやってきました。
「『何したの?』って何だ?」
「そんなの分かんないわよ。でも、なんだかみくるちゃん、泣きそうな顔になってあんたを呼んでるんだから」
「ああ、もうそこまで進みますか。と言うことは……」
 帝が庭の警備に目を向けました。
「どうしたの古泉くん」
 だから帝ですって。
「見てください。アレを」
 帝は神妙に手を差し出しました。声も真剣そのものなのですが、なぜか顔は笑ったままです。
「なんだありゃ!?」
「ど、どうなってんの!?」
 翁とその妻が目を丸くしております。
 それも無理ない話で警備兵全員が槍を持って突っ立ったまま、苦悶の表情を浮かべていますから。
「どうやら彼らは動けないようにされたようですね。これは困りました。これでは誰もかぐや姫を守れないことになります」
「その割にはお前からは全然、緊張感を感じられんのだが……」
「キョン、そんなことよりみくるちゃんよ! 早く!」
「おっと、そうだった!」
 言って、翁とその妻はかぐや姫が居る部屋へと駆け出すのでした。


 かぐや姫は部屋の障子をあけてぼんやり満月を眺めておりました。
 そうです。かぐや姫は月の都に帰らなければならない日が近づいていることを知っていたのです。
 色々ありましたが、かぐや姫にとって、なんだかんだ言いながらも、翁とその妻との生活は楽しいものでありました。月に帰るということは二人との別れを意味し、ここ数ヶ月やるせない別離の情に、胸を締め付けられる思いの日々を過ごしていたのです。
「朝比奈さん!」
 翁は息を切らせながらふすまを勢いよく両手で開きます。
「キョンくん……」
「朝比奈さん……もしかして……」
 翁はかぐや姫に話しかけながらゆっくり近づいていきます。
「ごめんなさい……あたしはこの世界の人間ではありません……そして、もうすぐ元の世界に帰らないといけないのです……」
「元の世界って……」
「はい……」
 再び、かぐや姫は月へと向きなおりました。
 その厳かでしかしどこか寂しい光に照らされながら、
「もうすぐ月から使いの者が……」
「何だって!?」
 翁が悲愴の表情で叫び、かぐや姫は答えました。

 


「今宵、中古車のバンで迎えに来るんです」

 


 全世界が静止したかと思われた。
 まあ、つまりはこの物語は涙ものではないということです。つか、うわぁい。ドン引きだ。アサリ、ハマグリ取れ放題ですね~~~。
「あの……朝比奈さん……そこは『十五夜の晩に迎えるにくる』なのでは……? と言うか、随分、懐かしい……よりも、よくコレを思いついたな、って感じです。このネタは1995年にとある番組でとあるお笑いコンビが一発ネタで一回だけやったものですよ」
 深海の泥の底に身を浸しているような感覚で真っ白になって突っ伏している翁とその妻は何も言葉を発することができませんでしたから帝が代わりに話しかけました。あと補足ありがとうございます。
 それにしても、よく今の勘違いネタで正気を保っていますね貴方は。
「え? 違うんですか? あたしはこのセリフを云うように言われたんですけど?」
「ん? てことは間違いじゃない?」
 かぐや姫の意外な一言が翁とその妻を正気に戻したのでした。
「ちょっと待ってよ。じゃあ今のはどういう意味? ネタじゃないってこと?」
「そうなるよな……朝比奈さんがもしボケてくださったのであれば、おそらくボケる前にこっちに悟られてしまうだろうし……」
 何やら翁と妻と帝が考え込んでおります。
 そんな三人をいきなり稲光が一瞬包み込みました。
「え?」「は?」「ん?」
 そしてしばらく遅れて夜空に聞こえてくるのは、エコーを利かせて響いてくる何か分厚い壁をぶち破ろうと試みているような衝撃音。
「って、嘘!?」
 翁の妻が素っ頓狂な声を上げた途端!
 光の中から一台の、バックボーンフレーム上に強化プラスチックボディを載せ、メンテナンスフリーをも狙って外部全体を無塗装ステンレスで覆ったことが極めてユニークな銀色に光るヘアライン仕上げのステンレス剥き出し外装と近未来的なガルウイングドア装備の車両が現れました。
「ああ、確かにこの車ならバンとは言えませんけど中古車ではありますね」
 帝が興味深げに感想を語るのでした。


