「俺は……、一体なんでこんなところにいるんだ?」


 実を言うと、この世界ってのはまあまあ居心地がいいと思っていたわけだ。だけど、こんな風に振り回されたあげく、へこまされていたら、嫌いになりそうだ。

 

 こんな気持ち感じたくないんだぜ。でもさ、涼宮に対する恐怖みたいなもんを感じてしまっている。だって、人を一人消えちまった世界を作り、その世界に俺を送り込んだ。それって、涼宮が「ナツキのいない世界にいる俺」を望んだってことじゃないのか?

 

 そんな理不尽で、理解不能なことをする奴じゃないって思っていた。それが、裏切られたわけだ。涼宮にとって、俺はモルモットだっていうのか?それが、俺の存在する意義なのか?わかんねえよ。
 

「俺は……、俺という存在はなんなんだ……」
 

 決して哲学的なことを言いたいわけじゃない。単純に、自分自身がわからなくなってきたんだ。俺は一体どこにいて、どこに行くべきなんだろう。

 

「私ね、自分が嫌いだった」
 

「えっ?」
 

「言われるままに過去に来て、何をやっても右往左往。ほんと、何も知らなかった」
 

 朝比奈さん(大)は、一瞬真顔になって下を向いた後、


「みんなが頑張ってるのに、何もできないお荷物。そんな自分が嫌いだった」
 

真っ直ぐ俺の目を見据え、苦笑した。


「でも、ある人が教えてくれた。自分のできることを全力でやって、最良の選択をする。例えどんな結果になろうとも、誰かのために自分のできることを全力で成し遂げるって。あたしにはない強さを、その人から教わったんです。とても感謝してるんですよ」
 

 でもさ、それは目的のある人だからできることなんだ。俺は違う。わけもわからず、この世界に送られ振り回されて、一体何がなんだかわからないんだ。
 

「あなたは、なすべき事があってこの世界にきました」
 

「なすべき事?それはなんですか?」
 

「ごめんなさい、詳しくは言えません。ただ、いずれ必ずわかります。そして、これは私からのお願いです。信じて欲しい」
 

 信じる?一体何を信じればいいんだろう。ナツキがいなくなった世界?俺の知らない、摩訶不思議なものがたくさん存在するこの世界?それは、無理だ。悪いが、一般常識しかない普通の人間が俺という存在だ。それが、この世界に来てからというもの、すでにネジが何本か飛んじまっている。そろそろ、全てのネジがぶっ飛んで、狂っちまいそうなんだ。限界なんだよ。
 

「違います。涼宮さんを……、私達SOS団を信じて。そして、あなた自身の心を信じて下さい」


 そう言って微笑んだ朝比奈さんは、俺が知っている朝比奈さんと同じ、見惚れる笑顔を向けた。この笑顔を見るだけで、不思議と力がわいてくる。言葉に出さなくてもわかる。大丈夫って語りかけてくれている。ほんの少しだけ、この笑顔に救われた気がした。
 

「信じる……」
 

「あっ、そうだ。家に帰ったら、あなたの今日の行動をよく思い出してください。そして、あなたの思う行動を取ってくださいね」

 

「それって、どういう……」

 

「ごめんなさい、時間です。もう少ししたら、あたしが起きます。あちらに駅がありますので、背負って送ってくれますか?少し……重いのが申し訳ないんですけど……。あっ、私のことは、その子には内緒にしていてくださいね」
 

「あ、ああ……、わかりました」
 

「ありがとう」
 

 朝比奈さん(大)が言うと、精一杯背伸びをして頭を撫でてくれた。そして、朝比奈さん(大)は、背を向けて歩き始めたわけだが、最後にどうしても聞きたいことがあった。
 

「あの……、あなたとはまた会えますか?」
 

 朝比奈さんは、俺がよく知っている可愛らしい笑顔を向け、ウィンクしながらこう言うのだった。
 

「禁則事項です」

 

 質問が変われば、この言葉の重さがこうも変わってしまうものなのかね。さっきまでのモヤモヤが吹っ飛び、清々しい気持ちになっていた。その理由は、

 

(いつかまた会える)

 

そう言っているような気がしたからだ。

 

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