「う、うーん……」


 なんだ、頭の下がすっげえ柔らかい。こりゃ枕か、ずいぶん気持ちがいいな。そっか、全部夢だったんだ。ナツキが消えたり、かと思えば小さくなって現れたり、なんて夢を見ちまったんだ。唯一の救いは、朝比奈さんがいたことだな。
 

 んっ、なんだ?目の前に二つの立派な山がそびえ立っている……。でも、揺れてるな。こりゃまた柔らかそうだ。あれ?これって……。今の状況はまさか……
 

「膝枕!?」
 

飛び起きてみると、そこは夜の公園。そして、その公園のベンチには安らかな寝顔をさらしている朝比奈さんがいた。どうやら、朝比奈さんの膝で眠っていたらしい。なんつーおいしい思いをしていたんだ。けど、数秒程度の感触しか記憶にない。うん、せっかくだからもう1回……
 

「こんばんは」
 

「おわっ!」
 

 突然、後ろから声をかけられ、驚きのあまり飛び退いた。決して、やましいことをしようとしたわけじゃないです!ごめんなさい!
 

「ふふ、驚かしちゃったかしら?」
 

「はっ?ええ!?」
 

 ベンチの後ろから現れたのは、朝比奈さんだった。横を見れば、ベンチにも朝比奈さんがいる。2人の朝比奈さん!?だめだ、まだ夢をみてるようだ。どうせなら、もう一人現れてくれよ。そしたら、朝比奈ジェットストリーム……
 

「夢じゃありません。あなたに会いにきたんだから、しっかりしてください」
 

しっかり、怒られてしまった。朝比奈さんに怒られるなんて、新鮮だなー。
 

 落ち着いて、話を聞いてみると、今ベンチで寝ている朝比奈さんよりも、先の未来からやってきた朝比奈さんらしい。暗がりでわからなかったが、たしかにいろいろ成長している。そりゃもう、いろんなところがお姉さんになっているぞ!
 

「あの、一体どうなってるんですか?いろいろありすぎて、何がなんだか……」
 

「あなたは、一度元の世界に戻ったんです。そして、今はあなたにとっての異世界、SOS団が存在する私達の世界に戻ってきました」
 

 結局振り出しに戻ったってわけか。しかし、朝比奈さん(大)違いますよ。あれは、元の世界じゃない。断固、否定させてもらいます。
 

「違います。あの世界こそが、本来辿るべき世界」


 ナツキがいない世界の方が正しい、ってことか?ははっ、笑わせないでくれよ。あいつと俺は、今まで一緒に育ってきたんだ。たしかに、そう記憶している。ナツキがいない世界が本来の世界?おかしいじゃないか。決定的に矛盾している!


「この件の黒幕は、あなただったんですか?」
 

「違います。あなたが元の世界に戻るのは必然でした。私達が干渉したのは、そこで寝ている過去のあたしを送り、あなたがこの世界に戻ってくるよう手助けをしただけです」
 

 ということはなんだ。結局、俺が元の世界に戻ったのは、涼宮のせいか。もう勘弁してくれ。神様だかなんだか知らないが、あんな世界を作る権利ないはずだろ?いい加減疲れた。うんざりなんだよ!俺を……帰らせてくれよ……。


 いや、待てよ。理由はわからないが、朝比奈さん(大)は、別の次元に朝比奈さんを送ったらしい。ということは、同じ方法で、元の世界に送ることができるんじゃないのか?
 

「それはできません」
 

「っ!?なぜです!」
 

「禁則事項です」
 

「じゃあっ俺はっ!俺は……、いつか元の世界に……、戻ることができるんですか?」
 

「禁則事項です」

 

 そんなの……ねえよ。どうしてこんなに振り回されなくちゃいけないだ。せっかく元に戻る希望が目の前にあると思ったのに、あっという間に消えちまった。これはショックだ。


「冷たい言い方してごめんなさい。今の私には、あなたを元の世界に戻すことができないんです」
 

 ちくしょう!せっかく元に戻れると思ったのに。足に力が入らない。力なくベンチに座ることしかできなかった。

 

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