 かぐや姫以下、どやどやと外に出ますと、そこにはグレーアッシュのショートボブヘアーで、どこか気品漂う着物を召した小柄な少女が立っておりまして。
「な、長門さん……!?」
「迎えにきた」
 簡潔に端的にきっぱりと告げる迎えの者。それにしても近づいて見て改めて思うことは、なんともメタリックな月の車です。
「素直にデロリアンと言っても構わない」
 そ、そうですか……ところで何やら今回、あなたは妙に機嫌が悪そうなのですが? 涼やかな無表情ですけどドス黒い不機嫌オーラが溢れ返っておりますよ。たぶん、それがかぐや姫を怯えさせているのではないかと。
「……本当に理由を知りたい?」
 なぜ含みを持たせるので?
「ここでは話せないから」
 ?????????????
「理由を話す最適な場所は、とある五月の夕方の一年五組の教室に創り出されたような情報制御空間の中が一番ふさわしい」
 あ。じゃあいいです。とりあえずストーリーを進行してください。その場所って妙に嫌な予感がしますから。というか、嫌な予感しかしませんから。
「そう」
 呟き、つかつかと迎えの者が無言でかぐや姫に近づき、その手を取りました。
「帰る」
「いや、その……あたしは……」
「これは規定事項。あなたは規定事項に逆らうことを望まないはず」
「ちょ、ちょっと待てよ長門。せめて名残惜しむ一時をくれたっていいじゃないか。なんかこの涙もののシーンが完全に吹き飛んでしまったわけだからな」
 翁が待ったをかけました。帝はともかく、翁の妻もまた翁と同じ表情をしております。
「必要ない」
 問答無用という雰囲気をまき散らして迎えの者は普段の誰かさんと同じく周りの意見など馬耳東風な態度で、かぐや姫を引き摺るように連れて行き助手席に押し込みました。あまりの迎えの者の迫力にかぐや姫もガタガタ震えて言葉を発せられません。
 ところで何か忘れていませんか?
「月の着物のことなら必要無いと判断した」
 いえ、そうではありません。確かにそれも重要なのですがとりあえずいいでしょう。どうせこのストーリー展開では使いようがありませんし。
 それよりも、
「……」
 ようやくそれに気づいてくれましたか。
「ど、どうしたんです? 長門さん」
「次元転送装置のエネルギーが切れている。つまり、このままでは我々が本来在るべき世界へ帰ることは不可能」
「じゃあ、あたしはまたキョ……涼宮さんたちと一緒に居られるってことですか? だって、この次元転送装置を作動させるには1.2ジゴワットの電流が必要で、それはプルトニウムを利用するものでしたから、この世界で手に入れることは絶対に不可能ですよ! どうです? 今度は長門さんもご一緒に暮らしません?」
 ぱぁっと花が咲くような笑顔を見せるかぐや姫。なぜ言い直したかは置いておきましょう。幸い翁の妻にも迎えの者にもその声は届かなかったようですから。
 なぜならかぐや姫の提案は迎えの者にとってもそれは甘美な誘惑だったものでして。しかも、一瞬、迎えの者も本気でそれに乗ろうかという考えさえ芽生えたのですがそれはあえて封印しました。だってそうしないと根本のストーリーが変わってしまいますし。
「その単位を表わす正確な言語表現はジゴワットではなくギガワット」
 はい、冷静な指摘ありがとうございます。
 ちなみに、かぐや姫がこのデロ……じゃなくて月の車の理屈が解っているのは当然ですよ。だって、彼女は未来……ではなく月から来ている訳で月では、この装置は当たり前のものですから。
「ところで、何で月に行くのに『次元転送装置』が必要なんだ? 『飛行装置』ならまだ判らんでもないが」
 翁がなかなか鋭いところを付いてきますね。
 ふっ、しかしまさか、このナレーションがその理由を考えていないとでも?
「地球の表面は大気圏で覆われている。仮に飛行して月へ向かおうとすれば、この月の車の装甲ボディでは大気圏の熱に耐えられず焼失してしまう。よって、我々は次元転送装置を利用して電磁波を媒介にし、空間を越えて超空間に侵入。その中から目的地を検索、移動する相点移航を敢行することによって大気圏の影響を無効化することを可能にした。ただ相点移航には大きな質量をもつ惑星の傍では重力の都合で困難。それゆえ相点移航は一旦惑星重力影響下外まで移動する必要はある」
 迎えの者に先に言われちゃったし……
「ええっと……それはどういう意味で……?」
「端的に表現するならば『ワープ』」
 はっはっはっはっはっは。確かこの物語は昔話のはずだったのですが、完全に遠い未来の話になっちゃってるような気がします。
「そうでもないわよ。確か2015年のことじゃなかった? デロリアンが空を飛ぶのって」
 だからそれでもこの時代からは千年後なんですよ、翁の妻さん! あとついでにデロリアンの機能自体も妄想夢想完全フィクションで、現実的には1985年の段階でも出来上がっておりません!
「あっそうか」
「おいおい。ナレーションが時代背景を無視してどうするんだ?」
 ぐあ、ぬかった。
「とりあえず自爆したナレーションのことは放っておいて、どうするのですか? あなた方が月に帰還するようにしないとお話が進まないのですが」
 さわやかな笑顔の割にはさらっとえげつないことを言いやがりますね。帝さん。
「対処可能」
 何事もなかったかのように迎えの者はすっと、まるで幽霊の動きのように静かに指である一点を指しております。
 そこには、
「ええっと、長門さん。あなたは一体いつ、これだけの準備をしたので?」
 翁が諦観の笑顔でこめかみにでっかい汗を浮かべて問いただすしかできませんでした。
 そりゃそうです。
 迎えの者が指差した方向に見える五重塔の四階と五階の間の屋根から鉄線で編み込まれたロープがすぐそばにある両脇の木の内の五重塔側の木に結び付けられていて、んで、その屋根から五重塔てっぺんにもまた鉄線を這わせてある訳ですから。
 もちろん、てっぺんに向かって延びる鉄線と、この木に結んである鉄線の間はプラグで結ばれており、五重塔から木までは長さが足りないんで鉄線の延長コードで長さを調整してありますし、木と木の間には電線が張ってあって、その中心には接触金具も設置してありわけですが。
 ついでによく見れば月の車の屋根の真ん中にもアンテナが一本立っております。
「この邸宅の護衛の自由が奪われてからわたしが現れるまでの時間」
「なるほど。そういうことですか」
「って、それで納得するのか!? 古泉!?」
「まあ、他に考えられませんから。もし、別の推測がありましたら教授いただけませんか? さすがの僕もこの答え以外の想像はできません」
 翁のツッコミに帝は苦笑を浮かべるしかできませんでした。
 しばし沈黙。
「あれ? てことは」
 その沈黙を破ったのは翁の妻でした。
「どうしたハルヒ?」
「んーデロリアンの燃料が足りなくなった理由が分かった気がしたから」
 お、さすがは翁の妻さん。野性の勘は時代が変わってもいささかの衰えもありませんな。
「どういうことだ?」
「うん。ひょっとして有希って四回ワープしたのかな、とか思って」
「あ。」
 それに気づいた翁が迎えの者に視線を移しますが、珍しく、迎えの者は視線を逸らしました。
「今の有希の説明だと、今回のワープは最低四回必要なはずだもんね。月から(大気圏が在るという前提で)宇宙空間に出るとき、宇宙空間から地球への入るとき、地球から宇宙空間へ出るとき、んで最後は宇宙空間から月に帰還する時、だからその分の燃料は積んであると思うのよ。でも、この大がかりな装置を準備するためにはもう一回ワープするしかないじゃない。でないとあたしたちがワープしてきた瞬間を見ることができないもの」
 はい。もうナレーションも開き直りますが時代背景無視の理論、ありがとうございました。
「問題ない。今から六分と十二秒後にあの五重塔に落雷がある。その落雷が電線を辿り、我々が百四十キロ以上のスピードで接触すると次元転送装置に1.2ギガワットの電流が送られる。1.2ギガワットのエネルギーは相点移航二回分に該当する」


 がらがらがらがらあああああん
 ばきばきばき
 ぶつん
 しーん


 迎えの者の説明が終わると同時に、二本の木の五重塔側の木に落雷が落ち木が倒れてしまって延長コードが外れました。
「って、ここまで酷似せんでいい! となるとこの後の展開が分かっちまうじゃねえか!」
 おや? 随分と察しがよろしいようですね翁さん。
「はいこれ」
「……何でお前がこんなものを持ってんだ……?」
 ニコニコ笑顔の妻からワイヤーロープ巻を渡される翁に渋面が浮かびます。
「今、有希から預かったの。これをキョンに渡してほしいって」
「なんだと……? って、早っ! いつの間にあいつ!」
 険悪な瞳の翁が振り向くとそこにはもう、デロリアンの姿はなく所定のスタートラインに移動しておりました。
 と言うか展開早いな。
「では行きますよ」
「何でお前が仕切るんだ?」
「仕方ないじゃないですか。あの五重塔の鍵を管理所持しているのは僕です。しかし護衛の者はいまだ動けませんからね。僕以外の誰が案内できるとでも?」
「むぅ……」
「ほら! ちゃっちゃっと行きなさぁぁぁい!」
「痛ってえええ!」
 再び妻の回し蹴りに後押しされた翁は帝と供に五重塔へと駆け出すのでした。
 そう。実は五人は分かっているのです。この話を進めるためにはこうするしかないことを。
 この時点で倒れた木の下敷きになっているコードを取り出すという選択は何故できなかったのでしょうか?というツッコミはなしですよ。


「やっぱりか……」
「まあそうでしょうね」
 うんざり呟く翁の後ろから、ちっとも困っているように見えない笑顔の帝が相槌をうっています。
 もちろん、そこにはコンセントの外れた二本のコード、あたかもサムが死の火山の火口の淵につかまっているフロドに手を伸ばしているかのように、木に繋がるものとてっぺんに繋がるものとかゆらゆらしていました。
「それ違う映画だから」
「そんなことよりどうします? おそらくあの木を動かさないと長さは足りませんよ」
 翁のツッコミを遮って帝が問いかけます。
「分かってるさ」
 ここで翁は疾走を開始した月の車を見つめます。
 もし、月の車を見なければ。
 もし、今にも泣き出しそうなかぐや姫と、ひょっとしたら自意識過剰なのかもしれませんが翁を信じ切っている迎えの者を見なければ別の選択をしたかもしれません。
 しかし、そんな二人を見てしまった翁がヘタレるわけにもいかず、
「……やるしかないだろ」
「さすがですね。だからこそ、僕は貴方に羨望の思いを抱くのでしょう」
「おだてるな。だが、ここは頼むぜ」
「分かりました」
 帝の返事を聞いて、意を決した翁は五重塔の柱にワイヤーロープを結びます。
 そして、
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
 雄叫びをあげてワイヤーロープを滑って行き、地面に到着。多少、背中を擦りましたけどそんなものに構ってなどいられません。
「はっ!」
 即座に立ちあがり駆け出して、倒れた木からコードを引き取ります。
 それを五重塔から見ていた帝は目の前のコンセントを繋げ、そのすぐ後、翁が地上のコンセントを繋げます。
 瞬間――
 耳を劈く轟音と供に猛烈な鋭利の光の刃が五重塔のてっぺんを襲います! と同時に猛烈なスピードでプルトニウム爆弾の破壊力に匹敵するエネルギーがコードを駆け巡り、
「うわ!」
 その余波に翁は吹き飛ばされました。
 そうです。この衝撃を知っていたからこそ、万が一の危険を考えて翁は妻にコンセントを触れさせなかったのです。
 なんか優しいし、いい奴だな翁。

 


 そして、コードで結ばれた木と木の間を、月の車が通過するのとエネルギーがコードを通過するのはまったくの同時だったのでした。
 またそれは、翁とかぐや姫の別れの瞬間でもあったのです。

 


 どれだけの年月が過ぎたのでしょうか。
 しかし、無事、月へと舞い戻ったかぐや姫から哀惜の念は消えることなく、より深く重いものとなってしまっておりました。
 今日も自室の窓から寂しげな、今にも泣き出しそうな瞳で地球を眺め、
「もう……涼宮さんたちには会えないんですよね……」
 物悲しげに呟き、しかし迎えの者は何と声をかけてあげればいいのか分かりませんでした。
 しばし二人沈黙。
 しかし。


 かんかんかんかんかんかんかん


「へ?」「何?」
 かぐや姫は目を丸くして、迎えの者は緊張感を漲らせた目で周囲を見回します。
 もちろん、そこには何もありません。『何故、踏切なんてあるはずのない時代にこんな音が鳴るの?』というツッコミすら吹き飛ばすほどの驚嘆に支配されてしまったようです。そして次に響くのは、以前、月の車が奏でたエコーを利かせて響いてくる何か分厚い壁をぶち破ろうと試みているような衝撃音。
「まさか」
「長門さん!?」
 悟ると同時に迎えの者はかぐや姫を押し倒す形で伏せました。
 と、同時にすべてを覆い尽くすかのような光が二人を照らし、その光の中から一台の……
 …… …… ……
 何でこの時代にこんなものが製作可能なので?
 というツッコミをナレーションが入れざる得ない運転車両と客席車両、二両編成の『蒸気機関車』が姿を表したのでした。
「こ、これは……?」
「……」
 もちろん、かぐや姫は狼狽し、そして、普段よほどのことがない限り、というかよほどのことがあったとしても表情に出すことのない迎えの者もびっくり眼でその列車を見ています。
 列車がぷしゅーと音を立ててしゅっぽしゅっぽと煙を吐きながら停車します。
 と同時に、運転席側の扉が無理矢理開かれて、かぐや姫にとっては、そこには懐かしい顔が。
「迎えに来たわよ! みくるちゃん!」
「涼宮さん!?」
「どう! あたしたちも月の車と同じ性能のモノを創り上げたわよ! もっともみくるちゃんが残していってくれた天の羽衣のおかげだけどね! もちろん、ここまで大きくしたのにも意味はあるわ!」
 得意満面の笑顔で声を張り上げたのは翁の妻でございました。
 ところで同じ性能のものと言った割には月の車は『飛ぶこと』はできなかったはずなのですが?
 しかし、この蒸気機関車は明らかに引力法則を完全無視して浮いているわけで。
 …… …… ……
 あーそういうことですか。翁の妻が『在る』と本気で思えば『在る』ことになりますもんね。『できる』と思っちゃえばできますよね。例え何であれ。
「行くわよ! みんなで一緒に冒険の旅に!」
「え?」
 もちろんかぐや姫には翁の妻が何を言っているのか分かりません。
 そこで、今度は客席車両の窓から、苦笑と自嘲を浮かべた翁が封筒を見せて語りかけます。
「朝比奈さんのこの手紙を読んでしまえば、ハルヒが何が何でも迎えに行きたくなるのは当然ですよ!」
「キョンくん……」
 そう、翁の持つ封筒にはかぐや姫が翁とその妻にあてた別れ難き別れの気持ちを綴った文が入っていたのです。
 かぐや姫は時代背景もこのお話の展開も完全無視の暴挙に出ている二人にツッコミを入れるつもりは微塵もなく、ただただ感動に打ち震えました。
「あたしたちは五人そろってSOS団! 当然、みくるちゃんも来てもらうわ!」
「はい!」 
 と言う訳で、再び促された時には明快に返事してしまうほど輝く笑顔に変わったかぐや姫は、窓から身を乗り出して手を伸ばしている翁の妻の手を取ったのです。
「長門! お前もだ!」
 かぐや姫が妻の手を取ったのを見て、今度は後部車両の窓から翁が身を乗り出して、迎えの者に手を伸ばします。
「いいの?」
「もちろんよ有希! 早く乗って!」
 翁の妻の最高の笑顔に誘われるがままに迎えの者も翁の手を取ります。
「古泉くん! このまま出発よ!」
「了解しました!」
 高らかに了承する帝の笑顔はいつもの似非ではなく、本当に面白そうな笑顔をして舵を切りました。
 と、同時に上昇を開始する蒸気機関車。
 方向転換し、これから加速するための溜めのところでかぐや姫と使いの者は中に入ることができたわけでして。
「はい、これ。みくるちゃんと有希の分よ」
「これは……」
 促された二人は目を丸くします。
 翁の妻の手にあったものはかぐや姫が残してきた不死の薬の二欠片だったのです。元は団子状のものでしたが明らかに大きさは五分の一ずつありました。
「決まってるじゃない! なんたって宇宙よ! 宇宙! 宇宙の隅から隅まで探検しようと思えば人の寿命で足りるわけないじゃない!」
「ということだ。ここはおとなしくハルヒに従っとけ」
 勝気満面の笑顔の妻の言葉に、苦笑を浮かべながらしかしその苦笑はいつもの呆れ返ったものと違う笑顔を浮かべた翁がかぐや姫と迎えの者に促します。
 かぐや姫と迎えの者は互いに顔を見合わせ、
「団長命令に従うべき」
「ですよね」
 迎えの者の表情と口調はいつも通り無為無表情ではありましたがその声色にはどこか嬉しさが混ざっているような気がしたかぐや姫も笑顔を浮かべます。
 二人は不死の薬の一欠片ずつ口にして、
「さあ! SOS団不思議探索宇宙の旅に出発よ!」
『オー!』
 翁の妻の宣誓に応えて、翁、帝、かぐや姫、迎えの者は拳を天に突き上げます。
 そして、SOS団を乗せた列車は永遠の宇宙の旅に出発したのでした。
 元ネタエンディング完全無視ですけど、めでたしめでたし。

 

 

 


 後世、この昔話を子供の頃に読んだ松本何某氏が『銀河鉄道999』を産み出したとか。(もちろん大嘘)

 

 

 

 

竹取物語(完)

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最終更新:2011年02月25日 21:00